ゴブリンに怯える村からの依頼
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■ショートシナリオ
担当:江口梨奈
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや易
成功報酬:3 G 72 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:05月24日〜05月31日
リプレイ公開日:2005年06月01日
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●オープニング
青年がどういうつもりか木の枝を一生懸命しならせているのを、通りがかった冒険者が気になって声をかけた。
「なにやってるの?」
「いやね、野犬よけの罠を張ろうかと思ってね」
青年が言うには、この先で自分の弟妹達が、怪我をした野ウサギのいる巣を見つけたという。このままでは野犬や、蛇や、その他の大きな動物たちに襲われたらひとたまりもない、だからこうして罠を仕掛けているらしいのだが‥‥。
「どうもうまくいかなくてね」
「コツがあるのよ。ここは軽くして、ここに重りをつけて、‥‥糸を付けて‥‥目隠しをして‥‥それからここも‥‥あれをそうして‥‥」
「へえ、さすがだね。こんな工夫があったんだ」
「あとはこれの範囲を広げたり、本数を増やせば威力を増せるわよ」
「そうか。弟たちにも手伝わせてがんばってみるよ」
「あんまり無理しちゃダメよ。あっちの方でゴブリンを見かけたわ。いずれこの辺も来るでしょうから、気をつけてね」
「ありがとう。あんたも気をつけてな」
通りがかりの冒険者は、そのまま本来の目的地へ向かった。
さて、冒険者ギルドである。
奇妙な依頼があった。
『ゴブリン退治。熟練者求む』
ゴブリン退治にしては破格の報酬額だ。とんでもなく遠い村でも、数がすさまじいわけでもない。歩いてもたった3日先の村で、7〜8匹程度。新米冒険者に任せてもいいようなものなのに、熟練者を指定している。
「なんだ、ウラがあるのか?」
依頼を見た冒険者の一人がギルドの人間に聞いた。
「それが、とても頭の切れるゴブリンらしい。森中に罠をはっているっていうんだ。それもかなり手の込んだ、強烈なヤツを。実は前にも同じ依頼を出されて若い人らが行ったんだけど、ゴブリンを見つける前に大けがをして退散したそうだ。ただのゴブリンじゃないかもしれない」
「へえ‥‥それは不気味だな」
こうしてその村は、今か今かと冒険者の到着を待っているのだった。
●リプレイ本文
たかがゴブリン退治。
呼ばれたのは、数々の凶悪なモンスターをも倒してきた冒険者達。彼らを呼ぶにはそれなりの報酬をも用意しなければならないのに、この村はそれを厭わなかった。
森には罠が仕掛けられている。
以前に依頼を受けた別の冒険者は、ゴブリンの姿を見る前にその罠にかかってしまったのだ。
(「ゴブリンが罠を‥‥? そんなに頭の良いモンスターだったか?」)
エイス・カルトヘーゲル(ea1143)は思った。群れて騒ぐだけで知性を感じられないあの小さなモンスターが、(若いとはいえ)冒険者を追い払うような強力な罠を仕掛けることなどできるのだろうか?
「珍しいですよね〜、聞いたこともありませんわ」
同じことを考えていたのか、クラリッサ・シュフィール(ea1180)は言った。
「もしかしたら、ゴブリン以外の何かが‥‥もっと頭のいいモンスターがいるとしたら‥‥背筋が凍るな、おい」
そう冗談めかして言って、アラン・ハリファックス(ea4295)はわざとらしく体を震わせた。
「それに、威力の大きい罠なんでしょう。このぶんだと人間だけでなく動物にも被害が広がっているのではないでしょうか」
憂えているのはユリアル・カートライト(ea1249)。愛する森が、ゴブリンか、それ以外の何者かが仕掛けた罠で汚されている、それが彼には悲しいのだ。
それを聞いてアリエス・アリア(ea0210)はどんと胸を叩いてこう言った。
「誰が仕掛けたにせよ、絶対に罠は作動させない。それが私たちの役目ですっ♪」
村人達に詳しい話を聞き、その日のうちに森へ入った。あまり人の出入りのない森なのだろう、道はまともになく、草木は茂り放題だ。
「本当に、誰も来ないんですね」
エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)は言った。もしかしたら罠の正体が、猟のための罠ではないかと思って村人に確認を取っていたのだが、そうではないという。人間の入らない森。だからこそ、そこにゴブリンの姿を見たときに彼らは怯えたのだ。この森にゴブリンが住み着き、増えていくかもしれない。そうなる前に冒険者に手を打ってほしいというのが彼らの願いだ。
「そんなに怯えるほどに、増えてないとは思うけどな」
話ではゴブリンの数は7,8匹。増えて行動範囲を広げていたら、この辺にも形跡を残しているだろうが、それが無い。まだまだ大丈夫だと、キット・ファゼータ(ea2307)は考えた。
「油断できないよ。この茂り具合じゃ、ちょっとやそっとのものは見つけにくいからね」
