リィタ夫妻からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月31日〜09月07日

リプレイ公開日:2004年09月08日

●オープニング

 リィタ夫人がゴブリンに襲われた。
 自分の家の、水車小屋で。

 よろよろになって何とか家にたどり着いた夫人に、夫であるリィタ氏はいったい何があったのかと尋ねた。
 夫人は、いつも通り粉をひこうと、水車小屋へ行った。
 すると中に、どこから来たのかゴブリンが4,5匹いたのだという。そして近づいてきた夫人に殴りかかったそうだ。
「あの中には小麦も粉も、扉続きの蔵にはピクルスや塩漬けが全部置いてあるんだ!」
 それがゴブリンによって食い荒らされている。しかも水車小屋に居座られては、粉がひけず、売りにも行けない。きっとその小麦も、食い散らかしているに違いない。
「あんた、ギルドに頼もうよ。あたいらには手に負えないよ」

 ゴブリン退治。ある程度経験を積んだ冒険者には、さほど難しくない仕事だと思うが、以下の点に気をつけて頂きたい。
 まず、場所がリィタ氏の水車小屋であること。中でゴブリンは、食料に不自由しておらず、水車小屋と、扉続きの隣の蔵から出てきそうにない。
 二つの建物の中には、リィタ夫妻の食料品が入っており、ここで戦いを始めるとそれらは散らかってしまうだろうし、さらに水車小屋は生計を立てるために大切なもの、壊してしまっては後々困るだろう。
 こうした状況から、いかにしてゴブリンを小屋から引きずり出すか、または、剣もつっかえるだろう狭い室内でゴブリンと戦うか、もしくはそのどれでもない手段を用いるか。
 時は一刻を争う。早くしないと食料がなくなるばかりか、ここを良い餌場と思ってゴブリンの仲間が寄ってくる可能性も無いとは言えないのだ。

●今回の参加者

 ea0370 水野 伊堵(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0433 ウォルフガング・シュナイダー(40歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0749 ルーシェ・アトレリア(27歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea4089 鳳 瑞樹(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

蔵王 美影(ea1000)/ レイリー・ロンド(ea3982

●リプレイ本文

「毎度ー! 冒険者ギルドから派遣されてきた者でーす」
 元気よくリィタ夫妻の家の扉を開けたのは、リオン・ラーディナス(ea1458)だ。依頼を受けてここへ来たのは、8人の冒険者と、さらに鳳瑞樹(ea4089)の応援に駆けつけた蔵王美影とレイリー・ロンドを入れて総勢10人。彼らは代わる代わる夫妻に挨拶をし、意気込みを語った。
「退治のために俺たちは全力を尽くす。けど、相手は水車小屋の中だ。引きずり出すために、多少の被害は覚悟して頂きたい」
「まあ、それも‥‥しかたないでしょうな」
 瑞樹が言うのを、納得しないわけにはいかない。何よりもゴブリンを追い出して欲しい、それが一番大事なのだから。

 水野伊堵(ea0370)とキット・ファゼータ(ea2307)、クウェル・グッドウェザー(ea0447)らはまず、近場の茂みに入り、適当な木を集めていた。しかしそれは、薪としてはまだ使えそうにない生木ばかり。いったい何に使うつもりなのだろうか?
 そうしている間、ウォルフガング・シュナイダー(ea0433)は家に残り、リィタ氏から詳しい話を聞き出していた。
「水車小屋と物置は繋がっていると聞いたが?」
「そうそう、こちらの壁は全部棚で、隙間なく食料を置いていたんだ」
「窓はあるか?」
「いやあ、日光を入れる訳にはいかんのでな、窓は作ってない」
 物置はものを保管するところ。普通の住居と同じ作りはしていなかった。
「ならば、出入り口は、それぞれの扉、2カ所だけだな」
「はあ、さようです」
 ウォルフガングは、やけに出入り口を気にしていた。何が気がかりなのだろうか?

「扉があそこで、川がこっち側だから‥‥」
 こちらではルーシェ・アトレリア(ea0749)とケンイチ・ヤマモト(ea0760)が、問題の水車小屋を離れたところから眺めていた。扉は閉まり、中の様子は分からないが、何かが騒々しく動き回っている気配は感じる。
 彼らは小屋の二つの出入り口と、周りにあるもの‥‥特に遮蔽物となるものを、下調べしていた。
「小屋から出る、扉を開ける、右手には川、‥‥なら、自然に左方向へ進むでしょうか」
 ケンイチは何かのルートを想定している。扉を開ける、駆け出す、広い場所へ行く‥‥。
 集められた生木、小屋の詳細、周囲の下調べ。
 彼らの計画の準備は、着々と進んでいた。

