ハルト嬢からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:2〜6lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月15日〜02月20日

リプレイ公開日:2005年02月23日

●オープニング

 キースとハルトは幼なじみで、年頃には恋仲になっていた。けれどキースは半年に1回しか村に帰ってこない。彼は銀細工師になるため、親方の元で修行しているのだ。
 半年ぶりの逢瀬である。けれど、二人は森の奥深く、人目のない場所でこっそりと会っていた。それは何故か。親方が厳しい人で、「一人前になるまで色恋はもってのほか」と常々言っているのである。なのでいくら公認とはいえ、村で堂々と会うわけにもいかず、こうした場所を選ばざるをえないのだった。
「久しぶりだね、ハルト」
「元気だった? 修行はうまくいってる?」
「そうそう。こんなものを作ったんだ」
 といってキースは何かを取りだした。それは銀のティアラだった。
「まあ、綺麗な冠。これは?」
「初めて土台から飾りまで一人でやらせてくれたものなんだ」
 キースの修行の成果だ。彼はそれをハルトの頭に載せた。
「ああ、やっぱりブカブカだな。もっと頑張って、ハルトの頭にぴったりの大きさのを作るよ」
 まだまだ未熟な作品である。けれど、ハルトにはそんなことは関係なかった。恋人が彼の初めての作品を自分にくれたことが、とても嬉しかった。
「ふふ。ねえ、似合う? 似合う?」
 ティアラを載せたまま、ハルトはくるくると回っては自分の姿をキースに見せる。
 だが、ハルトははしゃぎすぎていた。
「あっ!!」
 頭からすっぽりとティアラが抜け落ち、それはすぐ隣にあった沼の中に落ちてしまった。
「ああ、たいへん!!」
 すぐにそれを拾おうと、ハルトは沼に手を伸ばした。
「ダメだ、危ないっ!」
 急いでキースが止めた。水面に黒い大きなものが見えたからだ。
「沼の主がいる。あれに触ったら痺れて怪我をするよ」
 この沼には大きなウナギが住んでおり、それは近づくものを痺れさせる危険な存在なのだ。
「でも‥‥、冠があそこに‥‥」
 なんと大切なティアラは、ウナギの首と鰭の間に、きっちりとはまりこんでいたのだった。

 キースは、もっと上手なのを作ると言って、短い休暇を終えた。
 ハルトは諦めきれなかった。愛する恋人からの贈り物を、どうして諦められようか。
「そうよ。冒険者なら、あのウナギを捕まえられるかも‥‥」

●今回の参加者

 ea0322 威吹 神狩(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea0323 アレス・バイブル(30歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea0999 サリエル・ュリウス(24歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5529 レティシア・プラム(21歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea5810 アリッサ・クーパー(33歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea9285 ミュール・マードリック(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

マナウス・ドラッケン(ea0021)/ ガロ・ハンラム(ea7183

●リプレイ本文

 ハルト嬢を助けに行こう。
 依頼を受けた冒険者達は、ハルトの待つ村へ行く前に、買い物に精を出していた。
「ミルクは売っておるか? おお、ちょうどいい量だ」
 目的のものが見つかって、上機嫌のレティシア・プラム(ea5529)。
「あら。ミルクに、野菜に、粉? レティシアさん、道中の食事の用意ですか?」
 何に使う食材だろうかと、ユリアル・カートライト(ea1249)が尋ねた。しかし彼女はふふんと意味ありげに笑うだけで、答えてはくれない。
「さあて、何が出来るかは、秘密だ。もっとも、メインとなる材料は買ってはいないのだがな」
「それは楽しみですね」
 だいたい想像がついたのか、アレス・バイブル(ea0323)が目を細めた。
「その『メインの食材』とやらが手に入ることを祈るぞ」
 サリエル・ュリウス(ea0999)は買った荷物を、マナウス・ドラッケンから貰ったドンキーにくくりつけながら言う。獲ってもいない狸の皮を売る計算をしても、獲らなければ金にはならない。獲ってもいない食材を捌く予定を立てても、獲らなければ腹はふくれないのだ。
 目的のものを買いそろえた一行は、ガロ・ハンラムに見送られながら、ハルトの元へ向かった。

