フーゼルユ村長からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月07日〜09月14日

リプレイ公開日:2004年09月13日

●オープニング

 規則正しい足音が聞こえてくる。
 ザッ‥‥ザッ‥‥ザッ‥‥ザッ‥‥。
 甲高い雄叫びが聞こえた。
 何かが壊れる音がした。
 何の音だろう、そう思って、ある村人は家の外に出てみた。薄暗い月の明かりが、かろうじて様子を映し出していた。
 そして、彼は見た。
 すぐ近所の家に集団が押し入り、中のものをごっそり盗む出している、その現場を。

「またか!!」
 フーゼルユ村長は歯がみした。
「ゴブリンどもめ、ああ、腹が立つ!」
 この村に、ゴブリンの盗賊団が現れた。これで3度目だ。しかも、盗みに来る間隔も、どんどん短くなっている。
「ただのゴブリンじゃないな、きっと頭のいい連中だ。そうじゃなきゃ、ああも手際よく盗めるはずはない」
 目撃した数人の話を聞くと、ゴブリンは10匹ほどの集団で、1匹だけ他とは身なりの違うものがいるそうだ。どうやらこれがリーダーで、ゴブリンどもを率い、人間の住処を堂々と壊して入り込んでいるのだという。
「盗まれるだけじゃない、家の者も怪我をさせられた。赤ん坊もいるのに、危なくて仕方ない」
「4度目もきっとあるぞ。このままでいいのか?」
「いいわけないだろう。私はいまから行ってくるよ」
 フーゼルユ村長は言うが早いか外套を羽織り、冒険者を募るべくギルドへ向かった。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0277 ユニ・マリンブルー(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea0926 紅 天華(20歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3519 レーヴェ・フェァリーレン(30歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3970 ボルジャー・タックワイズ(37歳・♂・ファイター・パラ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ルシフェル・クライム(ea0673)/ キット・ファゼータ(ea2307)/ ニミュエ・ユーノ(ea2446

●リプレイ本文

 依頼主であるフーゼルユ達のいる村へ向けて、依頼を受けた冒険者達が旅立った。丸一日ほどかけて馬を走らせ、ようやく村の入り口が見えてきた。
「殺気だっていますね」
 村の雰囲気を、ケンイチ・ヤマモト(ea0760)はそう感じ取った。朝から晩まで、侵入者に怯えている村。若く血気盛んな者はめいめい武器を携えているが、それがますます嫌な緊張を生み出していた。
「毎度〜。冒険者ギルドでーす」
 その緊迫を裂くように、リオン・ラーディナス(ea1458)の明るい声が響く。
「冒険者ギルドから?」
「来てくれたんだ!」
「村長、ギルドから来てくれましたよー!」
 一転、村の空気が変わった。力強い助っ人のお出ましだ、誰もがそれを歓迎した。
「早速だけど、馬を預かって貰えるかな?」
「でしたら、うちが」
「何をおっしゃいます、うちで」
 ヒースクリフ・ムーア(ea0286)の頼み事を、皆が一斉に引き受けようとする。
「えーと、それから。村の地図のようなものは無いかな? 無ければ、誰かに案内を頼みたいけど」
「私にお任せを!」
「いえいえ、私こそが」
 アシュレー・ウォルサム(ea0244)にも同様。誰もが、彼らの役に立ちたくて仕方ないのだ。
「すごい歓迎だ! 嬉しくなってきたぞ」
 危険な冒険だというのに、わくわくして思わず踊り出しそうになるボルジャー・タックワイズ(ea3970)。今にもキット・ファゼータの手を取り、ステップを踏みそうだ。
「じゃあ、みんなにお願いするよ。僕たちも別れて調べた方が、効率がいいもんね」
 ユニ・マリンブルー(ea0277)の解決案。数人で手分けすれば、手伝いは多く頼める、早く調べ終わる、良いことだらけだ。
「そうだな。下調べは早めに済ませて、あとは夜のために仮眠を取っておこう」
 紅天華(ea0926)が言う。ニミュエ・ユーノの手を借りてではあるが、休んでおくつもりだったのだ。
「我が家でお休みください」
「いいえ、私の家で」
 村人はやっぱり、次々と家を提供してくれた。

 さてその頃、レーヴェ・フェァリーレン(ea3519)とルシフェル・クライムは村の外にいた。馬に乗って周囲を駆け、ゴブリン達が通りそうな場所を探していた。
(「周りは‥‥野ッ原に、川に、岩山‥‥か」)
 特に、行き来の障害となるものはない。レーヴェが馬に乗ったまま動けるが、逆に言えば、ゴブリンが侵入するのに妨げとなるものが無いのである。
(「巡回は、早めに始めるか」)
 そのまま、村の周りを歩き出した。
 絶対にゴブリンを村に入れない、その覚悟で以て。

 これまでに3度、この村はゴブリンの侵入を許していた。抵抗したものの相手の数の方が多く、家族を守ることで手一杯だった。図に乗った連中はどんどん大胆になり、たとえば扉を開けるにも『閂をこじ開ける』ではなく『扉ごとたたき割る』のようになっていた。
「これはひどいね」
 襲われた3件の家を見て、ヒースクリフは言った。扉は壊れ、中のものは散乱し、何もかもが踏み荒らされ、所々に血の跡があった。
 3件とも普通の家だ。見た目は、他の家と変わらない。特に門構えが立派なわけでも、大きな厩舎を持っていたわけではない。強いて言えば、より村の外側に近かった、ということか。
「でも大きな距離の違いは無いね。村全体を見回るべき、ということだね」
 それがヒースクリフの結論だ。最初の予定通り、2〜3人ずつの班に分かれて、夜通し見張ることになった。
 警戒する範囲を3つに分けた。一晩で数周回れるほどの範囲になり、おかげで目をつむっても歩けるほど、道もすっかり覚えてしまった。
「いや〜。夜中に出歩くのって、なんか新鮮かもね。おっ、あの星、きれいじゃん」
 村に入って数日が経った頃。まだ、ゴブリンの姿は見えなかった。十分な準備期間が与えられ、状態を万全にすることができたリオンは、夜空を見上げる余裕もできていた。
「ほんとだね、キレイだね〜」
 ユニも一緒に空を見る。雲一つ無い、穏やかな夜空だ。辺りの家々は寝静まっている。
「今日も何事もなければいいんだけど」
 この村はゴブリンに狙われている。
 ヒースクリフはそれでも平穏を願っていた。

