フリップくん達からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月19日〜07月24日

リプレイ公開日:2004年07月27日

●オープニング

「ぼくたちの隠れ家だぞ! わーい」
「灯りをもってこいよ。早く、早く!」
 フリップ達6人の少年少女が見つけたのは、おおきな洞穴だった。何年もの間に積み重なった落ち葉のせいで、入り口が隠れていたのが、ふとした拍子にぽっかり口を開けたのだろう。好奇心旺盛な年頃の彼らは、胸をはずませてその中へと入っていった。
 しかし‥‥‥‥。
『ギニャアアアアアア!!!!!』
 凄まじい悲鳴が聞こえてきた。人のものとも、動物のものともつかない、この世のものとは思えない悲鳴だ。 
「な‥‥なに? 何なの??」
 鼓膜が破れそうなほどの凄まじい声だ。少年達はしばらく、耳をふさぐ手を離せなかった。
「奥を照らしてみて。何があるの‥‥?」
 洞穴の奥にあるものをみてフリップは驚いた。
 でっかく、まるいものがびっちりと、穴を塞ぐほどに広がっていたのだ。
「おばけキノコだ!!」
 思わず少年達は後ずさりした。すると、また、悪い場所を踏んでしまったのだろう、大きな悲鳴が轟いた。
『ギニャアアア、ギャアアアアア!!!』
「わああ、逃げろ!!」

 急遽、少年達による会議が行われた。家の裏庭に、おやつを持ち寄って。
「どうするんだよ、あんないい場所、他に無いぞ」
「そうよね。大きな木がそばにあって、川にも近いわ。一日中、遊んでも飽きないわよ」
「そうはいうけどさ、あのキノコをどうするんだ? 怖いじゃないか。俺たちが食べられたらどうするんだ?」
「そうなの? あいつはあたし達を食べちゃうの?」
「いや、それは知らないけど‥‥」
 少年達はおばけキノコを見るのが初めてだった。その上あんな悲鳴を聞かされたのだから、すっかり怯えてしまっていたのだ。
「お兄ちゃんから聞いた話なんだけどさ‥‥」
 フリップが言った。
「冒険者のひとたちは、ああいうおばけをあっという間に退治してくれるらしいよ」
「でもそれって、お金がいるんだろ? 俺、お金なんて持ってないぞ」
「これじゃダメかな? 隠れ家に置いておくつもりだった、水と干しパン」
「それに、こどもが頼んでもいいのかなぁ?」
「頼むだけ、頼んでみようよ。ダメだったらあの隠れ家は諦めよう」
 フリップ達は意を決して、冒険者ギルドへ向かった。

 新しい依頼が張り出された。
『おばけキノコをやっつけて! 僕のおばさんが作ったおいしいパンをあげます。とっておきの木苺の甘煮もつけます。だから助けて!』 

●今回の参加者

 ea0017 クリスタル・ヤヴァ(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea0119 ユキネ・アムスティル(23歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0504 フォン・クレイドル(34歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea1000 蔵王 美影(21歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea1493 エヴァーグリーン・シーウィンド(25歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea2698 ラディス・レイオール(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3472 世羅 美鈴(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4287 ユーリアス・ウィルド(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 フリップの家の裏庭で、冒険者達は依頼主に会った。
「こんにちは〜☆」
 まず最初に、クリスタル・ヤヴァ(ea0017)が声をかけた。
「こ‥‥こんにちは」
 少年達は緊張していた。本当に、自分たちが冒険者ギルドに依頼を出して、それを見た冒険者達がこうして集まってくれたのだ。まるで大人の仲間入りをしたかのように、彼らはドキドキしていたのだ。
「フリップ、お客さんかい?」
 裏庭が賑やかなのに気が付いた彼の母親が、家の中から声をかける。
「なんでもないよー。ちょっと遊びに行ってきまーす」
 フリップ達は慌ただしく、冒険者達の手を取って、ある場所に向かった。

