アンリ氏からの依頼
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■ショートシナリオ
担当:江口梨奈
対応レベル:5〜9lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 2 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月08日〜03月14日
リプレイ公開日:2005年03月15日
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●オープニング
彫刻家のアンリを知っているだろうか? 知らないものでも、彼の作品を一度でも見れば、たちまち虜になるに違いない。それほどまでに、アンリは素晴らしい彫刻を産み出す芸術家だった。
その彼が、またまた傑作を造り出した。
丸太を削って造った丸い鳥籠だ。それだけではない。中に渡した止まり木に寄り添うつがいの鳥も造ってある。鳥籠には切れ目などない。つまり、一つの丸太から、鳥籠と鳥を同時に彫ったというのだ。
「自惚れたことを言うけれど、私の作品は高値で売れている。あの鳥籠も、かなりの値段が付いていたに違いないのだ」
それが盗まれてしまった!
いったい、誰が?
「心当たりが、あるにはある」
アンリは言った。
「ほら、ここから港が見えるだろう? あそこに泊まっている、赤い船なんだが‥‥」
旅客船だ。といっても大きくはない。船員合わせて20人ぐらいしか乗れないだろう大きさだ。
「人を運ぶ、というのは表向きで、どうやら追われている人や盗んだ品を運んでいるって噂があるんだ。その証拠に、陸路なら1日半でいける次の街まで、わざわざ4日もかけて船で進むっていうんだからな」
彼らが港に来て間もなく、鳥籠が盗まれたのだという。高値のつくアンリの作品だ、持ち出すには格好の獲物なのだろう。
「おっと、船長がいるぜ。ジャンとかいう名前だ。あんな害のなさそうな顔しているくせに、裏ではなにをしているやら」
アンリの指さす方角に、赤毛の男がいた。船乗りとは思えないほどスラリとした美男子で、乗客だろう他の人たちと笑顔で何か話していた。
とっつかまえて調べ上げたいのはやまやまだが、何しろ証拠がない。噂はあくまで噂でしかないのだ。
「明後日には出航するらしい。何とかあの船を調べて、鳥籠を取り戻してくれ」
●リプレイ本文
リーベ・フェァリーレン(ea3524)が詳しくアンリから、鳥籠が盗まれた前後の状況を尋ねる。工房の扉や窓に大きな破損はなく、実に巧みに鍵を外されて中に入られたようだ。夜のことだったらしく、アンリも翌日の昼に工房に戻るまで盗まれたことなど気付かなかったし、近所に住む者達も誰も不審な者は見なかった。これはやはり、盗み慣れた人間の仕業と考えて間違いなかった。
「船の中に入って調べれば、一番ハッキリするだろうね」
とクリオ・スパリュダース(ea5678)は思うが、肝心のその、入る手段が分からない。
そこで彼女は港近くの酒場へ行った。この港に立ち寄る水夫達が必ずと言っていいほど集まる店だ。
「あの真っ赤な、派手な船は誰のだい?」
適当なテーブルに座り、酒をおごりながらそれとなく話を聞き出してみた。
「ジャンの船だよ」
「ああ、あの男前だよね。そうか、彼の船なら乗ってみたい気もしないではないね」
「ははは。あんたも物好きだね。奴の船に乗るのは、馬で運べない荷物があるか、金の余った者か、街道で他人に会いたくない連中だ」
「なら、私にちょうどいい」
「訳ありだな? よい旅を!」
暗黙の了解というやつなのだろう、酔っぱらい達はクリオの発言も聞かなかったかのように次の話題に移った。
それなりの理由があれば、船に乗るのは難しくなさそうだ。
だから、乗るための理由がないケンイチ・ヤマモト(ea0760)などは苦労した。
「お客さん、悪いことは言わない。うちの船は高いよ。馬を持ってるなら、街道を行きなよ」
乗せている客も荷も疑わしいものばかりなのだ。いわば同乗者は共犯者。出来る限り、何も知らない人物は避けたいのが、彼らの本音だ。
「いいじゃないか。きっとこの兄さんも、俺と同類なんだろうよ」
そこで口を利いたのがリオン・ラーディナス(ea1458)である。彼は『道楽者』を装っていた。ただ移動するだけの陸路ではなく、あえて時間のかかる海の旅を選ぶ、暇な男。
「はあ、変わった方達だねえ」
船員は呆れたように、ため息をついた。
こうして無事、ケンイチも船に乗ることが出来た。しかし噂には聞いていたが、べらぼうに高い船賃だ。依頼主が用意してくれていなかったら、いまごろ冒険者達の財布は空になっていただろう。
そう、アンリは本気である。鳥籠という最高傑作を取り戻すためだったら、いくらでも出費を惜しまないという。
だから港に先回りするための馬車を借りたいといえば、彼の持っている一番新しくて立派なのを惜しげもなく貸してくれた。
「こ、こんな大きな車両を‥‥。私の馬で牽けるでしょうか〜?」
クラリッサ・シュフィール(ea1180)が驚いている。1頭では無理だろう。他の仲間達から馬を借りていて良かったとクラリッサは思った。
ジャンの船は港を出た。次に陸地に着くのは4日後だ。
