シャルロッテからの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月18日〜01月23日

リプレイ公開日:2005年01月25日

●オープニング

 依頼主のシャルロッテはカーザの屋敷で働いている使用人だ。奇妙な依頼である。ギルドでは、用件はほとんど分からない。「会って話す」とだけある。それに従ってシャルロッテに会いに行くと、彼女は用心深く、冒険者の素性をまず確認するのだった。
「あなた、どちらの産まれ? カーザ家のことをご存じ? 富と市民、どちらが大事?」
 よほど危ない橋を渡らされるのか? シャルロッテの全ての質問に合格した冒険者だけが、依頼の内容を聞かされる。そしてそれを聞いた冒険者は‥‥肩すかしを食うのだ。
「カーザの奥様のご葬儀を手伝ってほしいの」

 この近辺ではカーザ家の名を知らないものはいないだろう。初代は異国品の売買をして一代で富を築き、更にその人徳から領主からの信頼も篤く、幾つかの土地を任されている人物だ。
 残念ながら夫人との間に子を授からず、初代亡き今、財産を管理しているのは夫人だけである。
 その夫人も、いよいよ神の元に召される日が近づいてきた。
 問題は、夫人が10年前に残した、財産に関する遺言状なのだ。

『私の指輪を持つ者を、正統な相続人とする。ただし、誰にも指輪を渡していない場合、ふさわしい者がいなかったとして、財産の全てを教会と救護院に寄付する』

「結局、奥様は誰にも指輪を渡しませんでした。それはもちろん、適任者がいなかったからなのですが、カーザ家の親戚という方々が何人も現れて言うのです‥‥」
 指輪は渡さなかったのではない、カーザ夫人の指から外れなかったのだ、と。
「遺言状を残したのは10年前。奥様のお考えはずっと同じでしたから、書き直しませんでした。ですが、10年のうちに奥様はお歳のせいもあり、ふくよかになられまして‥‥外れなかった、というのは本当なのです」
 にわか親戚達は、夫人の遺体から指をもぎ取ってでも指輪を奪おうと企んでいるらしい。
 この時点でまだシャルロッテを含む使用人達は夫人の死を隠しているらしい。けれど、そろそろ限界で、もう1,2日後には教会で葬儀をするという。そうなれば、親戚達も気付いてしまうだろう。このままでは指輪目当ての金の亡者が、葬式をぶちこわしにしてしまいかねないのだ。
「指輪が割れようが切れようがかまいませんが、奥様が傷つけられるなんて我慢できません。どうか奥様を穏やかに見送らせて下さい」

●今回の参加者

 ea0136 リッカ・セントラルドール(35歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0504 フォン・クレイドル(34歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea1135 アルカード・ガイスト(29歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2220 タイタス・アローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2624 矛転 盾(37歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea6930 ウルフ・ビッグムーン(38歳・♂・レンジャー・ドワーフ・インドゥーラ国)
 ea7384 メア・アフターグロウ(22歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea9867 エリアル・ホワイト(22歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ロソギヌス・ジブリーノレ(ea0258)/ ミキ・セントラルドール(ea7409)/ マキ・セントラルドール(ea8974

