タージン神父からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:2〜6lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月05日〜01月10日

リプレイ公開日:2005年01月13日

●オープニング

 人の少なくなった村だという。残った村人も、老人ばかりだ。
 タージン神父は、請われてこの村に来た。建物としての教会はあるものの、前の神父が老齢で亡くなってから、誰も管理するものがいなくなったというのだ。
「確かに、すごい荒れ方ですね」
 聞けば何年も、この状態だという。
 庭は草ぼうぼうで、建物の壁はひび割れ、屋根は今にも落ちそうだ。修繕を村人に手伝って貰おうかと思ったりもしたが、年寄りにそれをさせては申し訳ない。
「急ぐことでもありませんし、ゆっくり始めましょうか」
 地面に荷を置き、旅装束のまま、タージンは入り口扉までの草を刈り始めた。と、草むらで見えなかったが、すぐそばに墓があることに気が付いた。やっぱりそれもボロボロになっていて、酷いものでは墓標が倒れているものもあった。
「可哀想に‥‥荷を片付けたら、まずこれの掃除からとりかかりましょうか」
 ようやく建物に到着し、中に入る。
「‥‥‥‥えっ?」
 言いようのない悪寒を感じた。
 教会の中が明るい。
 青白く光る炎が一つ、二つ‥‥いや、三つ、浮いていたのだ。
 それらは外の陽が入ってきたことで、タージンの存在に気が付いた。
「う‥‥うわあああ!!」
 炎が襲ってきた。
 タージンは、ただそこから逃げるのが精一杯だった。
「亡霊が‥‥亡霊が住み着いている‥‥」
 自分では手に負えない。
 それがタージンの判断だった。

●今回の参加者

 ea0337 フィルト・ロードワード(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2685 世良 北斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea4329 李 明華(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4909 アリオス・セディオン(33歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5443 杜乃 縁(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9867 エリアル・ホワイト(22歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

エクレール・ミストルティン(ea9687

●リプレイ本文

 荒れ果てた村、荒れ果てた教会へ救いの手をさしのべたタージン神父。しかしそんな彼でも解決できない問題が発生した。
 教会に住み着く恐ろしい亡霊。
 神父からギルドに出された依頼を、9人の冒険者が快く引き受けてくれた。出自も職業もバラバラの9人が、一致団結してくれたのだ。
 ナイトのフィルト・ロードワード(ea0337)、ウィザードのユリアル・カートライト(ea1249)、神聖騎士のアリオス・セディオン(ea4909)、クレリックのエリアル・ホワイト(ea9867)、ジャパン生まれで浪人の世良北斗(ea2685)と彼を応援してくれるエクレール・ミストルティン、同じくジャパンの志士・杜乃縁(ea5443)、イスパニア王国からはファイターのクリムゾン・コスタクルス(ea3075)、そして華仙教大国からは武道家の李明華(ea4329)と、じつにさまざまな顔ぶれである。
 皆、数多の冒険を繰り広げてきた頼もしい冒険者‥‥と思ったが。
 縁だけが、膝をがたがたと振るわせている。
「‥‥ぼ、亡霊‥‥。怖いですけど‥‥がんばってみます〜」
「あ、あの‥‥大丈夫、ですか?」
 不安そうなタージン。無理もない。
「だだだ、大丈夫です‥‥ぅ」
「本当に大丈夫かぁ? もしかしたら、亡霊ってゴーストやスペクターだったりするかもよ?」
 クリムゾンはわざと意地悪く、今の縁ではとても敵わないモンスターの名前を出した。それを聞いた縁の震えはますます大きくなり、けれどそれを必死で堪えようとして脂汗をたらしていた。
「まあ、それは冗談として。神父殿、中の亡霊について詳しく教えて貰えないか?」
 尋ねられてタージンは、覚えている限りの全てのことを話した。すると、クリムゾンの顔がみるみる綻んできた。
「はっはー、そりゃレイスだな。大した相手じゃない。安心しな。ここはあたいらに任せておけ!」
 クリムゾンは特徴から亡霊の正体をレイスと判断した。
「とすると、厄介だな」
 だが、アリオスは眉をひそめていた。レイスは魔法か銀の武器でしか倒すことが出来ない。自分も含め仲間の何人かは、それを備えているわけではないのだ。
「ご心配ありませんよ」 
 そう言ったのはユリアルだった。
「私はクリスタルソードを作れます。アリオスさんにお貸しします」
「それは助かる!」
 なんとありがたい申し出だろう。更に、今度はフィルトがこんなことを言い出した。
「他には、誰が‥‥ああ、明華とクリムゾンにも必要だな? あんた達には俺がオーラパワーをかけてやる」
 それぞれ補い合うことで、穴が消えた。
 あとは、本当に教会の中にいるのがレイスかどうか、確かめるだけである。
「タージン神父様、あたし達が中にいる間、お墓の方にお祈りを捧げていて下さい」
 いよいよ扉を開ける時、明華はタージンに言った。中の亡霊はこの墓の主なのか、それともどこかから来た見知らぬ霊なのか、それは分からない。どちらでも関係ない、目の前に倒れた墓標が哀れである、それだけは確かなのだ。

