タタくんからの依頼
|
■ショートシナリオ
担当:江口梨奈
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 29 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月26日〜11月02日
リプレイ公開日:2004年11月01日
|
●オープニング
依頼主はまだ12歳にも満たないであろう、顔立ちの幼い少年だった。
「このお金と手紙を持って、山みっつ向こうの村へ行きたいんだ」
少年の名前はタタ。生まれてすぐに両親を亡くし、この村の教会で世話になっていた。ところが、今度はその神父突然亡くなり、先の村の教会へ身を寄せることになったのだ。
何故、神父が亡くなったのか。
それは、二つの村の間に姿を見せるという、盗賊団に殺されたのだ。
「あの人は本当のお父さんみたいに、僕を大事にしてくれたんだ。それなのに、あんな目に遭って‥‥」
タタは悔しそうに、目に涙を浮かべる。ぎりぎりと歯ぎしりをし、手は爪が掌に刺さるほどに握りしめていた。
「みなさんにお願いしたいのは、僕を向こうの教会に連れて行くことじゃない、お父さんの仇を討たせてほしいんだ!」
神父を殺した盗賊団を、少年が壊滅させたいと願っていた。
この時点で分かっている、盗賊団のことを記しておこう。
タタのいる村と、先の村の間にある三つの山は整備された1本の道が通っている。その周辺はまったく未開の部分だ。
間に他に村はない。よってこの範囲全てが盗賊団のなわばりで、拠点も各地に構えており、どこに出没するかは不明である。だが、常に道を見張っており、金を持っていそうな相手に絞って襲いかかるという。
相手の人数は10人〜30人。盗賊団の全員で一斉に動いているわけではないので、その時の役割によって襲撃する人数が変わるのだろう。
亡くなった父親代わりの神父は身なりがきちんとしており、その崇高な職業も関係して狙われたのだろうが、残されたタタは小さくてみすぼらしく、いくら大金をポケットに入れていても盗賊には見向きもされないかもしれない。
彼は盗賊団を憎み、仇を討ちたいというが、何十人もいる盗賊の誰が神父を殺したかは分からない。
●リプレイ本文
なでなで。なでなで。
「‥‥あのー、ユーディスさん?」
なでなで。なでなで。
ユーディス・レクベル(ea0425)は、初めて会ったこの小さな依頼人の頭を、さっきからずっと撫でていた。
「あの‥‥」
「ユーディスはおぬしを可愛いと思ってるのだろう。まあ、そう照れるな」
「照れてなんかないよ」
ジェームス・モンド(ea3731)にそう言われて、タタは思わず否定するが、その顔は赤くなっている。
「さ、これで自己紹介はみんな終わったな? 時間が惜しい、早く出発しよう」
と、龍深冬十郎(ea2261)が馬と荷物を持ってきた。中には、旅のための準備物がぎっしり詰まっている。一人分にしては多い。タタのぶんだ。
「タタの足なら、向こうに着くまでに夜を二つ越すだろうからな」
「ねえ、ちょっと待って。お願いしたことは、ただ向こうにいくだけじゃないんだよ」
依頼は、隣村に行くタタの護衛、それだけではない。
育ての親を殺した盗賊を捜し出し、復讐をしなくてはならない。
「分かってるわよ。それも含めての計算よ」
白井蓮葉(ea4321)が言う。
「おまえも準備をしろ。冬十郎の荷だけに頼るなよ」
アンドリュー・カールセン(ea5936)もそう急かし、そしてガイン・ハイリロード(ea7487)の方を見た。
「そうそう。おまえには着替えを用意したんだ」
ガインは己の荷の中のことを思い出した。事前に聞いた話では、盗賊は金持ちそうな相手を狙って襲いかかるという。お世辞にも今のタタは良家の子息には見えない。そこであらかじめ、服をひとそろえ用意していたのだ。安物ではあるが新品である。これで印象は、かなり違ってくるはずだ。
