神の力を持つ人形師からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月01日〜02月06日

リプレイ公開日:2005年02月09日

●オープニング

 実は、この依頼が出されるのは2度目である。最初は失敗した。いや、取りかかる前に、依頼主のレオンが冒険者達を追い返してしまったのだった。
 これは、その冒険者達から聞いた話である。

 依頼の内容は、今回と同じ。『娘のジゼルを魔の手から護ってくれ』。
 護衛なら冒険者のお手の物、そう思って彼らはレオンの家に行った。
 そして、紹介された『ジゼル』とは。
 なんと奇跡の力を授かったレオンが、その手で作り上げた人形であり、生きた少女なのだ!!
 ‥‥と、言っているのはレオン本人だけ。
 誰がどう見ても、ジゼルは板を組み合わせただけの人形、というより箱の固まりだった。足下に車輪を付けており、前後に動く。ジゼルが動くたびにレオンは嬉しそうな顔をする。
 しかし、レオンはふざけているわけではない。本当に、そう思っているのだ。
「わしはまるで神になったようだ。この手で、生きた人間を造り出すとは! ああ、恐ろしい。わしの力と、この奇跡の娘は狙われているのだ!」
 こんなものを誰が狙う? どこに神の力がある? まあ、約束の日数だけ、ジゼル嬢をお守りすればよいのだろう、と、冒険者達は一旦準備のために退席した。
 そして家を出ると。
 レオンの妹だというマーサが外で待っており、帰ろうとする彼らを呼び止めた。
「みなさん、ごめんなさい。兄はついこないだ、本当の娘のジゼルを亡くしてから、おかしくなってしまったの」
 レオンは娘の死を受け入れられずもがいているのだ。聞けば哀れな話である。
「兄の心は時間が癒してくれるのを待とうと思います。ですので皆さん、少しの間でいいので、兄の話につきあってやってくださ‥‥」
 マーサがそこまで言いかけたとき、突然家の扉が開き、レオンが飛び出してきた。
「おまえら、何をこそこそと話している? さてはマーサ、おまえもジゼルを狙っているのか?」
「何言ってるの、お兄さん、誤解‥‥」
「貴様らもマーサの手の者だったのか!! 帰れ、帰れ! 二度と来るな!」

 こうした事情で、最初の依頼は失敗したのだ。
 レオンはまた、依頼を出した。
 『娘のジゼルを魔の手から護ってくれ』。

●今回の参加者

 ea0277 ユニ・マリンブルー(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0504 フォン・クレイドル(34歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0729 オルテンシア・ロペス(35歳・♀・ジプシー・人間・イスパニア王国)
 ea1252 ガッポ・リカセーグ(49歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3542 サリュ・エーシア(23歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8769 ユラ・ティアナ(31歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9867 エリアル・ホワイト(22歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「ども。ギルドから派遣されてきました、ユニです。よろしく」
 ユニ・マリンブルー(ea0277)がまずは元気よく、依頼主とその令嬢に挨拶をした。
「‥‥よろしく」
 対照的にユラ・ティアナ(ea8769)は、はっきりと顔も見せずに短く挨拶をして、すぐに後ろに下がってしまった。依頼主に対して失礼な態度と取られかねないが、ハーフエルフであるユラにとっては、それよりもレオン達に不信感を与えないようにする方が大事なのだ。
「はじめまして。よろしくおねがいしますね」
「これはお近づきの印です。お受け取り下さい」
 続けてサリュ・エーシア(ea3542)とエリアル・ホワイト(ea9867)が名乗り出て、エリアルは更にネックレスをプレゼントした。
「ピュアリファイで清めました。ジゼルさんのお守りになれば、と思いまして‥‥レオンさん」
「なんだ?」
「お父様の手で、ジゼルさんの首にかけてあげて下さい」
「ほほう、本格的だな」
 レオンは喜んだ。そして言われたとおり、ジゼルの首にかけてやる。ささくれだらけの箱の塊に、1カ所だけキラキラ光る部分が出来た。それレオンは満足そうに頷いていた。
「では、さっそくだが、いろいろ聞かせて頂きたい」
 一通りの挨拶が終わると、ガッポ・リカセーグ(ea1252)はそれまでの和やかな表情をがらりと変えて、レオンに言った。
「あなたのその力を狙うのは誰なのか? あなたがジゼルさんを産み出した時のことと、それ以降になにか危険な目に遭っていれば、その時のことを」
「おお、そうだ。ジゼルが産まれたのは、ひと月前のことで‥‥」
 レオンが熱心に語り始めた。それは支離滅裂で、大げさなばかりの話であったが、ガッポは丁寧に相槌を打ちながら、レオンの言葉に耳を傾けていた。

