三つ子冒険者の父からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:4〜8lv

難易度:易しい

成功報酬:2 G 64 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月22日〜03月28日

リプレイ公開日:2005年03月31日

●オープニング

 諸君は最初の依頼をどんなふうに受けただろうか?
 ここに3人の冒険者がいる。同い年の姉妹で、まだ幼い。
 ファイターのサン。
 ウィザードのムーン。
 レンジャーのスター。
 彼女たちが、いよいよ初めての『仕事』に出て行くのだ。

「あああ、そんな、あの子達が、何かあったら、あああ、どうしよう」
 みっともなく慌てているのは姉妹の父親、プラリネだ。親ばかと笑われてもいい、可愛い可愛い娘達だ。
 ある日、娘達が突然、冒険者になるといいだした。プラリネが走り回って良い師匠を見つけ出し、姉妹はそこそこに成長したが、父も、師匠も、その他の誰もが、彼女たちはまだ半人前だと思っている。
 それでも、一通りの道具や魔法を扱えるようになった姉妹は、ついにゴブリン退治の依頼を引き受けてきたのだった。
「ゴブリンなんて、あああ、もし怪我でもしたら、あの子達に、あああ、わしはいったいどうしたら」
 妻に呆れられてもいい、彼は娘が心配だ。娘を信じろ、と言われても、彼女たちはまだ小さいのだ。大人ですら失敗することのあるモンスター退治に、心配するなという方が無理な話だ。
「娘達を守ってくれ。あの子達が生きて帰ってきますように!」

 さて、大げさなプラリネのことはここで置いておいて、肝心の依頼の内容である。
 まず、三つ子が受けた依頼だ。彼女たち以外にもあと2人、無名の冒険者が同行するらしい。彼らもこれが初仕事で、姉妹との違いは心配性の親がいないことだけである。
 歩いて2日半の村を荒らしているゴブリンを退治する、というものだ。今の段階で目撃されている数は5匹。増える可能性はゼロではない。
 サンはコナン派で、ヘビーアックスを愛用している。
 ムーンは地の精霊と契約している。
 スターは主にダーツを使う。それ以外にも大きな雑嚢を持っており、人数分を超えるリカバーポーションの類を用意している。
 馬などは無いので、全て徒歩で移動するようだ。
 そして諸君に与えられた任務は、彼女たちの依頼が無事に終了するよう、見守ることである。
 初仕事で張り切っている彼女たちを邪魔しないように‥‥。

●今回の参加者

 ea0210 アリエス・アリア(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0425 ユーディス・レクベル(33歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 ea1003 名無野 如月(38歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6879 レゥフォーシア・ロシュヴァイセ(20歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea6880 フェルシーニア・ロシュヴァイセ(18歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea7263 シェリル・シンクレア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea9311 エルマ・リジア(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 ここは冒険者ギルド。さまざまな冒険者達が溢れかえっている。依頼を受けた者、終えた者、打ち合わせを始める者‥‥。
 部屋の隅で固まっている5人組が居た。プラリネの娘達、サンとムーンとスターと、彼女の仲間だ。似つかわしくないほど大きな剣を抱え、仕立てたばかりのピカピカの服を着ていた。
「うう〜。いよいよだね。ドキドキするよ」
「大丈夫だよ、あたし達は修行もしたよ」
「だよねだよね。がんばるぞー!」
 勇ましいことを言う少女達に、ユーディス・レクベル(ea0425)と名無野如月(ea1003)が声をかけた。
「あなた達はもしかして、初仕事にいくのかな?」
「うん。そうだよ。よく分かったね」
「そのはしゃぎ様を見ていれば、誰でも分かる」
 まさか自分の父親に頼まれた冒険者とは思わず、少女達は照れたように笑う。その無邪気さに、思わずユーディス達もつられて笑う。
「おせっかいだけど、先輩冒険者として一つ助言をしておくよ。『ガチで挑まず多人数でタコ殴れ』」
「がち‥‥?」
 ムーンがきょとんとした。
「‥‥まあ要するに、困難は分割して対処しろってことだよ。大きなりんごを丸飲みするのは無理だけど、細かくすれば食べやすい、ね?」
「あと、食料は十分用意しておけよ。行きの分だけでなく、帰りの分もな」
「それは大丈夫」
 スターが、よいしょっと雑嚢を揺する。かなり重そうだ。
「パパがね、いっぱい持たせてくれたの。こんなに要らないよって言ったのに」
「そうなの。うちのパパったらね、あれもこれも持っていけっていうのよ」
 姉妹は困ったように嬉しそうに、自分の父親のことを話す。もちろん、如月たちはそのことをよく知っている。なにしろ、姉妹を護衛する自分たちにまで、食事や水の世話をしてくれたのだから。
「気をつけていけよ」
「は〜い。いってきま〜す」

