植木屋國吉からの依頼
|
■ショートシナリオ
担当:江口梨奈
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや易
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:02月08日〜02月13日
リプレイ公開日:2006年02月17日
|
●オープニング
國吉は植木屋だ。といっても、立派な庭木や盆栽ではなく、鉢植えを育てていることが多い。それ、縁日で朝顔や鬼灯を売っているのを見かけることがあろう、それである。
この國吉、ちょっと色気を出して朝顔の変わり咲きに手を出したのである。花弁が普通のまん丸じゃなく、波打っていたり裂けていたたり斑点が入っていたり‥‥そんなものが出来るのを期待して。
そんな努力が実ったのか幸運な偶然か、2年前に綺麗な花を咲かせられた。去年はその種から同じような花が咲き種が取れた。國吉はこの種を、値千金と思っている。これからずっとこの種から出来る朝顔はこれまでにない綺麗な花で、江戸の珍し物好きに高く売れることだろう。知り合いの朝顔師などは自分のことを羨ましいとも言っていた。
さて、その種であるが、今は涼しい地方に住む草津という知人に預けてある。暑さで傷めてしまわないように、信頼できる彼に春まで持ってもらっていたのだ。
その草津から、気になる話を聞いた。
近頃になって彼の元へ、種を譲って欲しいという者がたびたび訪れるそうである。もちろん草津は、知らぬ存ぜぬで追い返すが、どうも國吉の朝顔を欲しがっているのではないか、と言うのだ。
「これこれ、國助や」
國吉は、息子を呼んだ。
「何でしょう、お父さん」
「おまえ、これから草津さんのとこへ行って、あの種を返してもらってこい」
草津から聞かされた話をすると、息子も、それは心配ですねと言った。
「だからな、何があるか分からん。冒険者を何人か呼んで、一緒に行って貰うように頼んだからな。それから、これだ」
國吉は、道中の人数分の荷物と金と一緒に、十数個もの小袋を取りだした。
「これは?」
「中にカス種が入っている。もし大事な種が狙われたら、これで騙してやれ」
「なるほど、分かりましたお父さん」
「気をつけてな。それから、草津さんにくれぐれもよろしく伝えておいてくれ」
●リプレイ本文
この宿を國助はよく利用するのだろうか、冒険者達と一緒に到着すると主が直々に出迎えてくれた。
「おや、今日は大勢お連れですね?」
「草津さんのところへ行く予定でね」
などと世間話をしつつ、主は部屋を案内してくれる。人数が人数なので、國助一団だけで一部屋を埋めてしまった。おかげで、他の旅人は入ってこない。
「誰にも会いませんでしたね」
荷を解き、フェネック・ローキドール(ea1605)は凝った肩を叩く。國吉の家を出てからずっと旅芸人の形をしていたが、その変装も今は休みだ。
「このカス種の出番はまだかなあ」
懐に忍ばせていた変わり種の偽物を取り出す若葉翔太(eb3293)。國吉は用心深いのか、息子にいくつもの小袋を渡していた。翔太が持っている数も5.6個はある。たいくつな夜長にお手玉遊びをするにはもってこいだ、などと冗談を言いながらそれを掌の上で転がしてみせる。
「ヘイ、ボーイ。こっちにも投げるだがや」
ファニー・ザ・ジェスター(eb2892)がちょいと手招きする。
「それっ」
「キャッチ。アンドリターン。はい、もっと投げるべ!」
「はいっ。はいっ。はいっはいっっ」
「ハイハイハイハイ!」
気が付けばファニーの両手の中には6個の小袋が。それをこの道化師は器用に空中で回していた。
「さっきまで純金みたいに大事に持っていたのが嘘みたいだね」
ハロウ・ウィン(ea8535)は高度な芸に拍手を送りながらもけらけら笑っている。
「まあ、実は正直な話、草津さんのところの種だって、これと変わらないかもよ」
