パーティーのある屋敷からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:2〜6lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月29日〜07月04日

リプレイ公開日:2005年07月08日

●オープニング

『一芸に秀でた冒険者求む』。
 芸とは、余興に使えるものなら何でもよい。歌でも、演奏でも、剣舞でも、珍しい話でも。
 ラージ家の長女、マリゴールド・ラージの6歳の誕生日パーティーにふさわしいものであるなら、何でもよいのだ。

「誕生会でもありますが、同時に、ラージ家の相続人披露会でもあるのです」
 依頼主でもあるマリゴールドの母親が言った。
「マリの父親は先月亡くなりました。それで長男が継ぐはずだったのですが、不慮の事故で」
 『事故』と母親は言うが、ぎゅっと下唇を噛んでいる。彼女はそれを事故とは思っていない。
「ラージの名は小さくありません、それを欲しがるものも多くいるのです」
 マリゴールドのきょうだいは死んだ兄だけではない。母親の違うきょうだいが、まだ数人いるのだ。今度のパーティーには、愛人たちも、その子供たちも顔を出す。何かたくらんではいないか、母はそれを恐れている。だからといって、仰々しい護衛をずらりと並べる披露会などというものは無粋極まりない。それにマリゴールドにとってこれは『誕生会』なのだ。少しでも楽しい思い出は作ってやりたい。
「お披露目さえ終えればマリは正統な相続人と認められます。どうか、それを終えるまで、あの子を守ってください」

●今回の参加者

 ea0943 セルフィー・アレグレット(18歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea2767 ニック・ウォルフ(27歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea5034 シャラ・アティール(26歳・♀・ファイター・人間・インドゥーラ国)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0835 ロゼッタ・メイリー(23歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb1224 グイド・トゥルバスティ(29歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

「マリ、マリ。今日のお化粧をしてくれる人が来てくれたわよ」
「初めまして。ニックだよ」
 誕生パーティー当日。マリゴールドの控え室に入ったニック・ウォルフ(ea2767)は、まず自己紹介をし、それから祝辞を述べた。マリは恥ずかしいのか、初めて会う少年に対してもじもじとしていたが、ニックがドレスの山を運び込むと、とたんに笑顔になった。
「ほら、きみのママはこんなに用意してくれたよ。好きなのを着て。どんなドレスにもばっちり合わせて化粧をしてみせるよ」
 おおはしゃぎするマリ。母親のポピーはその様子に安心して、あとはニックに任せると、部屋を出た。
 ポピーは次に厨房を覗く。昨日から料理人が何人も出入りし、てんてこまいだ。夫人が来たのに気付いた一人が、わざと聞こえるような独り言を言った。ああ、急にガキに場所を取られて、邪魔だったらありゃしない、と。
 申し訳なさそうに目を伏せ、厨房の隅へ行く。そこではロゼッタ・メイリー(eb0835)が黙々と祝菓子作りを続けている。
「ごめんなさいね、こんな場所で」
「いいえ、こちらこそ無理を言って申し訳ありません」
 他の料理人達は、ロゼッタが冒険者とは知らない。マリはじめ家の者には依頼のことは教えていないのだ。なので彼らの目には、ロゼッタは、夫人が気まぐれで呼んだ職人と見えているのだろう。とっくにパーティーのための段取りは済ませて、菓子の数も種類も決めているのに、余興のためか知らないが、何て手間を増やしてくれるのだろう、と思われていた。
 依頼のことは知らせない、というのはグイド・トゥルバスティ(eb1224)の発案だ。第一の理由はマリのことを考えて。彼女には、純粋に今日のパーティーを楽しんでもらいたい。使用人達に知らせて雰囲気が変わってしまう可能性もあるし、彼らの中に親戚の息がかかっている者がいないとも言い切れなかった。
 だから、グイドが使用人達から、親戚の話を聞き出すには苦労した。突っ込みすぎて勘ぐられてもいけない、だからといって遠慮すると肝心の話は聞けない。呼ばれた異国の奇術師と名乗り、文化の違いによる不慣れを理由に、行き交う使用人を捕まえては声をかけていた。
「6歳の女の子が当主だって?」
「ああ。兄君が亡くなられてね」
「いろいろあるんじゃないか?」
「おっと、滅多なことは口にするんじゃないよ」
 使用人は口が堅い。それは逆に、裏に何かあることの証明だ。ラージの後継者を快く思わない者がいる、口にせずとも、皆が知っている。

