ヒロカタ兄弟からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 87 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月28日〜01月03日

リプレイ公開日:2005年01月04日

●オープニング

 依頼主のヒロカタ兄弟との待ち合わせ場所は、村の中心にある大きな食堂だ。店は広く、席のほとんどが埋まっている。キャメロットほどではないが、賑やかな村だ。それでも、やはり村の外の人間は目立つのだろう、兄弟は店に入ってきた冒険者達をすぐにそれと気づいた。
「お越し下さり、ありがとうございます。僕はマール・ヒロカタ。こっちが弟のサリカです」
「はじめまして」
 兄弟は交代に手をさしだし、丁寧な握手をした。
「詳しい話を聞かせて下さい」
 冒険者の一人が尋ねる。
「はい。2週間前から行方不明の兄、シックを捜して欲しいのです‥‥もしかしたら、生きてないかも知れませんが」
「生きてないかも知れない?」
「はい。兄は、どうも危険な場所に行ったらしいのです」
 そう言ってマールは傍らにあった箱を机に乗せた。そして静かに蓋を開けると、中から丸めた羊皮紙を取り出した。
「気をつけて下さい、古いものですから」
 そっとそれを広げる。文字はほとんど消え、読むのに時間がかかる。そしてそこに書かれてあるのは、なんと『財宝の隠し場所』だったのだ。
「ヒロカタの財宝だってよ、こりゃあいい」
 隣のテーブルにいた酔っぱらいが覗き込んできた。
「ヘッ、そんなの信じてるのか、おめでたい奴らだ」
「おまえらの兄ちゃんは、女でも作って出て行ったんじゃないのか?」
 つられるように、周りのテーブルでも囃し立てる声が上がる。兄弟は慣れているのか、それを無視していた。
「祖父の残したもので、どうやら本当らしいのです。ですが、その隠し場所というのが厄介で」
 サリカが続ける。
 ここから半日ほど行くと海に抜ける。入り江になっているところに、引き潮になると現れる洞穴がある。財宝は、その洞穴の奥にあるという。
「以前に、兄たちと中に入ったことがあります。3人が並んで歩けるほど広く、陽の届かない奥までずっと続いていました」
 なら、兄弟は財宝まで辿り着いたのだろうか?
 否。
「中は積もった砂に足を取られて、思うように歩けません。それに、すぐにまた潮が満ちてきます。満ちれば、洞穴の中も水で埋まりますから」
「それでも、兄は諦めなかったんです。祖父が隠したなら、なんとか奥まで行く方法があるはずだ、と」
「そして2週間前に、『今度こそ』といって出て行きました。‥‥それっきりなんです」
 きっとシックは洞穴の中で力尽きてしまったのだろう、兄弟はそう思っている。
「だからおまえらのお守りに飽きて出て行ったんだろうよ」
「あの兄貴が宝を独り占めしたのかもよ」
「いやいや、女が出来たんだってばよ」
 無責任な輩は兄弟をからかい続けている。しまいには冒険者達に向かって「依頼を受けるだけ無駄だ」と言い始めた。
 けれど、兄弟は真剣だった。
「お願いします。兄を捜して下さい‥‥靴の片方だけでもいいですから!」

