タシュ村長からの依頼
 |
■ショートシナリオ
担当:江口梨奈
対応レベル:7〜11lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 45 C
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月21日〜09月26日
リプレイ公開日:2005年10月02日
|
●オープニング
「俺たちゃぁ人間だ。ケモノにビビってられるかよ」
つい先日、父の跡を継いで村長となったタシュはまだ若い男だ。くわえていた煙管の吸い口をガリガリと噛むその歯は真っ白で厚い。
「犬コロどものいる場所はだいたい分かってるんだ、今のうちに攻め込もうぜ」
同じように血気盛んな若者がタシュに言うが、村長は首を横に振る。
「前の戦いで、予想外の負傷者が出た。そいつらをまた戦わせるワケにはいかないだろ?」
悔しい。
いつの間に、この村はコボルトどもに取り囲まれていたのだろうか。
あんなケダモノの考えていることは分からないが、ともあれ確実なのは、この村に住んでいる自分たちを邪魔者と思い、排除しようとしているということだ。
こんな岩が剥き出しの、砂嵐ばかり起こる痩せた土地のどこがよいのか分からないが、ともあれコボルト共はこの村を欲しがっている。
父親が若い連中を率いて真っ向から立ち向かった。
コボルトは統率のとれた集団だった。1匹、ひと回り大きくて派手な格好をしていた犬がいた、あれがおそらく族長だったのだろう。
向こうに傷も負わせたが、こちらも無事ではなかった。父は脇腹に負った傷が原因で死んでしまった。
「応援を呼ぶか‥‥」
冒険者に手伝ってもらおう、それで皆の意見は一致した。
それに、タシュがひとつ付け加える。
「いまも寝込んでいるやつらがいるだろう、あれの熱が下がらないのは、やはり毒なのか?」
「そうだろうな、何の毒を使ってるのか分からないから、薬の処方のしようもない」
「‥‥犬コロの持っている武器を全部奪い取るんだ、薬を持っているなら、それも全部だ。元の毒さえ分かりゃ、なあに、うちのセンセイは優秀だからな」
●リプレイ本文
防塞はいかにも『即席』のものだった。タシュの村の者達が、コボルトの襲撃に備えて急遽こしらえたものだが、薄っぺらい板きれを組み合わせて作られたそれは隙間だらけで、風でも吹くと倒れてしまいそうだった。
それでも、姿を隠すには十分足る。
タシュは身をかがめながら、慎重に辺りを見回す。大丈夫だ、まだコボルトの姿はない。それから、集まってくれた冒険者達に向かった。
「あの丘の向こうが、小さな湖と茂みになってる。犬コロはそこを拠点にしているようだ」
「なるほど‥‥よい場所を取られてしまったということだな?」
コロス・ロフキシモ(ea9515)は言った。
どんな生物でも水は必要だろう。そして茶色の目立つこの地域で、わずかに点在する緑のある場所の一つを、コボルトに奪われているのだ。さぞ居心地のよいことだろう。
「それにしても、どうしてこの村を襲うんでしょうね。単なる気まぐれなのかしら‥‥」
不思議そうに、ステラ・デュナミス(eb2099)は首をかしげる。タシュ達には悪いが決して住みやすい地域とは思えない。本当にここが欲しいのか、それともこの先にある別の目的のための通過点と思われているのか‥‥何にせよ、ケダモノの考えることは分からない。
「みんな。いまから突撃するけど、大丈夫? 緊張してない?」
振り返りレフェツィア・セヴェナ(ea0356)は村人達の表情を窺う。前の村長を失うほどの苦戦をした相手とまた戦う羽目になっているのだ。怯える者がいてもおかしくはない。
だが、選ばれた戦士たちはそんなにやわではない。皆、寧ろ仇を討ちたいと燃え上がっている。
「そうだね。今度は勝つよ。僕が保証する。みんな、僕のグットラックを受けるんだもんね」
きっと勝つ。いや。必ず勝つ。
応援の冒険者達が集まってきたことで、皆の士気は否応なく高まっていた。
