ニセ冒険者に悩む店主からの依頼
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■ショートシナリオ
担当:江口梨奈
対応レベル:7〜11lv
難易度:易しい
成功報酬:3 G 45 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月17日〜08月22日
リプレイ公開日:2005年08月27日
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●オープニング
「『スリー・ノウ』? 『サシュ・オウルキング』? 『デフト・ホワイト』? 親父、俺はどの名前も聞いたことないぞ」
「おいおまえ。大切なお客様になんて言い草だい。あの方達は世界を旅して幾度となく国を救った偉い方達なんだぞ」
「誰が言った?」
「ん? あのお三方だ」
人のいい父親はすっかり信じ切っている。しかし、息子でこの酒場を切り盛りしているリギにはそうは思えない。
その夜、事件が起こった。
村でも乱暴者で疎ましがられているチンピラ連中が、酔った勢いで3人に喧嘩を売ったのだ。しかし、3人の腕前は見事なものだった。自分たちの倍の人数相手に、息を一つも切らさずに叩きのめし、追い返したのだ。
父親も、他の客達も、拍手喝采だ。誰もがこの素晴らしい冒険者達を歓迎し、酒と食事を振る舞い、今夜眠るベッドまで提供した。
それから、彼らはここに住み着いてしまった。
長旅の疲れを癒すのに、ここはぴったりの村だという。
毎日タダ飯を食い、タダ酒を飲み、時には女達に酌をさせる。
偉い冒険者なのだからと、父親たちは何一ついとわず彼らの要求に応える。
3人を疑っているのは、リギだけなのだ。
疑いの晴れないリギは、冒険者ギルドを訪れた。そしてそこで3人の名を挙げ、彼らがここで依頼を受けたことがあるか、本当に国を救ったのかと尋ね回った。
答えは『ノー』。
誰も、そんな3人のことを知らなかった。
いますぐに追い返してやりたい、しかし‥‥。
タダで飲み食いされてはこちらも困る。だが被害らしい被害は今のところそれだけだ。
ここで「偽者」と言って追い返すのは簡単だが、せっかく彼らの来訪を喜んでいる父親達は、騙されたと知るとがっかりするだろう。
それに彼らのおかげでチンピラ連中が近寄らなくなったのは事実だ。ただのホラ吹きかもしれないが、あの強さから見ると、本当に冒険者を目指していて何らかの事情で断念しただけかも知れない。それに、他の国にもギルドはあるらしい、そこの出身だと言われればそれまでだ。
本物の冒険者なら、偽者を穏便に追い払ってくれるだろうか‥‥?
●リプレイ本文
「私ひとりなんて、つまんないってカンジぃ」
ここはリギの村から少し離れた野原。ここで大宗院亞莉子(ea8484)とティズ・ティン(ea7694)は、これからの作戦に向けて待機中なのだが、いつも一緒の夫が隣にいないことに、亞莉子は不満を漏らしていた。
「亞莉子のご主人って、どんな人なの?」
今回の依頼で亞莉子と知り合い意気投合したティズは、目の前にある愛にあふれた話題に興味津々だ。
「そーねぇ、じゃあ出会ったときのことからァ‥‥、あ、お茶沸いた? 飲みながら話そうか」
「こほん‥‥ピクニックじゃないんだぞ」
アリアス・サーレク(ea2699)が聞こえよがしに咳払いをする。あくまで今は待機中。
「アリアス様、お堅いですよ。みんなで立てた作戦を信じて、私たちはここで待ってましょう」
ティズの煎れてくれた甘い茶に口を付けながら、大隈えれーな(ea2929)が言った。
「そうだが‥‥そろそろ時間じゃないか?」
「そうですね。なら、これを飲み終わったら酒場へ行きましょう」
リギの酒場は今日も賑わっていた。先日から居座っている3人の英雄と、彼らの冒険譚を聞きたがっている近所の連中、そして新しいお客様たちが来ているのだ。
「ここの料理はおいしいね。ほら、この野菜もよく冷えてる」
客の1人、カシム・ヴォルフィード(ea0424)は卓に並んだ料理たちを一つ一つ感想を述べながら口に運ぶ。あまりにも美味だからなのか、向かいに座っているマリー・エルリック(ea1402)に生野菜の鉢を勧める。
だが、マリーは先ほどから黙々と、油がぎっとり乗った肉の固まりにナイフを入れている。鉢には見向きもしない。
