セーラ嬢からの依頼
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■ショートシナリオ
担当:江口梨奈
対応レベル:7〜11lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 45 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月13日〜07月18日
リプレイ公開日:2005年07月21日
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●オープニング
あれは3年ぐらい前だっただろうか。隣村に有名な少女がいた。まだ14歳の若さで冒険者として世界中を駆け回り、どこかの武闘大会か何かで優勝したことで一躍その名が広まったのだ。
「あたしと同い年なのに、なんてすごいんだろう、どんな子なのかな?」
少女が隣村に戻ると聞き、セーラは野次馬気分もあって顔を見に行くことにした。
同じことを考えている人は多いもので、少女が凱旋のその日、村中の人が集まっていた。
ぎゅうぎゅうの人垣、それでもセーラは掻き分けて前に出ようとする。
「きゃっ」
しまいには人混みに押され、みっともなく転んでしまった。
「大丈夫?」
人混みの中心にいる、あの少女が声をかけた。
大丈夫です、そう言いかけて驚いた。おそらく、少女も驚いている。
セーラと同じ顔をしていたのだ。
「そして先月です。母が亡くなる前に、教えてくれました。私には、双子のきょうだいがいると」
セーラは集まった冒険者達に話し始めた。この地方に古くから伝わる風習のことを。
双子は、家を分裂させる不吉な存在だと思われていた。だから双子を生んだ家は、その片方を他の家へ遣ってしまうのだ。
その、受け入れる側の家では、養子は『子を増やすことが出来るほど金持ち』の象徴として、決して悪い扱いは受けていないらしい。養子にやったりもらったり、お互い様ということなのだろう。
ともあれ、冒険者の少女‥‥名をシェリーというらしいが、彼女は貰われ先で何不自由ない暮らしをしていた。養父母を実の両親のように慕い、逆に今更、別のオジさんオバさんに名乗りを上げられても迷惑だと思うほどだった。
だが、幼いときに父を、そして先月母を亡くしたセーラにとって、シェリーは今やたった一人の肉親なのだ。出来ることなら姉妹として一緒に暮らしたい、だから戻ってきて欲しい、それが願いだ。
そう思ってシェリーの養父母を訪ねようと思ったが、誰なのか分からない。母はそれを言う前に帰らぬ人となったし、隣村で尋ねても、教えてはくれなかった。
「シェリーはこの村の宝だ。17年も放っておいたあんたに渡すわけにはいかないし、シェリーも『もし来たら追い返してやる』って言ってたよ」
隣村の人たちは、シェリーとその養父母の味方だった。急に現れた『シェリーの姉妹』の話など、聞いてくれなかった。
ああ、でも、冒険者なら?
シェリーのように名の知れ渡った冒険者なら? 隣村の人も心を開くかも知れないし、シェリーも『追い返す』なんて乱暴なことはしないかもしれない。
セーラはギルドに依頼を出した。
『隣村で私の双子のきょうだいを見つけ出し、彼女を連れてきて欲しい』
●リプレイ本文
「やあ、こんにちは」
村に入ったその冒険者は、近くで畑仕事をしていた老人に声を掛けた。
「こんにちは」
返事をしつつも、老人は、見慣れない集団に訝しげな顔をする。
「イヤハヤ、イギリスでも夏は暑いですなあ」
額の汗を拭い、扇子で風を作りながら、とれすいくす虎真(ea1322)はかまわず話を続けた。
「この辺のお方じゃないのかな?」
「ああ、冒険者ギルドの仕事でな。もう少し先の村へ行く途中だ」
ミケーラ・クイン(ea5619)は、そう答えた。
『違う依頼のために移動中の冒険者』、それがこの村へ入るための彼らの口実だった。
「ほう、とすると、おたくらは冒険者で?」
案の定、老人は興味深そうに聞き直した。
ええ、と頷きながら、ユリアル・カートライト(ea1249)は逆に老人に尋ねる。
「それで、今日はこの辺で休もうと言ってた所なのです。この村に泊まれる場所はありますか?」
少し先に宿を兼ねた酒場があると教えてくれた。それから、この村の人間は珍しもの好きで、旅人を面白がって集まってくるかもしれない、とも。