 夜が来た。
 小屋にいるゴブリンは寝てしまったのだろうか、すっかり静かになった。灯りがないと言うことは、見張りを立てたりしてはいないのだろう。
(「息を殺せ‥‥気配を極力、絶つんだ」)
 ぼんやりとした月明かりの中に動く影があった。
 口元を隠す仕草をしながら、影の誘導をしているのは瑞樹。後に続く冒険者達の手には、昼間に集めた生木の束が抱えられている。
(「‥‥着火!」)
 水車の隙間のそばに木を積み上げ、瑞樹はそれに火を付けた。しかし、乾燥の不十分な木は、もうもうと白い煙を出すばかりで、全く燃えあがらない。
(「さあ、扇いで、扇いで。風はこちらで塞ぎますから」)
 伊堵とキットは、己の着物が煤臭くなるのもかまわずに、それで煙の逃げ場を塞いだ。その間に皆にあおられた煙は、隙間から小屋の中に流れ込んでいた。
 薪はまだ山ほどある。煙は、絶え間なく流れ続けた。

『くんくん‥‥なんだか、変な臭いがするぞ』
『目が痛い。煙か? 何か燃えているのか?』
『おい、ちょっと様子を見ろ』
 おそらくゴブリン達は、そんなことを思ったのだろうか。ごそごそと起きだし、辺りの様子をうかがいだした。
 その時だ。
「そりゃあぁああっ!!」
 水車小屋の扉を開けて、キットが中へ飛びこんだ。
「そらあっ、うりゃあっ、覚悟しろッ!!」
 普段のキットとは思えないような、大仰な声を上げて、両手に握られた短刀を振り回す。
『人間のガキだ、やっちまえ!!』
 ゴブリンはすっかり目を覚ましていた。
 作戦ではゴブリンを煙で混乱に陥れるつもりだったが、わずかな隙間から少しずつ流し込む煙では、部屋を充満させる前に臭いで気づかれてしまった。特に小屋が火事になった訳でもなく、外から焦臭い臭いがする、それだけではまだゴブリン達を慌てふためかせるには及ばなかったのだ。
 だから、キットが飛び込んできたときも、ゴブリンは平気だった。自分たちの小屋に邪魔者が来た。この前に来た夫人のように、ぶん殴って追い出せばいいことなのだ。
『やっちまえ、やっちまえ、追い出しちまえ』
 ゴブリンは狭さにかまわず棍棒を振り回す。小麦の袋が踏まれ、破れ、辺りに中身が飛び散っていく。
(「小麦は仕方ない‥‥でも、水車を壊すわけには‥‥」)
 キットの状況が不利になっていく。この作戦は失敗したか、そう思って退却しようとした。
「加勢します!」
 不利を察した伊堵が入ってきた。
 だが、彼女の武器は日本刀。小柄な伊堵でも、それを振り回すと刃先が天井を擦っていた。
 そんな加勢が一人増えたところで、ゴブリンは恐れていない。辺りのものを倒そうが壊そうが、ゴブリンは襲いかかってくる。
(「外に! ゴブリンを外に!」)
 ケンイチがテレパシーを用いてキット達の状況を伺っていたが、上手くいってないことだけが伝わってくる。ここで必要なのはゴブリンを倒すことではない、小屋から追い出すことなのだ。
「外に‥‥!」
 二人は入ってきた扉から、外に出た。
 それを追いかけるゴブリン。
「ゴブリン、来たーッ!!」
 中にいた全てのゴブリンが外に出てきた。大喜びのリオンは、嬉しそうにそんな声を上げた。
「待ってましたっ」
 ようやく訪れた好機。ルーシェが詠唱を終えた。
「闇よ、全てを遮るその力で、かの者達から光を奪いたまえ!」
 シャドウフィールドが目標を包む。
 これはゴブリンは、予想していなかった。煙では何ともなかったゴブリンが、突如、騒ぎ出したのだ。クウェルはそこに向かって、ダーツを放った。

 まさか自分たちの数の倍ほどの冒険者に待ちかまえられていたとは思わず、仲間がやられたのを知ったゴブリンは逃げだそうとした。
「‥‥逃がさん」
 逃げるだろう退路は、ウォルフガングが抑えている。
 外でなら、ウォルフガング自慢のロングソードをいくら振り回しても、壊すものはない。何に遠慮することなく、それで赤い一文字を描いた。
 小屋と、川と、二手に分かれた冒険者、そして付きまとう闇。
 逃げ場はない。
 ゴブリンの勝機は失われた。

「‥‥ピュアリファイでも、歯形は消えませんね」
 朝になり、冒険者達は仕事の仕上げとして、荒らされた小屋の修繕にとりかかっていた。
 ゴブリンに散らかされた食料を、クウェルが浄化させようとしていた。しかし、汚れたものよりも食べられてしまったものの方が多く、完全に元通りにはならなかった。
「水車が無事で、よかったわ」
 ルーシェは言う。食べられたものの多くは何年も置いていた保存食。減ったものは今年補充すればよい、幸い収穫の時期はこれからだ。
「新しい食料が、狙われぬようにしておけ」
 去り際に、ウォルフガングはリィタ夫妻に短い忠告をした。
 夫妻はこの時点では、まだ気づいていなかった。
 彼が水車小屋の周りに鳴子罠をしかけ、第二、第三の被害を防ぐために働いてくれていたことを。