合図で、次の防塞まで移る。そして最後の防塞へ。ここから先は何もない。わずかな岩陰を選びながら、コボルトの元へ近づかなくてはならない。リアナ・レジーネス(eb1421)はブレスセンサーを用いて前方の様子を調べ進む。
「3匹‥‥いるわ。少ないわね、見張り役でしょうか?」
「ううむ。犬鬼どもめ、人間のようなことをやりおって」
顎に手を遣り、瀬方三四郎(ea6586)はうむと唸る。『見張り役』は交代制で行い緊急時には効率よく状況を知らせる役のことだ。コボルトが、そんなことに知恵を働かせるとは。
「‥‥でも、しょせんコボルトですね‥‥。そこが大事な場所だと‥‥看板を掲げているようなものです‥‥」
長寿院文淳(eb0711)は笑った。見張りがいるということは、そこは侵入されては困る場所。拠点ともそう離れてはいないはずだ。
「だったらあそこを狙えばいいんだな? よォし」
村の男が腕まくりをし、鼻息荒くそう言うのをシュナ・アキリ(ea1501)は止める。
「焦るんじゃねーよ。慌てたって何もいいことはないぜ」
困った連中だな、と言いたげにシュナは頭をがしがしと掻く。その仕草に男達はむっとするが、彼女の言っていることは正しいので反論できない。
「いいですか、もう一度ご説明します。私たちはいまから、あの見張りを倒します。皆さんは荷を取ったら、すぐにこの場所まで引き返して下さい」
改めて、アトス・ラフェール(ea2179)は双方を落ち着かせるためにも作戦の確認をする。戦うのは冒険者の役目。村人達はコボルトの毒と解毒剤を回収する役が与えられている。
「まずは3匹‥‥行きましょう!」
李明華(ea4329)が最後の気合いを入れ、そして全員で飛びかかるようにコボルトに向かった。
「まず1匹!」
「こっちも!」
「逃がさないで!!」
9人の冒険者が3人ずつに分かれ、1匹ずつ仕留めていく。覆っているもののない鼻先を狙い、顔面を打ち砕く。「げえ」と短い悲鳴を上げただけで、見張り達は何の合図も送れないまま地面に崩れ落ちた。
「見えた、砦だ」
見張り達がいたところに立つと、タシュ達の村と同じように、簡素な木枠で仕切られた箇所があるのが見えた。
「一気に進むぞ!」
こちらの異常にはすぐに気付かれるだろう。なら、それよりも先に入り込むべきだ。
冒険者が先に進むと、待ってましたと村人が顔を出し、痙攣の残っているコボルトを全員で串刺しにした。そうして動けなくなってから、身ぐるみ引き剥がす。コボルトが持っていた槍の先は赤いような黄色いようなものでじっとりと濡れていて、鼻を突く匂いがした。
「もう一度、ブレスセンサーを‥‥」
リアナが再び、コボルトたちの姿を捜す。
「‥‥うわっ‥‥今度はいっぱいいます」
返ってきた反応は予想通りというか。コボルトはひとかたまりになって、中にひときわ大きな体つきのものがいるという。
「いい場所だわ」
ステラはにやりとした。
砦の中にある湖が、彼女をこの上なく有利にしている。
ステラが詠唱を始めると、その水面がわずかに動き出した。そして大きな固まりが浮かび上がると、それは離れたコボルト達にぶつけられたのだ。
コボルトは混乱した。そして当然、水がぶつけられた方角を見た。
しかしそれは囮だ。冒険者達はその反対側に回っている。
「どこを見ている!!」
三四郎と文淳はコボルトの前に姿を現した。かと思うと姿勢を低くし、視界から姿を消す。
狙っているのは足下だ。2人がかりの続けざまのトリッピングで、コボルトの壁を次々と壊していく。
「キミたちなんかにあたしは負けません」
倒れたコボルトの上から、明華は両手に持つ剣を突き立てた。下っ端なのだろうか、粗末な防具しかつけていないコボルトは隙だらけだ。ざくざく斬って腱を切れば二度と立ち上がることはない。
しかし、そんな楽勝は続かない。
コボルトの反撃。
耳をつんざく、けたたましい雄叫び。
コボルトは、綺麗な2列の隊列をいつの間にか作り上げていた。前列のコボルトは皆四つんばいになっている。そして‥‥冒険者目掛けて、土煙を上げながら突進してきた!