その言葉通り、酒場で食事を始めようとすると、わいわい人が覗き込んできた。
遠くからお疲れさま、どちらまで? まあ大変ですね、どうぞこれも召し上がって‥‥この村の人たちは、他の村以上に冒険者に親切だ。やはりシェリーという英雄がいるからなのか、ルーティ・フィルファニア(ea0340)はそのあたりを尋ねてみた。
「この村には、すごく勇敢な冒険者がいるそうですね。ええと、たしかシェリーさんとか‥‥」
「そう! その通りです!!」
力一杯の応えが帰ってきた。早くその話をしたかったのだと言わんばかりに。
「チェインさん家のお嬢さんでさ、まだ若いのに世界中を飛び回ってるよ」
「細い体で大きな斧を使うんだ。どこかの武闘会で2年連続優勝したって」
「それなのに傲らず、美人な上に気だてが良い! ああ、俺があと30年若かったら、女房にしたいねえ!」
『シェリー』という名前ひとつで、場は一気に盛り上がった。彼女は村中の注目の的で、人気者で、自慢すべき存在なのだろう。
「実はですね、私たちがこの村に寄ったのは、私どもの連れに会ってはいただけないかと思ってのことなんですよ」
と、セレス・ブリッジ(ea4471)は言った。
「お連れさん? どの方?」
「こちらの、フィーナ・ウィンスレットさんです」
紹介されてフィーナ・ウィンスレット(ea5556)は、少し前に出てぺこりと頭を下げた。シェリーに劣らず華奢で若い娘をみて、村人達は色めき立った。
「フィーナさん! 知ってる知ってる! こないだのシャーク退治の話、聞いたよ」
「お化け屋敷を解放したらしいね、その時の話を聞かせてよ!」
これまでの人垣が一層膨れあがる。『フィーナ』の名もまた、この村で知れていたのだ。
「それで、お会いしたいのですけど‥‥」
「ああ、是非会ってくれよ。今日は遅い、明日の朝一番に連れてきてやる。よおし皆、明日の朝飯はこの店でだ!」
中年の男はそう言うと、店主に酒の追加を頼んだ。確かに今夜は遅い、レディを呼び出す時間ではない。そこで男の提案に乗ることにしたが、だからといって冒険者達がベッドに入って休むことが許されたわけではない。
夕餉はいつの間にか冒険譚を肴にした『歓迎会』と称され、なかなか終わろうとしなかった。
冒険者達が二日酔いの頭を抱えながら食堂に降りると、やっぱり二日酔いの村人達がすでに集まっており、早くも朝食を摂り始めていた。
その中心に、涼やかな顔で座っている女性がいた。
(「見覚えのある顔だわ。そう、依頼主のセーラさんとそっくり」)
シェリル・シンクレア(ea7263)は、隣に移りそっと声を掛けた。
「シェリーさん?」
「はい」
女性は振り返って返事をした。
「ああ、やっぱりあなたがシェリーさん。今日は私たちが呼び出してしまってごめんなさい」
「いいえ。皆さんが会いたいとおっしゃってくれて、私こそ光栄です」
噂通り、シェリーはしとやかな女性のようだ。言葉のひとつひとつがゆったりとして、声が耳に心地良い。
冒険者達はそれぞれに朝の挨拶と初対面の挨拶をし、食事の席に着いた。
「評判は聞いてるぜ。大先輩ってワケだよな。いろいろ教えてくれ」
ウォル・レヴィン(ea3827)は目一杯の笑顔で明るくそう言うと、右手を差し出した。シェリーもその笑顔につられるように笑い、自分の右手を出す。
「ギルドではあなたの記録が大量にありましたよ。どの依頼でも大活躍でしたね」
隣の席に座りながら、レジエル・グラープソン(ea2731)は焔天山雷荒と共に調べたことから、いくつかの話題を持ち出した。同じ冒険者としての気安さからか、シェリーはそれぞれの事件のときの出来事を詳しく教えてくれる。普通の人たちでは、モンスターの名前は知っていても間近で見る鱗の形や斬ったときの体液の色などは知らない。話が通じないもどかしさも、相手が冒険者では遠慮無く話が出来る。周りの人が驚くほど、今朝のシェリーは饒舌のようだ。
「どんなモンスターと対峙しました? 私はドッペルゲンガーを見ましてね」
とれすいくすも己の体験談を交えて喋る。
「ドッペルゲンガー? あの同じ顔のモンスターですよね」
「そうそう、驚きました」
「私も‥‥」
そこまで言ってシェリーははっとした。何か考えるように黙ると、話題を変える。
「私はトロルを見ましたわ‥‥」
次に顔を上げたとき、シェリーの様子は元に戻っていた。
「大きな斧を使うんですって? どんなものか、見せて頂きたいわ」
