スランジ氏からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月12日〜07月19日

リプレイ公開日:2004年07月20日

●オープニング

 よく、仲の悪いさまを『犬猿の仲』などと表現したりするが、本当に犬は猿が嫌いなのだろうか? よくは分からないが、スランジにとってひとつだけ、はっきりと分かることがある。
 犬鬼は、他のモンスターが嫌いだ。あくまでスランジの見解だが‥‥。
 コボルトはゴブリンが嫌いで、もしかしたら、ゴブリンもコボルトが嫌いなのかもしれない。
 そうでなければ、こうも頻繁に喧嘩をするわけがない。

 スランジはここ半月ほど、モンスター同士のやかましい衝突に頭を悩ましていた。
 2・3日に1度ぐらいの割合で、総勢20匹ぐらいのコボルトとゴブリンが、殴ったり噛みついたり追いかけたり叫んだりの、大騒動が行われているのだ。
 それも、よりによってスランジの麦畑のど真ん中で!
 おそらくモンスター達は、他の動物たちと同様にそれぞれのなわばり争いをしているだけかもしれない。しかし厄介なのは、一回勝敗が決まっても、その数日後には仕返しとばかりに争奪戦を再開する。どうやら力の均衡が釣り合っているようで、なかなか決着が付かずに、長引いているようだ。そして、まだまだ決着が付きそうにない。
 おかげでスランジはまったく畑に近づけないのだ。今、畑に何も植わっていないことが不幸中の幸いだが、それでも次の種まきに向けて準備をしなければならない。いつ終わるか分からない喧嘩を、のんびり待っている余裕などないのだ。
 
『畑を守ってくれる冒険者、急募! 食事付き』
 スランジ氏からの依頼である。
 報酬は多くないが、代わりに彼の家で食事と寝る場所を提供してくれる。
 腕に自信のある冒険者は、ぜひスランジ氏を助けてやってほしい。

●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0780 アーウィン・ラグレス(30歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2155 ロレッタ・カーヴィンス(29歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3472 世羅 美鈴(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4250 リオルス・パージルド(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 畑のまわりに穴があけられた。
 四方八方、あっちもこっちも穴だらけ。全部落とし穴だ。
 目印の杭が打ち込まれている部分だけが、なんとか足場があるが、あとは蜂の巣のように穴だらけ。
 一方では、わら束を集めて作った人形が作られている。大きなヒトの形をしたモノが何体も何体も。
「こっちの穴ができたよ。そちらはどう?」
「こちらもできあがりです」
 顔中泥だらけにして、カシム・ヴォルフィード(ea0424)と世羅美鈴(ea3472)が顔を出した。
「覆い用の草、足りてますでしょうか? こちらに余ってますから回しますよ」
 ロレッタ・カーヴィンス(ea2155)も落とし穴のひとつを塞ぎおわったところだ。
「掘り出した土は裏にまとめておくでござるよ。作戦が終わった後は責任を持って元に戻すと約束したからの」
 スランジに借りた荷車に土を乗せては運んでいくのは天城月夜(ea0321)。
「そんな遠くまで運ばんでも、このへんでかまわんやないか」
 と、リオルス・パージルド(ea4250)は掘り出した土を、適当にぽんぽんと積み上げていた。この山が、後に大変なことになるとも知らないで‥‥。
「人形は、人形は、っと‥‥。これで何個目だ?」
「7個出来ました」
 アーウィン・ラグレス(ea0780)の指示で、いわゆる『かかし』は順調に出来上がりつつあった。あまり器用じゃないと言っていたルーティ・フィルファニア(ea0340)も、なかなかどうして十分な手伝いをこなしている。
 そしてその間に、ユリアル・カートライト(ea1249)が、畑を囲む藪に声をかけていた。対立するコボルトとゴブリン、それを率いているボスのような存在はあるのか‥‥。
 残念ながら、それを特定するような答えは聞き出せなかった。藪たちが見ていたことは、スランジが見ていたこととほとんど同じだった。

 畑に仕掛けた罠が九分通り仕上がると、冒険者達はスランジの家で休憩を兼ねた食事をすることにした。
「そう、前に喧嘩があったのは、いつ頃でござるか?」
「おとといだ。だから、今夜あたり、また始まるかも知れない。2・3日おきだからな。たまったもんじゃない」
「まったく、畑をめちゃめちゃにされたら、俺の大事なメシまでめちゃめちゃやないか! スランジのおっちゃん、心配せんといてや」
「はっはっは、リオルス君は頼もしいが、まだ何も植えてない。それに、君のごはんはこのとおり無事だ。これも食べてくれ」
「おっと、おおきに」
「お聞きしたいのですが、いつもゴブリン達は、いつ頃に畑に来るのですか?」
 ルーティが尋ねると、スランジは間髪入れず答える。
「あいつら、狙ったかのように同じ時に来やがるんだ。月があの木にかかる頃、子供達が寝静まった頃に暴れるんだ」
 何度も眠りを妨げられたのか、スランジは憎々しげな顔をした。
「それももうすぐの辛抱だぜ。次に来るときが、やつらの最後だからよ」
 と、アーウィンはにっこりとした。

