デオード氏からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月22日〜12月29日

リプレイ公開日:2004年12月31日

●オープニング

 デオード氏の年齢はいくつだろう。がっしりした体つきと、張りの良い肌のせいで、正確なところが分からない。けれど、本人が言うには、かなりの高齢らしい。熊狩りからの引退を決意するほどに。
「これが、2ヶ月間に、ヌシにやられた傷だ」
 ヌシ、と彼が表現したものは、先の山に住み着いているグレイベアだ。彼がその山でこれまで見た熊のどれよりも大きいので、『主』と呼んでいるらしい。 
 そして彼が見せてくれた傷は、傷と呼ぶには生やさしい。右足の膝から下が無くなっていた。代わりに義足がはめられている。彼の元々の体力のおかげで、日常の動きには支障がない程度まで使いこなせるようになったそうだ。
「まあ、あんた達に頼みたい仕事だが」
 デオードは、本題に入った。
「俺は引退する、でも最後に、ヌシをこの手で仕留めたい。だが、ごらんの通りの足だ」
 肝心の熊の元へ行くための手伝いをして欲しいというのだ。
 熊狩りにいくなら、道具を一式持たなければならないし、それは決して軽いものではない。そして山を登るだけでやっとな彼は、周囲にこれまでのような気を遣えない。得体の知れない野獣がいる場所を安全に通過したい。
 そして肝心の、ヌシと対面したとき。
 2ヶ月前と比べて山には食料もなく、熊は大人しく寝ているか空腹で凶暴さを増しているかそれは分からない。とにかく、仇討ちの前に依頼主がやられてしまっては何もならない。
「それで、ヌシの特徴は?」
「あんな憎たらしい熊、見ればすぐ分かるだろうよ。まあ、だいたいのねぐらの位置は掴んでいるし、爪痕か糞でも見つけたら、すぐ近くにいると思え」
 特徴らしい特徴は無いようだが、デオードが見れば一目で分かるという。
 デオードにヌシを討たせるために、協力してやって欲しい。

●今回の参加者

 ea0800 レオン・スボウラス(16歳・♂・レンジャー・シフール・ビザンチン帝国)
 ea3451 ジェラルディン・ムーア(31歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea5443 杜乃 縁(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5892 エルドリエル・エヴァンス(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6237 夜枝月 藍那(29歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea6413 サイ・ロート(31歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea9285 ミュール・マードリック(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

ラオン・スボウラス(ea1614

●リプレイ本文

 デオードの痛々しい傷跡を見て、杜乃縁(ea5443)は震えを感じた。
(「うわわ‥‥山に慣れてるはずのデオードさんがこんな怪我を負うなんて‥‥ヌシはよほど強敵なんですね‥‥」)
 話を聞けば依頼主は、若い時分から熊狩りをして生計を立てていたという。部屋の一角に、古びてはいるが、しかし手入れの行き届いている弓矢が置かれてあった。
「綺麗なもんだね」
 それを見てジェラルディン・ムーア(ea3451)は素直な感情を出した。
「だが、次で使うのは最後だ」
 デオードは言った。そう、次に山に入りヌシを退治したら、彼はもうこの仕事を止めるのだ。仕事とはいえ、同時にそれが彼の生き甲斐でもあるのだ。それを失うのは寂しい。
「やっぱり最後はキチッと片を付けておかないとね。あたし達に任せといて!」
 ジェラルディンはドンッと胸を叩いた。
「一所懸命頑張るから」
 今回は兄がいない、一人での仕事だ。いつも以上に気合いが入っている夜枝月藍那(ea6237)もデオードの手を握る。
「よろしく」
 そう短く言って、ミュール・マードリック(ea9285)も右手を差し出した。
 デオードの依頼を請け負ってくれたのは、レオン・スボウラス(ea0800)の弟、ラオン・スボラウスも含めて全部で9人。全員が、仇討ちを成功させようと誓い合っている。これにデオードが応えないはずがない。さっきまでの沈んだ空気はどこへやら、歯を見せて二カッと笑い、皆の手をがっちりと握り返した。
「おうとも、あんたらには期待してるんだからな!」

 夜が明けて。いよいよ山に入ることになった。天気にも恵まれ、うまくいけば今日中に戻ってこられそうだ。
「それじゃあ、さっそく夕べデオードさんがおっしゃってた場所を目指そうかしら?」
 昨日のうちにエルドリエル・エヴァンス(ea5892)はデオードから詳しい話を聞いていた。ヌシの縄張り印をよく見られる場所、そこに行き着くまでのルート、などなど。
「目指すのはいいんだが‥‥」
 弱々しいデオードの声。
「こんなので、本当に大丈夫なのか?」
 なんとデオードは、レオンのフライングブルームに跨っていた。彼にとってこの乗り物は初めてらしく、体を覆うことなく空を飛ぶことが頼りないらしい。ミリート・アーティア(ea6226)が準備のよいことにロープを持ってきていて、それでデオードの体を固定してくれたりしたが、緊縛されることがまた緊張を増幅させてしまう。
「ゆっくり飛ぶものだ。レオンの腕を信用してやれ」
 サイ・ロート(ea6413)がそう言うので、ひとまず安心したようなデオード。
「荷物はあたしが担いでいくからね。じゃあレオン、気をつけて!」
 レオンがしばらく念じると、箒はデオードを乗せたままふわりと浮いた。
「うわ、うわ、うわわわ‥‥あ〜〜〜〜ぁ」
 グレイベアと戦った男とは思えない情けない悲鳴を後に残して、二人は見えなくなった。
「‥‥お二人だけで先に行ってしまって、大丈夫なんでしょうか?」
 緑は言うが、大丈夫なわけがない。デオードの護衛も今回の目的であるのに、その対象がいなくなってしまうというのは‥‥。
「追うぞ」
 ミュールが先頭になり、後を追いかけ始めた。