「これで盗賊が僕の前に出てくるかな? そうしたら、絶対殺してやるんだ」
はっきりと決意を固めるタタを、ヴィオレッタ・フルーア(ea1130)は複雑な思いで見ていた。
「こんな小さな子が、こんなに殺意を抱くなんて‥‥」
相手は義父を殺した盗賊。それでも、一人の人間には変わりない。それを、人の命を、タタは殺したがっている。
「実際に盗賊に会ったときにどうするか、見定めるべきだろうな」
厳しい表情でレインフォルス・フォルナード(ea7641)は言う。
自分はタタという依頼主から依頼を受けた冒険者だ。依頼の通りにタタの仇討ちをさせ、同時に隣村へ連れて行く。
しかし、依頼主とはいえ、道を誤れば正すつもりでいる。ましてやこの冷静でない依頼主なら尚更のこと。最後まで見届けなければならない。
8人の冒険者と、1人の子どもの旅が始まった。隣村までは山三つ。大人の足なら一日半で超えられると言うが、今回はタタがいる。まだ半分も過ぎていない場所で、すっかり陽が落ちてしまった。
「今日はここで休もう」
道から外れた平らな場所を探して、一行は野営の準備を始めた。
「寝ているところを襲われてはたまらないからな」
と、アンドリューは用心深く、寝床の周りに鳴子をひいた。タタが、それを見て感心していた。
「へえ。冒険者の人たちって、野宿するときもこんなふうにするんだね」
「人にも状況にもよるけど、そんなに驚いたの?」
ユーディスが聞き返すと、タタは肯いた。
「そうよね。あなたはこんな生き方とは無縁のところでいたのよね」
ヴィオレッタは思った‥‥亡くなった神父はおそらく、タタを大事にしていたのだろう。野心に燃えたり戦場に命を賭けたりせず、日々の糧を作り、その恵みに感謝をする慎ましい生活を与えていたに違いない、と。
「だからって、今から仇討ちするってヤツが刃物も持ったことがないってのは話にならないだろう」
冬十郎の言うとおりだ。タタは何も知らない。ナイフの持ち方も、切り方も、相手の急所も、そこに流れる血の温度も。
「ほら」
タタの前にタガーが差し出された。
「寝るまでの間だ、少し稽古をつけてやる」
クイッと親指で奥の広い場所を指した。タタは立ち上がり、冬十郎の後に付いていった。
夜が明けた。相変わらず、旅は続いている。
「‥‥タタさん? ああ、寝ちゃったわ」
先ほどからタタが静かだと思ったら、馬の背でヴィオレッタの胸を背もたれにして、タタは寝息を立てていた。
「冬十郎さんがゆうべ、しごいたんだって?」
「こう言ってはなんだが、全く駄目だな。仇討ちの前に絞め殺されそうだ」
「それでも、まだ戦う意思はあったのかしら?」
「さあ‥‥どうだろうな」
2回目の夜が来た。同じように野営の準備を調え、火をおこし、そこで簡素な夕食を済ませ、皆は眠りにつこうとした。
「どうしたの、寝ないの?」
タタがまだ起きているのに気が付いて、蓮菜が隣に腰を下ろした。
「‥‥みんなも、起きてるんだね」
「交代で見張りをしているからね。でも、半分はちゃんと寝てるわよ」
「そっか‥‥ごめんね」
「何が?」
「僕は、無茶なことをお願いしたんだね」
ギルドに行けば用心棒が手に入ると思っていた。お金を出せば、より強い冒険者が集まるとも聞いた。だから、神父の残した遺産の一部で、こうして8人もの大人を雇ったのだが‥‥。
タタ一人のために、彼らは夜の半分しか眠れず、必要のない危険にさらされ、食事から寝床の用意まで全て調えてくれているのだ。
「私たちは、貴殿の気持ちが痛いほど分かるから、ぜひ助けてあげたいと思って集まったのよ」
蓮菜は優しく、タタの髪に触れた。
「貴殿は本当に、神父殿を愛していたのね」
「神父さんは、どんな人だったんだ?」
