●リプレイ本文
「へえ、じゃあ森の中で寝泊まりするってコトでいいんだね? ありがたいねえ」
ナミは嬉しそうだった。
ガヴィッドウッドがいる『禁断の山』へ入る護衛を頼むのだから、出来るだけ危険から遠ざけるため、滞在時間を短くさせようとするだろうと思っていたのだ。だが、集まってくれた冒険者達は違う。ナミの気持ちを分かってくれている、それだけで、高い金を出して雇った甲斐があるというものだ。
「そうは言うが、安全第一だ。こちらがこれ以上は危険だと判断したら、速やかに下山するからな」
浮かれそうになっているナミに釘を刺すように、鳴滝静慈(ea2998)は言った。
「ふふ。ますますイイね。危機感は当然持っていて欲しいよ。さすがだね、あんた達」
「信頼をいただけたようで、なによりです」
アルカード・ガイスト(ea1135)が丁寧に頭を下げた。依頼主と心の距離は近い方が良いに決まっている、特に、今回のような護衛の仕事ならなおさらだ。
「では挨拶も終わったところで、行きましょうか? 禁断の山については道中でお話しします」
ここへ到着する前に、さまざまな方法で冒険者達は噂の山について調べていた。普段なら村で1泊でもして事前調査と現場の状況を照らし合わせたりするのだろうが、今回はその時間も惜しい。ましてや今回は場所が場所だけに移動は己の足だけになるだろう。マミ・キスリング(ea7468)はそれを憂えて、早い出立を急かしたのだ。
「あんた達が調べるというと、やっぱりキャメロット城でなの? 資料も揃ってるんだろうね。面白い話、聞かせてよ」
まず、いつから禁断の山と呼ばれているのか。
これまで、どのくらいの人が戻ってこなかったのか。
戻れない原因は本当にガヴィッドウッドなのか。
それ以外の『脅威』が存在するのではないか?
‥‥チハル・オーゾネ(ea9037)に言わせれば、事前にそれらの情報を集めておくのは『基本』らしい。集めたそれらに自分の推測を交え、禁断の山の正体を探る。
「まあ、植物にかけては専門のあんたが、あの塊が一つの木だと言うんだから、それは間違いないと思うんだけどな」
ガイン・ハイリロード(ea7487)は言う。山に大きな木があるのは間違いない、しかしそれをモンスターとするには根拠が薄い。人が戻ってきていない、それだけなのだ。
例えば野生の動物や小鬼でも、ただの村人を殺すことができる。そういったものが木を中心に住み着いているのだとしたら?
「噂が立ったのは、ここ数年ぐらいらしいな」
村で聞いたという話をハーヴェイ・シェーンダーク(ea7059)は教えてくれる。もっとも、それは何ヶ月も村に留まっているナミには新しい話ではない。あれから山に入る者もいないので、行方不明者は十数人、それ以上増えていない。
「この9人が、行方不明者の数に加えられないようにね」
「冗談はやめてください〜」
クラリッサ・シュフィール(ea1180)が苦笑する。冗談ですめばいい。この人数なら、たかがガヴィッドウッドに苦戦することはないはずだ。しかし‥‥。不安の種はどこにでもある。
「‥‥そろそろ、気をつけて進みましょう」
と、ピノ・ノワール(ea9244)が促した。視界は木々で遮られているが、おそらくそろそろ問題の大木に近づいているはずだ。
「どう、ナミさん。周りの草花の変化は?」
「んー‥‥特に異常はなさそうだね。まだ影響のない場所なのかな?」
「でしたら、とりあえず今日はここで休みませんか?」
陽も暮れてきた。今のところは安全そうに見える場所を選んで、冒険者達は寝床の準備を始めた。
さすがにナミの植物に対する知識は豊富だった。森に生えている美味しい果実を簡単に見つけ出し、野宿とはいえ豪華な食卓を作ってくれたのだ。
「こんな甘い実があるなんて。自然の恵みってすばらしいですね」
名前も知らない桃色の果肉にかじりつくチハルの顔はほころんでいた。
「しかしキミは何でこの研究をしようと思ったんだ?」
と、静慈が尋ねた。
「チハルも言っただろう、自然の恵みは素晴らしい。木も草も花も、全部面白いね」