●リプレイ本文

 シャルロッテからの厳しい審査を受け、秘密を厳守できると信用された11人の冒険者達が選ばれた。
「どうぞ‥‥こちらが、奥様です」
 冒険者達は、夫人の寝室に通された。天蓋を備えた美しいベッドに、やや異臭を放ち始めた老婆が寝そべっていた。
「まずはその問題の指輪を外さねばならんな」
 夫人にそれぞれが黙祷を捧げた後、ウルフ・ビッグムーン(ea6930)が言った。そうして、用意してあった細工用道具一式を部屋に持ち込んだ。
「シャルロッテ、指輪はどうなってもいいんだったな?」
「はい」
 それを確認して、ウルフはまずヤスリを取りだし、ガリガリと削り始めた。
「どう、できそう?」
 指と指輪を調べているウルフに、リッカ・セントラルドール(ea0136)が尋ねる。
「難しいようなら、そのヤスリにバーニングソードの力を貸しますよ」
 アルカード・ガイスト(ea1135)も親切に、そう申し出てくれる。
「まずは一通り試してみる。それでも駄目な、その時は頼む」
 しかし、まだしばらく時間はかかりそうだ。
「じゃあその間に、カーザ夫人の葬儀の準備を始めないか?」
 そう言ったのは、フォン・クレイドル(ea0504)だった。
「正直、あたいには指輪も遺産の行く末も興味ない。けどさ、前々からこのご夫妻の名声は聞いてたんだ」
 フォンは、目を細めてシャルロッテに言った。大きな富を持ち、それでいて奢らず、皆に愛されていた素晴らしい夫妻。その夫人が神の元へいこうというのに、その道を血生臭く染めてしまっては見送る側として申し訳ない。
「私も、仏の道に仕える者。宗旨は違えど、カーザ様が安らかにお眠りになられるよう、微力ながらお手伝いさせて頂きます」
 矛転盾(ea2624)までもがそう言ってくれる。
 ああ、なんということだろう。
 初めて会った彼らなのに、共に奥様の死を悲しんでくれている‥‥。
 シャルロッテは思った。間違いない、彼らはきっと、この依頼を成功させてくれると。

「シャルロッテさんは、字は書けるのかしら?」
 エリアル・ホワイト(ea9867)が尋ねる。
 夫人の部屋に紙とペンがあった。カーザ家の印がある、形の整った上質の羊皮紙だ。
「いえ、私はあまり知らなくて‥‥でも執事長さんなら。ご主人様の字を清書していたぐらいですし」
「まあ、カーザさんの信頼が篤い方だったのですね。その方ならぴったりだわ」
 カーザ家にはシャルロッテをはじめ、数人の使用人がいた。その彼らを更にとりまとめていたのが、その執事長だという。
「その方に、領主様宛ての手紙を書いて貰ってください。カーザ夫人の遺言を守って頂けるようにお願いする手紙を」
「そう。遺産は誰にも相続する権利はなく、教会と救護院に寄付するように」
 なぜかその部分を強調するタイタス・アローン(ea2220)。これには、彼が今回の依頼を受けた背景が関係しているのだが、そんな下心はまだ誰も知らなかった。
「できれば、このまま何事もなく、お葬式を迎えられるといいのですが」
 メア・アフターグロウ(ea7384)は窓の外を見た。使用人達は指輪がようやく外れそうだとなると、夜明けにいよいよ夫人の死を公表することを決めた。そうなればすぐに葬儀を執行し、午後には埋葬を始めるようになるだろう。それまで、この穏やかな静寂は続くのだろうか。
 ウルフはまだ指輪と格闘している。アルカードの炎の力に助けられて順調に作業は進み、もう間もなく割れそうだ。
 夜も更けたのに明るいその窓の下を、リッカはミキ・セントラルドールやマキ・セントラルドールと共に見回っていた。
 
 まだ灯の落ちない屋敷、頻繁な人の出入り。
 何かあった。
 幾つかの人影が、それに気が付いた。
「弔いの灯だ。送別の客だ」
 一人、二人、三人、四人‥‥ぞろぞろと、それらは屋敷を目指した。

「あんた達、誰?」
 門をくぐろうとした彼らを、リッカが呼び止めた。
「ここの奥様がお亡くなりになったんだろう? 挨拶をしようと思ってな」
 ざわめきを聞きつけて、盾もそこへ行く。6人ほどの男女が、リッカと何か言い合っていた。
 これが欲深い親戚たちか、と盾は思った。あらかじめシャルロッテに聞いていた顔の特徴が一致する。
 リッカは先へ行かせまいとするが、彼らはかまわず行こうとする。
「それ以上は行かせないわよ」
「やかましいッ!」
 先頭の男を残して、他の者は立ち止まった。
 闇に紛れるような黒いマントの中に、物騒な物を隠しているのが分かった。
「大人しく帰ってはいただけないのですね」
 盾はロソギヌス・ジブリーノレを連れて加勢しようとする。相手は5人。おそらく、雇われた用心棒なのだろう。敵意を剥き出しにして、冒険者に狙いを定めていた。