エリス・ローエル(ea3468)がさりげなく、シェリーの装備品の話をふった。そんな物騒な物を食卓に持ち込んでいるわけはない。
「じゃあ、見に来ます?」
もちろん、置いてある場所はシェリーの自宅だ。この時間なら、養父母達もまだ居るだろう。願ってもないことだ。冒険者達はシェリーに案内され、チェイン家に向かおうとした。
「おっとっと、俺たちも行くよ」
なんと野次馬が数人、そこに付いていこうとする。それを見て、レジエルはすかさずこう言った。
「出来れば皆さんには、もっとシェリーさんの話を聞かせていただきたいのですが」
そして、村の勇者が強そうなモンスターと戦ったときのことをほのめかす。出て行こうとした村人は、足を止めた。
(「さあ、いまのうちに行ってらっしゃい」)
レジエルの目配せに頷く仲間達。
店を出たのは、シェリーと、冒険者達だけだった。
「お父様、お母様。私たちはセーラさんの依頼でここへ来ました。ご存じですね、セーラさんを」
シェリーの養父母に会い、ここで初めてフィーナは、本来の目的を明かした。
「な、なんですって‥‥」
3人は絶句する。
「ビビらないでくれよ。奪い返そうとか、無理矢理連れていこうとか、そんなことじゃないんだ」
表情をこわばらせた親子に、ウォルは説明する。あくまでセーラの真意を伝えに来ただけなのだと。
「そうそう、無理に連れ出したりしたら、たぶんここの村の人たちにボコボコにされちまうだろうしね」
イタズラっぽく、ミケーラは言った。しかし冗談ではない。これまでの様子を見れば、村人がシェリーをいかに大事にしているかよく分かる。強引な手段では、誰ひとり納得させられないだろう。
「セーラさんのお母さん、つまりシェリーさんの産みのお母さんが亡くなったのは、ご存じですか?」
シェリルが尋ねた。すると驚いたことに、彼らはそのことを知らなかったのだ!
「まあまあ、なんてこと‥‥」
母親はみるみる目を赤くさせた。
「十年前にご主人が亡くなったとは聞いてましたが、まさか奥さんまで‥‥。すると、セーラさんは?」
「はい、ひとりぼっちになってしまったのです」
シェリーの膝に乗っていた手が、ぎゅっと握られた。
「そう‥‥あの子は‥‥ひとりぼっちに‥‥」
「憎んでいますか?」
「え?」
「シェリーさん、あなたは、自分を養女に出した産みのご両親を憎んでますか?」
ルーティが聞いた。村の風習などというもののせいで、実の家族と引き離されてしまった。血の繋がった我が子より、風習を大事にした両親を憎んでいたりしないのだろうか?
「憎むだなんて、そんな‥‥」
シェリーは応えながら、自分の隣にいる養父母の顔を見た。二人は養女である自分を大事にしてくれた。勉強も修行も十分させて貰えた。冒険者として今の自分があるのは、両親のおかげだ。それなのに現在の境遇を嘆くなど、どうしてそんなことがあろうか。
「では、お二人は?」
今度はエリスが、養父母に聞く。
「セーラさんはシェリーさんに会いたがっています。いえ、本当のことを言うと、姉妹として一緒に暮らしたいと言っています」
「何を言う! わしはシェリーを手放さんぞ!」
養父は机を叩いて立ち上がった。
「うちの大事な娘を、よそにやるだなんて、そんなことは!」
「よそではなく、血の繋がった本当の姉妹ですよ」
「それはそうだが、だからといって一緒に暮らすというのか? 17年も離れていれば他人だ。違うか?」
「お父さん!」
興奮している父親を止めたのは、シェリー本人だ。
「私は、出て行くなんて言ってませんよ」
「‥‥おお、そうだったな」
「お聞きの通りです。実のきょうだいが何と言おうと、この家を出て一緒に暮らすつもりはありません」
凛として、シェリーは自分の意志を伝えた。
「でしたら、その気持ちを、あなたの口から直接セーラさんに伝えていただけませんか?」
と、セレスは言った。
「会ってやってほしいのです」
ユリアルも続けて頼む。
「お父さん、お母さん、お願いします。シェリーさんが将来後悔することのないよう、セーラさんに会うことを許して下さい」
「お願いします!」
最後には、そこにいる全員で一斉に頭を下げた。
それから、長い沈黙。
「‥‥会うだけ、ですよ」
ついにシェリーの口から、その言葉が聞けた。
午後には、シェリーを連れた冒険者達が隣の村に移った。
同じ顔の女性が家を訪れて、セーラは笑うような泣くような複雑な表情で出迎えた。