ソノラ氏からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 93 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月26日〜07月03日

リプレイ公開日:2004年07月02日

●オープニング

「た‥‥たすけて‥‥」
 よってたかって殴られたかのような傷を全身につけて、男は藪の中からよろよろと姿を現した。
「お嬢様が‥‥」
 男はそこで意識を失った。次に目を覚ましたのは、丸2日後のことだった。男の雇い主であるソノラは「大丈夫か」とも聞かず、男の胸ぐらをつかみ上げ、こう怒鳴りつけた。
「きさま、ピニャはどうしたのだ!!」

 男は、ソノラ家の末娘・ピニャの護衛として雇われた者だった。ピニャは馬車で半月ほどかかる先の村へ行く途中であった。その荷台には、慎ましい量の財宝が積まれていた。
 実は、ピニャは先の村へ嫁ぎにいくところだったのだ。だからこうして、わざわざ高い金をだして護衛を雇って旅立たせたというのに、なんということだろう、男は全く役に立たなかった!
「旦那様、申し訳ありません。ありゃぁ、グロッグの一味だ、あっしじゃとても歯が立たなかったんでさぁ」
「よりによってグロッグ一味だと? あのならず者達に、ピニャがさらわれたと言うのか!」
 ソノラは絶望した。グロッグ一味と言えば、ゴブリンを飼い慣らして暴れ回る悪名高い集団である。ピニャの持っていたような僅かな金まで狙うとは、非道極まりない。
「ピニャの命は‥‥ああ、生きてはいるだろう、生きてはいるだろう‥‥」
 ソノラは悔しさに唇を噛み、ぼろぼろと涙を流した。
 ピニャは生きているだろう。
 なぜなら、若い娘なのだから。
 本当なら半月後には、花婿と新しい生活を始めているはずであったのに‥‥。

 ギルドに、簡素な依頼が張り出された。
『盗賊退治。口の堅い者、求む。詳細は現地にて』

●今回の参加者

 ea0110 フローラ・エリクセン(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea0353 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0579 銀 零雨(32歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2231 レイヴァート・ルーヴァイス(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3438 シアン・アズベルト(33歳・♂・パラディン・人間・イギリス王国)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3799 五百蔵 蛍夜(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 依頼を受けた8人の冒険者‥‥見た目はまだ幼いフローラ・エリクセン(ea0110)、女性にしては荒っぽい雰囲気のパトリアンナ・ケイジ(ea0353)、寡黙そうな銀零雨(ea0579)、雰囲気が謎めいているクレア・クリストファ(ea0941)、いかにもナイトという紳士的なレイヴァート・ルーヴァイス(ea2231)とシアン・アズベルト(ea3438)、人生経験豊富そうなジェームス・モンド(ea3731)、ジャパン志士の誠実さを醸し出している五百蔵蛍夜(ea3799)‥‥ソノラは、彼らにまず、そんな第一印象を持った。
 そして全員を部屋に入れ、後ろ手で扉を閉め、更に部屋中全ての窓を閉めるよう指示した。
「私の依頼を受けてくれて嬉しい。だが、募集の条件は分かっているか? 『口の堅い者』だ。何があっても、これは守って貰わなければ困る」
「私はこう見えても秘密主義よ。みんなもそうだわ。ねえ?」
 クレアが他の7人の顔を見ながら、言った。全員が頷いた。
「くれぐれも内密に願いたい。出した依頼は盗賊退治だが、実は‥‥」
 ソノラは何度も念を押し、彼が依頼を出した経緯と、末娘・ピニャの事を話し始めた。
「‥‥さぞ、辛いことだろう。おぬしの気持ち、痛いほどよく分かる」
 何というひどい話だろうか。同じ年頃の娘を持つジェームスは胸が苦しくなった。
「必ず、ピニャをおぬしの元へ返してやろう」