 門が開かれ、招待客が徐々に集まり始めた。
 彼らを出迎える、可愛らしい楽団がある。
 長寿院文淳(eb0711)が横笛を、セルフィー・アレグレット(ea0943)が竪琴をそれぞれ演じ、それに合わせてシャラ・アティール(ea5034)は文淳から借りたメタルロッドをダンスの相手のように使って飛んだり跳ねたり踊って見せた。
 会場には料理がきれいに並べられ、給仕が客に酒を注いで回っている。離れた場所では別の楽団がおり、彼らもまた人垣を作っては歓声を上げさせている。煌びやかなドレスを身に纏った艶やかな女性達も増え、会場はみるみる賑やかになっていった。
 その中で、ひときわ派手なドレスの婦人が現れた。スカートの部分に幾重にもフリルを縫いつけて、南国の鳥のような色で染め上げている。年輩ではあるが、色気を匂い立たせている女だった。
「綺麗な方ですね、どなたなんでしょう?」
 いかにも興味を持ったように、セルフィーは近くの人に聞いた。
「マリゴールド様のお姉様の、ご母堂ですわ」
 平たく言えば、ラージ氏の愛人だ。しかも格好から判断するに、第二夫人と言い換えてもよいほどの影響力を持っていそうだ。
 その『ご母堂』は、じろりと辺りを見て、口元を扇子で隠しながらも大きな声で言った。
「まあ、ここの奥様は礼儀もご存じないのかしら、出迎えもしないなんて」
 それに合わせて、周りから、そうだそうだと会話に加わる女達がいる。皆、似たような派手なドレスを着ていた。
「うわあ、露骨だねえ」
「‥‥あまりジロジロと‥‥見ない方がいい‥‥」
 3人は気にしない素振りをしながら、同じ演奏を続けていた。
 間もなく、夫人が現れた。ごきげんよう、よく来て下さいました、と挨拶をして回っている。いよいよ、愛人軍団の前になった。
「ようこそいらっしゃいました」
「かわいいお嬢様の誕生日ですものね、そりゃあ何があっても飛んできますわ」
「ありがとうございます」
 ポピーも負けてはいない。ここで物怖じするようでは、ラージ夫人は務まらない。女達の間に火花が見えた。

 予定の時間になり、マリが姿を現した。
 今宵の主役はまだ6歳。こんなにたくさんの人の拍手に出迎えられることなどないから緊張しているのではないかと思ったが、マリはあまりにも可愛らしく着飾って貰えたので、それを自慢しようと堂々と歩いていた。
「皆様、ありがとうございます。マリゴールドは今日で6歳、そして同時にこのラージ家の当主となります。これより皆様の元へご挨拶へ参ります」
 ポピーが挨拶をし、マリが「乾杯」と言うと、会場は一気に盛り上がった。
 これからだ。
 これから、マリが親戚達とぐっと近づくことになる。
 壇を降り、倍の背丈の大人たちへ近づいていくマリ。その隣にニックはさりげなく付いていた。マリの髪が少しでも乱れたら、その場で直せるように、という口実で。
 順々に挨拶を済ませるマリ。と、セルフィーたちの近くを通りがかった。
「あの、その‥‥お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
 返事をし慣れたのか、微笑んで答えるマリ。
「僭越ながら、この曲を贈ります。聞いて下さい」
 セルフィーは、文淳に目配せして、竪琴を弾き出した。文淳は、ジャパンの曲らしい音を奏でる。どうやら目出度いときに演奏する曲なのらしい。変わったリズムの音楽をマリは気に入り、体を左右に揺らしていた。
「マリゴールド様、おめでとうございます」
 演奏が終わると同時に、今度はロゼッタが、焼き上がった菓子を運んできた。
「うわあ、いい匂い」
「たった今焼き上がったばかりですよ。どうぞ、みなさまも」
 マリがおいしそうに食べるのを見て、他の子ども達も手を伸ばす。しばらくマリの周りは、大人以外の人たちで賑わった。

 その様子を遠くから憎々しげに見ている女がいる。
「ああ、いやだ。さっきから余所者が、あの子のそばにべったりいるじゃないの」
 南国鳥のような女は、爪を噛んでいた。
「お声が大きいですわ」
 隣にいる女がたしなめた。
「分かりゃしないわよ」
 ちらりと、そばにいる男を見た。そこにいるのはグイドだ。言葉も分からないふりをして、にこにこと愛人のそばにいた。
「アナタ、楽しくなさそう。オレの手品、見るカ?」
 大げさなほどたどたどしい言葉で、グイドは女に近づいた。女の返事にかまわず、グイドはハンカチから色々なものを出したり、逆に消したりしてみせた。
 最初は興味なさそうに見ていた女も、時々面白そうにこちらを向いている。
「じゃあ今度は、もっと大がかりなのをしてみせようか?」
 グイドはシャラを呼んだ。シャラは、メタルロッドを持って寄ってきた。
「あんたにも手伝ってもらいたいな、こちらで準備してくれる?」
 グイドとシャラは女を誘い、広間を出た。
 誰の目にも付かないそこで、二人は女に何を言ったのだろうか? 穏便に引き取って貰うよう頼んだのかも知れないし、あのロッドを押しつけて言葉汚く脅したのかも知れない。全ては部屋の外でのこと。誰も何も聞いていない。真っ赤な顔になった南国鳥は、レディとは思えない下品な足音を立てて、広間からいなくなった。
「おばさま、どうしたのかな?」
 マリは不安そうにその後ろ姿を見送る。
「きっと用事を思い出したんでしょう」
「‥‥マリ様、次の曲はどんな風がよいですか‥‥?」
「よろしければ、こんな曲など」
 新しい曲が流れる。
 それに合わせて踊り出す者もいる。
 マリのそばに寄ってくるのは、笑顔で「おめでとう」を言う優しい大人ばかりだ。
 パーティーは無事に終わった。
 ラージ家の新しい当主が誕生した。