マバ村長からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 50 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月05日〜10月15日

リプレイ公開日:2004年10月12日

●オープニング

 水平線の向こうに、小さな島がある。
 どこの地図にも載っていない、名も無い島だ。誰も住んでおらず、動物もおらず、時々、鳥が羽を休めることにしか使われていない。
 だが、ある時、そこに魔女が住み着いた。
 それ以降、そこは『鮑(あわび)島』と呼ばれている。魔女の名前は『鮑姫』。そして、対岸の村々に厄災をもたらしている。
 魔女の厄災から逃れるためには、それぞれの村から順番に、収穫の季節に若い男‥‥いや、まだ幼い男子を一人とたくさんの収穫物を、貢ぎ物として差し出さなければならない。
 何度か、体力ある若い者が鮑島に抵抗を試みたことがあるが、鮑姫と、彼女に忠誠を誓う取り巻き達は、比べものにならないほど強く、その上何人もが魔法を使い、あっけなく返り討ちにあっていたのだ。
 そして、大人しく男子を差し出せば、本当に何も起こらない。村には、時々身寄りのない年頃の男子がいるもので(いなければ他の村から譲り受けたりして)、彼らを厄介払いを兼ねて鮑姫の貢ぎ物としていたのだった。
 もう、十数年、続けてきた。
 一人として、戻ってきた男子はいない。

 1年前の話になる。
 ある村が、今年、男子を貢ぐ順番であった。が、ちょうど良い男子がどこにもいなかった。
「ああ、どの子も手放すわけにはいかない。どうしよう、困った」
 すると、偶然そこを訪れていた、冒険者を名乗るハヤトという少年が現れた。
「オイラに任せてヨ。貢ぎ物のふりをして鮑島に入り、これまで鮑姫の餌食になったみんなも救い出して帰ってくるヨ。ただし、危険だから、報酬はたっぷりとナ」
 こうして、大金を受け取ったハヤトは、迎えに来た鮑姫と取り巻き達と一緒に鮑島に行った。
 しかし、帰っては来なかった。 

 そして、今年。
 鮑姫の使いが、マバ村長の前に現れた。
「今年はお前達の村が差し出す番サ。鮑姫がお待ちだヨ。次の満月の満潮までに、姫の喜びそうな、可愛い坊やを連れてこいヨ。そうしなきゃ、大津波を起こして村を沈め、家も畑も流しちゃうヨ」
 マバ村長は悩んだ。いつまでこんなことを続けるのだろう、と。
「村の者では歯が立たない。冒険者なら、なんとかなるだろうか」
「村長、お忘れですか? 去年、隣の村にいた冒険者が何の役にも立たなかったのを。それよりも、今はうちにも漂流者の子供がいます。タダ飯食いのあいつを差し出せば‥‥」
「何を言う。あの子も大事な村の子だ」
「しかしですね‥‥」
「冒険者ギルドに頼もう。きちんと、素性の知れた冒険者を呼んで貰うのだ」 

●今回の参加者

 ea0277 ユニ・マリンブルー(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea0668 アリシア・ハウゼン(21歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3088 恋雨 羽(36歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5153 ネイラ・ドルゴース(34歳・♀・ファイター・ジャイアント・モンゴル王国)
 ea5456 フィル・クラウゼン(30歳・♂・侍・人間・ビザンチン帝国)
 ea5898 アルテス・リアレイ(17歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea6609 獅臥 柳明(47歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「誰だッ?」
「怪しい者じゃないよ。鮑姫とやらに、会わせて貰いたくてね」
 誰よりも先に、ネイラ・ドルゴース(ea5153)は鮑島に来た。そして『傭兵』として組織に入り込もうと、自ら接触を試みたのだ。
 しかし、最初に出会ったのは、鮑姫をとりまく男達。ネイラは剣先を突きつけられていた。
「目的は何だ?」
「何、簡単なことだよ。美少年は国の宝、その宝をたくさん持っている鮑姫に仕えたいのは、当然じゃないか」
「そいつは残念だったな」
 と、一人の年若い少年が前に出た。
「この島の男子はみんな姫のものだヨ。あんたみたいなデカい女を、姫が入れるコトを許すもんか」
「じゃあ、これを聞いても、あたいを追い出すかい?」
 そう言ってネイラは、意味ありげににやりと笑う。
「‥‥何だ?」
「あんた達、マバに貢ぎ物を要求したね? あの爺さん、冒険者を用心棒に雇って乗り込ませるつもりらしいよ」
 男達は顔を見合わせた。この話が本当かどうか、判断に迷っているらしい。そして。
「来なヨ」
 剣が降ろされる。
「信用した訳じゃないからナ。姫のご判断を扇ぐんだ。他にも知っていることがあったら、全部吐いてもらうからナ」