 おそらくタージンが感じただろう悪寒を、冒険者達も感じた。
 そっと覗くと、埃と蜘蛛の巣にまみれた室内が明るい。
 ぼうっと、青っぽい光が蠢いていた。
 それは、間違いなくレイスであった。
「お、お、落ち着け落ち着け、僕‥‥」
「しっかり、縁さん。クレリックの私の名にかけて、誰にも怪我はさせませんから」
 中に入るのをためらう縁を、エリアルが励ます。
「そ、そ、そんなこと言っても‥‥」
「中は広そうです、全員で一気に入りますから、躊躇してると置いていきますよ!」
 北斗が渇を入れ、勢いよくドアを開けた。
 レイスはこちらに気が付き、即座に襲いかかってきた。
 タージンはここで怯えて逃げた。だが、今、扉を開けたのは冒険者だ。魔法の力を携えた武器を銘々が持ち、それを迎え撃つ。
「あたしが最初にいかせていただきます!」
 最初に飛び出したのは明華だ。フィルトに分け与えられたオーラパワーが彼女のナックルを覆っていた。ゆらゆらする炎にそれをぶつけた瞬間、初めて炎は不自然な形に動いた。けれど、明華に伝わった反動もまた大きく、明華は体勢を崩して膝をついた。
「いいぞ、とどめは任せろ!」
 レイスに反撃の隙を与えまいと、明華が倒れたと同時に今度はフィルトが飛びかかる。おそらく、最初の一撃で与えた衝撃は大きかったのだろう、オーラに包まれたフィルトの刀はレイスをまずひとつ、消滅させた。
「明華さん、怪我は?」
「平気。それよりもエリアルさん、気をつけて。まだ2体いるのよ!」
「よォし、一気にいこうぜっ」
 3人の活躍に触発されたのか、クリムゾンは高ぶっていた。フィルトがオーラパワーを自分にかけてくれる、その時間がもどかしい。
「私は待ちませんよ?」
 その間に北斗が前に出た。彼の手には赤く燃える刀があった。
 勢いのいい掛け声と共に、一撃をレイスにぶつけた。青い炎と赤い炎が激しくぶつかる。
「こっちも負けてはいられないな」
 レイスはまだ2体ある。その残されたもう一方に向かい、アリオスは出来たばかりのクリスタルソードを構えた。
 亡霊は侵入者が敵意を持つ者と判断したのか、先ほどとは比べものにならないほどに縦横無尽に飛び回る。先ほどと数が減ったとはいえ、追いかけて捉えるには五感の集中力を強いられた。
「ぎゃっ!」
 と、その時だ。痛々しい悲鳴が響いた。縁が発したものだ。彼は肩口を押さえていた。
「いつまでも怯えるな、命取りになるぞ!!」
「う‥‥うう‥‥」
 これ以上情けない醜態をさらすわけにはいかない。縁は、気力を振り絞ってストーンアーマーで体の守りを強化した。
「幽霊なんて怖くない‥‥怖くないんだああーー!!」
 2つめのレイスがやっと消滅する。
 そして残った一つ。
「あんたも消えっちまいな!」
 懇親の力を込めた、とどめの一撃。
 教会は再び、もとの真っ暗な廃墟になった。

(「中は大丈夫だろうか‥‥」)
 タージンは墓を直しながら、目線は常に教会の方に向いていた。
 突然内側から窓が開き、その音でタージンはドキッとした。
「わっ、うわっ、何事っ???」
「神父様〜。終わりましたよ〜」
 見ると、四方の窓が全て開き、あふれ出る埃と一緒に冒険者達がこちらに手を振っていた。
「ああ、みなさん! 無事でしたか!」
「それでですね〜、このままここの掃除を始めますけど、よろしいですか〜」
 タージンは耳を疑った。
 亡霊を退治してくれただけでなく、教会の掃除も手伝ってくれるというのか?
「ありがとう、みなさん、ありがとう!!」

 丸一日近い時間をかけて、教会はきれいに片づいた。埃ははらわれ、草は刈られ、代わりにユリアルの手で花が植えられた。外れそうだった窓枠は打ち直され、棟続きの住居もタージンが暮らせる形にまで戻された。
「お疲れ様でした。簡単なものしか作れませんでしたが、召し上がって下さい」
 厨房に最初にたったのは明華だ。亡霊退治と掃除とでくたくたになった皆をねぎらうために、母国の料理を作ってくれた。
 それを囲んで、皆は楽しい時を過ごしていた。
 けれど、タージンは、まだ浮かない顔をしていた。
「どうしました?」
「いえ‥‥またあの亡霊が出てきたら、とおもうと‥‥」
「大丈夫だよ」
 そこにいる全員が言った。
「エリアルがピュアリファイで清めてくれたんだ。あとはタージン神父、あなたがこの状態を維持してくれれば大丈夫だよ」
 恥ずかしそうにエリアルは俯いている。
「それに、何かあったらまた、あたいらを呼んでくれればいいよ」
「時々は様子を見に来ますよ」
 次に来たときは、花で満ちた明るい村に戻っていますように‥‥そうユリアルは祈っていた。