アレザンの両親からの依頼
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■ショートシナリオ
担当:江口梨奈
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや易
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月08日〜06月13日
リプレイ公開日:2005年06月15日
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●オープニング
なんて綺麗な娘だろう!
透き通る肌、光る金髪、紅色の瞳。すらりとした指。
‥‥だが、その娘・アレザンの美しさは不幸な理由による。生まれつきの体質で、太陽の光を浴びることが出来ないというのだ。昼間に長く陽に当たれば、肌は赤くただれ、目は痛くて開けていられなくなる。
それでもアレザンは己の運命を嘆かず、素直で優しい女に育った。隣村の青年に求婚されるほどに。
近いうちに輿入れも行う。青年は事情を重々承知しており、夜にそれをするという無礼を許してくれた。
「そう、アレザンを嫁がせるためには、夜に隣村へ行かなければならないのです」
父親は哀しそうに言った。
「何がそんなにお困りなのですか?」
依頼を受けた冒険者が聞く。
「あの道は、夜は危ないのですよ」
隣村までは山をひとつ越える一本道を通らなければならない。昼間通るには、何の問題もない。その証拠に、青年は頻繁にここを通ってアレザンに会いに来ていたのだ。
夜になると、山は全く表情を変える。
巨大なフクロウが跋扈する、恐ろしい闇の世界となるのだ。
なるほど、そんな危険な道を、アレザンに通させるわけにはいかない。
ならばと、陽のはいる隙間を無くした輿を用意して、昼間に通ってみては、と考えたが。アレザンは光だけでなく、熱にも耐えられなかった。ましてや隙間を塞いだ、いわば密室は、普段以上に熱がこもってしまったのだ。
「どうぞ、娘を無事に隣村まで連れて行って下さい。お願いいたします」
●リプレイ本文
嫁入りの馬車は豪華な金銀の細工で縁取られ、何重にも花を散りばめていた。
純白の衣に身を包んだアレザンは、父親に手を引かれ、集まった親戚達の拍手を受け手、ゆっくりと馬車の中に入った。
「ご結婚おめでとうございます」
コルセスカ・ジェニアスレイ(ea3264)は言った。だが、今はまだ短いその挨拶だけにとどめた。今夜、無事に隣村へ届けてから、続きはそれからだ。もちろん、その自信もある。シュナ・アキリ(ea1501)にとってもそれは同じだ。
「道具もアンタも、しっかり旦那のトコまで連れてってやるから安心しな」
と、歯を見せて笑いかける。
「そうよ、任せておいて」
アリア・バーンスレイ(ea0445)はおそらく、アレザン以上に婚礼を成功させたいと思っている。なぜなら彼女は近々、花嫁となる予定があるというのだ。同じ女として、嫁ぐ者として、今のこの喜びを汚されたくないと願うのは当然であろう
「お父様、お母様、行って参ります」
「幸せになるんだよ。向こうのご両親を大切にな」
親子は別れがたそうに、何度も抱き合う。けれど、そろそろ出立の時間だ。チップ・エイオータ(ea0061)は、アレザンの母親に渡された、これまた豪華なランタンに火を入れた。
「じゃあ行ってくるよ」
必ず無事に送り届けると約束して、チップは先導するように進み出た。
2台の馬車と、それを取り囲むいくつもの灯りで、そこだけがまるで昼のように明るかった。
「大丈夫かアレザン、眩しくないか?」
ランタンを持って周りをぐるぐると回っている風霧健武(ea0403)は、灯りがアレザンに負担をかけていないかと心配になる。
「私が今、レジストサンズヒートが使えたら良いのですけれど」
と、アクテ・シュラウヴェル(ea4137)が気にかけてくれる。太陽光を遮る魔法をアレザンが使えればよいが今すぐには無理だ。アクテが使えるのであれば、この眩しさも遮ってやれるのに、残念でならない。
アレザンは大丈夫だと答えた。そう、これほど明るくても、太陽の光に比べたらまだまだ暗いのだ。
「インフラビジョンを‥‥無駄遣いも出来ないもんね」
アリシア・シャーウッド(ea2194)が少し顔を上げると、そこには光の届かない闇が広がっている。どんなに視力が良くてもこの暗さでは、あそこにもしジャイアントオウルがいても気付きようがない。こういう時に役に立つのがインフラビジョンだが、あてずっぽうに使っていては、この長い道のり、最後までは保たない。
「向こうからは、こっちが丸見えなんだろうな」
煌々と照らされる一行。フクロウでなくとも、見つけてしまうだろう。わずかの気の緩みも許してはならないと、フィル・クラウゼン(ea5456)はいっそうの気合いを入れた。
華やかな一行は進んでいく。
しかし、森はどこまでも闇だ。ねずみ1匹通りがからない。灯りを目掛けて蛾のような茶色い小さな虫が寄ってくるだけだ。
せっかくの輿入れがこんな陰気な雰囲気では可哀想だと思ったのか、馭者が鼻歌を歌い出した。村に伝わる祝い歌だという。もちろん、侍女たちも知っていて、一緒に歌い出した。アレザンも手拍子をする。それで少しだけ、行列は賑やかなものとなった。
だから、ジャイアントオウルは見つけやすかったのだろう。
それまで何もなかった森から、すっと一筋の風がよぎった。
「何、どこから‥‥」
健武が辺りを見回す。確かに、何かの気配がした。一瞬感じた風は、一瞬で消えてしまったが、何かが近づいてきたことは確かなのだ。
「アクテさん、インフラビジョンを」
夜目が利くようになったアクテは、360度、真っ暗な中を探す。と、少し離れた所に、巨大な生き物の赤い影を見つけることが出来た。
数はひとつ。しかし、あまりにも大きい。まるで獣が木の枝にしがみついているようだ。
「こちらの様子を伺っているということでしょうか‥‥」
コルセスカは従者たちに急いで車両に隠れるよう、言った。馬にも大人しくしておくよう鼻を撫でて言い聞かせ、ホーリーフィールドを生み出すための詠唱を始めた。冷や汗が出る。今、この瞬間にも、巨大な生き物がこちらに飛びかかってくるかもしれないのだ。
「灯りはあたしが」
シュナの手にランタンが渡される。そうして、皆の手を自由にしてやるのだ。
ここでジャイアントオウルを迎え撃つつもりだ。
つまり、今、彼らはこの場所で静止していることになる。
それがジャイアントオウルにとっては好機と思ったのだろう、逃げようとしない獲物を目掛けて、静かに枝から離れたのだ。
「来る!」
チップとアリシアはそれぞれの弓を構え、ジャイアントオウルが射程に入るのをじっと待った。相手は縦横無尽に飛び回るフクロウだ。この矢を射るのと、爪でえぐられるのと、どちらが早いだろうか?