 ピニャを助けるために。冒険者達の間で作戦が練られた。
「ぐずぐずしちゃいられない。さっそく始めようぜ。ソノラ、あんたに用意してほしいものがある」
 パトリアンナは立ち上がると、ソノラに向かって幾つかの道具の名前を言った。
「‥‥と、‥‥と、それから‥‥囮にするための荷馬車を一両、やつらの獲物になりそうな木箱、あと、ピニャの着替えだ」
「荷馬車、だと‥‥?」
 馬はグロッグ一味に財宝と一緒に奪われてしまった。荷車も安くはない、すぐに揃えられるだろうか?
「難しいとは思いますが、何とか用意できませんか? 罠の荷物はこちらで何とかします。運ぶ車だけでいいのです」
 レイヴァートは頭を下げた。残念なことに、彼らの誰も荷馬車を持っていない。今回の作戦に、どうしても必要なのだ。
「‥‥息子のところから、借りてこよう。明日の昼までには、なんとか」
「ありがとうございます!」
 がっちりと、ソノラの手を握るレイヴァート。これで、最初の問題は解決した。
「なら、明日の昼まで、時間がありますね。今の内に、街へ出て、グロッグ一味の手がかりを探しに行きましょうか」
 シアンやジェームス達は、依頼を受けた冒険者なら必ずするように、酒場などに聞き込みに回ることにした。『盗賊退治』という堂々とした表向きの依頼があるのだ。これについて冒険者があれこれ聞くのは、とくに怪しい行動ではない。
 あれこれ聞いて回ったが、やはり盗賊集団、普段はどこで何をしているのかはつかめない。それでも、狙われやすい荷の特徴や、よく現れる場所など、役に立ちそうな話が手に入った。

 痩せた2頭の馬が牽く荷台にはたくさんの木箱と、ピニャの服を借りてきているフローラとクレア、それにパトリアンナが乗っている。そして、それの護衛をしてます、と言わんばかりの厳つい顔をして零雨が、更に後ろからシアンやレイヴァートが着いて歩いていた。小さな馬車なのに、大人数が着いている。しかも積み荷の木箱はどれも頑丈でずっしりと重たそうな上、周りを布で巻いてあるということは、壊れてはこまる貴重品のように見える‥‥。
 茂みの奥で、舌なめずりをしている男がいた。
「へっへっへ‥‥こりゃあいいや」
 男は気づかれないようにそこを離れ、仲間を呼びに行った。
 それからまもなくだ。旅人に化けた冒険者が、グロッグ一味に襲われたのは。
「おらおら! 命が惜しければ、その荷と女を置いていけ!」
「きゃああ、盗賊よ」
「ケッ。ガキとババアか。それよりも積み荷だ。馬ごと貰っていけ」
「そうはさせないわ!!」
 クレアが抵抗する。不埒な盗人に一矢報いようと、両手に短刀を構えて斬りかかる。
「このアマ!!」
 仲間のゴブリンが斬り殺されたことで、彼らは逆上した。全員でクレアに向かい、彼女を殺そうと襲いかかる。
 間一髪、零雨がそれを庇う。そして抵抗するでもなく、クレアと一緒に逃げようとする。
(「このあたりが、いい頃ですね‥‥」)
 『強い盗賊に敵わないと見て、早々に撤退する』、そうグロッグ一味に思わせて、冒険者達は姿を消した。
「はっはっは、尻尾巻いて逃げやがった」
 げらげらと下品に笑い、そうして残された荷馬車の積み荷を確認し始めた。
「‥‥ああ、なんだ。たいしたお宝じゃねぇな。金と、塩漬け肉と、‥‥これは、酒だな」
「まあいいさ。今夜、早速飲もうぜ」
 レイヴァートが全財産はたいて、盗賊達を満足させるほどの酒を用意していた。これで今夜酔いつぶれてくれれば、この作戦がうまくいく可能性はぐっと上がる。
 獲物を引っ張って、盗賊達は移動を始めた。
「では、行こうか‥‥」
 蛍夜が目配せをする。
 歌を歌いながら進みゆくグロッグ一味は、まさか後をつけられているとも知らず、隠れ家にしている谷の奥へどんどん入っていった。