「でも今回のはガヴィッドウッドですよ〜。食べられちゃうかも知れないって、こわくないんですかあ?」
未知のものに対する好奇心はクラリッサも持っている。けれど、危険にさらされてまで首をつっこむほどではない。
「こわいさ。こわいけどね、でも見たいんだよ」
「ははは。あんたもかなり豪気だな」
ここまで言い切られると気持ちが良い。隠し事をしないナミにガインは好感を持ち、ぜひともその望みを叶えてやりたいと思った。
「そろそろ明日に備えて休んで下さい」
マミがナミの枕元の灯りを消してやる。そうして依頼人を休ませて、冒険者達は交代で夜の見張りをした。
けれど、狼一匹、現れなかった。
朝。身支度を調えて出発する。
巨木のすぐそばにまで来ているはずなので、ハーヴェイは矢をつがえたまま、慎重に聞き耳を立てて進んでいく。
もしガヴィッドウッドがいるなら、動いている自分たちに気付いて、触手のように枝を伸ばそうとするかも知れない、その音を聞き分けるために。
だが、それらしい音は聞こえない。
そしてナミが「あっ」と声を上げた。
「すごい‥‥」
目の前には大きな木がそびえていた。自分たちの生まれる何年も、何十年も、何百年も前からこの地にいただろう、大きな木が。
「ガヴィッドウッド‥‥?」
ピノはまさかという思いだった。
これはガヴィッドウッドではない。
ただの木だ。
「なんて事だ‥‥」
ナミはピノ以上に呆然としていた。たしかにこの場所には巨木があった、それは間違いない。しかし、それをガヴィッドウッドだと信じ込んでしまうとは何て浅はかだったのだろう。
「じゃあ、いったい何が」
何がこの地を『禁断の山』たらしめているのか? そう考えながらアルカードが木の周囲を見回ろうとしたときだ。
枝の隙間から、がらがらと派手な音が鳴り響いた。
「何だ?」
音の方を見上げる。すると恐ろしいものが見えた。雨のように矢がアルカードに向かって今まさに降り注ごうとしていたのだ。
「うわっ」
間一髪、それをよける。
「アルカー‥‥」
助け出そうと、クラリッサが一歩前に出た。するとまた、がらがらと音が鳴り、矢が落ちてくる。
「来てはいけません、罠です!」
木を中心に、根元にぐるりと鳴子が仕掛けられていた。それに直結するように枝に落とし矢の罠が設置されているのか、鳴子に引っかかった者をめがけて襲いかかるのだ。
そしてそれだけではない。
「ナミ!!」
ガインがナミに飛びつき、地面に伏せさせる。今度は横の茂みから、矢が飛んできたのだ。そして間髪入れず、複数の人影が飛び込んできた。
「侵入者だ!」
「侵入者だ!!」
「生かして帰すな!!」
顔を隠した十数人ほどの厳つい男達が姿を見せた。銘々の手には武器を持ち、ナミ達を取り囲んだ。
「何だ、キミ達‥‥」
しかしハーヴェイのその声など聞こえなかったかのように、男は斧を振り上げた。
「何だ、ただの賊か!!」
ガインは悔しそうに歯ぎしりする。ナミは初めて見る木を夢見てここまで来たのだ。だがここに巣くっていたのは汚らわしい賊。
ナミの夢を台無しにしたことも許せないし、ここに入り込んだ罪もない村人達を無惨に殺し続けたことも許せない。
「こんな連中のせいで‥‥この山は禁断の山になってしまったのか‥‥?」
静慈は爪が食い込むほどに拳を握りしめる。
「ここまで攻撃する姿勢を取られては仕方ない‥‥」
許せる相手ではない。
大人しくこちらの言うことを聞いて改心する相手ではない。
この山を『浄化』しなければ。
手加減はしない。二度と帰ってこない村人のためにも。
ナミは黙って巨木を写生していた。
倒れて息をしていない男達を見ても何も言わなかった。
書き終わると、木に近づき、ごつごつした幹に顔を擦り寄せた。
「何か聞こえますか?」
マミが聞く。
「さあね」
「あたしにも聞かせてください」
と、チハルも顔を寄せた。
「ごめんね」
ナミは謝った。自分の思いこみに皆を巻き込んでしまったことに。
そしてこの静かな老木を疑ってしまったことに。
「帰りましょう。貴殿を無事に村に送り届けることが、私たちの勤めなんですから〜」