 ネイラが連れて行かれた。
 その様子を、物陰から息を潜めてじっと見ている四つの影があった。
 ユニ・マリンブルー(ea0277)とレフェツィア・セヴェナ(ea0356)、そして獅臥柳明(ea6609)にフィル・クラウゼン(ea5456)である。
「どうしよう、ネイラが裏切っちゃったよ!」
 思いがけないことにおろおろするレフェツィア。
「そんなはずはないよ。きっとネイラさんにも考えがあるんだよ」
 ユニはそう言うが、それがどんなものなのか想像がつかない。けれど、彼女が穏便に鮑姫の元へ連れて行かれようとしている、それは事実なのだ。
「後を追いましょう、気づかれないように」
 柳明たちも動いた。後から上陸する、別動隊が到着するまでに、彼らは島のことを調べなければならない。その一つが、鮑姫の居場所なのだ。
 フィルが、その方向をじっと見据えていた。

 ネイラの話は本当なのだろうか?
 事実である。
 いや、正確には一部だけが。
 他の冒険者達はマバの家に皆が集まって、上陸のための作戦を練っているところだった。
 用意された貢ぎ物の少年、彼が既に冒険者と入れ替わっている。アルテス・リアレイ(ea5898)はまだ対象の少年にぴったりだ、だから身代わりとして行くことになった。アリシア・ハウゼン(ea0668)と恋雨羽(ea3088)がその護衛となる。
「しかし、マバさん。話を聞いている限りでは、その鮑姫の使いが、去年の冒険者と同一人物のように思われるのですが」
 羽の言葉に、マバはぎょっとした。隣の村で金をだまし取っただけかと思ったら、まさか寝返っていたとは。
「僕たちはそんなことしません、絶対に!」
 アルテスは誓った。ハヤトという少年は、ギルドを通してはいなかったが、冒険者と名乗っていたのだ。ここでアルテス達が誠意を見せなければ、冒険者の信用がなくなってしまう。
「でもそれなら、去年はつまり『貢ぎ物』が無かったわけでしょう? なのに、隣の村は大丈夫だったのでしょう」
 アリシアは首をかしげる。
「だから、ハヤトが『貢ぎ物』として受け入れられたんじゃないかな? だとすると、過去の子ども達も、生きていて、鮑姫に付き従っている可能性があるよ」
 少年達は誰も帰ってきていない。もともと厄介ばらいとして送っていたのだから、村人達もその後を心配しておらず、誰も消息を掴んでいない。しかし、全員が生きていて、なおかつ鮑姫のとりまきと化していたのなら。
 その理由は、いったい何故?
「マバさん。それで、鮑姫はどうすればいいの? 倒してしまっていいの、それとも、捕まえるだけにしたほうが?」
「どちらでもよい、二度とこんな不埒なことを考えなければな」