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea0504 フォン・クレイドル(34歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0734 狂闇 沙耶(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1180 クラリッサ・シュフィール(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1501 シュナ・アキリ(30歳・♀・レンジャー・人間・インドゥーラ国)
 ea8765 リュイス・クラウディオス(25歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea8769 ユラ・ティアナ(31歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 やれやれ、とリュイス・クラウディオス(ea8765)はため息をついた。
「やれやれ、また人捜しかよ。この前の依頼もそうだったしよ‥‥妙な縁があるというか」
「まあまあ。そりゃあ、家族がいなくなれば誰でも心配するってもンだしよ」
 シュナ・アキリ(ea1501)が言う。
「うちにも家事しか取り柄のない弟がいるんでね、この手の依頼にゃ弱いんだよ」
 受けた依頼が偶然続けて人捜しだったリュイスと、ついつい人捜しの仕事ばかり受けてしまうシュナ。どちらにせよ、こういう形の依頼は受け慣れていると言ってよいだろう。村の食堂で夕食を摂りながら、明朝から始める捜索の打ち合わせを段取りよく進めていた。
「ひょっとしたら、シックさんってあまり評判の良くない人かもね」
 冒険者達が付いているテーブルの方を、周囲の客達は薄笑いを浮かべて見ていた。ヒロカタ兄弟の依頼を受けた彼らを嘲るように。
「うーん‥‥皆は笑ってるけど、弟さんたちの反応を見てると、どう考えても冗談じゃないよね‥‥」
 シックの失踪を、他の村人も当然知っているはずだ。けれど、誰も気にかけていない。ユラ・ティアナ(ea8769)にとって、これは奇妙だった。
「無事、連れて戻ろうね。そうすれば、みんなが勝手に噂しているようなことじゃないって証明にもなるよね」
 弟たちの世話から逃げた、女が出来た、財宝を独り占めした‥‥悪い噂ばかりが聞こえてくる。レフェツィア・セヴェナ(ea0356)はこれの払拭も、依頼の一部に含まれていると思っていた。
「早めに捜すとするか」
 最後の皿を片付けながら、狂闇沙耶(ea0734)は言う。すでにシックの行方不明から2週間。本当はこうしている間も惜しいほどだ。けれど、海の力には敵わない。人の力では、洞窟の入り口は開かないのだ。
「今夜は早く寝よう。海まで半日歩くんだ、夜明け前の出発になるだろうからな」
 フォン・クレイドル(ea0504)も席を立ち、それから皆で、宿代わりにしているヒロカタ家へ戻っていった。

 翌朝。風はない。このぶんだと、海の方も波は立っていないだろう。冒険者達は銘々の馬に荷をくくり、依頼主に見送られて問題の洞穴へ向かった。到着したとき、教えられた場所に確かに穴が開いており、しかしまだ干潮まで時間があるのか、半分ほどしか見えていない。
「そろそろ、歩けるか?」
 少し待ってみた。リュイスは服の裾をまくり、海に足を入れてみる。水面は膝より低い位置だ。
「あまり大荷物じゃ行けないね。とりあえずこれだけにしておいて‥‥」
 ユラが持ち込む道具を弓矢と明かりだけに絞ったように、他の皆も必要最低限のものを選び、いよいよ洞穴へ入っていった。
「‥‥やっぱり、暗いな」 
 先頭を歩くのはシュナ。まだ入り口から入る光で何とか中の様子は分かるが、この暗さは日暮れみたいだ。早くランタンに火を灯したいが、数に限りがある。帰りのことも考えて、節約しなければならない。
 中は広い。兄弟3人が並んで歩いたと言うが、その広さは奥に行っても同じだった。
「はァン、他に生き物はいないみたいだね」
 辺りの気配を伺いながら進んでいたフォンが言う。足下の砂の中に貝や蟹が蠢いているのは分かるが、それだけだ。時々、びちびちという音がしたと思っても、潮に置いて行かれた魚だったりする。
「仮にも財宝の隠し場所だ、単なる洞穴とは思えないしな」
 シュナはモンスターの居る可能性も考えていた。けれど、フォンがそれを否定してくれた。ならば、今度はそれに代わる罠が無いかと心配になってくる。
「シック殿〜! 何処ぢゃ、何処に居られる〜!?」
 2週間前に入っていったシック。すでに足跡や松明の燃えかすといったものは消えて無くなっている。本当にこの奥にシックはいるのだろうか? いるなら、まだ生きているだろうか?
「シック殿〜! 返事をして下され〜!!」
 沙耶が奥に向かって何度も呼びかける。返事はない。彼女たちは進むしかなかった。

