オニックス氏からの依頼
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■ショートシナリオ
担当:江口梨奈
対応レベル:5〜9lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月01日〜03月06日
リプレイ公開日:2005年03月09日
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●オープニング
彼女たち『四四十六』は異国生まれの、おそらくジャパンから来た4人の芸人達である。
一番の花形で、華麗な踊りを舞うサクラ。
双子の姉妹で、美しい声で歌うユリとスミレ。
唯一の男性で、変わった弦楽器を爪弾くヒノキ。
四四十六の芸は旅芸人にするには勿体ないほど、華麗であった。長く旅を続ければ名前も売れ、立ち寄った村ではそこの貴族から呼ばれる機会も多くなっていた。
オニックスも、四四十六を応援する一人だ。4人が先日から村に入ったと知り、急ぎ、彼の屋敷に招き入れた。
「やあやあ、おかえり。今年も頼むよ。お客さんもいっぱい来るからね」
オニックスはいつもこの時期に理由のないパーティーを開く。彼の友人や親戚、仕事の知り合い、さまざまな人を呼んで、4人の美しい芸を見せてやるのだ。
パーティーの間、4人はオニックスの屋敷に滞在する。オニックスは貴族であり、その客達も紳士淑女ばかりだ、真夜中までバカ騒ぎをすることはない。客が退き、遅い夕食を取って、与えられている部屋に戻ろうとした。
「まあ、プレゼントがいっぱい」
「花束もあるわ」
「すごいよなあ」
部屋の前に、廊下にあふれるほど、4人へのプレゼントが置かれていた。客達もまた、四四十六の愛好者なのだ。スミレが贈り物の山に突進して、ひとつひとつ手に持ってみた。
「こっちは櫛ね。まあ、こっちは指輪だわ」
負けじとユリも箱を開ける。
「これも指輪だわ。しかも4種類ある」
「服だわ。すごい綺麗」
まだ若い娘である双子は、嬉しそうに全ての贈り物を開けようとする。少しだけ年上のサクラとヒノキが、それを半ば呆れたように見ていた。
しかし、愛くるしい歌姫達の笑い声が、突然悲鳴に変わった。
「きゃあああああ!!」
ユリの掌から落ちた箱から、なんとネズミが出てきた。普通のネズミではない。腹を裂かれ、血まみれになったネズミだ。
そして箱の内側には、こう書かれてあった。
『おまえたちも、こうしてやる』。
怯えたのは4人の誰でもない、オニックスだ。
「なんてことだ。いったい誰が! 今日呼んだ客の中に、そんな酷い者がいたなんて」
「ただの悪戯でしょう」
冷静に、ヒノキが言った。
「やっかまれて、変な目に遭うこともしばしばありますからね」
「それにしても、なんて酷い悪戯だ。万一の事がある、護衛を付けようか?」
「やぁよ、あたし」
サクラが言った。
「護衛って、でっかい剣や盾をもったゴツい連中が、うろうろするんでしょう? せっかく楽しいパーティーに来てくれたお客さんも、興ざめしちゃうわよ」
「あたしも大丈夫だよ。驚いただけだもん」
「私も、あまり大げさにしてほしくはありませんね。オニックスさん、気にしないで下さい」
4人はそうは言うが、オニックスは平静ではいられない。それにもし屋敷の中で何かあれば、彼の責任にもなってしまう。
オニックスはこっそりと依頼を出した。
『四四十六の4人が滞在を終えるまで、彼女たちの安全を守って欲しい』。
●リプレイ本文
「こちらからお入り下さい」
オニックスの使用人が、裏口へ案内してくれた。狭い扉をかがむようにくぐり、厨房を抜けて、やっと主の部屋へと辿り着く。
「こんな出迎えですまない。どうかご理解頂きたい」
