イレイオ氏からの依頼
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■ショートシナリオ
担当:江口梨奈
対応レベル:4〜8lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 40 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月23日〜02月28日
リプレイ公開日:2005年03月02日
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●オープニング
ゴドラという男がいた。蒐集家だというが、集めるものに一貫性はなく、唯一の共通点はよその貴族に高く売れるもの、ということだ。そのような得体の知れない商売をしていても金は貯まるもので、ゴドラはイギリスの至る所に自分の屋敷を構え、年に何度もそこを行き来している。
そして彼は、大変な好色家としても名が知られていた。
その全ての屋敷に、何人も女を囲っていたのだ。
節操のない男であったが、ここにだけ、拘るべき条件を持っていた。
囲う女は、全てハーフエルフだったのだ。
「忌まわしい女を好むなんて、やっぱりあの男は変態だよ」
人々の噂は決して良くはなかった。それだから、まともな者は彼の屋敷には近づこうともしなかった。
その屋敷の一つがあるこの村にゴドラが戻ってきて、しばらく経ってからのことだ。
イレイオの恋人であるヒューレットの姿が消えた。
春になったら一緒に暮らそうと約束していた、彼と同じハーフエルフの娘だ。その彼女が、いなくなった。
「まさか‥‥まさか!」
イレイオは不安になった。人気のない森を駆け、趣味の悪い屋敷を目指した。
塀を乗り越え、辺りを見回す。
と、その窓際に、見慣れた横顔があったのだ。
「ヒュー!!」
「‥‥イレイオ?」
窓が開き、娘が身を乗り出した。が、すぐに引っ込んでしまった。
「捕まったのか? 逃げよう、ヒュー」
「‥‥ごめんなさい、イレイオ」
「どうしたんだ!」
呼びかけてもヒューレットは首を振るばかりだった。そして最後にこう言って、窓を閉めてしまった。
「早く逃げて。凶暴な犬を放し飼いにしているの。あなたが危ないわ」
その言葉通り、まもなく、数匹の犬がよだれを垂らしながら侵入者を目掛けて走ってきた。イレイオはもう、そこを離れるしかなかった。
「ヒュー。君にいったい、何があったんだ‥‥?」
ヒューレットは、あの屋敷から逃げるに逃げられない状況にあるに違いない。なんとかして、救いださなければ。
イレイオは協力者を募った。
あの好色家から、大切なヒューを守るために。
●リプレイ本文
陽が落ちて。
ユリアル・カートライト(ea1249)とクリムゾン・コスタクルス(ea3075)は並んで、びかびかの金飾りで覆われた屋敷の扉をノックしていた。
「どなた?」
女性が応対に出た。髪の間からちらりと見える耳で、彼女がハーフエルフだと分かった。ヒューレットではない。
「ゴドラさんがお戻りになったそうですね? ぜひ、ご自慢の蒐集品を見せて頂きたいのですが」
「あたいの愛馬に似合う飾りが欲しいんだ。普通のものじゃ満足できなくてね」
ユリアルとクリムゾンは努めて平静に、女性にそう言った。しかし、彼女は訝しげな表情で、聞き返す。
「どなたのご紹介かしら?」
「えっ‥‥」
言葉に詰まる。もちろん、誰の紹介も無い。
「確かなお支払いが出来る方でなければ、何もお売りできませんよ」
ゴドラは金持ちだけを相手にしている商売人だった。クリムゾン達のような若い娘が突然現れて会ってくれと言っても、そこに金の匂いは感じられない。それを知っている女は、さっさと扉を閉めてしまった。
「ちくしょう、噂通りの強突張りだぜ」
悔しそうにクリムゾンは地団駄を踏んだ。
ところで、その噂とは。
昼間のうちに森里霧子(ea2889)とチカ・ニシムラ(ea1128)、それにユニ・マリンブルー(ea0277)が、村を回って聞き込んできたものだ。
「ゴドラのすけべ親父のことか? ああ、ろくなことやってないってよ」
「そこへ行く客も客だ。汚い金を貯めこんで、それを隠すためにゴドラの品に変えておくような連中ばかりらしい」
「金持ちの娘を女房に持っていたらしいけどな、その親が何かで財産をなくしたと知ったら、さっさと別れたってよ」
「それであとはあんな女ばっかりかき集めてるんだよ。気持ち悪いったらありゃしない」
良い話は皆無だ。むしろ、ここまで聞けただけでも有難い。ほとんどの者は、ゴドラの名前を聞いただけで不快そうに口をつぐんでしまうからだ。
「でも、なんでハーフエルフのおねえちゃんばっかり何だろうね」
チカが当然の疑問を口にする。綺麗な女、金を持っている女、夜の相手が上手い女、そう言った条件ではなく『ハーフエルフ』なのだ。
「さあね。変態の考えることは分からないよ」
村人は肩をすくめ、頭を振った。
彼の言うように、ゴドラはただ一言、『変態』と表現されている。霧子はそれを聞いて思った。
「好きになった女がたまたまハーフエルフというならそれは普通だ。ハーフエルフばかりを集めてハーレムにするから変態扱いになるのだ」
種族がなにであれ、特定の条件だけで女を集めれば、周りから変態と言われてしまうだろう。たとえば幼女ばかりとか、老女ばかりとか、金髪女ばかりとか。
それは単なる趣味なのか?