「ここが、そうなのですね」
 枯れ枝や葉が山のように積み重なった場所を見て、エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)は言った。その枯れた山の向こうには岩肌があり、ぽっかり穴が開いている。そしてそこから、何かどぎつい色の丸い固まりが覗いていた。
「あ、あの‥‥僕たち、お金は持ってないんですけど‥‥」
 フリップは、持っていたバスケットを差し出した。布をかぶせて蓋をしてあるが、おそらく中には、おばさんが作ったパンが入っているのだろう。隠れ家で食べるのを楽しみにしていたパンが。
 ユーリアス・ウィルド(ea4287)は、フリップの目線の高さまでしゃがみこむ。
「お金のことなんて気にしなくていいんですよ。みんなが困っているのに、見て見ぬふりは出来ませんからね」
 優しい微笑みを見せると、子供達も「わあっ」と笑顔になった。
「お姉ちゃんたちが、ちゃんとやっつけてあげますからね!」
「でも、本当に大丈夫なの? おばけキノコ、怖くないの?」
 女の子が心配そうに尋ねる。と、ラディス・レイオール(ea2698)は首を横に振った。
「怖くなんかありませんよ。あそこに生えているキノコは『スクリーマー』と言って、近づくと大きな声を出すけれど、襲いかかったりしないし、むしろ食べると美味しいキノコなんだよ」
「嘘ォ!?」
 ラディスの説明に、子供達は信じられないという顔をする。
「本当だよ。だから、ほら、私たち、こうして料理の道具も準備しているんだよ」
 ユキネ・アムスティル(ea0119)はおかしそうに言う。その証拠に、皆の用意した道具を見てみると、ナイフなどの武器はもちろん、火打ち石や油、普段なら宿営地に置いていそうな料理道具が一式、わざわざ現場まで持ってきている。
「本当に? 本当に食べちゃうの?」
「まあ、かといって、油断していい相手じゃありません。なぜなら、キノコの悲鳴が、他のモンスターを呼び寄せてしまいかねないのです。ですから、フリップくん達は、安全な場所で待っていて下さい」
「うん、わかった」
 子供達はとりあえず、蔵王美影(ea1000)に誘導されて、麓の川で待つことにした。
 そうして河原にたどり着いたとき、背後からけたたましい悲鳴が聞こえた。
 本当に大丈夫なのだろうか‥‥。不安にさせるほどに、不気味な悲鳴だった。
『ギャアアアア、ギニャアアアア』
 河原と洞窟は決して近くはないはずだ。けれど、こんなに声ははっきり聞こえる。
 モンスターの気配はないか、美影は周囲を見回した、

