大火事の村からの依頼
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■ショートシナリオ
担当:江口梨奈
対応レベル:4〜8lv
難易度:易しい
成功報酬:2 G 40 C
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月24日〜08月29日
リプレイ公開日:2005年09月01日
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●オープニング
「先月、東の森が大火事になり、隣接する村も焼けてしまったのをご存知ですか?」
話を聞く冒険者たちは首を横に振る。遠く離れた小さな森のことだ、知らなくても無理はない。
依頼主のドールズ夫人は続ける。
「十数人の子供がそれで家族を失いました。そこで私たちは、彼らを養子として引き取ろうと思うのです」
子供たちはその案を喜んでくれた。生まれ育った場所を離れるのは寂しいが、それよりもこれからの寝る部屋や食べるものの方が大切だ。
「それでお願いというのは、その子たちを迎えにいって欲しいのです」
森を抜けた先の村まで、冒険者の足なら1日だが、十数人の子供をつれるとなると倍はかかると考えて間違いない。しかも、問題はそれだけではないのだ。
「実は、森の火事の際、焼け出されたのかオークの大群が現れて、村を襲ったのです」
火と、オーク。この二つの災いが重なったせいで、失った人の数も膨れ上がってしまったのだ。
「オークはいまも残った森にいます。子供たちは、その森を通らないといけないのです」
自分たちの家族を殺したオーク。その存在に子供たちはおびえきっている。
しかもあのずるがしこい豚鬼どもは、自分たちより強い冒険者には手も出さず、か弱い小さな子供だけを狙ってくるだろう。
子供たちを優しく守りながら、ドールズ家まで連れてくること。それが今回の依頼である。
●リプレイ本文
子ども達の数は少なくなく、依頼を受けた冒険者を含めると、30人近くなる。
それだけの人数が乗れる馬車を用意することは困難だった。何とか借りられたのは荷車が2台。だがしかし、まだ歩くのがやっとな小さな子を乗せることが出来るだけでも、道中はずっと楽になるだろう。
ただし、荷車はつまり大荷物となる。
しかもどういうわけか、ルナ・ティルー(eb1205)とマルティナ・ジェルジンスク(ea1303)が枯れ枝や葉を拾っては荷台に積んでいく。本来なら身軽なはずの往路だが、予定より遅くなりそうだ。
「これを子ども達を連れたときの歩調と考えよう。‥‥この辺りで休憩を取ればいいわね」
進みながら、タチアナ・ユーギン(ea6030)は道の状態を調べていく。どこが休憩に適しているか、野営が可能か、見晴らしがいいか‥‥。
「こうしている間も、オークはこちらを窺っているんでしょうか?」
森に潜む狡猾なオークは、自分より強い者には手を出さないという。ピノ・ノワール(ea9244)がわずかでも生き物の気配を感じるとその付近を注意深く探ってみるが、オークは尻尾の先も姿を見せない。
「少し威嚇をしてみましょうか」
時々、セラ・インフィールド(ea7163)が木剣を茂みに向かって振り回す。隠れているオークをあぶりだすというよりも、自分たちに必要以上に警戒心を抱かせるために。こうしておけば、帰り道、オークが自分たちとその仲間に襲撃をかけるのをためらうかも知れない‥‥そんな期待をこめて。
森を抜けた。焼けこげた原っぱに繋がる。
酷い火事だったのだろう、緑生い茂るこの季節に、この原っぱは黒い墨の樹が数本立っているだけだった。
「よし、全員揃ってるな?」
村長の家に行くと、すでに子ども達は集まっていた。朴培音(ea5304)が全員の顔をひとつひとつ見て回る。これから長い距離を歩かなければならない、皆の体調が気にかかる。
「みんな、私たちがいるから安心して下さいね。新しいお母さんになるドールズさんに、元気な顔を見せてあげましょう」
不安そうな子ども達に、ティイ・ミタンニ(ea2475)は優しく微笑む。
「そうだ、俺のことを新しいお兄ちゃんと思ってもいいですよ。みんなが家族です、仲良く行きましょう」
ティイに負けじと、伊達和正(ea2388)もそう言った。子ども達はまだ不安と恥じらいの混じった様子であるが、悪い雰囲気ではない。
村の者に別れを告げて、いよいよ出発だ。
「さあ、ちっちゃい子はこの荷台に乗って下さい」
ヴァレリア・ロスフィールド(eb2435)が抱きかかえては荷台に下ろしていく。
「おねえちゃん、葉っぱがあるよ?」
「いざというときにはそれに隠れるのよ」
そう、道中ルナたちが拾っていた枯れ枝はこのためだったのだ。途中の薪代わりにするのはもちろん、子ども達の身を覆って隠すために。
「うふふ。見えない? 見えない?」
「どこにいるでしょーう。ここでしたー!」
子ども達にとってそれは面白いのか、枝葉の山に潜っては顔を出しのかくれんぼで遊んでいる。
「おねえちゃんだって見えない見えない♪」
「残念ー。羽が見えてるー」
「見つかっちゃった♪」
マルティナが一緒になって遊んでいる。他愛のないことであるが、こんな些細なことが子ども達の不安を自然に解いていると、彼女は知っているのだろうか?
