シェコラム氏からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月12日〜10月19日

リプレイ公開日:2004年10月18日

●オープニング

 新しい依頼に示された村は、ここから3日ほどかかる場所にある。
 この村は、変わった場所だ。2本の川に挟まれていて、ちょうど中州のようになっている。
 ただ、長い年月が地形を変えてしまい、中州の周りは深い谷になってしまっている。1本の吊り橋でようやく外界と繋がっている村なのだ。
 ここには、何世代も昔からの、変わった風習がある。
 寿命が尽きて死にそうな者は吊り橋の向こうに運び、そこに置いて、周りにいる獣やモンスター達に喰わせるというのだ。
 その理由は、あえてこうして肉を吊り橋の向こうに置くことで、モンスター達が橋を渡るのを防いでいるという説があり、または、こうすることでモンスター達がこの場所をなわばりとして気に入り、それ以外の外敵を排除するように働くから、などといろいろ言われている。これは、この村が自分たちの村を護るために昔から行われた手段であり、同時に彼らなりのモンスター達と和する手段の一つなのだから、昨日今日にこの村を知った冒険者達がとやかく言うべきことではない。
 さて、依頼は、この村の出身で、いまはキャメロットに暮らしているシェコラム氏からだ。

「村の知人から、報せを受けました。私の母がいよいよ吊り橋の向こうに運ばれそうだというのです」
 シェコラムの年齢から考えると、彼の母親はかなりの老齢だろう。ならば、それも仕方のないことだ。
「ですが、私はあの村の風習が受け入れられません。何故、母の体が獣に喰われなければならないのでしょう? きちんと魂を鎮め賛美の歌を聞かせ、この世で役目を終えた肉体は大地に還してやりたいのです」
 つまり、普通の村で普通に行われている葬儀を行いたいのだと、シェコラムは言う。
「お願いします、母を、ここへ連れてきてください」
「正面から事情を話せばよいのでは?」
 と、冒険者の一人が尋ねたが、シェコラムは首を振った。
「いえ、それでは村の者は納得しません。時々の肉体の提供が途絶えることで、モンスターが吊り橋を渡ることを恐れているのです」
 村人の気持ちも分からないではない。しかし、母親思いのシェコラムは、すがるような目で訴えた。
「獣にどこもかじられることなく、無事な姿で連れてきてください。途中で母は力尽きるかもしれませんが、それも神のご意志です。どうぞ教会で母の葬儀をあげるためにも、協力してください」

●今回の参加者

 ea0422 ノア・カールライト(37歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0582 ライノセラス・バートン(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1180 クラリッサ・シュフィール(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2767 ニック・ウォルフ(27歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea6930 ウルフ・ビッグムーン(38歳・♂・レンジャー・ドワーフ・インドゥーラ国)

●サポート参加者

アリッサ・クーパー(ea5810

●リプレイ本文

「こうり、ですか?」
「そう、行李です。それに代わる物でもかまいません、ご用意頂けますか?」
 依頼を受けた冒険者なら誰でもそうするように、ノア・カールライト(ea0422)達も依頼主であるシェコラムと会い、依頼遂行のための段取りを立てていた。
「村からキャメロットへ引っ越しするときに使った道具入れがありますが‥‥」
「OH、イイ木箱。十分な大きさダ!」
 あまりイギリス語が達者ではないウルフ・ビッグムーン(ea6930)は、その反動なのか腕を大げさに広げて喜びを表した。
「馬車は無いか? バシャ。幌付きノ」
「いや、さすがに私はそれは持っていない」
 そうそう都合良く、依頼主が何もかも用意できるわけではない。それでも、今回は馬を連れている仲間がほとんどだ、少々手を加えれば、荷運びは難しくないだろう。
「なら、その木箱には、あまり物を詰めて重くしない方が良いな」
 ライノセラス・バートン(ea0582)が言う。この中には、偽装のためにさまざまな道具を詰める予定であったが、少し減らした方が良さそうだ。
「それで、シェコラムさん。あなたの村での葬儀の方法を、もっと詳しく聞かせて貰えるか?」
「ああ。こんな風な台座に乗せて、弔い鐘を鳴らしながら行列を作るんだ、それから‥‥」
 シェコラムは言いながら、時々顔をしかめる。
(「故郷の葬式を否定する息子か‥‥」)
 依頼主の表情を見て、ウルフも複雑な気持ちになる。それに気づいたのか、クラリッサ・シュフィール(ea1180)が目配せをした。
「お母様を大切にしたい気持ちはよく分かります〜。騎士の誇りにかけて、お母様をお連れします〜」
 シェコラムと、村との関係にまで口を出す必要はない。この依頼主は、今暮らしている家のそばの教会で母親の葬式をあげたい、それだけなのだ。
「万一の時を考えて、私の友人のアリッサ・クーパーさんを連れて行きます〜。シェコラムさんは、どうぞ教会で待っていてください〜」

 一同は谷の向こうにある村を目指した。一日で到着する場所ではない、道の途中で、彼らは休む準備を始めていた。
「? キットさん、何をしているの?」
 キット・ファゼータ(ea2307)が布袋を片手に、藪の奥へ行こうとしているのを見つけて、ニック・ウォルフ(ea2767)が声をかけた。
「しー‥‥。静かに‥‥」
 と、キットはとても素早く、何かを捕まえた。
「うさぎだ。食べるの?」
「小さいな。もう少し大きい動物がいいのだが」
「十分大きいと思うけど‥‥?」
「まあいい。ニック、あんたも手伝ってくれないか?」
 キットは再び、藪でごそごそと何かを仕掛け始めた。もう少し大きな動物を、生きたまま捕まえるために。