オニックスは冒険者達に、感謝と謝罪を同時に述べていた。
「おおっぴらに出来ないってことは、心得ている」
イグニス・ヴァリアント(ea4202)が応じる。
「こういう無骨なものがお気に召さないんですってね」
セリア・アストライア(ea0364)はいつも使っているクレイモア等を体から外す。使わない武器は、オニックスが預かってくれるというので任せることにした。
「それでですね、私たちはこういう風に、四四十六さん達の前に出ようと思うのですが‥‥」
神薙理雄(ea0263)が作戦を打ち明けると、オニックスは感心したようにため息を漏らした。
「はあ、なるほど。それなら彼女たちのすぐそばに近寄れるな」
そしてオニックスは、全面的に賛成をして、それを遂行するために協力は惜しまないと約束してくれたのだった。
「やあやあ、みなさん。今宵もお集まりいただき、ありがとうございます。今年も四四十六が帰ってきました! どうぞ素晴らしい夜をお過ごし下さい」
大広間に客が集まりだした。使用人達が忙しそうに料理や酒を振る舞う。正面に舞台がしつらえられて、その上に既に4人の男女が準備を終えて立っていた。
「それでは、最初は春を讃える歌です」
そのうちの双子‥‥ユリとスミレが、ぴったり揃った声で言う。ヒノキが撥で楽器の弦を弾く。3人の奏でる音楽に乗って、袖の長い煌びやかな衣装を纏ったサクラが柔らかな舞を踊り始めた。
やんややんやの拍手喝采。
それが鳴り終わる間もなく、オニックスは新しい客人を紹介した。
「フランク王国から来た歌姫だ。今日は特別に、彼女の歌も聴いて頂こう」
呼ばれて舞台に上がったのはルフィスリーザ・カティア(ea2843)。
「『初めてで緊張しています。どうぞよろしく』と言っています」
ルフィスリーザの通訳として、アウル・ファングオル(ea4465)か代わりに挨拶をする。舞台上の共演者達と握手をし、いよいよ演目へと移った。
「いやあ、綺麗だな」
給仕から渡された料理を口にしながら、スティル・カーン(ea4747)は普通に演奏を楽しんでいた。
「おたくは初めて?」
そばにいた、別の客が声をかけた。
「ああ。オニックスさんとは最近知り合ったからな」
「私も楽器を嗜んでいると言ったら、招待してくれたんです」
ケンイチ・ヤマモト(ea0760)がそう説明した。
「運がいいよ、あんた。あの楽団はこの時期にしか来ないんだから」
「そうか。それは幸運だった」
「これほど素晴らしい音楽を聞くのも久しぶりです」
などと世間話をするスティルたち。彼らはすっかり『ただの客』に染まっていた。
と、広間が賑わっている頃。
今はからっぽの客室に、人影があった。足音のひとつも立てず、注意深く辺りを伺いながら、人影は進んでいた。
「‥‥問題のプレゼントは、こうした人気の無い時に持ち込まれたに違いないよね」
人影の正体はアリシア・シャーウッド(ea2194)だ。
使用人がプレゼントの包みを抱えて部屋に入り、それを置いて出て行ったのを確認して、アリシアも続いて入っていったのだ。
「ちょっと失礼して、中を覗かせて貰うよ」
プレゼントの中身を確認する。おかしなものは入っていない。今日は大丈夫のようだ。
次に、部屋の周りを確かめようと扉を開けると‥‥。
「誰だっ!」
後ろから腕を掴まれる。
「‥‥って、カンチガイしないでよ」
「ああ、すまない。物音も立てずに出てきたから、つい」
イグニスだった。彼もまた、この時間を利用して部屋の警戒を始めていたのだった。
「そっちはどう?」
「まったく異常なしだ。他の部屋も覗いてみたのだが、全員パーティーに出ていて、不審な動きをしているのはいない」
今日の招待客の中に犯人はいないのか? ならば、違う日に来る客、もしくは、それ以外の人物‥‥?
