レイクワ姉妹からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月19日〜10月24日

リプレイ公開日:2004年10月26日

●オープニング

 逃げたコボルトを捕まえて欲しい。
 それが、レイクワ姉妹からの依頼である。
 興味がある冒険者は、すぐに山裾のレイクワ研究所へ行ってみるとよい。

 『研究所』と言っているが、普通の家である。しかし、アマレットとアニゼットの二人姉妹が生活しているにしては、かなり広い。
「ここから向こうは、ドットくんの部屋なの」
 と、アマレットはそこを見せてくれた。
 間に格子をはめた二重扉で、奥に斑模様の目立つコボルトが1匹入っていた。
 首に青い首輪を付けられたそのコボルトは大人しく、アニゼットが運んできた臓物入りのスープを嬉しそうに受け取っていた。
「最近、手から受け取ってくれるようになったわ。まだ油断はならないけどね」
 そういうアニゼットの手は、傷だらけだった。何度も試み、何度も失敗したのだろう。
「生態とか、言葉とか、調べているのよ。この辺りはコボルトが多くてね、彼らのことを知りたくて一緒に暮らしているの」
 姉妹は勉強家のようだ。別の部屋にはそれまでの観察記録がぎっしりと詰め込まれている。
「ドットくんは大人しいんだけど、カールちゃんはね‥‥」
 アマレットは困ったような顔をする。
「カールちゃんは別の部屋で世話していた女の子なの。で、ドットくんとお見合いさせてみようかと部屋から出したら‥‥」
 裏山に逃げられてしまった、と、そう言うわけなのだ。

 カールちゃんの特徴だが、耳の周りの毛が可愛くカールしている。そして赤い首輪が付いているはずだ。
「これを持って行って」
 と、アニゼットは大きな鍋を差し出した。
 中には、臓物スープが入っている。カールちゃんの好物だそうだ。それから、彼女がいつも使っていたという、寝床の毛布も。
「コボルトは鼻がいいから、匂いでおびき寄せられるかもしれないわ。でも、気をつけて。裏山はコボルトの住処よ。何匹いるか、分からないわ。その子達も、おいしい匂いは気づくでしょうね」

●今回の参加者

 ea0123 ライラック・ラウドラーク(33歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0763 天那岐 蒼司(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1269 ヴァレリア・ボギンスカヤ(38歳・♀・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea2890 イフェリア・アイランズ(22歳・♀・陰陽師・シフール・イギリス王国)
 ea5034 シャラ・アティール(26歳・♀・ファイター・人間・インドゥーラ国)
 ea5534 ユウ・ジャミル(26歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea6082 天草 乱馬(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 レイクワ姉妹の研究所からは、生臭い湯気が立ち上っていた。
「‥‥例の、臓物スープか?」
 天那岐蒼司(ea0763)は鍋を覗き込み、鼻をつまむ。
「今日はいつもと材料が違うのよ」
 アニゼットが言う。と、そこへ天草乱馬(ea6082)が首をかしげながら入ってきた。
「アニゼットさん、預けていた私のドンキーは、どこでしょうか?」
「あら、どこでしょう?」
 返事をする間も鍋をかき回す手を止めない。
「ま‥‥まさか」
「心配しないで。さすがのあたしでも、羊より大きなものは包丁を入れられないわ」
(「でも羊まではさばいちゃうんだね」)
 心の中で思わずつっこんだユウ・ジャミル(ea5534)。美人で料理も上手なアマレットは憧れる対象として間違ってはいないが、彼女はエプロン姿のまま羊を腑分けして鍋に移してしまう女性でもある。
「ドンキーはアマレットがどこかに連れて行ってたわ。聞いてみてちょうだい」
「そうします」
 スープが出来上がった。見ていたが、味付けはほとんど無く、申し訳程度に塩をいれただけだった。色はどす黒く、脂が表面に浮いている。
「味を見てみる?」
 鍋をじっとみている蒼司に、アニゼットは悪戯っぽく微笑みながら、スプーンを取り出した。
「‥‥遠慮する」
 種族によって味の好みが違うのは当然であろうが、コボルトのそれは人間である蒼司とあまりにもかけ離れている。もしかしたら、これはドットとカールという2個体だけの好みなのかも知れないが、どちらにせよ、自分が食べて美味と感じるものでは絶対にないはずだ。
「今からオスコボルトの餌の時間なのか?」
「『ドットくん』の『ごはん』の時間よ」
 研究対象の大切なコボルトを、ライラック・ラウドラーク(ea0123)が只のモンスターのように言うので、アニゼットが訂正した。
「細かいね」
「大きな違いよ、ライラックさん。あの子達には愛情を持って接するの。それが理解の第一歩よ」
「愛。なるほどね」
 ライラックは腕組みをして、なにか考え出した。
 そうして皆でぞろぞろと、スープ片手にドットくんの部屋へ向かった。

