牛飼い親子からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 48 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月14日〜06月19日

リプレイ公開日:2005年06月20日

●オープニング

 突然現れた巨大なモンスターは、右手にあった棍棒をひゅっと振り上げ、ノーギュレンスがついさっき買ってきたばかりの牝牛の頭を叩きつぶしてしまった。
「ひ、ひええっっ!!」
 よくノーギュレンスは無事だったものだ。怪物が牛をばりばりと食べている隙に、何度も転びながら村へと逃げ戻ったのだ。
「どうしたんだ、ノゥ」
「トロルだ、トロルの奴が現れた!」
「なんだって!?」
 話を聞いた父親が、息子と一緒にトロルが現れた場所へ戻る。トロルはこちらに背中を向けて食事を続けており、食べ終わった骨を無造作にその辺りへ散らかしていた。
 そこへ、ウサギらしい小さな動物が現れて、横をすり抜けようとした。
「あっ、あぶない‥‥」
 しかしトロルは、そんな歯の隙間にも挟まらないような獲物には興味がないらしく、振り向きもしなかった。

 困ったのはノーギュレンス達だ。牝牛はどうしても必要だし、隣村へ買いに行かなくては手に入らない。だがそれも、あと1頭買うのが精一杯だ。今度買いに行って、また食べられてしまっては、次は自分と家族が飢えてしまう。
「俺1人なら、違う道を通って行くことも出来るけど、牛を連れていたんじゃ、あの道を通るしかない‥‥」
「よし、ノゥ。おまえが行っている間に、わしはギルドへ行くよ。冒険者なら、トロルを倒すぐらいわけないだろう。戻るまでに退治して貰えるよう、頼んでおくからな」

●今回の参加者

 ea0836 キラ・ヴァルキュリア(23歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2155 ロレッタ・カーヴィンス(29歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2179 アトス・ラフェール(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5456 フィル・クラウゼン(30歳・♂・侍・人間・ビザンチン帝国)
 ea5866 チョコ・フォンス(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6914 カノ・ジヨ(27歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ガノッサ・ランドール(ea5611

●リプレイ本文

 さて、問題はトロルの居場所である。
「居場所はわかってるんだろ? なら、急いで行くべきだな」
 ギルドから到着したばかりだというのに、フィル・クラウゼン(ea5456)は立ち止まりもせずに言った。
「その、買った牝牛か、それをまだ喰っているのか?」
「いやいや、落ち着いてくだされ。うちの息子が襲われたのは何日も前じゃ」
「そうよ。とっくにどっかに行ってるわよ」
 と、チョコ・フォンス(ea5866)
「でも、その道のあたりを縄張りにしているんでしょうね」
「もしかしたら、道に沿って、この村のそばまで近づいているかも知れませんわ」
 ユリアル・カートライト(ea1249)とロレッタ・カーヴィンス(ea2155)も、顔を見合わせてそんなことを言う。
「餌を探して‥‥じゃあ、まさか牛の次はこの村の人を食べるとか!?」
 カノ・ジヨ(ea6914)は背中の羽をばたばた震わせる。牛を食べるなら人間も一口で食べそうだし、ましてやシフールの自分など丸飲みにされてしまうのではないか!
「おいおい、怖いことを言わんでくれ」
「ああ、ごめんなさい、つい」
「いえ、驚かすつもりではないのですが、トロルを侮ってはいけませんよ。とにかくとてつもなく強い。買った牛も、一撃で潰されたのでしょう?」
 カノぐらいに大げさでなくても良いが、すぐ近くでトロルが現れていることに楽観的すぎてもいけないとアトス・ラフェール(ea2179)は忠告する。
「‥‥用心に‥‥越したことはない」
 長寿院文淳(eb0711)も同意見だ。
「ところでお父さん、息子さんはどのくらいで帰ってくるのかしら?」
 キラ・ヴァルキュリア(ea0836)が尋ねた。依頼の目的は、ノーギュレンスが戻ってくる前に道を開けてやることだ。のろのろ動いて間に合わなかった、では話にならない。
 ノゥが戻って来るのはまる1日後ぐらいだという。
「あまり時間がないのね。お父さん、早速ですけど、最初にトロルを見た場所を案内して頂けませんか?」
 請われて父は、問題の場所まで歩いていった。
 そう、歩いていったのだ。
 馬は置いていった。牛に続いてトロルの餌にされては敵わない。

