【レイクワ研究所】アニゼット、失踪の回
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■シリーズシナリオ
担当:江口梨奈
対応レベル:7〜13lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月09日〜11月16日
リプレイ公開日:2005年11月17日
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●オープニング
「最近は静かなもんね」
「そうね」
アマレットは夕食の支度をしながら、隣にいる妹のアニゼットにそんな話をしていた。
ここは新しい『レイクワ研究所』。
ほんの数週間前、キャメロットからチェルムスフォードに移り住んできたばかりだ。
アマレットとアニゼットという二人の姉妹が、ドットくんとカールちゃんという二匹のコボルトを飼育し、観察している。彼女たちの共同生活はそうとう長いが、やはり新しい土地では落ち着かないのか、しばらくコボルト達は荒れていた。
それと同時期に、この研究所が、何者かの手で荒らされていたのだ。盗人ではない、それならこうも続かなかっただろうし、何も盗まれていない。
時間が経ち、コボルト達は馴染んできた。そして気が付けば、家が荒らされることもなくなったのだが‥‥。
「ま、もう荒らされないならいいんじゃない」
二人は揃って、楽観主義であった。
「あら、いけない」
アニゼットは何かを思い出したらしい。
「あの箱が無いわ。ほら、二人の抜け毛を毎年集めている、あの保管箱」
両手で長方形を作って説明するアニゼット。どうやら引っ越す前の家に、大事な研究資料を忘れてきたらしい。
「部屋には何も残って無かったわよ」
「梁の上に置いてたのよ」
何年も収集してきた資料だ、持って帰ってこなければ。
「明明後日には帰ってくるわ」
そう言い残して、アニゼットは家を出た。
予定の日になっても、アニゼットは戻ってこない。
どうしたのか、と心配になった。その時だ。玄関でことりと音がした。
誰かが扉の隙間に手紙を差し込み、走って逃げたのだ。
「‥‥なんだろ?」
『妹は、コボルト2匹の首と、ジュレップ・ノートと交換する』
ああ、なんということだろう!
妹は前の家で囚われの身となっている。
そして犯人達の要求は、大切なコボルトの命と、ジュレップ・ノート‥‥彼女たちの師匠・ジュレップが、コボルトの記録を事細かく記した貴重な書。
元々ジュレップもレイクワ姉妹も、周囲から良く思われていないのは知っている。醜悪な、人に害なすモンスターと分かり合い、ともに生きようと考える彼女たちの浅はかさを疎ましいと考える者達が以前からいたのだ。
「あの子はのろまだから、自力で脱出なんて出来ないわよね‥‥」
アマレットは考えた。ここは姉として、たった一人の妹を救い出さなければ。
ギルドに新しい依頼が張り出された。
『至急! レイクワ研究所まで』
●リプレイ本文
「ギギーッ、ギャーッ」
「静かにしてろよ、お前達だって死にたくないだろう?」
「それとも留守番して餓死するつもりか?」
2匹のコボルトのために用意された2つの檻。前回の引っ越しの時から大活躍だ。
アニゼット誘拐犯の要求に応えるわけではないが、家を空ける間コボルトを置いてはいけない。だからヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)とクリムゾン・コスタクルス(ea3075)がドットくんとカールちゃんを檻に入れようとするが、窮屈な檻が気に入られているはずもなく、やはり暴れて思うようにいかない。
「前も会ったじゃないですか〜。覚えててくださいよ」
倉城響(ea1466)がよしよしとなだめようとするが効果はない。
「一度会っただけでは懐かないぞ。ジュレップですら十年かかったらしい」
と、セオフィラス・ディラック(ea7528)が言う。彼の手にはあの真っ青な本。そう、ジュレップ・ノートだ。
「相変わらずいい色だな」
ヴルーロウはこの青色が気に入っている。引っ越しの際に見つけて、そのときにこれがアニゼットの宝物だと聞かされた。
「この本にどんな価値が、ねえ‥‥」
セオフィラスは不思議そうに頁を繰る。立派な装丁で、好事家に見せれば高い値が着くだろう事は想像つくが、人ひとりをさらってまで手に入れたいものとは思えない。
「内容は? 内容はどうなんでしょう。とても重要な事柄が書かれているんじゃないですか?」
李明華(ea4329)がのぞき込んで聞いた。例えば、人間とモンスターの共存の方法、共存の事実、言語の解し方、意志疎通の手段‥‥。つまりそういう、反モンスター派にとって都合の悪い事柄が。
だが、アマレットは首を振る。
「そんなことはないわ。先生は忠実に、観察記録をつけただけよ。なんの偏見も持たずにね」
「ああ、だから‥‥」
ユリアル・カートライト(ea1249)はそれで合点がいったというふうに頷いた。なぜノートが狙われているのかが不思議だったが、ノートを読んでその理由が分かった。ジュレップは常にコボルトという異種族に敬意と愛情を持っていたのだ。
この記録が、研究を志す若者に深い感銘を与えて、レイクワ姉妹のような後継者を作り出す。過激派にとっては、今すぐにでも断ち切りたい連鎖なのだろう。
「関係者には知られた本なのか?」
おそらくは、とアマレットは答えた。『ジュレップ・ノート』という呼び名までつけられているのだ、その形と内容まで知られていると思われる。偽物を出して誤魔化せるものではないだろう。
チェルムスフォードとキャメロットを結ぶ道は何度も通ったことがある、慣れた道だ。一服できる場所も一眠りできる場所も頭に入っている。普段なら気安くおしゃべりでもしながら歩けるところだ。