 夜が更けた。
 隠れ家は、まだ明かりがついている。今日の獲物をテーブル一杯に広げて、どんちゃん騒ぎをしていた。
「ほらほら、姉ちゃん。酌をしろ」
「がはは、こりゃあいい酒だ」
 しかし、その宴会は、闖入者によって妨げられた。
「グロッグ親分! 見張りがやられました!」
「なんだと!?」
 見張りに立たせていた男が二人、喉に矢を受けてこときれていた。
『夜駆守護兵団団長、推参! 下郎共、覚悟なさい!』
 どこかから声がする。正体は分からないが、ここをグロッグ一味の隠れ家と知って乗り込んできた連中がいるのだ。
「だ‥‥誰だ!?」
 バタバタと、盗賊達が表に出てきた。
「うぎゃあっ!!」
 出口の場所に、フローラによるライトニングトラップが仕掛けられていた。盗賊の半分近くが感電し、動けなくなってしまった。
「そんなに酔っていて、私たちに勝てると思っているのですか?」
 レイヴァートが挑発する。ゴブリンはそれを無視して飛びかかった。
「昼間とは、違うのですよ」
 力加減をする必要はない。今度はレイヴァートは、思い切り剣を振り回した。
「人に飼い慣らされたゴブリンなど、怖くもなんともないぞ」
 その言葉通りジェームスも、クルスソードを次々と突き刺していく。
「犯した罪に対する相応の報い、その命であがなってもらいますよ」
「やれるもんならやってみな!」
 シアンの大きな剣が唸りを上げる。しかしさすがに、この一帯を暴れ回るグロッグ一味だ。なかなかに手強く、冒険者と対等に戦っている。
(「盗賊の分際で! 目にものみせてくれる」)
 盗賊の剣で頬を切った零雨は、その何倍もの傷を相手に返す。あちこちで怒号が聞こえ、敵も味方も血だらけになり、大騒ぎだ。
 隠れ家の外で、派手な戦闘が続いていた。

「さあてと。あっちに気を取られている内に」
 パトリアンナはからっぽになった隠れ家の中に潜り込んだ。
 ひっくり返された酒樽と、食い散らかした食事で部屋はめちゃくちゃになっている。
 その隅っこに、若い娘が4・5人、固まってふるふると震えていた。
「あんた、ピニャだね?」
 名前を聞くと、娘は頷いた。
「よし、ここから逃げるよ!!」
「退路はこっちだ!」
 蛍夜はなんと大胆にも、その部屋の壁をぶち壊した。
 そこは出口と反対側。つまり、外で戦っている盗賊達を背中して、逃げることになるのだ。
「道がなければ、己の腕で切り開けばいいだけだ」
 蛍夜が笑う。
 その穴から娘達全員が逃げ出すことに成功した。
 撤退の合図。
「皆、撤退だ。引き上げるぞ」
 ジェームスは辺りを見回す。動ける盗賊はほとんどいない。しかしこちらも、かなり傷を負った。
「逃げるのか! 逃がさんぞ!!」
 盗賊頭らしい男が追いかけてくるが、彼も同じく傷だらけで、さらに酒を飲んでいる。結局追いつかれることはなく、冒険者達は無事にその谷を脱出した。

「‥‥盗賊頭を生かしておいて、よかったかしら」
 取り返した馬車に揺られながら、クレアは心配そうに言った。
「奴らも自分たちの失敗をわざわざ吹聴する事はないだろう。今はそれよりも、彼女を無事親父さんの元へ連れて帰ってやることの方が大切だ」
 と、ジェームスは、後ろで眠っている娘達を見た。
 久しぶりに眠るのだろうか、穏やかな顔で、ぐっすりと眠っていた。
「あの場所では、眠るなんてできなかったんでしょうね‥‥」
 いったい彼女たちは捕らわれてどんな思いをしていたのだろうか。それを思うとフローラは悲しくなる。
「自分は」
 蛍夜が言う。
「自分は、今回の報酬、半分返すつもりだ」
「どうして?」
「ピニャの心の傷は深い。治療を受けさせてやりたい。それには、金が必要だろう」
「そうですね‥‥」
 シアンは、空を仰いだ。星が瞬いている。きれいな星だ。
「辛いですね。どうやっても笑顔で終われない仕事は‥‥」
「今は笑えなくても、時間が解決しますよ」
 時間がきっと、癒してくれる。
 また、ピニャの嫁ぐ日がくるかもしれない。