霧子は、さらに深く考える。
「もしや、同じ変態のためにハーフエルフ女を斡旋する闇市場があるのか!?」
「そ‥‥それだとヒューレットさんは何とか逃げだそうとすると思うんだけど‥‥」
客を追い返して扉の鍵をかけ直す女、彼女を呼び止める声があった。
「誰か来てたのか?」
ゴドラだった。脂肪だらけの顎を揺らして、そんな短い会話をするのにも汗をかいている。
「ご主人様の宝を見せてくれ、なんて言ってましたけどね」
「図々しい連中だ」
ゴドラは分厚い唇を顔一杯に広げて笑った。
と、その時。窓の外で犬の鳴き声がした。
「こそ泥か」
「さっきの二人でしょうか?」
(「しーっ。静かに」)
チチチ、と舌を鳴らしながらアウル・ファングオル(ea4465)は犬をなだめようとする。その手にはエサの生肉があった。
(「獰猛なのは、単にお腹が空いているだけかもしれませんしね」)
などとアウルは考えていたが、それは甘かった。エサにつられるような番犬では番犬と呼べないのだ。
(「う〜ん。手荒なことはしたくなかったんですけどね」)
困ったアウルの手には木ぎれが握られていた。今まさにそれが犬の脳天目掛けて振り下ろされようと‥‥。
(「ここは大人しく寝ていて貰いましょう」)
ケンイチ・ヤマモト(ea0760)がスリープをかけた。犬はぐっすりすやすや。
(でも犬は一匹じゃありませんよ!」)
ジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)は、建物の向こうから犬が数匹近づいてくるのに気付いた。
(「みんな、風上に行け」)
霧子に促されて場所を移すと同時に、彼女の体から香り立つ煙が湧き出た。集まった犬は次々と甘いまどろみに埋もれてしまった。
あとはアウルが用意していたロープで、犬の手足を縛り上げれば一丁上がり。見上げればそこは、イレイオがヒューレットを見つけた窓の下。
(「ヒュー。‥‥待っていてくれ、もうすぐだ」)
窓の向こうにいるだろう恋人を思って、イレイオは涙を流した。
犬の鳴き声がすぐにすぐに止んだので、ゴドラはそれ以上気にしなかった。
「わしはもう寝るぞ」
「おやすみなさいませ」
まずはジョセフィーヌが、窓に手をかけた。鍵はかかっていない。半分ほど開けて中を覗くと、3・4人のハーフエルフ娘がいた。
「だれ?」
一人が気付いた。
「ねえ、犬に追われているんだ。かくまって」
大胆にもジョセフィーヌは、そう言って窓から全身を入れた。
「ひっ、泥棒‥‥」
娘が声を上げようとするのを、いそいで口を押さえる。
「お願い、ね、すぐに出て行くからさ」
怪しいのは承知の上だ。にこやかに友好的に、敵意はないことを強調してジョセフィーヌはそこに居続けた。
一拍の呼吸を置いて、ジョセフィーヌは本題に取りかかる。
「勘違いしないでよ。私は泥棒じゃない。ひと組の恋人達の運命を救いに来たんだ」
「‥‥はあ」
雰囲気が落ち着いたのを確認して、ジョセフィーヌは窓の下にいる仲間達を呼んだ。
「こんばんは。おじゃまします」
何人かの冒険者が、窓をよじ登ってくる。
イレイオと、彼を守るための数人が庭に残っていた。
「みんな、ゴドラに連れてこられたハーフエルフさんだよね」
確認するように、ユニが聞く。娘達は頷いた。