「ああ、お待ちしてました。ありがとうございますううう」
 ハルトは泣きながら、冒険者達を出迎えた。
「本当に、本当に来てくれたんですね。お礼はいくらでもしますから、大事な冠を‥‥」
「泣かないでくださいな、ハルトさん。お品は必ず取り戻してみせますので、ご安心下さい」
 アリッサ・クーパー(ea5810)が優しく微笑みながらなだめてやる。
「恋人がくれたんでしょう? ‥‥代わりなんて無いわよね。‥‥精一杯やりますから」
 威吹神狩(ea0322)も慰めてやる。やはり年齢の近い女性達はハルトの気持ちをよく分かってくれている。恋人が最初にくれたプレゼント。女にとってこれ以上に大切なものがあるだろうか?
「皆さん、お優しいんですね」
「それほどでも。それより、荷物を置かせていただけませんか?」
 挨拶を終えてアリッサは、さっさと本題に取りかかろうとする。道中に必要だった道具を下ろして、沼へ向かうための道具に持ちかえる。彼女の変わり身の早さに困惑しながらも、ハルトは急いで片づけを手伝った。
「沼まで案内をしてもらえるか? 主の顔も拝みたいからな」
「そうそう。イギリスでこんな珍味に出会えることも‥‥いや、何でもない」
 ミュール・マードリック(ea9285)と双海一刃(ea3947)がそう頼むと、ハルトはまるでウサギのように飛び跳ねて、鼻息も荒く沼へ皆を連れて行った。
「主はあそこよ! ああ、憎たらしい。影はこんなにくっきり見えるのに、触れもしないなんて!」
 沼は村から外れた、人目を忍ぶ逢瀬に、なるほど都合のよい場所にあった。沼の周りに特に行動を遮るものもなく、数分でぐるりと一周出来てしまう。そのどの方角からも、沼の真ん中で蠢いている大きな、黒い影を確認できる。かなり長い。藻や泥で濁って粘度すら感じさせられる水中を、のったり、のったり泳いでいた。
「それでも、沼はあまり小さくはないな」
 一刃が言う。水の中を自由に動き回られたのでは、たった8人で追い込むのはやっかいだ。
 そこで考え出されたのが、罠の設置である。
 枝のついたままの木をかき集めてきて、それをひと束にまとめる。根元の縛りをゆるめて漏斗のように大きくひろげ、そこをウナギの入り口とした。こうすることによってそこに入り込んだウナギは、徐々に狭くなる枝の網に遮られて引き返せなくなる、という仕組みだ。
 口で言うのは簡単だが、作るとなると難しい。生来の器用さを頼りに、何度も作り直した後、ようやく出来上がった。
「‥‥何か、私の手伝える部分が無かったぞ。ムカツクぞっ」
 もっと役に立ちたかったと言いたげに、サリエルは頬を膨らます。
「そんなあなたに、重要な役目がありますよ」
 と、アレスは言った。それはいったい何だろう?
 そしてサリエルは、出来上がった罠を抱えて、ウナギに気付かれないよう、ざぶざぶと冷たい沼の中に入っていった。
「罠は設置しないと罠じゃありませんからね。サリエルさん、あなたの腕にかかってますよ」
 岸で見送るアレス。そして同時にこんなことも呟いていた。
「私が汚れるのは嫌ですしね」
「‥‥あなたね‥‥」
 ああ、この男は本当に神聖騎士なのだろうかと、呟きを聞いた神狩は頭を押さえていた。

 罠は固定され、あとはそこにウナギを追い込むだけであるのだが‥‥。
「皆に幸運を」
 グットラックをかけてくれるレティシア。
「では、頑張ってくれ」
 ひらひらと手を振り、見送ってしまった。見物をきめこむつもりか。
 いやいや、そうではない。レティシアは用意していた野菜の皮をむき、ハルトの家から借りてきた鍋に放り込みはじめたのだ。

 ウナギは相変わらず、ゆうゆうと泳いでいる。周りに人が増えたことを気にもとめていないようだし、罠の存在すら気付いていない。
「まずは、こんな感じで‥‥」
 一刃が石を放ってみた。大きな水しぶきがあがるが、ウナギはついと避けただけだ。
「やはり直接追い込んだ方がよいか?」
 ミュールはウナギの雷電を警戒して、金属のものを外して皮の鎧に着替えた。あとは彼自身の体力勝負である。
「私もご一緒します」
 そう言ってユリアルは、全身をストーンアーマーで覆い、一緒に沼に入る。
「それでも雷電は怖いですからね、早く片付けましょう」
 水面を木ぎれで激しく打ち付け、音を立てながら進む。
 敵の接近。
 ウナギは逃げるどころか、ついに雷を放った。
「うッ‥‥」
 思った以上の衝撃に、ミュールは気を失いそうになる。
「しっかり! あなたなら大丈夫よ」
 ユリアルは雷に耐え、動きを止めることなくウナギに向かっていく。『敵』が自慢の雷電でもびくともしないと悟ったのか、ウナギは二人から逃げるように泳ぎだした。
「そっちじゃない、こっち」
「こっちだ、もっとこっちに」
「そう、そこ。そこに入って‥‥」
 ついにウナギは、罠の中に入り込んだ。

 動きを封じられたウナギを、今度は全員掛かりで岸に引き揚げる。陸にあげてしまえばウナギの雷電は届かない。首にあるティアラは、簡単に外れた。
「まあ、無事に戻ってきて何よりだ」
 丁寧に汚れを落としながら、レティシアは祈りの言葉を吹き込んでいく。若い恋人達に幸あれと。この冠を大切に思う気持ちを、いつまでも持ち続けられるようにと。
「‥‥で、このウナギは‥‥」
 どうするのか、と神狩が尋ねる前に。
 アレスがどこから取りだしたのかエプロンを着け、刀でウナギを捌いているではないか。
「神狩さ〜ん。今晩のおかずはなにがいいですか〜?」
「た‥‥食べるの? ‥‥食べられるの?」
 などと疑問を持っているのは神狩ただ一人。他のものは皆、食べる気まんまんだった。
「身はこっちにたっぷりとー。野菜が煮えてますよー」
「塩はないか? こっちで焼くぞ」
「ジャパンの調味料があればもっと濃厚なタレが作れるんですけどね」
「骨も捨てるな。炙るといい味になるぞ」
「それは私の分だぞ。取るなよっ。テメェ喰っちまうぞ」
「冷えた体には有り難いです」
「どうしたんです、神狩さん。食べないんですか?」
 お玉片手に嬉しそうに皿を勧めるアレスを見て、神狩はただただ苦悩するだけであった。
 ごちそうさまでした。