「食べないの?」
シェリル・シンクレア(ea7263)が聞くが、マリーは変わらず首を振る。小食、というわけではない。
「そんなに肉ばかり食べるな、野菜も食べろ」
と、琥龍蒼羅(ea1442)がマリーの皿を横にずらした‥‥すると。
「‥‥痛ったあ!」
マリーの持っていた分厚い聖書の角が、蒼羅の脳天にめり込んだ。
「野菜は‥‥嫌いです」
「だからって殴ることはないだろう」
「あらあら、喧嘩はいけませんね。落ち着いて」
酒場の扉を開けて、1人のエルフ‥‥タチアナ・ユーギン(ea6030)が入ってきた。竪琴を弾いて柔らかな音楽を奏でている。喧嘩を察知して、険悪な空気を和らげようと思ってのことだろう。
「ごきげんよう。私は楽士のタチアナ。こう見えても冒険者なのよ」
『冒険者』、その言葉に周りが反応した。
「へえ、おたくも冒険者!?」
「名のある方で?」
「こちらにすごいお三方がいらっしゃるよ」
「‥‥へえ‥‥」
こいつらか、とエルド・ヴァンシュタイン(ea1583)の目が光る。しかし、そんなことは微塵も感じさせず、彼は表情を変えずに紹介された3人の『英雄』の前に立った。
「‥‥そうか、ならあんたたちの話もぜひ聞かせて欲しいな。酒をおごろう、こっちの卓に来てくれ‥‥」
3人は酔っていた。ここ数日、毎夜飲んではホラ話を繰り返しているのだろう。まったく物怖じする様子もなく、これまで話した嘘をもう一度しゃべるために、エルドに誘われるまま卓を移った。
「ははー、こちらの卓は綺麗なお嬢さんがいっぱいだな」
「この辺の人じゃないな? 旅の途中かい、なんなら俺たちが着いていってあげようか」
3人は品性の欠片も感じさせないことを平気で言う。その上、手を肩や腰に近づけてくるので虫酸が走る。まあ村人も、これでよく英雄として歓迎しているものだ、と呆れてくる。厨房の方に目を遣ると、シェリル達の様子を見ていたリギだけは顔を歪ましていた。
「あの‥‥心配には及ばないよ」
腰に触れた手をはずしながら、カシムは言った。
「僕たちも、冒険者ですから」
3人が狼狽えたのを、彼らは見逃さなかった。
「‥‥へえ、あんた達も、冒険者とは‥‥奇遇だね」
彼らはお互いの顔を見合わせて、意味のない言葉で上滑りする会話を続けようとする。構わず、蒼羅が続けた。
「そうなんだ。しかし不思議だな、俺はキャメロットのギルドで主に仕事を受けているんだが、あんた達の名は聞かないな」
「そ、そ、そうかい? 俺たちもまだまだだなあ」
「そうだな、自惚れてちゃいけないな」
「ははははは」
酔いが覚めたのだろうか、先ほどまでの赤ら顔から血の気が引いている。
「そんなに謙遜するなよ。あれか? 実は掲示板じゃなくて、ギルドマスターから直接依頼を受けているとかじゃないのか? だからギルドでは顔を会わさないとか」
素知らぬふりをして、エルドは突っ込んだ質問をする。
「だとすると大きな依頼を任されるんでしょうね。私なんてまだまだですもの」
タチアナは大げさに羨ましがる。偽物は肯定も否定もせず、張り付いた笑顔のままだ。
「ねえ、みなさんは聞いたんでしょう? この人たちはどんな冒険をしたんですか?」
今度はシェリルが、後ろにいる村人達に尋ねた。待ってましたと言わんばかりに、村人達は昨日まで聞かされたことを教えてくれる。
「ドラゴンを退治したんだぞ」
「その生き血を浴びて不老不死になったってよ」
「腰の剣はその時倒したドラゴンの爪で出来てるんだ」
よくもまあ、そんな大ボラを。言う方も言う方だが、信じる方も信じる方だ。
「嘘を言ってると‥‥天罰が」
「シッ、聞こえるぞ」
本当の冒険者達はそれを不快に思いながら、しかし悟られないように大仰に驚き、褒め称えた。
そうやって、周りを信頼と尊敬と羨望のまなざしですっかり固めてしまったとき‥‥。
「おい、手伝ってくれ!」
突然酒場の扉が開いた。
息せき切って、アリアスとえれーなが飛び込んできた。
「どうした?」
「まずいぞ、ギルドの報告よりも人数が多い」
「しかも用心棒を雇ったらしいわ、すごく強いのがいるの」
後から来た冒険者が、先の冒険者に忙しく何か言っている。リギが顔を出し、何事かと尋ねた。
「実は私たちは、この近くに潜んでいる盗賊団を捕まえるという依頼を受けていたんです」
それを聞いて村人達がざわついた。まさか、この平和な村にそんな危険が迫っていただなんて!