と、アリシア・シャーウッド(ea2194)。彼女は早々に罠を警戒して、落ちていた長い枝で行き先を叩き調べながら進んでいる。だが、少し草を分けても、別の方向から違う草が覆い被さってくる。調べるにも進むにもやっかいだ。
苦労しながらも進み、最初の冒険者達が行き詰まったという場所まで来る。
「確か先の人達は、この辺りまではたどり着いたそうですよ」
一旦そこで立ち止まり、もう一度周囲を見渡す。何もない。伸び放題の草に、本能のままに育った木。人の足から逃げようとする虫に、遠くから聞こえる鳥の羽ばたき。それ以外は何もない。人の気配も、ゴブリンの気配も。
「ねえ、あれは?」
アリエスがある方向を指さした。
短い丸太が転がっているのが見えた。
「自然の倒木じゃ‥‥ないみたいだね」
アリエスは注意深く、それに近づいた。数本転がっていて、どれも刃物を使ったような切り口だ。さらによく見ると、太い紐と細い糸がくくりつけられていた。
「‥‥あ‥‥あそこ」
エイスが何かを見つけたようだ。彼の指さす頭上に、太い枝があり、その皮がこすれたように破れていた。
「わかったわ、あの枝に紐をひっかけて、振り子のようにしたのね‥‥だからこれはもう、作動して終わった罠なのね」
そう、アリシアは分析した。更に言うなら、使えない罠を放置したままというのは、玄人のやることとは思えない。
「この詰めの甘さ、やっぱりゴブリンの仕事なのか?」
キットは思った。だが、その考えが間違っているとわかった。
それは次に、落とし穴の罠を見つけたからだ。
かなり深く掘られた穴、底には先を尖らせた枝が何本も上を向いて固定されていた。鋭い槍のような枝は、1匹のゴブリンを串刺しにしていたのだ。
「ひっ‥‥」
思わず口を覆う。まだ落ちて間がないのか、血は乾いていなかった。息はしていない。
「なんてこと‥‥!」
ああ、ゴブリンが死ぬほどの罠なのだ。生きて帰った前の冒険者達は幸運だっただけなのかもしれない。なんて危険な罠が、ここには潜められているのだろう。
「これ以外のゴブリンは? まだ仲間がいたでしょう、あとのゴブリン達はどこへ行ったの?」
ユリアルは穴の真横にある木に、時間の限り聞けることを聞く。木は教えてくれた。ゴブリンの仲間達は罠を知り逃げていった、それはついさっきのことだと。
「まだ離れていないはずよ!」
木が教えてくれた方角に、冒険者達は進んだ。だが、追う道には罠が待ちかまえている。
「やっかいだわ」
見えない糸が張られていないか、枯れ葉を投げつける。
落とし穴が無いか、長い枝で地面を掃く。
石が何かを押さえていないか、不自然な杭が飛び出していないか、枝ではない何かが頭上に無いか‥‥おそらく事前に、ここに罠があることを知らされていなかったら、これらは見抜けなかっただろう。避けながら、時にはわざと作動させ、ゴブリンを追い続ける。
その音に、ゴブリンも気づいたのだろう。
いよいよ追いつかれたと知ったのか、7匹のゴブリンがこちらを向いて待ちかまえていた。
「おでむかえか? ごくろうさまだ」
皮肉な言い方をして、アランは鼻で笑った。
ゴブリンは興奮しているのか、ギイギイ気味悪い声を上げながら、棍棒を振り上げてきた。
爛々と燃える眼の瞼を閉じさせるように、エヴァーグリーンはスリープを唱える。ゴブリンはとたんに倒れる。
「あなた達も寝てしまいなさい」
ユリアルは足下の草に命じ、ゴブリンの足を捕らえさせた。
ぐねぐねと草が動く。だがその草が、ある部分をかすった。
「あっ!!」
紐が蛇のように幹を駆け昇っていく。同時に、枝の間から石が雨となって落ちてきた。
「あぶな〜い!!」
クラリッサが飛び出して、その礫を盾で受け止める。衝撃はかなりのものだ。腕がしびれてくる。
ゴブリンが、これほどの石を、あの高さへ運び、その真下へ自分たちを誘い込んだのだろうか?
否。
ゴブリンはうろたえていた。この罠の存在を知らなかった、そんな反応だ。
「こんなイイ罠をしかけたのがおまえ達だったら、褒めてやったところだが‥‥しょせんただの畜生だったってことだな!」
アランはそう言うと同時に、ゴブリンにとどめを刺した。冷静さを欠き、がむしゃらに向かってくるだけのゴブリンは、彼の敵ではない。
「‥‥ごぶりん‥‥ごとき‥‥まけられない」
「おまえたちなんぞ、ナイフ1本で十分だ!」
ゴブリンの数は減っていく。6匹、5匹‥‥ついにはゼロになる。
村人が見たという、この森に巣くうゴブリンは、これでいなくなったはずだ。
しかし、疑問が残る。
この多種多様な罠を仕掛けたのは、いったい誰かと言うことだ。
「猟の罠じゃない、相手を傷つけるためだけが目的の罠みたいですから」
これまでの罠をエヴァーグリーンは振り返る。大小の穴、落下物、柵、棘、などなど‥‥しかもそれは、作ったら作りっぱなしの、まるで作ることそのものが楽しいかのような無責任な作り方だ。
「こんな危ない物を作るなんて〜。作った人に一言注意したいですね〜」
クラリッサはそう言うが、けれど最後まで、罠の作り主はわからなかった。
この森に普通の村人は出入りしていないことが不幸中の幸いだ。冒険者達は潰せるだけの罠を潰し、これが作り直されないことを期待して、村へ報告に下りたのだった。