馬車を走らせれば、2日もあれば余裕で間に合う。だからそれまでクラリッサ達はここに残り、ジャン一味のことを詳しく調べることにした。
ジャンは頭を抱えていた。
今日の出港は、いつになく普通の客が多い。
これまでに無かった事態というわけではないが、面倒な状況ということには変わりない。
アリシア・シャーウッド(ea2194)という女はどこかの金持ちらしい。それにしては世間知らずなのか、船を見たことがないかのようにあちこちに興味を持っている。
サーシャ・クライン(ea5021)はそれ以上に好奇心の塊だ。積み込む荷の一つ一つの中身を尋ねてくる。鬱陶しいったらない。
リオンは、あれは本当に何を考えているのだろう。気がつけば女達をたらしこんでいる。俺の手下も声をかけられたらしい。もっとも、彼女はあんな軽薄な若造など趣味じゃないらしいが。
そしてケンイチだ。奴は吟遊詩人なのか、手持ちの楽器を鳴らしている。ここで歌っても、誰も金は渡さないぞ。‥‥とか思ったら、アリシアが聞き入っている。まったく、お暇なご婦人だ。
他に、新しい客は‥‥。ん? クリオという女性は気をつけないとな、大事な荷物をお持ちのようだ。くれぐれも、運び屋・ジャンの名を汚さないように、慎重にお送りしないと‥‥。
「んー、いい風。気持ちいいね」
物置のような船室から抜け出して、サーシャは深呼吸をした。高い金を出しているのに、個室なんてものはない。簡単な仕切りがあるが、ほとんど雑魚寝と言った方が正しい。
船の見た目に比べて人の乗れる部分は思った以上に狭い。もっと空間に余裕があるはずなのだけれど、分厚い板で仕切られている。この向こうは何なのかと、サーシャは気になってぐるぐる回ってみた。
「何やってんだ?」
船員が見咎めた。
「この向こうは何かな、と思ったんだよ。もしかしたらもっと豪華な部屋があるのかな、なんてね」
「荷物が入ってるんだよ。一年中船の中のおいら達には色々必要なんでね」
「色々って、たとえば?」
「‥‥お嬢さん、何がそんなに気になるんですか?」
背後から声がした。赤毛の男が微笑みながら立っているが、目が笑っていない。
「他のお客様の荷物もお預かりしているんです、詮索はご遠慮下さい」
サーシャは疑われていた。既に盗品を積み込んでいるジャン、そしてそれを根掘り葉掘り聞き出そうとするサーシャ。何らかの調査に乗り込んでいるかもしれない、そう思われ始めていた。
その様子を、アリシアとリオンが遠巻きに眺めていた。
「あの荷物室にサーシャ君が近づいたとたん、雰囲気が変わったね」
「盗んだのは鳥籠だけじゃなくて、もっとあるのかもね」
「入り口は‥‥ああ、反対側にある‥‥」
寄り添って二人が話をしていると、そばを通りがかったジャンが歩みを止めた。
すかさず、リオンがアリシアの肩を抱く。
「っと、船長さん。ちょっと空気を読んでもらえる?」
「おお、これは失礼いたしました」
ジャンは無礼を詫び、そこから立ち去った。頭の中ではこう考えている。頭の軽い男が尻の軽い女を捕まえたな、と。
「ふう、なんとかごまかせたね」
とリオンが言い終わる間もなく、アリシアの激しい平手打ちが飛んできた。
「もぉ。ビックリしたじゃないの!」
「‥‥はい、すみません‥‥」
「表が騒がしいね。なにかあったのか?」
クリオは相変わらず、薄暗い客室にいた。そばに鞄を置いて、そこから離れようとしない。
「何でもありませんよ。お客様同士で盛り上がっているようです」
ジャンはそれから、二言三言、世間話をした。しかしその間、クリオが適当な相槌しか打たず、絶えず鞄を気にしている仕草に目を留めた。
「よろしければ、お荷物をこちらでお預かりしましょうか? 専用の荷物室がありますから」
「本当に安全なのかな?」
「ご覧になりますか? ご案内しますよ」
なんという幸運! クリオは悟られないように、ジャンの案内に従う。
そして、荷物室の中へ。
心臓が高鳴るのが分かる。
布で覆われた丸いものが。
鳥籠が、そこにはあったのだ。
長いようで短い船旅が終わる。
船員達が慌ただしく、船のあっちこっちを行き来している。港に着いた合図を掛け合っていたかと思うと、軽い振動を感じた。船が固定されたのだろう。
「おい、あの酔っぱらいを押さえておけ、迷惑だ!」
何か問題が発生したようだ。急に人が一カ所に集まる。リオンが何か騒いでいた。なだめようとしたケンイチにまで言いがかりをつけ、ケンカに発展しそうだ。
(「さあ、いまのうちに」)
その隙に残った者で荷物室を目指す。人の注意は騒ぎの方に向いている。
(「中に入って右側だよ」)
クリオからの話で、鳥籠はすぐに見つけられた。ほんのわずかな時間で、彼らは荷物室から出てきた。
「あとは‥‥‥‥逃げろーー!!!!!」
他の客を押しのけるように、鳥籠を奪い返した冒険者達は船を駆け下りた。最後に降りたサーシャは渡し板を蹴飛ばして海に放り込んだ。
「早く、こっちだよ!」
リーベの姿が見えた。馬車が待っている。
「乗って、乗って。すぐに出発しますよ〜」
全員が乗り込んだ、というより馬車に掴まったと同時に、クラリッサは手綱を繰った。皆の馬は一斉に駆け出し、どんどん港から離れていく。
「追っ手は?」
「来てない。ざまあみろ!」
馬車は走る。どんどん走る。
そして鳥籠は、数日ぶりにアンリの手に戻ったのだった。