 深く暗い森をまっぷたつにするかのような、広い道がある。何年も何十年もかけて人が歩き続け、踏み固められたものだ。周りは険しい山にもかかわらず、そこだけが明るく平らになっている。牛でも馬でも通り放題だ。
 ノゥの牝牛が喰われた場所まで来た。骨ぐらいは残っているかと思ったが、もう何も無かった(おそらく、骨にこびりついたわずかな肉を狙って他の獣が持ち去ったのだろう)。
 トロルの足跡といったものもなく、どこへ行ったかも分からない。チョコがブレスセンサーで辺りをうかがうが、近くにはいない。
「野営の覚悟もしなくちゃいけないかな?」
 カノはこれまでの経緯を見てそう思った。時間がかかりそうだ。もしかすると夜になってしまうかも知れない。トロルは夜に動いただろうか? それ以外のモンスターが出てきやいないだろうか? 何一つ、油断できない。
「どちらにせよ、火は作っておきましょう」
 ロレッタは言った。トロルを相手にするには、火が重要だ。詠唱に時間が取られる魔法ばかりに頼るのではなく、予め火を作っておいて損はない。
「もう少し後にしませんか? 火を警戒して、近寄らなくなるかもしれませんし」
 自分たち自身がトロルを呼び寄せる囮になるのだから、よりおいしそうに、食べやすそうに見せなければならない。この戦いは心してかからなければならないと考えているユリアルは、念には念を押したかったのだ。
「‥‥日暮れまでまだしばらくある‥‥今はとにかく、動きましょう‥‥」
 文淳に言われて、皆の意見は一致した。まずはトロルを見つけること、それが何よりも大事だった。

 おそらくトロルは、この藪のどこかから、この道を見ているのだろう。身を隠す場所が何もないこの道に、逃げ場のないこの道に、獲物がのこのこ顔を出すのを待っているのだろう。
 冒険者達は並んで歩き出した。小さな魚がひとかたまりになって大きな魚に見せかけるように、トロルにとって食べ応えのある獲物に見せかけるように、肩をくっつけ合って歩き出した。
「ノゥ本人がいれば、トロルが現れた時の状況を知れたかもしれないわね」
 あたりの雰囲気を探っているキラは、同時にそんなことを呟く。大きな物音がしたのか、何の気配もさせずに近寄ってきたのか。
「まさかあんな大きなモンスターが、気配もさせずに来るなんて事はないでしょう?」
「それでも逃げる間もなく牛を殺されたのだから、意外と俊敏なのかもしれませんよ」
「いーえ、普通の人ならトロルなどみたら体がすくんで動けないのは仕方ないわよ」
 誰もがこれまでの冒険の中でまともにトロルを見ていない。アトスですら、遭遇しただけだというのだ。知識だけでしか知らないモンスター。それといよいよ出会うということは、恐怖でもあり、同時に楽しみでもあった。
「力試しにはちょうどいい」
 あのフィルの表情がわずかに綻んでいる。強い相手と出会えることがそれほど待ち遠しいのか。大斧はいつでも振り上げられるように、しっかりと握られていた。

 遠慮のない足音だ。大股で、弾むようにこちらに近づいてくる。
 バキバキと、木の枝が折れる。
「アトス、あなたに神の祝福を!」
 キラは素早く、アトスにグットラックを施した。これから彼が唱える魔法がより強く効果を得るよう祈って。
 アトスは、音の方向をしっかりと見据えて、詠唱を始めた。
 彼の狙いは、トロルの拘束。
 どす黒い皮膚をした足が道に付いた、それと同時に魔法は発動した。
「コアギュレイト!」

 足を絡め取られたトロルは、そのまま前のめりに倒れ込む。
「まずは一発!!」
 フィルが飛び出した。この時を待っていたのだ。肩をめがけてウォーアックスで斬りかかる。
「次! 時間を空けるな!」
 トロルの恐るべき能力は、その再生力だ。わずかな傷ではみるみる回復してしまう。その隙を与えず、間断なく叩き斬っていかなければ。
「らいとにんぐぅーさんだぁーぼるとおおお!!」
 チョコの稲妻が、割れた肩口に向けて落とされる。鈍い悲鳴を上げるトロルの腕は、もう少しでちぎれそうだ。
「治させちゃ駄目よ」
 カノの手には火があった。これで燃やしてしまうつもりだ。
 しかし、シフールのカノが持つ火は、小さすぎる。
「こっちの方が手っ取り早いですよ」
 そう言ってユリアルが出したのは、油。
 思いっきり投げつけると、トロルの肩を中心にそこら中に飛び散った。
「カノさん、それを放って、離れて」
 トロルは瞬く間に燃え上がった。
 こうなれば、トロルはひとたまりもない。
「もう少し時間があれば、命を奪わずに退けることも出来たかも知れなかったのですが‥‥」
 焼けるトロルに、ロレッタは祈りを捧げる。今回は時間がなかった。夜が明ければ、依頼人の息子がこの道を通るのだ。新しい牝牛を連れて。
 焦げた腐臭を残して、怪物はこの世界から消滅した。

 ノゥは頭痛が止まらなかった。
 冒険者を信用していないわけではない。けれど、父親に任せっぱなしで、どんな人が来たかも分からないし、何人が受けてくれたのかも聞かされていないのだ。
 もし、誰も依頼を受けていなかったら。
 トロルはまだぴんぴんしていたら。
 そんなことを考えると、この数日眠れなかった。前の牝牛が殺された場所が近づくと、今度は胃が痛くて吐き気まで覚えた。
 しかし、その不安は吹き飛んだ。
 明るい笛の音が聞こえてきたのだ。
 笛の主は、こちらに気が付いた。
「‥‥あの人がノーギュレンス殿か‥‥?」
「毛並みの良い牝牛を連れてるよ」
「おーい、おかえりーー」
 8人の冒険者が、こちらに向かって手を振っていた。
 ノゥもまた、負けじと手を振り返した。