湖のある村からの依頼
 |
■ショートシナリオ
担当:江口梨奈
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 87 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月17日〜05月23日
リプレイ公開日:2005年05月28日
|
●オープニング
「暑っついなあ」
「暑いねえ」
どうしたのだろう、今日はやけに暖かい日だ。一足先に夏がやってきたみたいだ。昨日まで着ていた長袖の服が今日は耐えられない。
「泳いじゃう?」
服のすそを大きく開いて風を入れている少年が言った。
「泳いじゃおうか?」
靴と靴下を脱いで草に足を擦り付けている少女が賛同した。
「まだ今年は誰も泳いでないよ。俺たちが一番だ!」
と、少年たちは我先にと、毎年水浴び場にしている湖を目指した。まだ泳ぐには早いが、今日なら大丈夫だ。走りながら服を脱ぎ、次々に水に飛び込んでいく。
「俺、いっちばーん!」
「にばーん!」
「向こう岸まで競争だー!」
そんな風に楽しく遊んでいたときだ。
「ぎゃああっ!!」
突然、一人の少年がすさまじい悲鳴を上げた。
「どうした?」
「痛い、痛いいい!!」
少年はまともに喋れないほど痛がっている。他の子達が総出で引き上げると、少年の脇腹は真っ赤にただれていた。
「みんな、水から離れるんだ! この湖には何かいるぞ!!」
何かいる。
それはウォータージェルだと大人達から聞かされた。
幸い、少年はすぐに治療が施されて一命を取り留めた。
「なんてことだ、去年まであんなヤツはいなかったぞ」
「このままでは夏になっても子ども達が安心して遊べない」
「これは、退治の専門家を呼んだ方が‥‥」
●リプレイ本文
湖のウォータージェルに腹を喰われかかった少年は、いまはすっかり元気だった。
「まったく、子どもに大けがさせるなんて許せないねえ」
もしも自分の息子がこんな目に遭ったらと思うと風霧芽衣武(ea9934)の胸は痛む。親としては子どもは安全な場所で遊ばせてやりたい。そのためにもモンスターは完全に退治しなくては。
「その、思い出したくなかったら無理しなくていいですから、どんな風だったか教えてくれませんか?」
チハル・オーゾネ(ea9037)が尋ねる。怪我をした少年にその時の事を聞くのは酷な気もしたが、少年は怖じけることなく、寧ろ冒険者の役に立てることを誇らしく思うのか、いろいろと話してくれた。
子ども達が泳ぐことを許されているのは足が届く範囲。なのでその日も、岸に近いところで泳いでいた。最初の頃は楽しく騒いでいたし、何もおかしなところは無かった。泳ぎ初めてしばらく経ってから、少年はモンスターに襲われたのだ。
「こんなちっちゃな子を食べちゃおうなんて、許さないんだから!」
少年の頭をぎゅっと抱きしめ、怒りを露わにするフェルシーニア・ロシュヴァイセ(ea6880)。
「苦しがってるわよ、話してあげなさい」
「あ、あら。つい」
姉のレゥフォーシア・ロシュヴァイセ(ea6879)に言われて気付いた。少年がフェルシーニアの胸で窒息しかかっている。
「こほん。‥‥えーと。みんなの湖は取り戻してあげますからね!」
教えられた湖に到着した。今日は天気がやや悪く、水面が忙しく揺れている。曇り空を映している水は黒い色になり、小魚や蟹がいるらしいのだが、その姿は見えない。
「ウォータージェルね‥‥私はまだ見たことがないんだけど‥‥」
湖を覗きながら、威吹神狩(ea0322)が呟く。
「名前から考えると、水棲なのでしょうね」
アレス・バイブル(ea0323)が言った。水に似せて、水に住んでいるのだろう。岸から肉眼で見つけるのは困難かも知れない。
「‥‥どのくらいいるのでしょうね」
「1匹だけじゃないような気がします」
長寿院文淳(eb0711)とリアナ・レジーネス(eb1421)はそう考えていた。小さくはないこの湖なら、数匹いてもおかしくはない。
「とりあえず、岸辺をぐるっと回ってみましょう。近寄ってくるかもしれませんよ」
チハルの案に従い、手分けして回ってみる。
念のために2周回ってみたが、ウォータージェルらしきものは現れない。
「食い付きが悪いねぇ」
と、芽衣武は溜息を漏らした。そうして、もう一度少年が襲われたときの状況を思い出す。
数人の子どもが集まって水遊びをしていた。それはきっと賑やかな光景だっただろう。