「今だ!」
フクロウの位置を捉えているアクテの合図で、二人は射る。
矢は、木の幹に当たる音がした。
同時に、大きな羽音が聞こえた。
羽を擦ったのか? それで、フクロウは羽ばたきの形を変えたのか?
「当たってない! また来るよ!!」
たかがあの程度の反撃で怯むはずがない。
大きな音を出していた羽は、また静かになった。旋回し、体勢を立て直したのだ。
長引かせたくはなかった。
闇に潜むフクロウを捉え続けるのも、花嫁達を守るのにも時間の限界がある。次にフクロウが姿を見せたら、そこで仕留めなければ勝ち目はぐっと減るだろう。
フィルは盾をぐっと握り、コルセスカを守るために前に立つ。彼女は今、コアギュレイトを発動させるための詠唱を行っていた。
ランタンの光の中に、鋭い爪が入ってきた。
それから、太い脚が。
毛むくじゃらの腹が。
醜く曲がった嘴が。
空を覆ってしまうような羽が。
しかし、その羽は動いていない。
成功だ! コアギュレイトがフクロウの動きを封じたのだ!
「一気に決める!!」
アリアは渾身の力をこめて、剣を振り下ろす。
全ての魔法が解ける頃には、この夜の支配者は、起きあがることは出来なくなっていた。
森を抜けたあたりから、新郎の使いだという人々が道の両脇に立っていた。
「よくぞご無事で!」
「お待ちしておりました!」
遅い時間だというのに人の数はどんどん増え、馬車も冒険者達もすっかり囲まれてしまった。
全ての部屋と庭の隅々まで灯りを付けている屋敷があり、それが新郎の家だった。
正面の門の前で、正装した青年が青い顔で待っていたが、無事の到着を知るとそれがみるみる紅潮した。
「こっちは死ぬ思いで連れてきたんだ、死ぬまでアレザンの面倒見てやれよ」
囃すようにシュナは、青年の胸を小突いた。青年はもちろんだと言わんばかりに小突き返す。
「さあさあ、婚礼の始まりだ! 今夜は飲んでくれ、歌ってくれ!!」
「よおし、おいらもお手伝いだ」
「あたしも手伝うわよ」
アレザンの婚礼を祝いたいという気持ちがどんどんあふれてくる。冒険者達はこの幸せな宴に少しでも関わりたいと、進んで手伝いを申し出てくれた。
宴会は真夜中まで続く。誰も彼もすっかり酔っぱらって上機嫌で、歌も踊りも止まる気配がない。
「もうお腹いっぱい〜。あ、でもこの焼き菓子おいしそう。いただきまーす」
「少しは遠慮したらどうだ」
アリシアの健啖ぶりに健武は呆れている。
「出されたものは食べない方が失礼なの」
「そうは言うが、周りを見てみろ」
「周りだって同じようなものだよ」
どうやら周りはアリシアの味方のようだ。コルセスカ達も手伝った料理はいっそう豪華になり、皆の舌を喜ばせていたのだ。
「こんな果物の切り方、いいよね。卓が映えるし」
見るとアリアは宴のすみずみにまで興味津々だ。何を考えてのことかは、アリシアはちゃんと分かっている。だから、こんなふうにからかってやったのだ。
「‥‥そういえばさー。アリアもそろそろ結婚式だよねぇ‥‥ねえ義姉さん?」
「ね、義姉さんだなんて、まだ早ッ‥‥」
「ああもう、照れない照れない。ここでアレザンさんの幸せを分けてもらって帰ろうね」
「え、あ、うん、そうだね‥‥」
白い肌に輝く金髪に紅の瞳を持つ花嫁は、豪奢なドレスのせいだけでなく、とても美しいかった。
それはもちろん、隣に愛する男性がいるからに他無いのだ。
冒険者達は何度も何度も、二人の永遠の幸せを祈っていた。