 背後の騒ぎを尻目に、男はずかずかと入り込んでいく。
「こんな時間に人の家に行くもんじゃないって、ママに教わらなかったかい?」
 突然の来訪者を、フォンは軽くからかいながら出迎えた。
「兄の妻が亡くなったのだから、ご挨拶をするのが当然だろう?」
 男は、フォンこそが無礼な珍客とでも言いたげな視線を向ける。
「『兄の妻』? てことはあんたは、カーザの弟と言いたいのか?」
「その通りだ。ここの使用人共に何を吹き込まれたのか知らないが、私は正統なここの管理人だ」
「証拠を見せて頂きたいですね」
 アルカードが言った。偽物ならとっととつまみ出すまでのこと。だが、男は鼻で笑い、懐から何かをとりだした。
「あっ!?」
 自信満々に取りだしたそれは、カーザの印‥‥便箋に押されたそれと、同じ形のある小刀だった。
「見せてください」
 メアがそれを受け取った。
 間違いない、確かにカーザの紋である。
 彼は、正真正銘、カーザの弟なのか?
「嘘です!」
 飛び込んできたのはシャルロッテだった。
「嘘です、ご主人様に兄弟はいらっしゃいません。その小刀は昔、ご友人に何かのお礼に渡したものです」
「黙れ、使用人が。いいか、おまえら。おまえらも愚かでなければ、私とこのメイドと、どっちの話が正しいか分かるだろう?」
 男はにやりと、周囲を見た。
 もう一度よく考えてみるべきだ。執事長とかいう人物ならまだしも、いちメイドがどうして財産の行方を左右するような依頼を出してきたのか。彼女たちこそ卑しく、財産を独り占めするために動いていないと、どうして言い切れるのか?
「ぎゃっ!!」
 憎たらしい男は鼻をひん曲げ、よだれを垂らしながらそこに倒れ込んだ。
「メイドだからと疑いませんし、貴族だからと信用するわけじゃないですよ」
 タイタスは拳を握りしめたまま、男にそう吐き捨てた。
「く‥‥くそったれが‥‥」
 鼻血をぬぐい、男は立ち上がる。
「おい! こいつら共をぶちのめせ!!」
 今、入ってきた扉の方を向き、男は叫ぶ。
「聞こえないのか、おい!!」
「あんたが呼んでいるのは、この人達?」
 5人の用心棒が、リッカと盾に首根っこを捕まれて、ボロ布のように引きずられてきた。ぽいぽいと、それは男の目の前に積み上げられた。
「あ‥‥」
 呆然とする男に、エリアルは言った。
「貴方は本当の弟さんかもしれません。けど、どうして夫人は貴方に指輪を渡さなかったのでしょう?」
「な、な‥‥何のことはない、ゆ、指から、抜けなかった‥‥」
 この期に及んで、男は苦しい言い訳をしようとする。だが、エリアルは首を振る。
「後見人に相応しい方がいたら、夫人はなんとしてでも指輪を外すか、それに変わる遺言をしたためたはずです。それをしなかったのは、夫人の意思。貴方がた親族達の不徳です」
 男は逃げるように、そこからいなくなった。
「皆さん、ありがとうございます!」
 シャルロットは泣いていた。
 夫人を守ってくれたことが嬉しいのではない。
 自分を信じてくれたことが嬉しいのだ。

 外れた指輪と手紙は、夜明けと共に領主の元へ届けられた。
 棺が教会へ着くまでに、まだ厄介な連中が「夫人と対面を!」と挙って棺の中を覗きたがった。しかし、もうそこには何もない。
 葬儀の最初に、領主が高々と指輪を掲げ、夫人の最後の意志を参列者に伝えた。領主は友人の清らかな心を讃え、誰もが素晴らしさを改めて知り、盛大な拍手をした。

 ああ、その時の連中の顔ときたら!