 同じ頃。裏山ではアマレットが、イフェリア・アイランズ(ea2890)たちを連れてきていた。
「だいたい6分目から頂上あたりに、いつも群がっているわ。カールちゃんを最初に見つけたのは、あの大きな杉の木が飛び出しているところね」
 指さしながら、アマレットが裏山について詳しく教えてくれる。
「ほな、うちは一足先に空から調べさせてもらうで〜」
 シフールのイフェリアは、羽根を広げて一気に上空まで昇った。そこからパタパタふわふわと、山に向かう。山は大きくはないが、小さなイフェリアにとってはどうだろう? 一人で向かったが、大丈夫だろうか。
「私たちは飛べませんから、この足が頼りですね」
 同じように裏山の下調べをしようとしているクレア・エルスハイマー(ea2884)が、シャラ・アティール(ea5034)に声をかけた。
「そうだね。とりあえず、杉の木を基点にしていこうか?」
 クレアに言葉が通じるので、インドゥーラ生まれのシャラはほっとしていた。イギリス語も早く覚えたいが、今回の依頼までには間にあわなかった。
「手分けしましょう」
 皆と同じく、数日前から山の様子を伺うつもりだったヴァレリア・ボギンスカヤ(ea1269)が言った。先ほど、イフェリアが頂上へ向かったが、そこから麓に向かって降りてくるのだろう。それではこちらは、3方向から分かれて頂上を目指せばよい。
「動物の爪痕、何かの装飾品、獣道‥‥」
 4人は山をくまなく調べにかかる。そして同時に、おとり罠を置くのにふさわしい場所も探していた。
「コボルトは、いったいどのくらいいるんでしょうか?」
「あの姉妹が2匹も捕まえたんだから、少なくはないと思うんだ」
「その中の1匹、ですか‥‥」
 アマレットいわく、他のコボルトと違ってとても可愛らしい、そうだ。そんな不特定な特徴を出されても困惑するだけだ。
「首輪、首輪。赤い首輪はどこやろか〜?」
 
 こちらは青い首輪のコボルト、ドットくん。
 アマレットが格子扉を開けた。ドットくんは鼻をひくひくさせて、彼女の手にある器に目を遣った。それを受け取ろうと、手を伸ばす‥‥。
「ヨ〜シヨシヨシヨシ‥‥可愛いですね〜ドットくん」
「ら‥‥ライラックさん!!?」
 ライラックがドットくんに抱きついた。彼女なりの愛情表現だろうか。体を擦り寄せて撫で回る。
 ギィッと甲高い悲鳴を上げてドットくんは牙を見せた。ライラックを振り払おうと、腕に噛みつく。
「ん〜、痛くないです、これはですね、コボルトの挨拶です。喜んでくれていますね〜」
 そんなはずはない。ものすごく怯えて、体を揺さぶるドットくん。その勢いに、抜けた毛があちこちに散らばっていく。
「ほう‥‥よい感じに、毛がありますね」
 乱馬はそれを見て、何か思いついたようだ。手近にあった箒でかき集めると、ドットくんの毛は籠一杯ほどになった。
「そんな犬の毛を、どうする気だ?」
 おかしな行動に、蒼司が尋ねる。乱馬はにやりと笑うと、器用にそれを貼り固めた。
「ワンッ」
 出来上がったものは、コボルトそっくりの付け耳だった。
「お〜、可愛い可愛い」
 ふわふわの犬耳と犬尻尾。それを見てユウが拍手を送る。
「いい出来じゃない。ちょうだい!」
 しかし、かわいい犬耳は、ライラックに奪われてしまった。
「‥‥‥‥忍だ」
 悲しいこともじっと忍んで耐えるのがジャパンの忍者。乱馬は犬耳を諦める。
「まだ作れそうじゃない。もう2.3個作って欲しいな」
 ユウからのリクエスト。ドットくんの抜け毛は部屋の中にたくさんある。アマレットに呆れられながら、彼らは犬耳制作活動に取りかかった。

