殺された師匠からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:4〜8lv

難易度:易しい

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月05日〜04月10日

リプレイ公開日:2005年04月13日

●オープニング

 いやいや、殺されてはおらん。殺されかかったが、な。
 そう言って笑うのは武道家の雅(みやび)。しかし、かなりの大けがをしたのだろう、着物の隙間から見える素肌に、内出血の跡がくっきりと残っている。
 雅は師匠という肩書きではあるが、道場はなく、抱えている華国からやってきた弟子もわずかに4人だ。
「楽広(らくひろ)という弟子がおる。才能に恵まれた少年じゃ。あの素晴らしい闘気を磨けば、もっともっと強くなるじゃろうて」
 だが、大きな力を使いこなせなかった。少年は力をもてあまし、言うことを聞かないオーラで、先日、雅を『殺して』しまったのだ。
 己の未熟のせいで師匠を殺してしまった、と楽広は混乱し、雅のもとを逃げ出してしまった。
「ほら、この裏山じゃ。降りた姿を見てないから、まだ居るんじゃろう。わしは生きてる、誤解だと教えて連れ帰りたいのじゃが」
 残る弟子が捜しに出たらしいが、いっこうに戻ってこない。昨日になって一人、戻ってきた。逆上した楽広は、手を付けられないほどにオーラをふりまき、こちらの身が危ないというのだ。
「お恥ずかしながら、こやつらはまだ修行が足りぬ。そこで皆さんにお願いしたいのだが、かまわないだろうか?」


●今回の参加者

 ea0322 威吹 神狩(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea0323 アレス・バイブル(30歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea3207 ウェントス・ヴェルサージュ(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6647 劉 蒼龍(32歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea9420 ユウン・ワルプルギス(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0753 バーゼリオ・バレルスキー(29歳・♂・バード・人間・ロシア王国)
 eb0921 風雲寺 雷音丸(37歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

世良 北斗(ea2685)/ グラキエース・サツキ(ea3602)/ クラウ・ソラス(ea7204

●リプレイ本文

●自身を責めるが故に
 裏山と一言に言っても、けっこう広く、道は険しい。そんな山の中を一行は進んでいく。
「はぁはぁ‥‥。こんな山の中に隠れてしまっただなんて」
 ルーティ・フィルファニア(ea0340)はずっと続く坂道に辟易しながら、大きく息を吐く。
「師匠を『殺して』しまったわけだから‥‥それほど衝撃を受けてしまったという事ね」
「ですが神狩さん」
 ルーティはやや不満げに威吹神狩(ea0322)に向き直る。
「そもそも、武闘家なんていうのは、精神的にも強くなければいけないのでは?」
「ははははは! そんなに深刻に考え込むことはない、ない。師匠をぶっ倒して逃げ出すなんて、なかなか骨のある奴じゃないか。まぁ俺としてはこのまま山中でどこまで強くなれるのか見てみたい気もするが」
「そんな悠長な。関係のない者まで巻き込まれることになったらどうするのよ?」
「大丈夫、大丈夫。そういうのも、みんな通り道じゃんか」
 風雲寺雷音丸(eb0921)に助け船、というわけではないが、劉蒼龍(ea6647)もそれほど深刻には思っていないようだ。
「なに、若いうちってのはそうやって突っ走るってこともあるもんだ」
 蒼龍は「俺にもそんな時代があったなぁ」などと呑気に笑っている。
「そういうことだ。ま、そうは言っても依頼だからな。放っておく訳にもいかないか」
「そうですよ」
 ウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)は生真面目そうに、背筋を伸ばして歩いている。
「早く、楽広さんを見つけてあげましょう。きっと、自分を責めているのだから」