「変な動きはない?」
「全く無い。気味悪いぐらい、静かだ」
 村の外を見回っていたアシュレーとレーヴェは、それぞれの報告をしあう。これまでの間隔から、そろそろゴブリンが現れそうな時期なのに、それがまだだ。
「まさか、見落としたなんてことは」
「もう一度、回ろう」
 村の外は広い。野原に、川に、岩山、この全てが『村の外』なのだ。たったこれだけの人数で全部を把握するのは難しい。何らかの罠を仕掛けるにしても、範囲が広すぎてまかないきれなかった。だからこうして、己の五感で確認をしているのだ。村人達の目も期待できる内側に比べて、これは過酷な作業だった。

 一方こちらは、歌など歌って呑気に‥‥。
 いや、ボルジャーにとっては真剣そのものなのだろう。だが、端から見ると、この仕事を心から楽しんでいるようだ。
「早く来い来い、ゴブリン達め。大ボスゴブリンと対決だ♪」
「今、歌ってましたよ」
「え? ‥‥ううん、歌ってない、歌ってない」
 ケンイチに指摘されて、あわてて口を塞ぐボルジャー。依頼の間は歌わないように我慢しているつもりなのだ。
「いや、歌っていたぞ」
「歌ってない〜」
 天華からも指摘されてしまったから、本当なのだろう。ボルジャーはもう一度「よし」と気合いを入れて、見回りを再開する。
「‥‥ボルジャーさん、ダンスのステップふんでます?」
「ううん! そんなこと、しないよ」
「ボルジャー殿じゃない、というなら‥‥?」
 ザッ‥‥ザッ‥‥ザッ‥‥ザッ‥‥。
 規則正しい足音が聞こえてくる。

「どこだ!?」
「あの道の向こう!」
「村長の家の近くだ!!」
 反対側を見回っていたリオン達も気がついた。
 急ぎ走り、足音のする方向へ向かう。
 足音が止まった。
 木の割れる音がした。
「やめろ!」
 追いついた冒険者達が見たものは、10匹のゴブリンが家を壊そうとしているところ。そして扉はすでに半分壊されていた。
 冒険者達が周りを取り囲むと、一旦、その手が止まった。
 なるほど、最初の情報通り、1匹だけ格好の違う者がいる。そいつが、こちらを目を爛々とさせて睨んでいた。
 ギィギィ耳障りな声で一言、二言話したかと思うと、今度はゴブリン達は棍棒を握り直し、一列に並んで冒険者の方を向いた。
「さてっと‥‥やるか」
 ゴブリンはやる気だ。なら、こちらも手加減はしない。リオンはきりっと唇を噛んだ。
 9匹のゴブリンがぱっと広がった。冒険者達を取り囲むように位置を変えた。
 そしてその位置についたと同時に、中央にいる冒険者達に向かって、一斉にとびかかってきた。誰かが合図を出したわけではない。目配せひとつせず、どのゴブリンも全く同じタイミングで仕掛けてきたのだ。
「くぅっ‥‥!」
 ヒースクリフはその一撃を左腕で受け止めた。彼の顔は突如受けた鈍痛に歪む。
 ‥‥否。否!
 ヒースクリフは笑っていた。そう、この機会を待っていたのだ。
 わざとこちらに接近させて反撃に出る。この時のために剣の威力を増幅させていたのだ。
『ギャアアッ』
 まず、1匹のゴブリンが倒れた。
「僕だって負けないから!」
 ユニはショートボウを構えてゴブリンを狙う。ゴブリンが外周になったことは、却って好都合だった。これが逆なら、仲間に当てないように狙うのは難しかったかもしれない。そしてもう1匹が倒れた。
「天華、早く!」
「もう少し‥‥あと、もう少し‥‥よし!!」
 カッと目を見開いた天華から発せられたのは、ディストロイの魔法。そして彼女が狙っていたのは、あのリーダー格のゴブリン、ただ1匹。

 命中!

 司令塔を失ったゴブリンは明らかに狼狽えていた。そして1匹がくるりと背を向け、逃げようとした。するとそれに触発されたのか、他の残ったゴブリンも、我先に逃げようとする。
「逃げられはしない」
 だが、すでにレーヴェとアシュレーが回り込んでいた。
 レーヴェの目標は、ゴブリンの全滅。
 そしてそれを達成した。

「盗まれたものを取り返せれば良かったのですが」
 ゴブリンが全滅した今、それがどこにあるかは分からない。アシュレーは申し訳なさそうに頭を下げた。
「いやいや、あの畜生にとられたものが無事とは思ってません。どうせめちゃくちゃになっているでしょう。それより、よくぞキレイに退治してくれました」
 フーゼルユは全員の手を握り、頭を下げた。
「お礼を用意しました。どうぞ、召し上がっていってください」
「うちでもご用意しました。どうぞどうぞ」
「こちらへも寄って下さいな」
 来たときと同様、めいっぱいの謝礼を受けた冒険者達。
 帰るときには胃がずっしりと重く、ゴブリンを退治するよりへとへとになったのだった。