 翌日。鍋一杯のスープと、頭にドットくんの毛を付けた冒険者達が山裾に集合した。山道に入りやすそうな格好はしているが、どことなく誰もが獣臭い。
「なんて言うか‥‥なんて言うか、だわ」
 アマレットは見送りの言葉をちょっと考えていた。コボルトに変装した彼らの笑顔は余裕の表れなのか、ただ変装を楽しんでいるのだろうか? 
「アマレットさんのおかげで、昨日の内に、だいたいの活動範囲を特定できました」
 カールちゃんの毛布を抱えたヴァレリアが言った。正午までには匂いの罠を配置し終えるだろう。
 必ずカールちゃんは無傷で連れ戻す、とシャラも約束し、荷物を抱えた犬耳集団は山へ入っていった。
 誤解のないように。彼らは変装ごっこをして遊んでいるわけではない。
 めぼしい場所に到着すると、クレアはスープの一部を小鍋に移し替え、そこで火をおこし暖めなおした。ヴァレリアは毛布の端を少し切り、スープのそばに置く。その下には網の罠が。そうした場所を数カ所作り、あとは物陰に身を潜めた。
 おいしいスープの匂い。使い慣れた毛布の匂い。そして自分を閉じこめていた人間達の匂いは‥‥無い。
 犬耳は、まだドットくんの匂いがしっかりと残っていた。
 イフェリアはまた、空から変化を確かめていた。微風が吹いている。匂いはあちこちに振りまかれているだろう。
 状況が変わったときには、もう日が半分沈んでいた。
 ユウが遠くにある『何か』の気配を感じた。
 イフェリアは、風ではない『何か』によって茂みが揺らされているのに気が付いた。
 ヴァレリアはますます息を潜め、罠の端に結びつけた紐を更に強く握る。
 そしてクレアは、姿を見せる『何か』が、赤い首輪を付けていることを祈った。

 祈りが通じた。
 可愛い巻き毛に覆われた耳がぴくぴく動く、小柄なコボルトが網の中に入っていた。
「‥‥これが『カールちゃん』てツラかよ‥‥」
 蒼司がぽつりと呟く。姉妹はさんざんに「可愛い」を連呼していたが、やはりコボルトはコボルト。オスだかメスだか分からないし、分かりたくもない。
「早く逃げよう! ぐずぐずしてたら他のコボルトが集まってくるよ!」
 シャラがそう言って急かす。
「よしッ! 早くあの二人にカールちゃんの無事を知らせてやろう!」
 ユウはスキップふみふみ、山を下りた。
 なぜなら彼には目的があったのだ。

「お帰りなさい、カールちゃん! 寂しかったわ」
 網の上からアニゼットがコボルトを抱きしめた。抵抗するカールちゃんだが、囚われの身ではそれも叶わない。
「本当にみなさん、ありがとう。ずいぶん急いでくれたのね」
 姉妹が彼らをみると、何かと戦ったわけではないのにずいぶんぼろぼろになっている。山道を他のコボルトに見つからないように滑り下りてきたのだろうか、髪の毛や服の隙間に枯れ葉がからみつき、泥がこびりつき、せっかく作った犬耳の毛は抜け落ちて、土台の藁束が剥き出しになり、それも崩れかかっていた。
「それじゃ、お約束の報酬を‥‥」
「それよりもお二人、このあと時間ある? いつでもいいから俺とデートしない? ねっ?」
 これが目的だったのか、ユウ・ジャミル。どちらか一人、ではなく二人を一度に口説きにかかる。
 アマレットもアニゼットも、悪い気はしていなかった。
 なぜなら、人なつっこい笑顔で懐いてくるユウを、二人は可愛いと思ったからだ。
 可愛いと。
 尻尾を振るドットくんみたいで。