アニゼットひとりがいないだけで、こんなに沈んでしまうのか。明るく振る舞っていたアマレットも、家を出発してからすっかり暗くなってしまった。7人と2匹は黙々と歩き続けた。
街が近づくと、ユリアルは檻の上から厚い布をかけた。周囲の好奇の目を避けるためだ。
「可哀想ですけど、少しだけ辛抱してくださいね」
わめいたりはしないが、常にグルグルと喉の奥を鳴らし、落ち着かない様子だ。
街に入る。顔見知りにも会うようになる。
「どうだ、知らないヤツはいなかったか?」
クリムゾンが聞く。こちらの様子を窺う、犯人の一味のようなものはいなかったか、と。思い当たるものはいない。しかし、今のアマレットの眼では誰も彼もが疑わしい。もともと、この近所ではよく言われていなかったのを知っている。今の彼女は、平静に判断が出来ずにいた。
「もうすぐですね」
かまわず街を抜け、人気のない森へ入る。その奥が旧レイクワ研究所だ。すこし手前で響とユリアルが分かれ、家の左右に回るようにした。
そこから、バイブレーションセンサーを発動させる。
2方向から確認した結果得られた答えは、研究所の中にいる人数は少なくとも6人であること。その1人はアニゼットでいてほしい。
明華とクリムゾン、そしてアマレットが荷車と共に入り口の前に立った。荷車には布をかぶせた箱が乗ってある。
「来たわよ」
外からアマレットが呼ぶ。
しばらくして、扉が開く。
中から3人の男が出てきた。
どちらも、アマレットの知らない男だ。
「誰だ、その2人は?」
男のひとりがクリムゾン達を指して言った。
「アマレットの付き添いだよ。こんな危険な場所にひとりで行かせるわけにはいかないだろう?」
「ちっ」
男は舌打ちをした。クリムゾンと明華が単なる友人であれ用心棒であれ冒険者であれ、アマレットが応援を呼んだというのは事実だ。素直にコボルトとノートを渡すつもりではない、という意志の表れであることは明白なのだ。
と、別の男が前に出た。
「約束のものは?」
アマレットは荷車を指さす。
「中を見せてもらおうか」
「その前に、アニゼットさんを解放してもらえますか?」
明華が言う。
男は奥に向かって「おい」と声をかけた。と、別の女が出てきた。縛ったアニゼットを連れている。顔色は悪いが、怪我はなさそうだ。3人はほっとした。
しかし、玄関の奥に姿を見せさせただけ、表へ出そうとはしてくれない。
「さあ、今度はそっちだ」
アマレットは箱の布を取った。そこにはコボルトが1匹。カールちゃんだ。
「アマレット! なんで!!」
アニゼットが叫ぶ。か細い声だ。アマレットは何も言わず俯いていた。
「2匹、と言ったはずだ。それにまだ生きてるが?」
「コボルトの首は出せませんよ。この二人がコボルトを大切にしているのは知っているでしょう?」
「首だ。アマレット、いますぐそのコボルトを殺せ。そして二度と、モンスターと分かち合おうなどと考えないと誓え」
やはり想像したとおりの連中だったのだ。交渉の余地はない。
「カールちゃん、カールちゃん!!」
アニゼットは取り乱し、女の手を振りほどいて駆け寄ろうとした。だが、腕を縛られた状態では上手く走れず、前のめりに倒れてしまった。
「アニゼット!」
「動くな!」
「動くな!!」
声が重なった。
セオフィラスが男たちの後ろに回り込んでいたのだ。
「この家の作りなら、私たちも全部知っているんですよ」
家の内側から出てきた響とユリアル。足下には女が力無く崩れ落ちている。交渉をして時間を稼いでいる間に窓から入り、中に残った1人を伸し、こうして玄関まで出てきたのだ。
「逃げるぞ、アニゼット、アマレット!」
ヴルーロウはアニゼットを抱きかかえて走る。アマレットもカールちゃんの檻を掴むと、一目散にそこから離れようとした。
「待て、クソッ」
男が追いかけてくる。のばしてきた手をリュートベイルでたたき落とし、左肩にワスプ・レイピアを突き刺した。
「うわああっ」
「よくも!」
別の男が棍棒を振り上げた。
男はその姿勢のまま、口から泡を吹いた。
鳩尾に、明華の拳がめり込んでいた。
残るは、1人。
「二度と馬鹿なまねはしないと誓うなら、このまま見逃してやる」
「‥‥誰が!」
男は腰の剣を抜き、セオフィラスの顔を横一文字に切ろうとする。セオフィラスはのけぞってそれをかわす。すると男は、そうして出来たセオフィラスの隙に、もう一撃を突き立てるでもなく逃げ出したのだ。
6人を一度に倒す、男にその腕がなかったのか、それとも次の手段を思いついたのか、男はとにかく逃げた。
追うべきか。いや、深追いはやめたほうがいい。今はとにかく、アニゼットを取り戻す方が先だ。
アニゼットは怒っていた。カールちゃんを危険にさらした姉を許せないと。相手を油断させるための事だとわかってはいるのだが、感情がついてこない。
「それはあんた、せっかく来てくれた冒険者のみんなを信用してなかったってことよ? あたしは信用してたから、カールちゃんを見せても大丈夫って思ってたわ」
「うわっ、ズルい。そんな言い方したら、あたしの方が悪者じゃない」
遠慮ない喧嘩。周りで聞いている方がハラハラする。思わずユリアルが間に入って止めた。
「落ち着いてアニゼットさん、それよりも聞きたいことが」
ユリアルが聞きたいこと。それは、アニゼットをさらった人物について。
彼らはどういった一味なのか。逃がした男は何者なのか。今日のようなことがまた起こってしまうのか。
「あんたがノロノロしてなきゃすむ話よ」
「まるで自分が素早いって言いたいみたいね!」
帰り道はずっとこんな調子でやかましい喧嘩がなされた。
ここへ来るまでとは大違いだ。