「狙うのは、奇跡の娘・ジゼル!」
「奇跡の娘・ジゼル!」
「邪魔するヤツは皆殺し!」
「皆殺し!」
「明日からあたいらは大金持ち!」
「大金持ち!」
 ここに悪巧みを図っている女達がいた。グレートマスカレードやベールで顔を隠し、体はすっぽりとマントでくるみ、その隙間から覗く右手で握られた鞭は、始終振り回されている。いかにも危なそうな連中だ。
「あたいらは『女悪党3人組』!」
「女悪党3人組!」
「寄るな触るなヤケドするぜ!」
「‥‥フォン、ノリノリね‥‥」
 そろそろ唱和もいいだろう、本題に入らないかとオルテンシア・ロペス(ea0729)が冷静になった。
「これは作戦のための、お芝居だよな?」
 クリムゾン・コスタクルス(ea3075)までがそれを確認する。それほどまでにフォン・クレイドル(ea0504)は楽しそうだったのだ。
「いやいや、こういうのは気持ちから入らないとな。気持ちから」
「もう十分入ってると思うわ」
「思うね」
「‥‥まあともかくだ! 決行は今夜! ジゼル嬢を頂きに行くぜ!」
「おーー!!」

 冒険者達は暖かな家の中で、美味しい食事を摂りながら談笑していた。テーブルにはもちろん、ジゼルもついている。彼女の前には料理がきちんと置かれている。
「どうした、食欲がないのか? 一口だけでも飲みな」
 スープに手も付けないジゼルを心配して、レオンは匙ですくったそれを彼女の口元へ持っていく。もちろん、飲み込めるはずはなく、ぼたぼたとスープは床に落ちた。
「命を狙われているんだ、食欲もないだろう」
 ガッポがそう言うと、レオンも納得してそれ以上は勧めなかった。
「心配いらないよ。いまから交代で外を見回るからね」
 さっさと食事を済ませたユラは、まだ皆が食べ終わっていないのに自分のぶんの食器を下げ、表へ出て行った。
「なんだ、あのユラとかいう娘は、無愛想だな」
「ジゼルさんの前だから、照れてるんじゃないかな?」
「そうか?」
「そうだよ、きっと。だってジゼルさん、可愛いもん。そのネックレスだって似合うしね」
 ユニは視線をずっとジゼルの方に向けたまま、彼女と会話を続けていた。返事のない一方的な会話を。
「そうだわ。ジゼルさん、食欲がないなら、お茶を入れましょうか? 皆さんも、食後のお茶ということで」
 そう言ってサリュは立ち上がると、人数分の茶の準備にかかった。見張りは交代ということになっているのだから、今の彼らには時間がある。もちろん、その見張りは形だけのもの。むしろ本当の目的は、警備をしていない時にこんなふうに、レオンとの心の距離を近づけることにあったのだ。