「えっ?」
皆が真顔になって振り返る。國助が、なんとも聞き捨てならないことを言うからだ。
「どういうことだ?」
アルバート・オズボーン(eb2284)が眉間に皺を寄せて聞き返す。
「変わり朝顔なんて、2年や3年で出来るもんじゃない。知り合いの朝顔師だって、先祖代々続けて、やっとひとつかふたつって言ってたしな」
人間も同じ、親と子は似てても、孫まで似てるとは限らないものだ、と國助は言う。
「金か泥か、咲いてみるまで分からないってことか」
「そういうことだ」
「でも楽しみだよね。どんな花が咲くんだろう!」
夏になるまで分からない、来年も咲くとは限らない。その難しさもまた魅力の一つではないかとユニ・マリンブルー(ea0277)は言った。
「そもそも、朝顔の改良はどうやってするのですか?」
アディアール・アド(ea8737)は話題がそのことになったので目を輝かせている。薬草師として植物には興味がある。まして改良となると知りたいことはいっぱいだ。
「なあに、簡単だよ。雄しべと雌しべがあるだろう。それをだな‥‥」
國助の朝顔講義が夜更けまで続いた。
翌朝、主に見送られて宿を出ようとした。ハロウはその前に主に尋ねてみた。
「最近、この付近で盗賊が出たりしますか?」
「いいえ、そんなことはありませんよ。いたって平和です」
それを聞いて安心して國助は出立した。
「‥‥これでもし、道中誰かに襲われたら、それは間違いなく種を狙ってだろうね」
ユニは言った。
「やっぱりそうなるのかな?」
「お世辞にも、王子や王女の行列ではありませんものね」
大きな荷を引くでもなく、錦を身にまとっているでもない、ただの旅人だ。フェネックが言うには、目立つ理由はない、と。それなのに襲われるなら、理由は一つ。
「気になるのは、どうして草津さんのところにあるって知ってるのかな、ってことなんだ」
ユニは続ける。
「お父さんが種を預けてるっていうのは、みんな知ってる話なの?」
「さあ、どうだろう」
そんなに重要な秘密でもないのだから、何かの話のついでに誰かに言ったことがあるかもしれない。國助には、すぐには分からなかった。
「ミスター・クサツのところまで行ってそこで盗らなかったのは、やはり本物のシードが分からなかったからでがしょ。なら、やはり本物を受け取って帰る時がデンジャラスだべ」
ファニーはそう予測した。狙う者がいるなら、なにも正面から「渡せ」なんて言う必要はない。草津を縛り上げて箪笥をひっくり返せばいいのだ。
「種を見ただけでその中身が分かる人間など、いやしないからな」
アルバートがひとりごつ。噂を聞き冒険者を連れて引き取りに行かせた國吉の判断は正しかったと思われる。何も考えず春にのこのこ一人で引き取りに行こうものなら、そこで奪われていただろう。いずれ訪れる危険なら、早いうちに一掃しておくべきだ。大量のカス種を用意していたというその手際の良さも、まったく脱帽ものだ。
「ああ、そろそろ着きますよ。草津さんの家です」
丘の向こうに一軒の家が見え、そこからは夕餉のしたくなのか、白い煙が立ち上っていた。
草津は陽気な男だ。友人の息子と冒険者が来たとなると、酒やごちそうを振る舞ってくれた。
「ふぅう。もうお腹いっぱいだよ」
「どうしたボウズ、もっと食え食え」
「じゃあちょっと、腹ごなしに外を歩いてくるよ」
そう言うと翔太は席を立ち、家の外へ出て行った。あとから、アディアールも追いかける。
「あんまり呑むわけにもいきませんからね」
「せっかく楽しんでるのに、邪魔しちゃ悪いよね」
仰々しく見張りだ護衛だとするより、自然に外を見回る方法を選んだ翔太。大きく深呼吸して、改めて周りの様子を伺った。
自分たち以外に人のいる気配はない。
「どれ‥‥いい柿の木がいますね」