●果てしなく山径は続く
 隠れているわけでなし、探し回っていればそのうちに見つかるだろう。
「どちらかというと、上手く説得する方が難しいのではないでしょうか?」
 アレス・バイブル(ea0323)はそのように意見を述べつつも、周囲を見渡す。
 ユウン・ワルプルギス(ea9420)は確信を持っているように、
「ようは、楽広が『取り返しのつかないことをしてしまった』わけではないと分かればいいわけだから。大丈夫だよ」
 と、請け負った。
「ちょっと、はじめは襲ってくるかもしれないけど」
「それが、問題なんですが」
「すぐに説得すれば大丈夫だってば。雅が生きてる証拠に、ほら。雅の着物を持ってきたよ」
「‥‥いやむしろ、ユウン殿?」
 バーゼリオ・バレルスキー(eb0753)が、言いにくそうに。
「それだとまるで、遺品みたいですよ。逆に」
 言われてみれば確かに‥‥そんな気もする。ユウンが周りを見渡してみると、周りの仲間もやはりそんな顔をしている。
「えーと。だったら見せるのは、書いて貰った手紙の方にしておいた方が、良いかな?」
「まぁ、その方が無難でしょう」
 倒木に座り込み、ルーティは苦笑した。
 さて、気分も改まったところで捜索を再開する。
 しかし、想像していた以上に捜索は難航した。なにせ、山のどこにいるかわからないのである。
 アレスや神狩は懸命に目をこらして山の奥を見渡していたが、いくら目が良いからといって千里の彼方まで一息で見渡せるわけでなし。
「嫌になってくるな」
「これだけ木が多いとな」
 蒼龍が舞い降りてきた。雷音丸も渋面を作ってそれを迎える。
 確かに夜目だとか視力だとかは良いわけだが、それで単純に捜索が楽になるかというと。
 ひとつの山を面積で考えたら相当なものだ。こんな名もない山の地図なんてあるわけもなし、広い山の中、人影や、そうでなければ痕跡のついた場所などを見つけようとしたら、どれだけ歩き回らなければならないことか。
「そういう意味だと、僕の『バイブレーションセンサー』も似たようなものだね」
 ユウンが溜息をつく。
 楽広の『居場所のあて』がわかればよいのだが。しかし、「どこにいそうか」と漠然と考えていても。‥‥例えば、「何日も山に隠れているのだから、水のある沢に近づくこともあるだろう」だとか‥‥具体的なことは考えていなかったようだ。ひたすらに探し回る。
 そんな途中で、ぽつりと。
「もし、どこかで入れ違っていたら、どうだろう‥‥?」
 一同が、嫌な顔をウェントスに向ける。
「‥‥失言だった」
 そういうときでも、近くを調べれば痕跡が見つかる。‥‥きっと。そう願いつつ、捜索を再開した。

●返り討ち
 そういえば、気になると言えば楽広のことだけではなくもう1つ。
「なにか、声が聞こえませんでしたか?」
 探し回っているうちに、バーゼリオがそんなことを言い出した。茂みの方に駆け寄ってみると、そこには生気を失った顔の男が! そしてわずかに離れてもう1人!
「だ、大丈夫ですか!?」
 大丈夫ではない。アレスは慌てて男に駆け寄り、治療を施す。気付いて良かった。満足に声を出すことさえ出来ないほどに男たちは傷つき、そして憔悴しきっていた。
 姿形から、雅の弟子だとわかる。楽広を探しに行って、戻らなかった2人だ。
 よくよく考えてみれば、忠実な弟子なら師の元に復命してしかるべきだ。なのに戻ってこなかったということは、不測の事態が起こったということに他ならない。
 彼らは楽広に敗れて出来た傷だ。仲間達ともはぐれ、何日もここに倒れたままでいたのだろう。実は、かなり緊急を要する事態だったのだ。
「悪かったな‥‥」
 だれもが、弟子たちのことは後回しにしていた。雷音丸はばつが悪そうに詫びて、ふと、気が付いた。もう1人、逃げ帰った弟子がいたではないか。この2人とも行動を共にしていた彼なら、この辺りまで案内できたのではないか、と。
 まぁ、いまさら考えても仕方がない。
 弟子は震える指で、さらに山の奥の方を指し示した。
 向こうに楽広が、いる。