 月の綺麗に見える夜だ。
 スランジの子供達があくびをはじめ、家畜小屋の牛たちもとっくに眠りについている。
「‥‥なんだか、おかしな雰囲気だね」
 カシムが、何やら周りの空気が違うことを感じ取った。他人より多少五感が鋭い彼は、言いようのない違和感を覚えていた。
「これはスランジさんの言うとおり、今夜あたり来るかも知れませんね」
 美鈴はそう言い、愛用の刀を両の手に準備を始める。
 美鈴が立ち上がると、続いてロレッタ、ユリアル、リオルスも立ち上がる。
「スランジさん、コボルトはどの方向から?」
「あっちだ。あっちの斜面から、ワンワン吠えながら駆け込んでくる」
「それで、ゴブリンは?」
 今度はルーティと、アーウィン、月夜、そしてカシムが出撃の準備を始めていた。
「ゴブリンは反対側だ。あの森から、その草むらを突っ切って来る」
「行こう」
 対コボルトと、対ゴブリン。8人の冒険者達は二手に分かれて、それぞれの行動を開始した。
 彼らの予感は正しかった。
 それからまもなく、モンスター達の叫び声が響き渡ったのだ。
『また来やがったのか、いい加減この場所は諦めろ』
『うるせぇ、てめぇらこそ、さっさと尻尾巻いて消えやがれ!』
『やるのか、サル共が!!』
『うるせぇ、イヌのくせに!!』
 もしかしたら、そんなことを言い合っているのかも知れない。けれどヒトの耳に聞こえるのは、ワンワンギャアギャア、鼓膜の破れそうなうるさい遠吠えだ。
 しばらく、そんな鳴き声の応酬が続いたかと思うと、ひときわ高い声が響いた。
 そして、斜面から、森から、生き物がざああっと駆け出すのが見えた。
 竜巻が通る時のような風が吹き荒れ、藪がざわめく。そして、いよいよ畑のどまんなかで衝突する‥‥‥‥!
 と思ったのに。
 ぎゃああ、うわあ、ばきぼき、ずどーん。
 いろんな音がして、辺りは一瞬、静かになった。
「おいでなすったか‥‥お嬢さん方、仕事の開始だぜ!」
 冒険者達はとびだした。
 落とし穴にずっぽりはまっているモンスター達を、今度はやっつける番だ。
「これがおまえらモンスターと、俺たち冒険者の違いだ!」
 彼らはコボルト達に、人間の恐怖をたたき込もうとした。コボルトとゴブリン、彼らが暴れている場所は人間の使っている土地で、そこをこれ以上荒らすと、人間の手による制裁が加えられると言うことを。

「喚いてないで遊んであげるからかかってきなさい」
「ザコはいいわ。リーダーはどれ?」
「皆さん、伏せて下さい!」
 ユリアルの詠唱が終わり、グラビティーキャノンが解き放たれる。まず、落とし穴から胚だそうとしていたコボルトの一部が倒れた。
「どんどん行くでござるよ、ここが攻め時でござる」
「一気に片づけてやる!」
 わーっと喊声を上げ、アーウィン達が走り出したとき。
「うわっとっとっと‥‥‥‥痛たたたた」
 ごろんと綺麗に一回転、何かに躓いて彼らはひっくり返った。
「な‥‥なんだ、これは!??」
「あいたー。俺の掘り返した土でんねん。あかんで、もっと足下よォ見んと」
 リオルスが落とし穴を作ったときに、土をその辺に置き固めていたのが、今になって皆の足場を悪くしていたのだ。
「だーかーら、拙者が裏まで運ぶと申し上げたのに!」
「まあまあ、そう怒らんと。ほれ、コボルト達も転げてるやろ?」
 リオルスの言うとおり、穴からはい出したコボルトもゴブリンと、畑から急いで逃げ出そうとしているが、でこぼこの地面に足を取られて、あっちでごろん、こっちでごろん、ボールのように転がっていた。
「課程はどうあれ、コボルトとゴブリンがそれぞれ、ここから逃げ出したのだから、結果は成功なんじゃありません?」
 ルーティは言った。
「ルーティ様、いよいよこれの出番ですよ」
 ロレッタは、ルーティ達の作った、あの人形を運んできた。最終的には1ダースほど出来上がったそれを、畑を守るようにぐるりと立たせた。
「本当なら、私たちに似せるように作ればよかったのでしょうが‥‥」
「まあ、短い期間に、よくここまで出来たと思うよ」
 モンスター達は、今夜のところは畑から消えた。
 念には念を入れて、冒険者達はもう3日、待ってみた。
 何日待っても、静かな夜が続いた。
 一回だけ、藪がざわざわと動いたときがあったが、それはかかし人形の前まで来ると、くるりと向きを変えていなくなった。

 あとは、掘り返した落とし穴を、もう一度埋め直す作業が待っていた。
「作戦のためとはいえ、こんなに掘り返してしまって申し訳ありません」
 ユリアルはそう、頭を下げたが、スランジは笑って答えた。
「いやいや、こんなに土を耕してくれたんだ、逆に今年の実りは良いかもな」
「いい作物が育つとよいですね。私たちも、この畑の恵みを、ぜひ味わってみたいものです」
「遠慮するな、いつでも来てくれよ。あんた達には世話になったんだ、いつでもごちそうするよ」
 スランジは、来週には新しい種をまくという。もう誰も畑を荒らさない。
 冒険者達に似せた人形と、スランジとその家族に見送られて、今回の依頼は無事に終了した。