 屋敷に近づく影があった。
 月を背に、マントをなびかせて、3つの影がそこにあった。
(「ああ、来たな‥‥」)
 ユラが気が付いた。けれど、家の中の誰にも教えなかった。
 予定通りだ。
 女悪党3人組が、時間ぴったりに現れたのだ。
「‥‥突撃ーー!!」
 フォンの合図でクリムゾンがドアを乱暴に蹴破った。
「うわっ、なんだ?」
「何事だ?」
 闖入者に皆は騒然となった。フォンはかまわず鞭を鳴らしながら、ずんずん中へと入っていく。
「レオン、おまえの娘を頂いて、身代金を貰いに来たぞ!」
「な、なんだとーー!!」
 と、いつの間にやら別の侵入口から入り込んでいたオルテンシアが、ジゼルを背中から捕まえた。
「道を開けろ」
 オルテンシアはジゼルの喉元にナイフを押しつけ、護衛の冒険者達を脅す。
「ああ、ジゼル!!」
 顔をかきむしりながら絶叫するレオン。
「さあ早く。ジゼルの命が惜しくないのか?」
「あんたらが大人しくしてたら、悪いようにはしねぇよ」
 クリムゾンもねちっこい笑みを浮かべて、大げさに拳をバキバキと派手に鳴らして、ジゼルの腕を掴む。
「わはははは。ではサラバだ!」
「待てぇい!!」
 その時、悪党の前に、我らが冒険者が立ちはだかった。
「ジゼル嬢をお守りするのが俺らの使命だ。おまえらの好きにはさせん!」
 負けじとホイップを取りだしたガッポ。
「私利私欲のためにさらうなんて許せない! 僕たちがみっちり懲らしめてあげるよ」
 指の間にダーツの針を光らせるユニ。
「レオンさんとジゼルさんを引き離すわけにはいきません」
 エリアルもレオンを庇うように立ち、悪党共をキッと睨む。
 その緊張した空気を裂くように、物陰にいたユラの放った矢がフォンの顔をかすめる。
 これをきっかけにして、冒険者達は一気に悪党どもに飛びかかった。派手に音を立て声を上げ、埃を巻き上げて、激しい戦いが続いた。
「うわあっ」
 クリムゾンが悲鳴を上げて、尻餅を付いた。
 サリュの放ったコアギュレイトに絡め取られてしまったのだ。
 続けざまに、全員でオルテンシアに飛びかかる。こうしてあっさりと二人が捕まってしまった。
「姉御、助けてー」
「うう、しまった。娘にこれほどの護衛がついていたとは」
「あとはおまえだけだ」
「くっ。これ以上、娘を狙うと我が身が危ない。手を出さない方が得策か‥‥さらばだ!」
 フォンは、二人を置き去りに消えてしまった。
「ああ、姉御! なんて冷たいんだ! もうあんたの口車になんか乗るもんか」
 残されたクリムゾンが仲間割れを強調する悪態をいつまでも続けていた。

「ジゼル、ジゼル! 怪我はないか!?」
 娘の無事を、レオンは泣いて喜んだ。しかし、すぐに捕まえた二人の方を向いた。
「き、き、きさまら、ジゼルになんというこを」
 レオンはあまりに興奮しすぎて、舌が回っていなかった。顔は真っ赤で、歯がガチガチ震えている。
「‥‥あたしにも」
 オルテンシアが口を開く。
「あたしにも、娘がいたの。そして死んでしまったわ。ジゼルの秘密を知れば、生き返るかもしれないと思って‥‥」
 それを聞いたレオンは、みるみる大人しくなった。
「‥‥そうか。でも‥‥このとおりだ。ジゼルは生き返ったんじゃない。違う体になったんだ」
「その子は、あんたの娘じゃないの?」
「何を言う、娘だ。‥‥いや、ジゼルじゃない。‥‥いや‥‥」
 レオンは何かを確認するかのように、ぶつぶつと同じことを繰り返し始めた。これは人形である、ジゼルである、ジゼルの生まれ変わりである、ジゼルという名を与えられた人形である‥‥。
「なあ、もうあたい達、ジゼルに何も悪いことしないよ。だからそろそろ自由にしてよ」
 クリムゾンが叫んだので、レオンははっと我に返る。気がつけば、皆がいっせいにレオンを見ていた。どう返事をすればいいのか迷っていると。
「ねえ、レオンさん。許してあげましょう。もうこの人達はジゼルさんに危害を与えることはないでしょうから」
 エリアルが言った。その意見に、レオンは反対しなかった。

 約束の期間が終わり、彼らは報酬を受け取ってレオン達と別れた。
「‥‥これで良かったのかな」
「あの‥‥」
 家からだいぶ離れたところで、彼らに声をかける女性がいた。妹のマーサだ。
「みなさん、お疲れ様でした」
 前回のことがあったので、家に近寄ることもできなかったのだ。
「兄の様子は、どうでした?」
「納得してくれたとは思うんですけど‥‥」
 ジゼルを狙う悪党がいた、それは撃退され、レオン自身が彼女たちを許した。彼の中でこの事件は終わっただろう。居もしない『魔の手』に怯えることはない、そう信じたい。
「それに、少しずつ、前に進んでいるみたいですよ」
 レオンも混乱しているのだ。目の前に確かにある『ジゼル』について。
「マーサさんも言いましたよね、時がいずれ癒してくれると」
 焦らなくてよい。彼自身にも立ち直る力はあるはずだ。こうして心配してくれている妹までいる。彼は孤独ではない。
「困ったことがあったら、いつでも呼んで下さい。あの二人のために、あなたのために、あたしたちはいつでも来ますから」