???からの依頼
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■ショートシナリオ
担当:江口梨奈
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 76 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月25日〜02月02日
リプレイ公開日:2005年02月02日
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●オープニング
依頼主の名前がない。
それもそのはずだ。今回の依頼主は、自分の名前を忘れてしまっているのだ。
そもそもの話は、半日前に遡る。
停車場にいた冒険者の一人が、偶然、この依頼主に出会った。まだ幼い顔立ちの、おそらく13、4歳ぐらいの、可愛らしい少女だ。
しかし、身だしなみを気にし始める歳の娘とは思えないほど、髪は短くギザギザに切り乱れて、顔や手足に痛々しい擦り傷がいくつもあった。身につけていた服も垢や泥で汚れており、ところどころ破れているほどだった。
少女は人でごったがえすこの場所を走り、走り、走り、そしてこの冒険者とぶつかった。
「あ‥‥」
少女は狼狽えていた。理由はすぐ分かった。
2人の男に追われていたのだ。
「おっと、その子はこっちのツレなんだ」
男が少女の腕を掴もうとする。だが、明らかに少女は怯えていた。男の表情も不自然だ。冒険者は、これは嘘だと感じ取った。
「どうやら、渡すわけにはいかないみたいだな」
彼はいくつもの冒険を乗り越えてきた男だった。この程度のちんぴらを伸してしまうのは朝飯前である。
「さて、あんたも今のうちに帰りな」
「帰る‥‥」
「そう、帰るんだ」
「どこに‥‥?」
「どこって、おかしなことを。家だよ、家」
「あたしの、家‥‥」
そして少女は言った。
「あたしの、家は、どこ?」
少女は何もかも覚えていなかった。自分の名前も、どうしてここにいるのかも、家がどこなのかも。
「どんな些細なことでもいいよ。誰かの顔とか、覚えてる景色とか」
「景色‥‥そう、丘の上、風があって、オリーブの木がたくさん‥‥綺麗な湖が‥‥」
「オリーブの木と湖か‥‥そういえば、西の方にそんな村があったっけ」
冒険者は、自分がこれまで訪れた何十という村から、それに近い景色のある村の名を挙げた。
「‥‥そう、その村! 聞いたことがある。あたし、その村、知ってる!」
「何だって? 大人の足でも4日はかかる村だぜ? あんた、なんだってそんなところから?」
「なんでって‥‥わからない。わからないわ」
ようやく少女が思い出したのは、西の村のことだけ。
「きっとそこがあたしの家なんだわ。行く道を教えて、そこに行きます」
「待った待った。あんた、誰かに追われているんだろ? それにその傷だ。厄介なことに巻き込まれてるんだと思うぜ?」
よく見れば少女は滑らかな肌で、汚れた服も元は高価そうなものだった。彼女の身には、大変なことが起こっているはずだ。それを一人で放り出すわけにはいかない。
「本当は、俺が付いていってやりたいんだけどな」
彼は、実はこれから別の依頼のために出発するところであった。仲間達も待っている、別行動を取るわけには行かない状態だったのだ。
そこで、この依頼である。
『少女を西の村まで連れて行ってほしい』。
先ほどの冒険者が、いくらか金を置いていった。
少女の旅支度を調えたので少し減ってはいるが、まだ成功報酬として受け取るには十分な額が残っていた。
●リプレイ本文
「何にせよ、名前がないと困るよね」
梁暁黒(ea5575)が言った。長い旅を共にするのに、いつまでも『あなた』『お嬢さん』では可哀想だ。
「安直だけど、あなたの記憶から、『オリーブちゃん』ってどう?」
「うん‥‥嬉しい。思い出した。あたし、オリーブの匂いが大好きだわ」