「どれ‥‥」
着物の裾を捲り裸足になり、芽衣武は湖に足を浸してみた。しばらく、ちゃぷちゃぷと音を立てて歩いてみる。
「‥‥‥‥どうですか?」
「駄目みたいだよ」
そろそろ足が冷えてきた。一旦岸に戻る。
「交代しますよ」
そう言って今度はリアナが『囮』になることにした。
「‥‥‥‥そぉーれっ!」
ばっしゃーん、と、大きな水しぶきが上がった。大胆にもリアナは薄着になり、湖に飛び込んだのだ。
「ううう、冷た〜〜い」
「そりゃあ、まだ泳ぐ季節じゃありませんからね」
更に今日は天気も悪い、普段より水温も低いだろう。しかし、ここまで入ってさっさと出るわけにはいかない。歯をがちがち鳴らしながら、リアナは泳ぎ続けた。
「そろそろ、限界なんじゃないでしょうか?」
どんどん顔色が青くなっていくリアナを見て、アレスは囮役を代わる準備を始める。帽子を脱ぎ余計な衣服は取り、用意していた小振りの武器を携える。
「‥‥気をつけて‥‥アレス」
水に入るアレスを心配そうに神狩が見送る。
「あなたが援護してくれるのでしょう? 頼りにしていますよ」
「‥‥ウォータージェルは‥‥何でも溶かしてしまうらしい‥‥私のダーツも‥‥」
神狩は悔しかった。泳ぎが得意なわけでも、強力な武器を持っているわけでもない。己の未熟さが恋人の足手まといになりはしないかと憂えている。
「大丈夫ですよ、あなたなら」
リアナが岸に上がり、入れ替わりでアレスが水に入る。それを見送る神狩。
「いいわねえ、信頼しあってるって」
二人のやりとりを見ていた芽衣武が、意味ありげに微笑んだ。
「‥‥あれは‥‥?」
波立つ水面に1箇所だけ、水の揺れていない場所があるのに文淳は気が付いた。しかも、その場所は少しずつアレスの方に近づいてきていた。
「アレス、左側だ!!」
神狩は、らしくない大きな声を上げた。それに気づき、アレスは岸にいる皆の方に泳ぎ進む。
「間違いありません、あれがウォータージェルです」
アレスを追いかける水の固まりがあった。確かに、水に似ている。けれどまったく違うもの。獲物であるアレスをめがけて、擬態することなど忘れたかのように迫ってくる。
初めて対峙するウォータージェル、その姿をはっきりと肉眼で捕らえられる位置まできたのを確認して、チハルはムーンアローを放った。
「一斉にいかないと! 逃げられてしまうわ」
「‥‥もちろんです」
最初のムーンアローが当たり、ウォータージェルは悶え苦しんでいる。あの激しい動きかたを見ると、まだ体力は全然衰えていないということだ。逃がさないために。文淳はブラックホーリーを詠む。再現神の審判がウォータージェルに罰を与える。
「慈愛神の加護の力の元、邪なる魂魄を退かせる純白の光の矢となれ!」
「大いなる父タロン‥‥ご加護を以てわが目の前に立ち塞がりし邪悪なるものへ、破滅という名の破壊をもたらしたまえ!」
そして間髪入れず、フェルシーニアとレゥフォーシアがそれぞれの神の力を呼び出し、子ども達を苦しめたモンスターにとどめをさした。
‥‥だが、これで終わりだろうか?
最初に文淳達が考えたように、数匹が住み着いていてもおかしくはない。
「ウォータージェルはどこから来たのでしょうね。何十匹もいたら、この湖は巣にされてしまったということでしょうし‥‥」
湖の周りをまた何度も回りながら、チハルは言った。
「もう1度、中に入ろうか」
芽衣武が今度はかなり深いところまで入る。リアナがしたように、音を大きく立てながら。
「やっぱり、同じ場所には来ないんじゃないかしら? ウォータージェルだって、本能で危険な場所を知るでしょうし」
と、レゥフォーシアも、芽衣武と離れた場所で音を立てながら水に入る。
「ふふ。冷たい」
フェルシーニアも一緒に足を浸ける。一暴れして火照った体の熱がすうっと冷めてくれるようだ。
皆が、長い時間そうやっている。
魚は足の間をすり抜け、黒い虫はひょこひょことすれ違い、巻貝は岩の下に顔をひっこめる。
水に住む生物たちの、よくある光景だ。
「なかなか気持ちいいもんだねえ。昔に息子と川で遊んだ頃を思い出すよ」
「‥‥ここはいい湖ですね‥‥景色もいいし‥‥」
「そうね、じゃあこの景色にふさわしい歌を歌いましょうか」
チハルが青い草の上に腰を下ろし、リュートを奏でだした。皆もそれに合わせて歌う。そよぐ風もまた、一緒に歌っているようだ。
平和な湖。
この瞬間から、ずっと。