「本当のところは、どうなんでしょうね?」
ケンイチが戻ってきた。広間のパーティーもお開きになっているという。
「本当のところって?」
「いいえ。お気になさらずに」
意味ありげな返事をするケンイチ。だが、誰もその些細な表現を気にもとめなかった。
「みんな、食事にいかないか? オニックスさんが四四十六に紹介してくれるそうだ」
と、スティルが呼びに来た。彼らも屋敷に滞在する友人として、不自然でないよう芝居をしてくれるというのだ。
「私は止めておくよ。顔を見られたくないから」
「私はご一緒しようかな。代わりに話を聞いておきますよ」
今日の役目を終えた音楽家は、くつろいだ格好になって食後の果物を堪能していた。
「さっきの合奏はよかったですよ。異国の音楽もいいですね」
「そう言って頂けると、ルフィスリーザも喜びますよ」
「こちらの方もジャパンの方ね」
「オニックスさんが呼んでくれたんです」
「まあ、私たちと同じね」
楽しいおしゃべりが続く。
その風景を、セリアは部屋の隅で、画布に描き留めていた。
「それにしても、泊まってまで演奏を聴いて下さる方がいるなんて驚きです」
ヒノキが言う。何年もオニックスに呼ばれているが、客が一緒に泊まるのは初めてのことらしい。
「ここにはどのくらいいらっしゃるの?」
「まだしばらくいる予定よ」
ふと、絵筆を走らせていたセリアが気がついた。会話に混ざっていない少女がいたのだ。
「ええと‥‥ユリさんね。何かあったのですか?」
さきほどまで一緒に話していたユリが急にふさぎ込んだのだ。
「ううん、何でもないの」
とは言うが、明らかに何でもない様子ではない。
「大丈夫よ皆さん、この子はいつもこう。旅疲れなの」
サクラが間に入る。そして介抱するユリの耳元で何か言った。こっそり聞くと、それはこんな内容であった。
(「あのことを心配しているの?」)
(「‥‥うん、まあ」)
(「気にしちゃダメ。悪戯に決まってるわ」)
あのこととは例の脅迫のことだろうか。ユリはそれに怯えて、沈んでしまったのか。
だが、今の冒険者達は、四四十六が脅迫されていることなど知らないことになっている。真意を知りたくても、それ以上は聞き出せなかった。
翌日もパーティーがある。
その翌日も。
何事もなくパーティーはあり、相変わらずプレゼントはあふれ、夜には皆で集まっておしゃべりをした。
何事も起こらなかった。
「ただの悪戯だったのでしょうか?」
理雄が言った。何も起こらない。命を狙われるようなこともない。不審なものは無い。客はもちろん、使用人の誰も怪しい動きはしていない。
「犯人の正体が皆目、見当がつかないのも気がかりですね」
セリアも言う。悪戯にせよ目的はいったい何なのか。このまま、なにも解決しないまま滞在が終わるのか?
「でも下手に調べようとするより、護衛をきっちり成し遂げる方が大事ですから」
「まさかとは思いますが、デビルの仕業なんてことは勘弁ですよ」
事件の犯人はオニックスとは全く関係のない第三者の仕業かもしれない。となるとそんな危険な可能性でてくるかも、とアウルは言う。もちろん、それは冗談なのだが、それほどまでに平穏すぎるのだった。
四四十六が無事ならそれでよい。
それでよいはずだ。
こうして、約束の滞在期間が終わった。
四四十六は楽器を抱えて、次の村へ出発した。
「みんなありがとう。おかげであの子達は無事だったよ。これは約束の金だ」
オニックスから報酬を受け取り、冒険者達は屋敷を後にした。
そして、ギルドに戻る道中のことだ。
人だかりが出来ていた。死人が出たらしい。
「!! スミレさん!!?」
なんということだろう。
今朝まで一緒にいた、あのスミレが血まみれで倒れているではないか!
「まさか、そんな‥‥」
ルフィスリーザは吐きそうになるのを堪えて、そこにパーストを試してみた。
同じ顔の二人が見えた。
その一人が、もう一人を刺したのだ。
「そう言えば、最初にネズミを見つけたのも、ユリさんだったわ‥‥」
いったい彼女たちにどんな確執があったのだろうか。今となってはそれは分からない。
一人が欠けた四四十六は、いったい何処へ行ってしまったのだろうか‥‥。