 島の中央に少し開けた丘があり、そこにちぐはぐな家が建てられていた。最初は小さかったものが、無理に増築させたもののようだ。十数人の姿が見える、どれも若い男ばかりだ。半分ぐらいが周りの畑を手入れしており、あとの半分ぐらいが武器を片手にあちこちに散らばっていた。
(「まあ、本当に若い男子ばっかりだね。‥‥でも美少年ばかり、じゃなさそうだね」)
 ネイラは不思議な印象を持った。美少年を集めたハーレムのようなものを想像していたが、そうではない。顔や体型は様々で、二十歳も過ぎたような青年の姿もあった。
「ほら、入れヨ」
 小突かれるように、ネイラはある部屋に押し込まれた。
 部屋の中には柔らかい羊毛が敷き詰められた、大きな椅子があり、そこに白髪の交じった女が座っていた。
「あなた、なにか良い話を持っているそうね」
 女は言った。
「あんたが、鮑姫かい?」
「ええ。さあ、残らず話して、出て行ってちょうだい。ここに女性は要らないわ」
 後ろに立つ連中も、扉の脇に立ち、いつでも見送りが出来るようにしている。さあ、何から話そうか‥‥ネイラがそう考えているときだ。
 外が、なにやら騒がしい。
「何事ぞ?」
「怪しい男を捕まえました!」
 どやどやと人が集まり、その闖入者を抑えにかかる。縛り上げられて鮑姫の前に付き出されたのは、フィルだった。
「‥‥あ、ああ。例の冒険者の一人だよ」
 ネイラがフィルの顔を確認する。これで、自分の話が正しかっただろうと言いたげに。
「抵抗する気はない、離してくれないか」
「何をしに来たのじゃ」
「あんたと話がしたかった、それだけだ」
「聞こうか」
 鮑姫は促した。フィルと、ネイラ、それぞれの言い分を聞いてみたいと思ったのだ。
「‥‥何故、あんたは村の男子をさらうんだ?」
「欲しいからよ」
 素っ気なく、答えられた。
「たくさんの収穫物も要求するそうだな」
「欲しいからよ」
「もうすぐ、マバが男子を届けにくるはずだが、その子をどうする気だ?」
「可愛がってあげるわよ」
 返事はしてくれるが、その言葉は短い。これでは、鮑姫の真意がどこにあるか分からない。
「どうしましょう、鮑姫?」
「このでかい女と一緒に、牢に放り込みなさい」
 ネイラもフィルも、鮑姫からの信頼は得られなかった。過去に何度か、反撃のために乗り込んでこられたことがあったのだ、簡単に信じられないのも当然であった。

 レフェツィア達は、そのまま島で夜を過ごすことにした。フィルが捕まったことを知り、どうすべきかを話し合っていた。
「明日、アルテスくんが来るから、その時にアリシアさんも羽さんも来るよね。そこで一気に行くようにしよう」
「あの二人は大丈夫かな、殺されちゃったりはしないよね?」
「心配ない」
 柳明は断言した。
 鮑姫の周囲にいる男達は、皆、過去に村々から連れてこられた者の特徴と一致した、本人達に間違いない。だとすれば、彼らは望んでこの島に留まっている。鮑姫は貢ぎ物の彼らを大切にしているはずだ。そんな彼女が、簡単に命を粗末にはしないはずだ。

 朝日が水平線から完全な姿を現したのと同じ頃、一艘の船が鮑島に到着した。
 船には、今年の収穫物がたっぷりと載せられていた。そして、一人の可愛らしい少年も。
「ようこそ、待っていたヨ」
 男達が出迎え、荷を下ろし始める。
「キミはこっち」
 アルテスは少年に手を引かれた。
「あの、私たちは」
「この子の護衛なんだろ? 分かってるヨ、さあ来てヨ」
 アリシアは少年の目にゾクッとした。全てを見透かしたような、その目に。
(「もしかして、正体がばれたのかしら?」)
 そう思ったが、行かないわけにはいかない。羽と共に、導かれるまま、島の奥へ向かった。