少女‥‥オリーブは喜んだ。そう、自分はオリーブの木がすぐそばにある環境で暮らしていたのだと確信を持ったのだ。
「名前はそれでいいとして、もっと大事なことがあるよ!」
もっと大事なこと、それは何だ? 皆が一斉に、ユウン・ワルプルギス(ea9420)に注目した。
「ほら、この髪だ。女の子なのに、こんな髪のまま表へは出せないよ」
汚れた服は着替えたが、髪までは元に戻らない。そこでユウンは、オリーブの頭をすっぽり覆ってしまう帽子を取り出した。
「ついでに顔も隠せたら、一石二鳥かと思ってね」
様々なことに用心しなければならない旅だ。これでオリーブは、停車場にいたときと全く違う格好になった。
「お待たせしました。西の村までの地図が出来ましたよ」
グラディ・アトール(ea0640)が戻ってきた。これで旅の準備は全て整った。
「オリーブさん、荷物を貸すがよい。私の驢馬に乗せておくのじゃ」
「いえ、そんな。悪いです」
「何を遠慮しとるんじゃ。一日でも早く家に帰るためじゃ。もっと私らを頼ってくれ」
マルト・ミシェ(ea7511)は恐縮するオリーブから、半ば強引に荷物を降ろさせ、ドンキーにくくりつけた。
「オリーブ、おまえも馬に乗れ」
「えっ、そんな‥‥」
しかし、オリーブに断る隙も与えず、琥龍蒼羅(ea1442)は彼女を抱え上げて馬の背に乗せた。
「皆、あなたのことが心配なんだ。遠慮せずに甘えておけ」
セオフィラス・ディラック(ea7528)がそう言うので、オリーブはそれ以上何も言わず、大人しく馬の背に揺られることにした。
西の村は遠い。旅慣れた冒険者と、馬を使っての道のりだから若干は早く到着するだろうが、それでも夜を3つ越す覚悟はしておかなければならない。
「今夜はここまでにしましょう。オリーブさんも疲れたでしょう?」
ユーリアス・ウィルド(ea4287)がてきぱきと、食事の用意を始めた。
「こっちも手伝ってください」
ティイ・ミタンニ(ea2475)が寝床になるテントを準備していた。全員入れるだけの数はあるが、そのぶん組み立てるのにも時間がかかる。
「わあ、おもしろいですね」
オリーブは野宿などしたこと無いのだろうか、実に興味深そうにティイの動きに見入っていた。
「今まではどんな所で寝てました?」
「お布団と枕‥‥。いえ、固い板の上‥‥?」
少女の顔色が変わった。
ユーリアスがそれを察知し、入れたての茶を持ってきてくれた。
「無理に思い出さなくていいんですよ。さあ、ごはんにしましょう」
そうして最初の夜が来た。
暁黒と蒼羅が、まず見張り番になった。
それから、ティイとユーリアスが。
次にグラディとユウン。
最後にセオフィラスとマルトの番になり、朝になった。
「おはよう。よく眠れたか?」
2回目の出発だ。オリーブは例の帽子を、また深くかぶり直した。
旅は楽しいものだった。歳の近い女性が多いこともあり、オリーブも話が弾んでいた。話をすることで、何か思い出せたりしないかと試してみるが、何となくそう思う、というばかりで、なかなか決定的な記憶は出てこなかった。
と、最後尾にいた暁黒が、何かが迫ってくるのに気が付いた。
「‥‥早馬だ」
「え?」
オリーブは振り返る。そしてみるみる青ざめた。
「逃げて!!」
「え?」
「停車場にいた二人だわ。逃げて、お願い!!」
だが、冒険者達は揃って武器を手にしはじめた。抵抗する気だ。
「あいつらに聞きたいことがあるんでな。どちらか一人でも、捕まえてみせる」
少女のそばにぴたりとくっつき、しかし蒼羅の目は一点を見据えていた。
「兄ちゃんたち、カンチガイしてないか? 俺はその子のツレなんだぜ?」
停車場にいたという冒険者は、彼らのこの言葉を嘘と見抜いたようだが、たしかに眉がぴくぴくと動き、あらかじめ決めておいた台詞を言っているのが丸わかりだった。
「大人しくこの子から手を引け。そうすれば、怪我をしないですむ」
グラディが最後の猶予を与える。男達が一瞬、震えたように見えた。お互い顔を見合わせ、何か相談している。
そして‥‥。
あっという間に向きを変え、逃げだそうとした!