「ああ、甘く見ていました。予測していた規模の盗賊団ではなかったようです」
「このままでは大変なことになる、一刻も早く退治しなくては」
「‥‥そうだ、あんたたち‥‥」
エルドが呼んだのは、そう、偽冒険者だ。
「‥‥頼む、一緒に来てくれ。あんた達がいてくれれば百人力だ。もちろん報酬は譲るから‥‥」
「ぜひお願いします。僕たちだけでは自信がありません」
カシムは上目遣いで、一番いやらしそうな男に頼む。
「まあ、この人たちは国を救った英雄ですの? じゃああんな盗賊なんて一捻りでしょう!」
えれーなも負けじと、後押しする。
村人もどんどん興奮していた。さあ行け、今すぐ行け、と囃し立てる。
こうなってはなんと言おうとそこから逃げられる雰囲気ではない。
「よし、行くぞ。俺たちに付いてこい!」
3人の声は裏返っていた。
「皆さんは危ないので来てはいけません」
「ああもちろんだ、邪魔はしないよ」
村人達に万歳で見送られ、冒険者達は偽冒険者を連れて、盗賊団のいる場所へと向かった。
しかし、そこは何もない、だだっ広い野原の真ん中。
ティズと亞莉子が待っていた。
「騙してゴメンネ。おじさん達が本当に英雄なのか確かめろって依頼を受けてるんだ」
ティズは3人の顔を見たとたん、真の目的をばらした。
「だ、だ、騙しただと!?」
「そんなに怒るってことはァ、ヤッパ偽者だったってコト?」
「クッ、このガキども!!」
「手合わせする? いいよ、実力を確かめてあげる」
村のチンピラを追い払ったというその実力はどれほどのものか。所詮平和な村のチンピラ、たいした敵ではない。その程度の敵を倒したからと言って、世界中を旅して数々のモンスターと戦ってきた真の冒険者にかなうものか。
「‥‥冒険者の重み、理解できたか‥‥」
こんな連中が冒険者を騙っていたとは、はらわたが煮えくりかえる。冒険者の中には身も心も殺して使命を果たそうとする者がいるのをエルドは知っている。その名を軽んじるようなことをするとは!
「さあ、どういうことか説明してもらおうか」
ボロ切れのように折り重なって倒れている偽冒険者の1人を掴みあげて、アリアスは乱暴に言った。目的はやはりタダ酒、タダ飯。たったそれだけのために、連中は冒険者を侮辱し続けたのだ。
「このまま、黙って村を去るのなら、俺たちは何も言わない。村人にはえれーながうまくごまかしてくれる」
蒼羅は冷たく言い放った。
「あ、でも今日まで食べた分のお金は払いましょうね〜」
ちゃっかりしているシェリル。偽者達は反省したのか、ただ単に早くそこから立ち去りたかったからなのか、素直に金を出し、すごすご逃げていった。
その背中を見送りながら、カシムはとどめの一言を浴びせた。
「あの‥‥僕、男ですから」