さすが、早い。
「来るがいい、野良犬どもが! この俺に屠られにッ!!」
コボルトが振り上げた前足には手甲がはめられていた。本来生えている爪よりも長い爪が5本、ある。コロスはそれをタートルシールドでがっちり止めた。
「あぶないっ!!」
2列目のコボルトは矢を番えていた。突進した仲間の向かった敵を狙って、ギリギリと弓を引く。シュナは素早く石弾をスリングにこめると振り回し、コボルトの狙いを外させた。
「油断するなよ、数じゃこっちが負けてんだからな!」
「言われなくても!」
挑発するように言うシュナに刺激されたのか、コロスはコボルトの腕を折る。おそらく、この手甲に毒があるのだろう、爪は折らないように注意したつもりだ。
「‥‥雑魚に‥‥用はない」
ディザームでコボルトの武器を叩き落としていく文淳だが、何しろこちらの身体は一つ。埒があかない。
「‥‥こいつらを、指揮しているのは‥‥誰か?」
文淳は捜す。タシュの言っていた、大きなコボルトの姿を。あの雄叫びをあげた主の姿を。
「もう‥‥この犬の壁が、邪魔だよ」
苛つくレフェツィア。確かにいるはずなのに、コボルトに囲まれて族長の姿が見えない。
「レフェツィアさん、お願いできますか?」
明華の合図に、レフェツィアは頷く。
そして、コアギュレイト。コボルトの体勢を崩す、よりも、壁の穴を作るために。
その隙間から抜けたのはアトスだった。絡め取られたコボルトは、アトスが走り抜けるのを追いかけることが出来ない。
アトスの詠唱は間もなく終わる。
終わったその時、彼が見据えていたのは、鋭い眼光でこちらを睨んでいるコボルト。
「コアギュレイト!!」
動きを止めた!
だが、動きを止めただけだ。効果も、長くは続かない。
「早く!!」
同時にかけだしたのは三四郎だ。動けなくなった族長の胴体をがっちりと両腕を回してつかみ、そのまま高く持ち上げた。
「我が柔術の秘技、一本背負いぃぃい!!」
三四郎の豪快な一撃が決まった。束縛されたままのコボルト族長は身を庇うこともできず、スープレックスをまともに喰らってしまったのだ。
すっかり静かになった緑溢れる湖の周りを、明華はもう一度丹念に調べ歩く。ここに巣くっていたコボルトは全て退治したと思うが、万一のためにだ。もし生き残りがいて、村人に復讐するなどということがあったら‥‥わずかな芽でも、摘んでおきたい。
その間に村人達も集まり、コボルトが遺した道具を拾っていく。と、タシュが嬉しそうな声を上げた。族長の腰に解毒剤らしい薬の入った小瓶があったのだという。
「どうだ、仲間の治療はできそうか?」
シュナが尋ねると、タシュは自信たっぷりに笑った。ダンスでも踊り出しかねない足取りで、仲間達の元に寄る。その後ろ姿を見て、シュナは苦笑いした。
「なんていうか、若いな‥‥けどまあ、いい村長なんじゃねーか。なあ?」
何とはなく、空を見上げる。
あんたの息子はちゃんとやってるよ、と呟いて。