ツァリーヌ嬢からの依頼
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■ショートシナリオ担当：江口梨奈 対応レベル：1〜3ｌｖ 難易度：普通 成功報酬：0 G 78 C 参加人数：8人 サポート参加人数：-人 冒険期間：06月14日〜06月21日 リプレイ公開日：2004年06月22日 |
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●オープニング
冒険者ギルドには、今日も冒険者達に向けてさまざまな依頼が貼り出されている。怪物の退治、誰かの護衛、工事の手伝い募集、等々‥‥。この依頼も、それらの一つだ。
『ツァリーヌ嬢の盗まれた琥珀を探し出してほしい』。
ツァリーヌ嬢は、曾祖母から代々伝わってきたという、首飾りを持っていた。そこには、気泡ひとつ入っていない、上質の琥珀が下げられていた。自分の母親も、祖母も、曾祖母も、みんな大切にしてきたのだそうだ。
それが突然、盗まれた。
盗んだのはゴブリンだった。
窓を壊して中に入り、ツァリーヌの部屋にあった宝石箱をひっくり返して、琥珀の首飾りをつかんで逃げたのだ。
こんな街中にゴブリンが出たことも驚きだが、それよりも、大切な首飾りが盗まれたことがツァリーヌにはショックだったようだ。
「あのゴブリン、もしかして‥‥いえ、疑ってはいけないと分かっているんですが」
依頼を受けた冒険者たちに、ツァリーヌは言った。
「もしかして、ビジューさんにくっついているゴブリンかも‥‥。だって、街の中にゴブリンなんて、そうそういるものじゃないでしょう？」
ビジューとは、近くの森の中に独りで住んでいるウィザードの女性のことだ。昔は冒険者としてあちこち飛び回ったそうだが、今は年齢を理由に隠居している。彼女が最近興味があることは、若返りと美顔の研究だそうで、いろいろな薬を作っているらしい。めったに街には出てこないが、ときどき、薬の材料を求めにくるという。そして、なんとそのとき、彼女がゴブリンと一緒にいたそうなのだ。
「なんでも、ビジューさんの家の庭に、怪我をして倒れていたらしいの。ビジューさん、そこで死なれても気分が悪いからって、治療してやったっていうのよ。そうしたら懐かれちゃったとか言ってたわ。ううん、飼ってるんじゃなくて、いつも近くにいるんだって。それが町までついてきたから、ビジューさん、何も買わずに慌てて帰ったのよ」
それからツァリーヌは、こんなことも教えてくれた。
「ビジューさん、質のいい琥珀を欲しがっていたらしいわ。研究している薬の材料に使うんだって。‥‥ああ、疑っちゃいけないわ‥‥、でも‥‥、ああ、ごめんなさい、ビジューさん」
果たして本当に、ビジューのそばにいるゴブリンがこの事件に関係しているのか？ 依頼を受ける者は、まずそのことについて調べる必要があるだろう。
●今回の参加者
ea0254 九門 冬華（29歳・♀・浪人・人間・ジャパン）ea0361 クオン・カナリス（30歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国）
ea0369 クレアス・ブラフォード（36歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国）
ea0393 ルクス・ウィンディード（33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国）
ea1314 シスイ・レイヤード（28歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国）
ea1322 とれすいくす 虎真（28歳・♂・浪人・人間・ジャパン）
ea1324 速水 兵庫（29歳・♀・志士・人間・ジャパン）
ea1332 クリムゾン・テンペスト（35歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国）
●リプレイ本文
本当に、ビジューのそばにいるというゴブリンが、ツァリーヌの琥珀を盗んだのだろうか？ そして、ビジューはこの事件に関係しているのだろうか？「まずは、情報を集める必要があるでしょう？」
当然のことながら、そのゴブリンとビジューについてもっと詳しく知る必要がある。九門冬華（ea0254）が提案した。
「一緒に動くと目立つだろう。適当に、二人組ぐらいに別れて、それぞれ街中で聞き込みをしてみるか？」
クレアス・ブラフォード（ea0369）も、冬華の提案には賛成だが、それにプラスして、さらに練った手段を示した。