 姉妹はお手製の地図を奪うように見ながら、まっすぐ問題の村を目指す。今のところ、正しく進んでいる。はしゃぎながら歩くので、あぶなっかしくて仕方がない。後ろからそっと着いて行っているアリエス・アリア(ea0210)は、ハラハラしっぱなしだった。
「あら、かわいい一行ですね〜。こんにちは」
 と、彼女たちに声をかける別の冒険者達がいた。
「こんにちは〜」
「その格好は冒険者ですね。これからお仕事ですか〜?」
「うん」
「私たちもそうなんですよ」
 そんなふうにさりげなく姉妹に近づいたのは、シェリル・シンクレア(ea7263)とエルフ姉妹のレゥフォーシア・ロシュヴァイセ(ea6879)にフェルシーニア・ロシュヴァイセ(ea6880)、それにエルマ・リジア(ea9311)だ。たまたま行く方向が同じだと説明をしたので、怪しまれることは全くなく、他愛ないおしゃべりに興じることができた。
「まあ、これが初仕事? 緊張してない?」
「してるよ。ドッキドキ」
「でも大丈夫だよ。ゴブリンなんか、怖くないったら怖くない」
「ちゃんと作戦は立てましたか?」
 エルマが尋ねた。
「作戦? うん、ゴブリンを見つけたら、みんなガーッって行こうね、って約束したよ」
「そうじゃなくて、誰が仕掛けて、誰が守って、誰が援護して、とそういうことですよ」
「う〜‥‥それは」
 返事に困るムーン。どうやら、そこまで細かく決めてはいないらしい。
「あなたはウィザードね? 助言させて貰うわ。頼れる人を前衛にして、あなたはその人を援護しなさい。上手に使えば、戦いを勝利に導けるのよ」
 エルマは魔法使いとしての心得を教えてやる。こういうのは演習では上手くいっても実践でうっかり忘れてしまいかねないものだ。基本に忠実に、常に仲間を意識して、我を張らずに助け合うことが、依頼を成功させる秘訣なのだ。
「でもあなた達はきっと息がぴったりでしょうね。可愛らしい三つ子の姉妹なんですもの」
 フェルシーニアが言う。血の繋がりと同じ屋根の下での生活が、どれだけ結束を強くするかは彼女たちは十分分かっている。隣にいる姉のレゥフォーシアの方を見ると、彼女もまた、賛同するかのように頷いた。

 そんなふうに三つ子に近づく者がいる一方で、一足先に依頼先の村を目指す者がいた。
 双海一刃(ea3947)である。
 最初に依頼で言われていたのは、ゴブリンが5匹。だが、もし6匹以上のゴブリンが存在したなら? そして新米冒険者の前に大量のゴブリンが現れたら? ‥‥彼女らは予想していない事態にとまどい、動けなくなり、敗北してしまうのではないか?
 そこまで心配をして、一刃は『村を襲うゴブリンの数は5匹』の状態を保つために動いていたのだ。
 余計な荷物は全て驢馬に積んで、急ぎ村に着き、誰にも気付かれないようにゴブリンの巣を捜した。そして、三つ子よりも先に見つけ出したのだ。
 数は、1、2、‥‥7匹。思った通りだ。
 すぐに殺しては意味がない。5匹は残しておかなければいけないのだ。もしここで1匹でも殺せば、残りが警戒して通常と異なる行動を取らないとも限らない。
 だから、一刃はそのまま待った。
 予定通りなら明日には三つ子も到着する、それまでの辛抱だ。

