ロージーの弟からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月03日〜08月08日

リプレイ公開日:2005年08月11日

●オープニング

 北へ2日ほど進んだ場所に、人間ならば足を踏み入れない森がある。
 どす黒く濁った森の中央には、恐ろしい人食いの樹、ガヴィッドウッドが根を張っているのだ。
「僕の兄は冒険者でした。その森の近くにある村からの依頼で退治にいったはいいのですが、力及ばず、食べられてしまいました」
 依頼主の少年、アラシ・ロージーは悔しそうに唇を噛んでいた。
 そのときの依頼は大失敗したらしい。もともと集まった人数が少なく、それを無理して実行したものだから、ガヴィッドウッドに傷ひとつ負わせられなかったという。
 今もその人喰いの樹は、のうのうと生きている。力あふれる青年を栄養にしてしまって。
「冒険者なのだから、こんな危険があることは分かっていました。悔いはしません。ですが、この家のどこにも、兄の影がなくなってしまったことが悲しくてしかたないのです」
 アラシからの依頼はこうだ。
 このガヴィッドウッドを倒すことでも、無茶な依頼をさせた村に恨み言をいうことでもなく、兄の遺品を捜してくること。
「兄は、自分の師匠から譲り受けた剣をもっていました。樹の周りに落ちているかもしれませんし、一緒に飲み込まれているかもしれません。どうかその剣を持って帰ってきてください」

●今回の参加者

 ea1003 名無野 如月(38歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1417 ヴァルキリー・イエーガー(39歳・♀・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 ea4909 アリオス・セディオン(33歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea6586 瀬方 三四郎(67歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb1055 ヴィクトリア・フォン(62歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1600 アレクサンドル・リュース(32歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1960 ラミエル・バーンシュタイン(28歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 eb1961 アリオク・バーンシュタイン(28歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

「兄君の気高い信念を受け入れるその心意気やよし、それでこそ立派な男児と言えましょう。任せなさい。君の覚悟は受け取りました!」
「ちょっ‥‥、三四郎さん、苦し‥‥」
「君のような素晴らしい少年の覚悟を見せられては、この老いぼれ、決して一歩も退くまいぞ。兄君の仇、この手で葬ってみせましょう」
「三四郎さん、アラシくんが窒息しそうですよ‥‥」
 ラミエル・バーンシュタイン(eb1960)に言われて瀬方三四郎(ea6586)はようやく力を緩める。胸に固く抱きしめた小さな少年は、ぐったりとしていた。
「おおっと、すまない。つい力が」
「気持ちは分かるよ」
 ラミエルの弟、アリオク・バーンシュタイン(eb1961)が呟く。今日、初めて会った依頼主は小さな少年だったのだ。自分がもし同じ立場なら、きょうだいの死に恨み言を吐きながら泣きわめくかもしれないのに。なのにこの少年は毅然と、兄の遺品を求めている。そんな姿を見せられて黙っていられようか。
「あなたのお兄様は、立派な方だったのでしょうね」
 セレナ・ザーン(ea9951)は目を細める。
「まずは、お兄様のお名前をお教え願えますでしょうか?」
「ロブ。ロブ・ロージー。おじいちゃんと同じ名前なんだ。その前のおじいちゃんとも同じ名前だって」
「まあ‥‥」
 先祖の名を持つ青年は、継ぐに相応しい青年であったはずだ。そんな彼を失った家族の悲しみは、計り知れない。
「ああ、もう。湿っぽい空気は無しにしましょうよ。それよりも行きましょう、さあ早く!」
 ヴァルキリー・イエーガー(ea1417)は言い終わる間もなく、馬を駆けさせていた。
「ふふふ、せっかちな方だ」
 名無野如月(ea1003)は思わず笑うが、しかしのんびりしていられないのは事実だ。ガヴィッドウッドの森は2日かかると聞かされている。
「じゃあな、すぐ戻ってくるぞ!」

 セブンリーグブーツを持っている者達は、最初にアラシの兄が依頼を受けた村まで一足先に行くことにした。そこで予め、ガヴィッドウッドについて詳しく聞き出すつもりだった。
 村人達は困惑していた。こんなにたくさんの人を呼ぶほど、報酬を用意していないという。
「心配するな、前の冒険者の代わりにきたわけじゃない」
 アリオス・セディオン(ea4909)がロージー兄弟のことを説明すると、ようやく彼らは安心した。それを見て、ヴィクトリア・フォン(eb1055)は続ける。
「それで、私たちの分と、後から来る仲間達の分と、馬を預かっておいて欲しいのじゃ。ちょォっと、かなりの数になるんじゃがのぅ」
「いえいえ、おやすいご用です」
 快く承諾してくれた。
「‥‥それから‥‥頼みがあるのですが‥‥」
 長寿院文淳(eb0711)は言った。
「何でしょう?」
「前に来たロブ達の失敗を‥‥恨まないでください‥‥モンスターの犠牲になった彼らを‥‥弔ってほしいのです」
「恨むだなんて、そんな‥‥」
 そうは言うが、とまどっているのは明らかだ。ロブ達に罪はないのは分かっているが、未だ彼らは人喰い樹の脅威にさらされている。弔いなど悠長なことを考えられないでいるのだ。
「ガヴィッドウッドは‥‥私たちが倒します‥‥約束します」
 それを聞いて村人たちの表情はぱあっと明るくなった。以前とは比べものにならない人数が来ているのだ、今度こそ大丈夫だろう、と期待しているのが手に取るように分かる。
「でもそのためには協力してくれよ? ガヴィッドウッドについて知っていることを、全部詳しく教えてくれ」
 アレクサンドル・リュース(eb1600)が尋ねると、村人達は我先にと喋り始める。
 おかげで有意義な話が聞けた。
 今夜はここで休み、翌朝早くに森へはいる。