見回りを終えたジェームス達が戻ってきて、タタの隣に腰を下ろした。
「優しくて、厳しい人だったよ。僕も、村の他の子も分け隔て無く接してくれて。悪いコトしたら叱られたし、お手伝いしたらほめてくれた‥‥」
言いながらタタは、どんどん声をかすれさせていた。時々、鼻のすする音が聞こえて、しゃっくりを始めた。
「もう寝な。明日も早いんだ」
俯せになって肩を振るわせるタタの隣で、ガインはリュートベイルを取り出した。それを静かにひと弾き、ふた弾き‥‥深い眠りにつけるように、緩やかな音を奏でてやる。
タタは眠った。膝を折り曲げて、丸くなって。
3日目の朝。あと半日で目的地に到着するだろう。タタは洗い立ての服に着替え直した。
盗賊はまだ現れない。けれど、タタに焦りの様子はなかった。
しばらく進んだときだった。脇道に数人の気配がして、あっという間にタタ達の周りを取り囲んだのだ。
「はぁん。こんなに護衛を付けてるとなったら、よっぽど大事な御仁なんでしょうねェ」
両手に剣を持った男が舌を出していやらしく笑った。
「荷と馬を置いていきな、命が惜しければな」
隙間なく包囲するように、およそ12人。どれもこれも力のありそうな盗賊だった。
けれど。
「我が剣の錆になるがいい」
レインフォルスの抜いた剣が、最も手前にいた男の体を切り裂いた。男は血を吹き出しながら倒れ、痛みにもがき苦しんでいる。
「命の要らない奴は、来い」
アンドリューはタガーを構え、挑発に乗った盗賊の急所を狙って当てていく。
「生かしたまま捕まえろ!」
言いながらユーディスは容赦しない。向かってくる相手に殴りかかり、死なせはしていないが動けなくしている。
相手が悪かった、と逃げ出す者もいる。けれど、そんな連中もガインは見逃さない。
「俺の早撃ちから逃げられるものか!」
こうして12人盗賊は、あっという間に地に伏した。アンドリューがそのうちの一人の首を掴んで揺さぶり、強引に目を覚まさせた。
「おい、先月、神父を殺したのは誰だ?」
「さあ、誰だろうな‥‥ギャアアッ!」
そらとぼけようとした盗賊の顔を更に殴りつける。鼻が曲がり、血とよだれが流れた。
「さあ。タタ殿」
冬十郎が、タタにタガーを握らせた。
「こいつらが、神父殿を殺した一味だ。己が復讐心に全てをゆだねる覚悟はあるか!!」
義父の仇。
復讐。
そのために、ここまで来た。
そして目の前にいるのは、泥に汚れ、だらしなく体液を吹き出している、ボロ雑巾のような男達。
「もう、やめなさい」
ヴィオレッタはタタの手を降ろさせた。
「仇を討ちたいって気持ちは分かるけど、人を殺めたら、あなたはこの連中と同じ罪を背負うことになるのよ」
「神父さんは君に何を望んでいただろうか? この手は、未来を切り開くために使って欲しいはずだ。未来を汚すためじゃなくて」
「復讐は復讐を産むだけだ。神父さんは君にそんなことを望んじゃいない。君に幸せになって欲しいだけだ」
ジェームスも、ガインも次々に説得する。
彼らは知らなかったが、その通りなのだ。
タタが持っている、隣村の神父宛の手紙には、こう書かれていた。
『もし、万一私に何かあったら、タタのことをよろしく頼みます。幼いときに両親を亡くすという辛い体験をしています。この上、私が死ねばますます悲しむでしょう。その時はタタに伝えてください。
強くなれ、と。
私の死を悲しむより、己の生に感謝せよ、と。そして同時に全てのことに感謝をし、敬い、愛せよ、と。
タタ。あなたは私の息子です。
幸せになって欲しいのです。』
タタは無事に教会へ到着した。事情を知っているそこの神父は快く彼を受け入れた。
それから、後日談であるが。
8人の冒険者達はこのあと、寄り道をしたそうである。場所は、領主の館。
そこで捕まえた盗賊達を付き出したというのだ。
この山から盗賊団が消えたのは、それからまもなくのことである。