アディアールは木の幹に手を添え、語りかけてみた。最近、草津の元へ見知らぬ者が訪れるという、それは何人なのか男なのか女なのか歳はいくつなのか背格好は‥‥。
「‥‥ここまで来るのは、男が一人だけ、みたいですね」
「どんな男かな?」
「恰幅のいい初老の‥‥ああ、残念です、これ以上は聞けません」
無事に草津から変わり種を受け取り、國助はそれをフェネックに持たせた。手荷物や着物の中にいれるのではなく、厚く巻いた髪の中に隠し、更にその上からヴェールで覆うという念の入れようだ。
そして手ぶらの國助を、冒険者全員で周りを囲み、物々しい雰囲気を醸しながら進んでいく。
道中は色々な人と出会う。たいていは軽く会釈をして通り過ぎるのだが、人気の無い山道に入った今、すれ違おうとする男は違っていた。
「やあ、國助くん」
男は立ち止まり、名前を呼んだ。
「ああ、英先生。お久しぶりです」
知り合いだったのか、國助も止まり、頭を下げた。夕べに話した朝顔師だという。
アディアールはこの男の姿を見て驚愕した。
恰幅のいい、初老の男‥‥。
「急ぎましょう、國助さん‥‥」
「まあ、慌てなさんな。ちょっと用事があるんでね」
と、繁みが動いた。
「伏せてっ」
ハロウは國助を突き飛ばした。転倒する邦助の頭上を、2本の矢が通り過ぎた。
「起きろクニスケ! 逃げるべ!」
ファニーは國助を庇うように覆い被さり、すぐさまホーリーフィールドを発動させる。
「國助さんには指一本触れさせないもんね!」
ハロウは負けじと、矢の放たれた方角へ向かってグラビティーキャノンを放出した。
「ぎゃっ」
弾かれて出てきたのは、これまた屈強そうな男ども。確かに当たったはずなのに、くるりと一回転をして体勢を整え直していた。
「高い金を出して雇った用心棒だ、強いぞ」
「弓なら僕だって負けないんだから」
ミドルボウをぎりりと構え、ユニは英に向かって射る。だが用心棒も立派なもので、大切な雇い主に傷一つ付けさせない。
男は剣に持ち替え、一番弱そうな翔太を目指して斬りかかってくる。
「なんのっ」
それよりも早く翔太は縄ひょうを投げつけ、男の左腕から血を噴き出させた。
「あははっ。子供だと思って甘く見ない方がいいよ」
「おまえこそなっ」
血が流れているにも構わず、男は突進してくる。剣を振り上げ、翔太が身をよじってかわそうとしたその脇腹を狙って、足で思い切り蹴り飛ばした。
「うわあっ」
地面に叩きつけられ、次の刃をまともに食らいそうになったのを救ったのは、アルバートの盾だった。
「こしゃくな」
男は激しく打ち込んでくる。アルバートは間一髪で受け止めながらも、じりじりと後ろに下がっていた。
そして‥‥。
「ああっ」
横に飛び退った拍子に、腰に結んでいた小袋が落ちたのだ。
「種が!!!」
慌てて拾おうとするその手を、男は素早く足で踏みつけた。そしてアルバートの顎を蹴り、手を離れさせて、悠々と落ちた種を拾い上げた。
なんということだろう、大切な種が奪われてしまった‥‥一瞬の油断が、敗北を許してしまった。呆然としている冒険者たち。
「先生、お待たせしました」
「うむ」
別の男が馬を連れ、そこに朝顔師を乗せると早々に立ち去った。残る男も、用はないと言わんばかりに唾を吐いてどこかへ消えてしまった。
誰もいなくなった。
辺りはまた、静かになった。
「‥‥‥‥ばぁか」
國助が笑い出したので、つられて皆も大笑いしてしまった。
「いやあ、アルバートくん、役者だねえ」
いい具合に種を落とし、それを必死で拾おうとする演技。カス種かもしれないなんて疑うこともしなかっただろう。
「みんなも、怪我させちゃったな、すまない」
「大丈夫です、このくらい」
「そうですよ。私たちは冒険者なんですから!」
このくらいの怪我、怪我のうちに入らない。
「それで、あのアサガオマスター、どうします? ふん縛って役人に引き渡しますべか?」
「放っておけ。夏に赤っ恥かくのを見るのも、楽しいかもしれないからな」