「おっと、逃がしはせんぞ」
マルトの放ったウォールホールは男達の退路に綺麗に穴を開けた。みっともなくそこへ落ち込んだ二人組は、もう大人しかった。
「さて、キリキリ吐いて貰おうか」
暁黒は男の喉元を掴んで揺さぶる。
「あ、あわわ‥‥おいら達は関係ないよ。お嬢をさらったのは、親分達だよ。おいらは、連れ戻せって言われただけだ」
「『さらった』? あなたの親分というのは、この子を誘拐したの?」
激しく首を縦に振る。自分たちではなく、親分が全ての黒幕だと言いたげに。
「親分‥‥そう、あたし、さらわれて‥‥」
少女が何か思い出そうとしている。
二人のちんぴらは途中の村の役人に任せることにして、冒険者達はまた西の村を目指した。
少女は少しずつ記憶が戻ってきた。
自分は確かにさらわれた。馬車の中に押し込められていた。隙を見て逃げ出したけどすぐに見つかった。停車場で助けられたのは幸運だった‥‥。
まもなく、少女の村に到着する。
すると、前方に、身なりの整った男性が立っていた。
「ああ、そこにいるのはコロンだね。どこへいってたんだ、みんな心配してたんだよ」
男は少女を『コロン』と呼び、両手を広げて迎え入れようとした。
「失礼ですが、あなたは?」
ティイが尋ねる。男は堂々と答えた。
「コロンの兄でございます。妹がずっと行方知れずで、捜していたんです」
帽子を取り、礼儀正しく流暢に男は喋る。ああ、これは本当にオリーブ‥‥いや、コロンの家族かと、誰もがそう思ったときだ。
「この男です!!」
コロンが指さした。
「この男が、あたしをさらったんです!!」
「チッ」
男は舌打ちをするが早いか、隠し持っていたダーツを馬に投げた。激痛を感じた馬は後ろ足で立ち、コロンを振り落とす。
「しっかりして!」
どこか怪我をしたのか? ユーリアスは急いで手当にかかる。コロンを庇うようにしゃがむユーリアスの背中を次の針が狙っていた。
「それ以上はさせないよ!」
ユウンはサイコキネシスで浮かび上がらせていた石飛礫を、二投目を構えていた男の手にぶつけた。それは命中し、ダーツを地面に落とさせる。
それからは早かった。一斉に男を取り囲み、ダーツを拾おうとする手を踏みつけ、完全に動けなくさせたのだ。
「か弱い女性に狼藉を働くような輩に手加減をするつもりはない。覚悟は出来ているな?」
セオフィラスの口調は、どこまでも冷たかった。
湖だ。岸にはずっとオリーブが。何処を見てもオリーブ、オリーブ。花はないのに、さわやかな匂いが満ちていた。
一行はようやく、そこに辿り着いた。
「コロンお嬢様!」
通りがかりの女性が、驚いた声を上げた。
「お嬢様!」
「コロンお嬢様、よくぞご無事で!」
すると至る所からぞくぞくと人が集まり、少女を抱きしめては涙を流し始めたではないか。
「お屋敷にお嬢様の髪の毛が送りつけられたときは、もうダメだと思ってましたよ」
「よく生きて帰ってきてくれました。旦那様も奥様もお喜びでしょう!」
「こちらの方達は?」
そこでようやく、コロンは彼らを皆に紹介することが出来た。
自分を助け、ここまで連れ帰ってきてくれた勇気ある冒険者達のことを。