クリムゾン・テンペスト（ea1332）がさらに念を押すように、こう付け加えた。
「ビジュー、もしくはそれ以外の黒幕に、気づかれないようにしないとな」
ゴブリンが単独で、琥珀を狙っているとは考えにくかった。宝石の貴重さを理解しているとは思えない畜生が、ツァリーヌの他の何をも狙わず、琥珀だけを狙ったというなら、それは琥珀の価値を知っている者が背後にいると考えた方が自然だ。
だから、ゴブリンの背後にいるものを探している、と知られては、しっぽをつかめないかも知れない。ゴブリンの行方に重点を置いた方が気づかれにくい、とクリムゾンは考えていた。
「了解した。では、組分けをしようか？ どう分かれようか」
速水兵庫（ea1324）も異存はないようだ。
「どうとでも分けてくれ。反対はしねえから」
ルクス・ウィンディード（ea0393）は皆の決めた事に従うという姿勢を基本としているが、どうやら情報収集という密やかな仕事は得意ではないらしい。集めた情報を元に行動に移りたいと思っているようだが、これも依頼の一部と思って行かなければならない。
そして予定通り４組に分かれ、それぞれ街へ散らばった。毎晩決まった時間に、グローリーハンドの酒場に戻ってくることを約束して。
「言葉が話せなくて、ごめんなさい」
とれすいくす虎真（ea1322）は自覚しているが、まだジャパン語しか使えない。そのため、こうして兵庫と同じ組になった。クレアスの提案は、今回の依頼にとっても彼女にとっても良い判断だったと言えよう。
「まずは、そのゴブリンを目撃した人がほしいですね」
ツァリーヌの部屋に侵入された日、家の外側から誰が見ていなかったか。そんな人が見つかればいいのだが、そう巧い具合には進まない。
けれど、話を集めているうちに、手がかりとなる話も聞こえてきた。
実は、盗まれたのはツァリーヌの琥珀だけではない。他にも同じように上質の琥珀を持っている家に、ゴブリンが侵入したというのだ。
彼らが覚えていたゴブリンの特徴を聞くと、やはり、ツァリーヌのところに入ったゴブリンと同じものらしい。
「まったく‥‥人の大事なものを‥‥盗るとは‥‥犯人‥‥お仕置きだな」
一方、こちらはシスイ・レイヤード（ea1314）。ルクスと一緒に同じように聞き込みに赴き、同じ話を聞いた。
「いったい‥‥誰が操っているんだ‥‥」
と、シスイは誰に聞かせるでもなく、ひとり呟く。こうしている間も、彼の頭の中はさまざまな推理の方程式が組み立てられている。
どうしてゴブリンは琥珀を盗むのか。
もしビジューが犯人なら、その目的は若返りの薬のためだろう。
もし彼女以外が犯人なら、その目的は金だろうか？ もしかしたら、ツァリーヌの琥珀が闇市などに売りさばかれているかも。
もし、これがゴブリンの単独行動なら。
その目的は何だ？
「行き詰まったわ」
作戦開始の最初の夜。酒場でそれぞれの成果を報告しながら、クオン・カナリス（ea0361）は肩をすくめた。冬華と一緒に街中を歩き回っていたが、聞こえてくるのはビジューが怪しいと思えることばかり。買い物に来たビジューがゴブリンと一緒のところを街中の人が見ていた。それはかなり衝撃的な場面だったのだろう。森の奥に住んで不老不死の研究に没頭している魔女が、ついにゴブリンを手なずけて、化け物の仲間入りをしているなど陰口を叩く者もいた。
そして、ビジューのそばにいたゴブリンと、琥珀を盗んだゴブリンとの特徴は見事に一致し、これが別のゴブリンとはもう考えられなくなった。
「ビジューさんに、事情を話してみるべきだと思うわ」
ここにきて、クオンは言った。
「そうだな。彼女とて人間だ。話せば分かってくれるだろう」
「嘘をついているかどうかは、虎真さん、見極めてもらえますか？」
冬華が虎真を見る。精一杯やる、と彼はうなずいた。
翌朝。
もう４組に分かれる必要はない。８人そろって、森のビジューの家に向かった。
ビジューの家は広い。いや、家ではなく、庭が広い。石がごろごろして誰も住まないような荒れた場所を、ビジュー一人で耕して、いろいろな薬草をみっしり植えているのだ。
簡単な柵で囲った広い庭を横切ると、かまどがあり、薪小屋があり、そうしてやっと粗末な家がある。
周囲を探ってみたが、ゴブリンがいる様子はない。
代表してクレアスが、ドアをノックした。
「どなた？」
老女の声。
「クレアス・ブラフォードと言う者だ。話がしたいのだが、よろしいか？」
クレアスが名乗ると、ドアが開いた。
老女、というには申し訳ないほど、肌の綺麗な、背筋の伸びた女性が立っていた。
「あら、こんなに大勢？ いったいどんなご用かしら？」