 村に入る前にシェリル達は、自分たちは先の村にいくから、という理由で三つ子と別れた。
 そしていよいよ、初仕事にとりかかるのだ。
「おはようございまーす! ギルドの依頼を受けた者ですーー」
 元気よく、新米達は村の代表者に挨拶をした。ちびっこい5人組が来たことで、その老人は一瞬、落胆の表情を見せていた。
「ちっちゃくても、厳しい修行を積みました。お任せ下さい」
 スターが自信満々に胸を叩く。師匠から半人前と言われているのを知らないわけではないだろうに。
「じゃあ、さっそくじゃが‥‥」
 村長はいろいろと話し始めた。
 5人は荷物を預けるとすぐに、ゴブリンの巣があるという森の方角に向かって再び動き始めた。
「ゴブリンどこだー。でてこーい」
「で、ゴブリンって、どんなヤツなの?」
「えー? 師匠のトコで姿絵見せてもらったじゃんー」
「そうだっけ?」
 頼りないことを言いながら、5人はどんどん進んでいった。
 ちょうどその頃、ゴブリンの巣でも動きがあった。村が起きて活動を始める時間だと知っていて、原っぱに放たれるだろう家畜や、軒先に並べられるだろう商売道具たちを狙っているのだ。
 巣から、4匹のゴブリンが顔を出した。
 3匹を残して、それらは村を目指す。
(「さて、と‥‥」)
 巣でこれから起こる異常を気取られない位置まで4匹が離れたことを確認して、一刃は3匹の息の根を止めた。

「見つけたっ! あれがゴブリンだっ!!」
 4匹のゴブリンと5人の冒険者が、ついに鉢合わせをした。
 ゴブリンの目から見ても、5人は弱そうに映ったのだろう、逃げる様子もなく、手にある棍棒を振り上げた。
「あんたなんかにやられないもん!」
 サンはここが枝に覆われた場所だと言うことも考えず、負けじと剣を振り上げた。
「構えは小さくしろ!」
 後ろから大きな声が聞こえた。驚いてサンは思わず、言われたとおりの構えに変える。そしてゴブリンの棍棒を受け止めた。もし最初のまま大きな体勢だったら、枝に剣をひっかけていただろう。
「真正面から行くな! 有利になる場所へ動け」
 また声がした。今度はスターが走る。最良の位置を確保できたと思い、ダーツを取りだして棍棒目掛けて投げた。
「あれっ?」
 ダーツは棍棒に弾かれる。
「棍棒じゃダメ、手を狙うんだよ」
 言うが早いか、スターの真横を矢が走った。ゴブリンの手を派手に擦り、悲鳴と共に棍棒を地面に落とさせる。
「だれっ?」
 振り返るスター。そこには、見知らぬ男性がいた。
「ごめんね。戦いの物音がしたから、思わず加勢させていただきました」
 アリエスが申し訳なさそうに顔を出す。
「さっきからの声も、あなた‥‥?」
「ほらほら、油断してないで。まだ死んでないんだから」
「ああ、そうだわ」
 思い出したようにムーンが詠唱を始める。都合のいいことに、ここは彼女が動かせる草木がたくさんある。それらは大人しく言うことを聞いて、ゴブリンの足を止めた。
「全員でかかれっ!」
 声に従って、一斉に飛びかかった。4匹のゴブリンはあっという間に倒れた。

「みなさん、お見事でしたね。拝見してましたよ」
 手を叩きながら近づいてくる人がいた。見覚えがある。さっきまで一緒に歩いていたフェルシーニア達だ。
「どうしたの?」
「先の村に行こうとしたら、ゴブリンの姿が見えたから、気になって来たんですよ」
「それにしても鮮やかでしたよ。ゴブリンをこんな短時間にやっつけてしまうんですから」
 レゥフォーシアは精一杯の美辞を並べて三つ子を褒めた。三つ子は、アリエスと謎の声の援護があったことも忘れて、まるで全てが自分たちの手柄だったかのような顔をしていた。
「じゃあ、あたし達は今から村長さんに報告するから、じゃあね〜」
 依頼を大成功で終えた5人は、意気揚々と村へ降りていった。

「いい気なものだな」
 物陰から見ていた如月が姿を見せた。
「4匹しかやってないってことを、疑問に思ってないのかな?」
 ユーディスも出てきて、笑う。熟練の者なら、5匹目まで完璧に始末することを狙うだろうに。目先の敵にしか気付かないとは、やはり半人前だ。
「この大成功に味を占めて、また依頼を受けるんでしょうか〜?」
「そしたら、またプラリネさんから依頼がだされるんでしょうね」
「もうお守りはごめんだよ」