「ようこそ。坊やはここいらっしゃい」
 と、アステルを椅子の隣に座らせると、鮑姫は指を鳴らした。奥から、フィル達が引っ張り出されれた。
「さあ、この人たちはお仲間?」
 二人には剣が突きつけられている。状況が悪すぎる。作戦は失敗した‥‥?
「事を荒立てたくはないわ。大人しく坊やを置いて、みんな帰ってくれればいいの‥‥‥‥えっっ!!??」
「動かないで!」
「アステル!」 
 形勢が逆転した。なんという機転だろう、アステルが鮑姫の後ろから、太腿に隠し持っていたナイフを突きつけたのだ。
「くっ‥‥小賢しい!」
 しかし、鮑姫はナイフなど恐れず、アステルの顔面を殴りつけた。
 これが皮切りだ。護衛達がどっと部屋になだれ込み、冒険者達に飛びかかる。
「鮑姫をお守りしろ!」
「冒険者を退けろ!」
 衝突は免れない。話をする雰囲気などではない。なら、あとは勝つしかない。力で以てこの場を収め、鮑姫を確保するのだ。
 だが、冒険者達はもう知ってしまっていた。
 この取り巻き達は、かつての貢ぎ者達。
 だから、戦うことを躊躇してしまう。それが、決定的な一打を与えかねていた。
「きゃああっ!」
 そこへ悲鳴が響いた。
 倒れていたのは鮑姫。
「‥‥遅くなったな」
 柳明だ。
 そして、ユニが、レフィツィアが。丘の反対側に回り込み、上手く背後からの接近に成功していた。
 気を失った鮑姫に、水を操ることは出来ない。その体も押さえつけられては、取り巻き達も大人しくするしかなかった。

「みんな、武器を置いて。話がしたい‥‥皆は、村の貢ぎ物になっていた少年達だね?」
 羽が静かに言うと、諦めたのか男達は、一人、また一人と戦意を無くしていった。
「あなた方は、自らの意志で鮑姫と共にいる‥‥そして、この生活に満足しているんだね?」
 羽は、ここに来たときから思っていた。畑を耕していた者、家事をしていた者、見張りをしていた者、彼らのどこにも悲壮感はなく、家族としての暖かさがあった。脅かされていたのでは、とてもこんな生活は出来るわけがない。
「みんなからは言いにくい。オイラから話すヨ」
 と、少年が進み出た。
 彼の名前はハヤト。
 やはり、去年に隣の村に来た自称・冒険者だった。
「みんな、村では辛い目にあっていたんだ」
 漂流して流れ着いたり、親が誰か分からなかったり、不義の子だったりと、村で厄介者、とされている子はいつでもいるのだ。鮑島に送られるのは、そんな子ばかり。それが鮑姫に、命を救われ温かく受け入れられたのだ。
「見ての通り、小さな島サ。みんなを養うほどの食べ物だってなかなか無いからネ。分けて貰いたかったのサ」
 ハヤトも最初は力試しにでもなればと乗り込んできた。だが、事情を聞いて、協力を申し出たのだという。
「過去に他の村に津波を起こしたって聞いたわ。そんなことまでする必要があったの?」
 アリシアが尋ねると、ハヤトは困ったような顔をした。
「実はネ、何もしていないんだヨ。自然に起こった大波を、自分がしたように言って脅したんだって」
 鮑姫も殊勝な心がけで無人島に住み着いたわけではない。最初は己の生活のために、周りの村を騙していたのだ。
 最初の愚かな行いが、後々まで引きずる羽目になり、少年達を救うためにも、こうして脅迫まがいのことをせざるをえなくなっていた。

「どうするの? 姫を殺すの?」
 幼い少年達が、いつの間にか冒険者達を取り囲んでいた。
「殺さないで、お願い」
「殺さないで」
 マバ村長は言っていた、二度と不埒な事をさせないようにさえすればよい、と。
「約束、できますか?」
 少年達は、一斉に肯いた。

「迷惑をかけてしまったわね、ごめんなさい。アステル君、顔は大丈夫?」
 村に戻る冒険者達を見送りに、鮑姫は海岸まで出てきた。
「それから、お願いがあるんですけど」
「何でしょう?」
「マバさんのところに漂流者の子がいると聞いたわ。その子に、ここへ来るように伝えて頂けないかしら?」
「ご心配ありませんよ。あの子は村の子として大切にされていますから」
「まあ‥‥」
 鮑姫は嬉しそうだった。
 まるで自分のことのように、幸せそうに微笑んでいた。