「うわ、あわ、はりゃ、もっとゆっくり行ってくれ!」
 だからといって速度を落とせば、フライングブルームはバランスを失ってふらふらしてしまう。ただでさえ草木や障害物が多い場所、あちこちに体をぶつけて、ついに二人は落ちてしまった。
「大丈夫?」
 追いついた藍那がデオードの肩を支えて起こしてやる。落ちた拍子に擦りむいたようで、腕に血が滲んでいた。
「見せて。リカバーをかけるよ」
「なぁに、この程度の傷は日常茶飯事だ、大事なあんたの魔力を使わすまでもない」
 と、デオードは大胆にも、その血をべろりと舐め取った。
「フライングブルームは向かないみたいだね」
 ミリートは言った。自分たち冒険者は見る機会も触れる機会も多いので何とも思わなかったが、デオードはそうではなかった。
 すると、ミュールは何も言わずに、彼に背中を向けてしゃがみ込んだ。
「そうだな、甘えさせて貰おうか」
 我を通して自力で山を進もうとすれば、何日あっても巣穴へはたどり着けない。今は自分の状態を素直に受け止め、ミュールの好意をありがたくもらうべきだ。
 よっ、と弾みを付けて、ミュールの背中に乗る。
「ううっぷ‥‥この頭巾がちょっとな‥‥」
 背負われたはいいが、ミュールのかぶっているフードがデオードの目の前をふさぐ。それを除けようと手で触れた。
 だが。
「あっ‥‥」
 変わった耳の形をしていた。エルフ娘のエルドリエルとはまた違う耳を。
「‥‥気になるなら、ムーアに代わって貰うが?」
「俺の足が気にならないなら、このままでいい」

 数時間は歩いただろうか。冬枯れの森は、普段なら塞いでしまう陽の光を彼らの足下まで届けていた。
「ちょっと、止まってくれ」
 デオードが何かを見つけた。指さす方向にサイが駆け寄り、それを確認する。
「かなり抉れてるな。普通の大きさじゃない」
 木の幹の皮が‥‥いや、幹の半分近くが獣の爪によって削り取られていた。
「もう少し行けば、ヤツの歩いた跡があるはずだ」
 その言葉通り、木々がなぎ倒されているのを見つけた。しかも、倒れたばかりだ。まだ新しい。ついさっき、折られたかのように。
「いいぞ、いいぞ‥‥近い。ヤツが近い‥‥」
 ミュールの背中から降り、ジェラルディンに持たせていた弓を受け取る。固い義足であるのに足音を立てず、デオードは一点を見据えて進み続けた。
「幸運を」
 デオードの後ろ姿に向かって藍那はグットラックを唱えた。

 突如、デオードは矢を取り、弓を引いた。
 慣れた手つきで続けざまに2本、射る。
 茂みの向こうからけたたましい声が聞こえた。
 かと思うと、茂みが隆起した。見上げるほどに大きな獣が、そこに現れた。
「しぶといやろうだ!!」

 矢は、グレイベアの肩に確かに2本、刺さっていた。だがかすり傷とも思わないのか、熊の動きは全く衰えない。
「喰らえ‥‥!」
 立ち上がったヌシを転倒させようと、縁がグラビティーキャノンを放った。それは命中し、ヌシの足下をぐらつかせた。
 体勢をそのまま崩させておくために、冒険者達は立て続けにヌシの足を狙う。
 目を、喉を、腹を、デオードの矢は一度も狙いを外さずヌシを貫いていく。しかし、デオードは毒を塗っていない矢尻を使っているため、なかなかヌシを倒せない。ダーツで援護していたミリートが、石を拾って代わりにせざるを得なくなるほどに。
「ははは、楽しませてくれる。俺の最後の相手にふさわしい!!」
 ヌシは確実に弱ってきていた。ひとつひとつの攻撃は小さいとはいえ、10人が立ち向かってくるのだ。ヌシも朦朧としているのだろう、抵抗のために振り上げた腕は空を切り、息づかいも弱々しくなった。
「レオン、俺を乗せろ!」
「は、はい!」
 レオンは驚いた。デオードが、一度落ちたフライングブルームに自分を乗せろと言ったからだ。
 箒はヌシの頭より高く飛んだ。
 デオードは最後の矢をつがえ、ヌシの頭を狙った。
 こめかみに矢を受けて、ついにヌシは倒れた。
 そして無茶な体勢から射ったデオードは、真っ逆さまに落ちていった。

「デオードさん!」
「デオードさん、しっかり!!」
 熊の頭の高さから落ちたデオードは気を失っていたが、皆の呼びかけとリカバーで、すぐに目を覚ました。
「ヌシは‥‥?」
「やったよ、デオードさん! 勝ったんだよ!」
 ジェラルディンはまるで自分のことのように喜んでくれた。
「へっ、へへへ‥‥みんな、ありがとよ」
 今夜は熊鍋で宴会だ、ヌシはどんな味だろうな、とデオードは言った。

 ヌシはあまりにも大きくて、全員で運んでも2往復してしまった。肉や毛皮を街まで売りに行くのはまた別の日ということで、今夜は約束通り宴会が開かれた。
 賑やかな宴会になった。ミリートが異国の酒を提供してくれて、宴会はおおいに盛り上がった。
 デオードが最後の仕事を終えた祝いということもあり、明日になれば別れてしまう友人達との最後の宴ということもあり、いつまでもいつまでも家の灯りは消えなかった。