 砂を踏むと、水が浮いてくる。
 足跡はさらさらと流れていく。
 歩くたびに、ぱしゃ、ぱしゃ、と音がする。
「‥‥潮が戻ってきてるのか?」
 リュイスは後ろを振り返ってみた。自分たちがこれまで通ってきたところは深い闇だった。
 右にも、左にも行き場はない。
 前に進むか、後ろに戻るか。
 早く決断しないと、この洞穴は水で埋まってしまう。
「急いで進もう!」
 時間ぎりぎりまで進んでみようと、レフェツィアは駆けだした。と、足首まで砂に埋まり、レフェツィアは転びそうになる。
 脛に水が当たるようになった。
 この辺りが限界か‥‥?
「? おい、あれは?」
 シュナが何かに気が付いた。
 天井の一部が変形している。
「凹みがある!」
 そう、天井が大きく凹んでいた。ご丁寧に登るための足場まで。登れば、腰をかけて休めるようにもなっていた。まるで誰かが手をかけたように。
 洞穴の入り口よりも高い位置にあるその凹みは、満潮からの一時待避の場所として都合が良かった。おそらくヒロカタの祖父がそうしたように、冒険者たちもそこで2回目の干潮が来るのを待った。ヒロカタと違うのは、彼らは食事や水を洞穴の外に置いてきていた、ということだ。灯りも、先に進むときのために取っておかなければならず、ここでは使えない。すぐ真下には水が流れ、それが冷気を運んでくる。寒く、暗く、ひもじい時間が過ぎるのを、彼らはじっと耐えていた。

 それはわずか半日のことなのだが。
 彼らにとっては長い時間に感じた。
 再び、潮が退きはじめた。
 凹みから降り、更に奥へ進む。
「塩っからい水なんて、もーしばらくごめんだぜ」
 シュナがそう言って明るく笑うが、疲れ切った仲間達は返事も出来なかった。

 歩きながらも、冒険者達は気が付いていた。
 この洞穴は奥へ行くほど上り坂になっている。徐々に、乾いた場所を歩くようになっていた。
「行き止まりぢゃ!!」
 沙耶が気づいた。そして同時に、うっすらと明かりが見えることに。何かが散らばっていることにも。
「シック殿〜!!」
 明かりに向かって、全員が駆けだした。
 しかし、そこには誰もいない。
 空っぽの木箱と、捨てられた雑嚢が転がっていた。
「もしかして、この木箱がヒロカタさんの財宝‥‥?」
 ユラは言うが、なら、なぜそれは空っぽなのだろう。そして転がっている、この雑嚢は?
「おい、沙耶。肩車してやるから、この明かりの先を見てくれ!」
 そう、この場所は明るいのだ。見上げると岩に切れ目があり、そこから陽が射し込んでいた。
 身軽な忍者をフォンが持ち上げる。
 沙耶は十分そこに手が届き、隙間に手を差し込んだ。
「あっ?」
 切れ目はぼろぼろと崩れた。ただ、土をかぶせていただけのようだ。頭を覗かすと、そこはもう外だった。
「出られるのか?」
「おお、なんとか」
 人が一人、やっと通れる大きさだが、全員がくぐり抜けられた。どこかの丘だろうか、眼下に海が広がっている。
「‥‥太陽があそこだから、村はこっちの方角で‥‥」
 方角を捜せば、あの見慣れた食堂の屋根の尖塔が見えた。ここは、村からそれほど離れていない場所だった。
「‥‥シックは‥‥?」

 最悪の結果を知らせなければならなくなった。
 「死んでいた」と言うよりも、もっと最悪の結果を。
「皆の噂は、当たっていたんだね‥‥」
 レフィツィアは悔しそうだった。
 悔しいけれど、これが調べた結論なのだ。
「依頼主には、正直に報告しないとな」
 フォンは残された雑嚢を引っ張り上げた。
 中には細々した物がいくつか残っている。弟たちに見せれば、持ち主が誰かは分かるだろう。
「あの木箱も持って行けないか?」
 リュイスは言った。
「少なくとも、爺さんの財宝というのは本当だったってことだからな」