 フォン・クレイドル(ea0504)は、耳に詰めていた綿の量を倍にしてみた。
「ああ、うるさい‥‥」
 うんざりした表情で、目の前を塞ぐキノコの大群を見上げる。スクリーマーの悲鳴は大きいと聞いていたが、まさかこれほどとは。
「さっさと刈って、終わらせてしまいましょう。美影さんが見張りをしてくれてますから、今の内に」
 世羅美鈴(ea3472)が急かす。キノコは洞窟いっぱいに広がっており、たった7人では、むしり取るにも時間がかかりそうだ。
「ああ、めんどくさい‥‥」
「文句言わない☆ 魔物退治に比べたら、ぜんぜん楽だと思わない?」
 ものによっては自分と同じ大きさのキノコを抱えては、クリスタルはよたよたと洞窟の外に捨てに行く。なるほど、モンスターとの戦いで生じる緊張感は全くないと言っていいが、しかし体力の消耗加減は負けていないようだ。
「うう‥‥この叫び声は、頭に響きます‥‥」
 体力的な問題もさることながら、スクリーマー最大の問題点である、この声だ。いくら耳栓をしても鼓膜を素通りして脳を揺さぶるような悲鳴。どこも傷を負っているわけではないのに、へとへとに疲れてしまう。
「モンスターは来そうかしら? 美影さんは何か言ってきましたか?」
「いいえ。何事もなく、終わりそうですよ」
 依頼そのものは、簡単な仕事だった。洞窟の中にあるキノコを片づけるだけ。全部むしっては洞窟の外に放り出し、あとはエヴァーグリーンが作ったホウキで徹底的に掃除をして、風を送り、キノコの生えにくい環境を作るだけだ。何の問題も起こらず、心配していたモンスターの接近もなく、順調に、仕事は終了した。
「ではいよいよ、お楽しみのキノコ料理パーティーを始めるのですね!」
 ユーリアスは嬉しそうに言った。なにしろスクリーマーは初めての食材だ。毒々しい色をしているが、その見た目に似合わず、美味しいと聞く。
「かなりたくさんあるけど、どう料理する?」
 ユキネもいそいそと準備を始める。ユーリアスの指示通り、キノコを洗い、刻み、鍋に放り込む。
「食べきれるかな〜」
 スープにしたり、塩で焼いたり‥‥と、いろいろ空想をしては舌なめずりをするクリスタル。
「よくみんな、そんな気になるね。あたいはもうキノコは食べる気がしないよ」
 毒気に当てられでもしたのか、フォンはその輪に入ろうとしない。それもそうだろう、どっかり積み上がったキノコの山、見ているだけでお腹はいっぱいになる。
「ああ、みんな、準備が進んでるようだね」
 美影が、フリップ達と一緒に戻ってきた。
 綺麗になった洞窟。
 掃き出されたキノコ。
 それを料理している冒険者達。
 そこへ、フリップ達は戻ってきた。
「さあ、キミたちも食べるといいよ。もう怖くないだろう? 食べちゃえばいいんだよ。そうじゃないと馬鹿にされちゃうよ?」
「‥‥‥‥」
 フリップは複雑な気分だった。
 ここは自分たちの隠れ家のはずだ。それなのに大人達が集まって、料理をして楽しそうにしている。
「なんだよ、ここは僕たちの隠れ家なのに!」
 少年の一人が、フリップと同じ考えだったのか、ついにそれを口に出した。
「やめろよ。この人達は僕たちを助けてくれたんだよ」
「でも‥‥」
「そうですよ。ここはあなた達の隠れ家です」
 ラディスだった。ラディスが、子供達の気持ちを察して、言った。
「ここはあなた達の隠れ家です。さあ、どんな風な場所にしますか?」
 キノコは消えた。それも、子供達自身が食べてしまうことで、子供達自身がやっつけたということにしてくれる。冒険者達は依頼が終わるといなくなる。この場所は、完全に子供達だけのものになるのだ。
「全員集合!」
 フリップが号令をかけた。6人の少年少女が輪になって、何やらひそひそ話を始めた。

「ここは、僕たちの『王国』にします。『キノコ王国』です。王様は‥‥最初は、まず僕です」
 フリップが初代国王らしい。
「それから‥‥皆さんは、『めいよこくみん』になって貰うことにしました」
 名誉国民、と言いたいのだろう。
「ですので、今日から皆さんは、僕たちの仲間です。一緒に秘密を守って貰います。ここの事は、誰にも内緒です」
 それが彼らの結論だった。
 いま、ここでキノコパーティーを開いている大人達は、隠れ家を奪った大人じゃない、同じ秘密を共有した仲間なのだ。
「本当なら、こう言うときはお酒で乾杯するものなんでしょうが」
 言いながらユーリアスは、出来上がったばかりのキノコスープを人数分の器に注いだ。
「それでは、新しい国の始まりを祝って、乾杯しましょうか。国王さま、どうぞ」
「はい」
 温かなスープの器を掲げて、フリップは舌を噛みながら「乾杯」と言った。
 何とも締まり無い、建国記念日である。
 しかしそれでも子供達は、素敵な歴史が始まったことに、わくわくしていたのだった。