ビジューも昔は冒険者であった。この８人のなりをみて気づかない訳はない。何かの依頼途中で必要があって訪れたのだとすぐに分かったのか、全員を中に入れてくれた。
「お茶でも入れましょうね」
そう言ってビジューは、外のかまどで湯を沸かし始めた。
なぜ、家の中のかまどではなく、わざわざ外で？ と、不思議がるルクスに、ビジューは言った。
「家の中のかまどは、薬の調合用になっちゃったのよ。だから、普段の食事用は、もっぱら外のかまどよ。雨が降ったときは大変だけど」
家の中は、変わった匂いがした。一日中、あれやこれやの薬を作っているのだろう。壁や家具にすっかり匂いが染みついているのだ。
「実は、琥珀のことなんです」
下手なごまかしをしてはいけないと、単刀直入に、クオンが聞いた。
とたんに、ビジューの顔が青ざめた。
やはりそうなのか！？
彼女が、関わっているのか？
「もしかして、盗まれているの？」
驚いたことに、ビジューからそう言い出した。
「何か、ご存じなのか？」
次の答えを待ちきれないとばかりに、兵庫が立ち上がった。
ビジューは黙って、部屋の隅にあった棚から、布張りの箱を出してきた。
それを開けると、３つの琥珀が入っていた。
その中には、ツァリーヌの首飾りもあった。
「‥‥事情を、聞かせては貰えないか？」
これでビジューの関与がはっきりした。しかし、なぜ、この分別のありそうな老女が、このようなことをしたのか。クリムゾンはそれが知りたかった。
「あくまで、推測なんですよ」
そう前置きして、ビジューは話し始めた。
「あのゴブリンは、私が琥珀を欲しがっていることを知っていたんです」
ビジューが若返りの研究のために琥珀を欲しがっている、ということは周知のことだ。常日頃から口にし、探し歩いていたのだ。ゴブリンがそれを知るのも難しくはなかっただろう。
「ある時、家に琥珀が部屋に放り込まれたんです。この首飾りでした。そのときは、まさかゴブリンが盗んできたものとは思いませんでした。ただ、気持ち悪くて」
その口ぶりから察するに、ビジューの指示で盗んできたのではないようだ。
「それから、２回、同じことがありました。そして、気づいたんです。琥珀が放り込まれる前に、外のかまどから、食事がゴブリンに食べられていたことに」
「そうか‥‥もしかしたら‥‥あのゴブリンが‥‥過去に盗賊に飼われていた‥‥かもしれない」
シスイは事情が飲み込めてきた。
もしかしたら、どこかの盗賊が飼っていたゴブリンだったのかも知れない。その盗賊は金目のものを盗むゴブリンに報酬を与えていた。それを、ビジューが世話したことで、ゴブリンは今度はビジューに飼われたと判断したのだろう。そして偶然にも、おいしい食事、というゴブリンに対する報酬を知らずに与えたことで、ゴブリンは盗みという仕事を果たした。盗賊の時と同じような、褒美と盗みの関係を再構築してしまったのではないか、と。
あくまで推測だ。しかし、こう考えれば辻褄が合う。
「でもどうして、はやく持ち主に返さなかったんですか？」
冬華の疑問はもっともだ。
いや、ビジューも分かってはいたのだろう。はやく返さなければ、と。
「最初に気づけばよかったんでしょうが、気づいたときにはもう３つも盗まれていて‥‥どうしたらいいのか、途方に暮れていたんですよ」
悪い噂がすでに立っていたのを、彼女は知っていた。ゴブリンがそばにいる限り、何を言ってもそれが払拭できそうにない、と思っていた。
彼女とて人間である。弱い部分もあるのだ。
「それでは、これは私たちが預かっていいか？」
クレアスの申し出を、ビジューが断るはずはない。くれぐれもよろしくと言って、きれいな箱のまま預けてくれた。
「でもそうなると、今の状況は、よくないですね」
このままだと、いつまでも同じことが続くだろう。ゴブリンがビジューの元から離れるために、どうすれば‥‥。
「殺さないで下さいね」
と、ビジューは言った。一度、助けた命なのだ。それがいくら、自分の不愉快さの軽減のためとはいえ、事実なのだ。それをまた殺すなど、いくら相手がゴブリンでも、ビジューには耐えかねた。
「少し痛めつければ、逃げていくでしょう。‥‥ゴブリンは、どこにいるんですか？」
居場所は分からない。けれど、外のかまどに食事をおいておけば、簡単に姿を見せた。
たった１匹のゴブリン、追い払うのは難しくなかった。後味は良くないが、これがお互いのために一番いい方法なのだ。
あとは、琥珀を持ち主に返せば元通りである。
ツァリーヌにも、この事情を話せば分かってくれるだろう。彼女は、ビジューのことをなんとか信じようとしていたのだから。
「さってさて‥‥依頼も終わったし、飲みに行くか♪ 野郎は別で」
ルクスからそんな軽口が出る。
それほどに、今回の依頼は１００パーセントの大成功だった。