一行はゆっくりと進む。
先ほど通った黒焦げた森を、歌を歌いながらゆっくりと。
だが子ども達は一人、また一人と無口になっていく。
体を縮めて、石のようにじっと動かなくなる子もいた。
思い出しているのだろう、家族を亡くした時のことを。
「あまり無理をするのは止めましょう、森へ入る前に休みましょう」
まだしばらく進める時間ではあるが、子ども達の様子がおかしいのをヴァレリアは察知して、そう提案した。他の者も異論はない。今日は早く休み、明日早くから出立すれば、夜には森を抜けられるだろう。
「あらら、一人じゃ寂しい?」
子ども達を寝かしつけようと、ルナが毛布を持って全員に配っていると、一人の少女が起きあがってルナの服の裾を掴んだのだ。
「ルナさん、その子もこちらに連れてらっしゃい。私が子守歌を歌うわ」
見るとタチアナの周りに子ども達が集まっていた。先ほどから柔らかく心地よい竪琴の音がすると思ったら、なるほど、子守歌だったのか。
「よし、みんなもっと近づいて一緒に寝よう。寒くない?」
そのままルナはそこに座り、自分の膝を少女の枕にしてやった。
「いいか、今夜はそんなゴツゴツ筋だらけの枕だけど、明日にはふかふかの枕で眠れるよ」
「培音さん、ひどいよ。僕の脚はほら、張りがいいんだから」
「そうだ、この脚ぐらい肉付きのいい鶏もいたよ。毎日お腹いっぱい食べさせてもらえるね」
「ふふ、聞いてらっしゃらないようね」
培音はルナをからかいながらも、子ども達に夢を与えていた。森の向こうに暖かい家が待っているという夢を。
だから頑張ろう、もう少し頑張ろう。
子ども達が寝入った後も、冒険者達は周囲の警戒を怠らない。オークだけではない、凶暴な野犬でもいれば、それも子ども達には脅威になる。
この時間帯はティイと和正が見張り番だ。
二人は並んで、野営場所の周りを歩いていた。
「無事に終わるといいわね」
「そうですね‥‥」
一言、二言、ぽつりぽつり喋りながらだった。
と、急に和正が黙り込んだ。
「どうしたの?」
ティイが尋ねる。和正は俯いている。が、顔を上げた。真剣な表情だ。
「俺‥‥ティイさんが好きです」
何とも大胆な愛の告白だ。二人きりのこの時、今が神が与えた好機と思ってか、勇気を振り絞っての和正の告白。
ティイは返事に困っている。突然のことに、よい言葉が思い浮かばない。
「‥‥今は、この依頼が大切だわ。あの子達を送り届けることが出来たら‥‥」
夜が明けて。いよいよ森に入ることになる。
子ども達がある程度緊張するのは仕方ない。あとはオークが現れて、混乱を起こさないでいてくれれば。
「昼間はやはり賑やかですね」
焼けた森と違って、こちらは活気に満ちていた。鳥が羽ばたき、動物が駆け回る音がする。セラはその中から、こちらに敵意を持つものがいないかを探り続ける。
「いやな感じです。賑やかさが逆に」
ピノは顔をしかめた。
「そうですね‥‥」
頷くセラ。獣たちがこんなに騒がしいのには原因があるはずだ。獣の声を荒げさせる、何か異質なものがそれらの近くにいるのだろう。
「急いで駆け抜けるか、それともここで決着を付けるか‥‥」
「走ると、付いてこられない子が出ますよ」
「よし。‥‥みんな、止まって下さい」
ピノがそう言うと、ヴァレリアも悟ったのか子ども達を呼び寄せた。
「みんな、この荷台に乗って隠れて。ここをしっかり持って、放しちゃだめですよ」
子ども達を1カ所に固め、それからその周りを囲むように冒険者が立った。
森のざわめきはどんどん大きくなる。
いくつもの目が、こちらをじっと見張っているようだ。
1頭のオークが飛び出してきた!
「きゃああああ!!!」
子ども達が一斉に悲鳴を上げた。
「逃げちゃだめ、じっとしてて!!」
今にも散り散りになってしまいそうな子ども達に、マルティナは両腕を広げて止めようとする。だがシフールのマルティナは小さすぎる。広げた腕の隙間から出て行ってしまいそうだ。
泣きわめく子どもが興奮して荷台から離れた、それを狙ってオークが棍棒を振り上げる。
間一髪、培音がオークをロングロッドで殴りつけた。
培音はそして、逃げた子どもに向かって、こう一喝したのだ。
「いいか、これを良く見て! これは世界で一番強い棒なんだ。これであんた達を守ってみせる!!」
1頭を皮切りに、次々とオークが姿を見せる。
だが子ども達は逃げない。
冒険者が戦うのを、じっと見守っていた。
力量の差を知らずに襲いかかってくるオークは、オークの中でももともとたいしたことのない豚だ。もう少し頭のいいオークなら、機会を待ち、冒険者と離れた子どもを狙うだろう。そうはさせまいと冒険者は絶えず威嚇をしながら進み続けた。
今回の目的は倒すことではない、無事に送り届けることだ。オークとの戦いに時間を取られるよりも、一刻も早く森を抜けたい。戦わずにすむなら、それが一番いいのだ。
そうして徐々に、気配は消えていく。
ついに子ども達の旅は終わった。
ドールズ家は部屋中を飾り立て、真ん中のテーブルに料理をどっさり並べて皆の帰りを待ってくれていた。
夫人は子ども達が一人と欠けることなくやってきたので、嬉しさに涙を流しそうになっている。
ああ、ドールズ夫人は心の優しい人なのだろう。彼女は間違いなく、子ども達を可愛がってくれるはずだ。
「終わりましたね‥‥」
和正が言う。彼は、ティイの返事を待っている。
「そうね、帰りながらゆっくり話しましょうか」
あとは全員でキャメロットに戻り、報告をするだけだ。
冒険者の旅は、もう少し続く。