●天賦の才
 もちろん弱々しくはない。しかし、その腕はとても熟練の武闘家や、筋骨逞しいその高弟を打ちのめしたとは思えない太さでしかなかった。
 そして、幼かった。木が倒れ、わずかに開かれた空間で膝を抱える少年は、まだ10を幾らか過ぎたほどの年にしか見えない。天は、彼に恐るべき才能を与えたのだ。
「楽ひ‥‥!」
 呼びかける間もなく。
 少年は弾かれたように起きあがり、血走った目で叫んだ。
「来るなぁッ!!」
 力任せの一撃が、たまたまそこにあった巨木の幹を震わせた。やがて轟音をあげ、木が倒れる。そこの倒木も、楽広がやったのだ。
「とんでもねぇ!」
 慌てて避けた蒼龍が顔色を変える。
 楽広はなおも「来るな来るな!」と繰り返していた。血走った目‥‥泣きはらした目なのかもしれない。それを見られたくないかのように。
「ちょっとちょっと、話を聞いて! 雅はね‥‥!」
 ユウンは慌てて事情を説明しようとしたが。
 楽広は全く耳を傾けようとしない! わぁわぁと叫び、襲いかかってくる!!
「危ない! 下がれ!」
 ユウン彼の攻撃を止められるわけがない。ウェントスはその前に立ちはだかり、それを受け止めた。その一撃は闘気のこめられたものではないが、
「なんて鋭さ‥‥!」
 舌を巻くほかない。
「こうなっちまうとなかなか大人しく話も聞いてもらえないぜ!?」
 楽広の周囲を、嘲るように飛び回る蒼龍。しかし、実のところ必死なのは彼の方だ。
「この手合いは精根尽き果てなければ、話も出来ないだろう! ならばそれまで食い止めるまでよ!」
 雷音丸は説得を早々に諦めてしまった。代わりに、盾を構えて戦いに加わる。
「穏便にいけば良かったんですけど」
 ルーティの出来ることは、『ウォールホール』や『ストーンウォール』を造り出して、楽広を牽制することだ。
「だけど、耐え抜くのも楽じゃないわね‥‥!」
 こちらからは手を出さない。神狩は懸命に避け続ける。だが、「怪我をさせるわけにはいかない」という気遣いなど、全く無用と言って良かった。いくらかの気遣いがあるとはいえ、年かさの冒険者達を相手にしても、まったく後れを取る気配を見せなかったのだ。
 そして。
 脇腹を狙った拳を神狩が避け、楽広に半身を向けたその時。凄まじい力のこめられた闘気が神狩を襲った!
「神狩さん!」
 昏倒した神狩を、アレスはすぐさま抱き起こした。急ぎ、治療を施す。
「なんという、少年なんだ‥‥!」
 その闘志は無尽蔵でもあるかのように‥‥そんなはずはないが、一行がそう錯覚してしまうほどに、楽広は拳を振るった。

●師弟
 楽広の視界を何かが覆った。すぐにそれを払いのける。しかし、そのとき鼻腔をくすぐった、何なら懐かしい‥‥。
「そうよ、それは雅の着物!」
 投げつけたユウンが叫ぶ。なぜ、こんな物を? 理由は分からなかった。が、楽広の頭に疑問符が浮かぶ。
「楽広! なにをしておるか!」
「先生!?」
 そこに聞こえた叱声に、とっさに振り返る。まさか、ここに雅がいるはずが。
 冒険者達はすぐに気付いた。バーゼリオが声真似をしていたのだ。
 長年、寝食を共にしている楽広も、当然すぐに師のそれではないと気が付いたはずだ。しかし、とっさのことだったので、ほんの一瞬は注意を向けた。
「騙したな!?」
「騙したとは人聞きの悪い。楽広殿は、自分が雅殿と会っているのを見たことはないでしょう? ならばなぜ、自分がその声を真似られるのか、ということです」
「どういうことだ‥‥?」
「つまりね、あなたの先生は死んでなんかいないって、ことよ‥‥」
 神狩は苦しげに息を吐きながら、起きあがった。

 顔を上げられないままに戻ってきた弟子を、雅は一言も叱らなかった。むしろ「見事じゃった」と笑い、「もっともっと、お主は強くなれる」と肩を叩いた。
「さぁ、腹が減った。さっさと傷も治して、またしごいてやらねばならんからな。ほれ、ぐずぐずするな」
 冒険者達に微笑みかけ、「よいか、攻撃にも虚と実がだな‥‥」と語りながら歩いていく師の後ろを、楽広は泣き笑いながら追いかけていった。