「皆さんはどうしてここにいるのですか? まさか脅されているのですか?」
ケンイチが聞く。しかし、全員が首を振った。
「ゴドラは脅したりしない、と? 噂みたいな悪い人じゃないってことなんだね」
もう一度、ユニが聞く。すると今度は、困ったように眉をひそめた。
「ゴドラさんは、どんな人なの?」
「どんな、って‥‥たぶん、噂通りの人よ。意地汚くて、大食らいで、悪趣味で‥‥」
「え? じゃあ、なんで‥‥?」
訳が分からない。彼女たちは、なぜここに留まるのか‥‥。
そしてユニは、クリムゾンが言っていたことを思いだした。
「もしかしたらさ、ゴドラってのはハーフエルフを助けてやろうとしているのかもよ?」
クリムゾンが言った。
「聞けばこの村だって、ハーフエルフにいい顔はしてないみたいじゃねーか。住みづらい村だとおもうぜ。それを助けてやっている、ってことじゃねぇのかな」
「イレイオさんだってハーフエルフですよ。なのになぜ、女性だけを?」
「そりゃあ、やっぱり女の方が弱いからじゃないのか?」
「もしそうだとしたら‥‥」
ユリアルは複雑な顔をする。
「ハーフエルフの女性を力なき者と扱うなら、それはそれで彼女たちの尊厳を奪っています。忌み嫌う村の人たちと、やっていることは同じですよ」
「まあつまり、彼女たちが囲われ者になっているって今の状況は不自然ってことだよな。なんとか解放してやろうぜ」
クリムゾンの推測が正しいとしたら。
ここは彼女たちにとって居心地の良い場所。
しかし、ヒューレット。
ヒューレット、彼女には、もっとふさわしい場所があるはずだ。
「ヒューレットお姉ちゃんって、どの人?」
チカが尋ねた。後ろの方にいた髪の長い女性が、自分だ、と言った。
「イレイオお兄ちゃんが心配しているよ。一緒にここから離れよう」
「い‥‥」
言いにくそうに、ヒューレットは言った。
「いやよ」
そしてヒューレットを味方するように、他の娘達が口を開いた。
「ここはいい所よ。何もしなくても食べて飾れて楽しく過ごせるんですもの」
「月に一度、あの人の晩酌にでもつきあえば、この生活がずっと続くのよ」
「毎日畑で泥にまみれる生活なんていやよ。ここは水くみも薪割りもしなくていいんだから」
ヒューレットも同じ意見だ。
暮らしにくい村の中で、たいして贅沢もさせてくれそうにないイレイオ。
ヒューレットはそれまでの暮らしを捨てた。
新しい生活をとったのだ。
なんて薄情な女だろう! だが、チカは静かにこう言った。
「‥‥残るのなら、あたしは何も言わないよ。あたしがどうこう言う事じゃないと思うし‥‥」
「冗談じゃないよ!」
反発したのはジョセフィーヌだ。
「あなたを連れて帰るのが依頼なんだから。力づくでも来て貰うよ!」
ナイフを取りだし、半ば強引にジョセフィーヌはヒューレットの腕を掴んだ。そして来たときと同様、窓から出て行き、その外で待っているだろう、何も知らない男の元へ連れて帰った。
「ヒュー! 無事で良かった。一緒に帰ろう」
愛する恋人を抱きしめるイレイオ。
なのに女の腕は、だらりと下に垂らされたままだった。
「‥‥渡せませんでしたね」
アウルは、掌の中にスターサンドボトルを握っていた。
恋人同士のために、幸運を願ってこれを二つ渡すつもりだったのだが。