 雲一つない、澄み切った良い朝だ。
 しかし、村人が案内した森は、まだ夜が残っているかのように暗く、深い。
「雨の心配はなさそうじゃが、逆に火が心配じゃのう」
 しばらく雨はなかったと聞かされた。ヴィクトリアはそこらの木の一つに触り、その乾き具合を見た。火を使う術には細心の注意を払わなければならなそうだ。
「なら、こいつも今日は止めておこうかな」
 如月はいつもくわえている煙管の火を消した。火事の心配ももちろんだが、煙で気配を悟られないようにとの用心もある。
 道なき道を、ひたすら歩く。太陽の見えないこの森では方角も分からないし、距離も掴みにくい。幸いなことに、他にモンスターらしき存在はなく、無駄な体力の消耗は避けられそうだ。
 半日ほど経っただろうか‥‥。

「うわっ」
「アリオク!?」
 アリオクが転んだ。しかし起きあがらない。それどころか、引きずられるように動いている。
「左の足首だ!」
 ラミエルが必死で弟を押さえつけ、彼の足に絡まっている泥まみれの蔓だか根だか分からないものを、姉は剣で斬りつける。だが、その体勢では力が入らない。
「任せろ!」
 アレクサンドルがウォーアックスを振り上げた。樹が相手なら剣より斧、と単純に考えての武器の選択だが、それが功をなしたのだろうか、根は一撃で切れた。
「気をつけろ、ここはもうガヴィッドウッドの縄張りだ」
 三四郎は周囲を見回すが、周りは似たような草木だらけ、どれがモンスターなのか見分けも付かない。
「難しく考えなくても、これが引きずろうとした方向に本体がいるんですよ」 
 と、ヴァルキリーは躊躇することなく、その方向へ走った。ガヴィッドウッドに狙われているかも知れない、そんなことはお構いなしに。
 彼女の動きに合わせて、騒がしく木々が揺らぎ出す。蛇のように何かが地面を勢いよく這っている。
「追いますよ!」
 皆が同じ方向を目指す。
 冒険者達も、地を這うものも。

 最初は壁があるのかと思った。
 苔のこびりついた、古い壁が。
 真ん中に大きな穴があいている。
 それが動いているのを見て、冒険者達はようやく知った。
 人を喰う口を持つ大樹。これがガヴィッドウッドだと。

「剣は? ロブさんの剣は?」
 セレナが辺りを見回すが、何もない。ロブと一緒に、飲まれてしまったのか。
「‥‥その腹から、取り出すしかなさそうですね‥‥」
「もとよりそのつもりです」
 ヴァルキリーはクレイモアを握りしめて、まっすぐガヴィッドウッドに向かう。だが、相手は樹とはいえ愚かではない、餌がこちらへ来ているのなら捕まえて口へ放り込もうとするのが当然だ。
「動きが鈍い!」
 伸ばしてきた枝を、如月は掛け声と共に薙ぎ払う。
「この程度の枝で俺を捕まえようと思うな」
 アリオスのソニックブームも、負けじと切り落とす。空中で枝は裂け、欠片が力なくぼたぼたと地面に落ちていく。
「今のうちですぞ、皆で一斉に幹を斬るのだ」
「はい!」
 ちぎれた枝が、葉が、雨のように降り注ぐ、その間を縫って、どんどん幹をめざす。
「アラシ様のお兄様の剣を、返してもらいます!」
 渾身の力をこめたセレナの一撃が、ついにガヴィッドウッドを貫いた。
 大きな口は、ただの虚(うろ)となった。

「ちょっと、狭いかのう」
「これでこじ開けるか」
 虚に剣を入れ、割っていく。
 中からは異臭が漂っていた。
 喰われたばかりのような獣、半分溶けた骨、それから、溶けずに残っている武具の類‥‥。
「‥‥これですね」
 アラシから教えられた形の剣が見つかった。
「鞘に入っていたおかげか‥‥刃は無事のようだな」
 アレクサンドルが丁寧に剣を見る。残念ながら装飾の一部が欠けてはいるようだが、剣そのものは丸ごとの姿を残して無事だった。
「あとはこれをアラシに渡せば、終わりだな」
 剣を握り、アリオスは言った。
「終わり‥‥。いや、新しい始まりかもな」

 アラシはこの剣を受け取り、そしてどうするのだろう。
 彼もまた、冒険者を目指すのだろうか。
 兄の遺志を継ぐ冒険者として。