 夜が明け、彼らは朝の涼しい内から移動を開始した。
「やっ! 待ってたよ」
 村にはもう少しで到着する、その時、道の向こうからアルフレッド・アーツ(ea2100)がふわふわ飛びつつ、手を振って近づいてきた。
「よう、どうだった?」
 一足先にこの地へ来、周囲の状況を調べていたアルフレッドを、リ・ル(ea3888)がねぎらう。
「まだシェコラムさんのお母さんは動かされていないよ。あとね、とくに厄介そうなモンスターも今のところはいない感じだね」
 アルフレッドは羊皮紙にびっしり描き込んだ、『吊り橋向こう〜人の辿り着く場所〜』と名付けた地図を自慢気に見せてくれた。
「今のところはいない、か。これからもいないことを期待したいな」
 リは馬を下りた。いよいよ、吊り橋の先にある村へ向かうのだ。

「おや、見慣れないお方達だね。旅の途中かい?」
 吊り橋を渡ってすぐに会った村人に、声をかけられた。
「ええ、この付近の地図を作っているんですよ」
 ノアが答え、ライノセラスと周りを調べ始めた。
「数日、吊り橋のアッチコッチ、行き来する、邪魔ないカ?」
「ごくろうさんだね。ああ、そうそう。近く、お弔い行列が橋を渡るかも知れない、その時は遠慮してくれな」
 村人はそうとだけ言って、そこを立ち去った。
「シェコラムさんのお母さんの家は、あっちだよ。よく人が出入りしていた」
 アルフレッドが教えてくれた。医者やら、誰やらが代わる代わる様子を伺いに来ているのだ。
「なんだか、みんなで死ぬのを待ちわびているみたいですね〜」
 クラリッサは思った。シェコラムが受け入れられなかったという村の風習。人が死ぬのを、今か今かと待っている風景を、クラリッサも馴染めなかった。
 と、家が騒がしくなった。一斉に人が出てきて、口々に「明日だ」「明日にしよう」と言っている。
「明日ですか」
「明日、みたいだな」
「皆ニモ、知らせル」
 ノア達はまだ、素知らぬ顔で嶺の間を測るふりをし続けていた。

 葬儀が始まった。
 家から、老母が飾り付けをされた板に乗せられ、男四人の手で運び出された。その後を、鐘を持った人が数人続き、あとはすすり泣く行列が繋がった。
「そこの、地図を作ってる旅の方、今日は場所をあけてくれないか。もうすぐお弔い行列が来るんでね」
「でしたら、先に向こうに渡ってしまいますよ」
 測量の道具をまた木箱に片づけて、吊り橋の向こうに渡る。後ろから祈りの声が近づいてきた。
 行列は吊り橋を揺らしながら渡り、対岸にある祭壇まで到着した。祭壇、といっても、石を幾つか積み上げただけのものだ。その一番上に板のまま老母を降ろし、数人が残って後は橋を引き返した。
 大きく、鐘を何回か鳴らす。
 老母は両手を胸の前で重ね、目を閉じて、静かにしていた。
 その姿を確認して、残った者も橋を渡る。
「‥‥行ったようですね〜」
 誰もいなくなったのを確かめて、クラリッサがシェコラムの母に近づこうとしたときだ。
 祭壇の近くの茂みが揺れた。そして、獣の息づかいが。
「あの鐘の音が、合図なんだね!」
 ニックは弓を構える。あの鐘を聞いた獣たちが、ぞくぞくと集まってくるはずだ。
「申し訳ありませんが〜、この方は渡しませんよ〜」
「ここは俺が引き受ける、おぬし達は早く母君を!」
 最初に姿を見せたのは巨大な熊だった。リはそれに向かい、左手に構えた短刀で斬りかかった。
 そうしてリ達が時間稼ぎをしている間に、ウルフ達は老母を木箱に隠した。
「早くいけ、まだ来るぞ」
 獣の気配はどんどん増えてくる。今はまだ獣だけだが、いつこれがモンスターになるか分からない。
 木箱を乗せた馬はそこを放れた。
「よし、俺たちも行くぞ」
「まあ待て、リル。こいつを置いてからだ」
 そう言ってキットは、用意していた布袋を引っ張り出してきた。
「これで代わりになるとは思えんが、一応な」
 取り出したのは生け捕りにしていた狐だった。それを祭壇の上に動けないようにして置いた。
「村人に、人間の血と狐の血を見分けられるとは思えないがな」
「気づいた頃には、俺たちはキャメロットだ」
 その言葉通り、彼らは誰にも見つからず、依頼主のところまで戻ってこれた。あの祭壇の生け贄がどうなったのかは分からない。

「お母様、窮屈な思いをさせて申し訳ありません‥‥」
 安全な場所まで来たとき、ノアは木箱のふたを開けた。
「‥‥お母様?」
「シェコラムさんのところまでは、間に合わなかったね‥‥」
 アルフレッドがその安らかな顔を覗き込んだ。どこも傷は付いていない、眠っているかのような綺麗な顔だ。
「人が死ぬのを見るのは悲しいね‥‥たとえ出会って、あまり時間が経って無くても‥‥」
 これからシェコラムは教会で葬儀を行うだろう。綺麗な棺に収め、墓を建て、魂の昇華と肉体の還元を祈るのだろう。
 彼の生まれた村がこれからどうなるのだろう。
 危惧していたとおり、獣たちが吊り橋を渡るのか、それとも何も起こらないのか。
(「依頼は依頼‥‥だが」)
 キットは、ふと呟いた。