ラスティ家からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月26日〜08月02日

リプレイ公開日:2004年08月02日

●オープニング

『依頼内容:人捜し』
 人捜し。よくある依頼の一つだ。難しい内容ではない。興味を持った冒険者は、すぐにラスティ家に行ってほしい。詳細はそこで伝えられるはずだ。

「あの女を!! 大事なアドニスをたぶらかしたハンマ・ハマノクを‥‥きぃぃいい!」
「お義母(かあ)さま、興奮なさらないで。また熱が出ますわよ」
 ラスティ家の家長であるという老女は、依頼を受けた冒険者を見たとたん、そう騒ぎ立てた。よほど興奮しているのだろう、嫁になだめられても、まだ口がぱくぱくしている。
「ええ、義母に代わってご説明します。探してほしいのは、私どもの一人息子、アドニス・ラスティでございます」
「ハンマ・ハマノクというのは?」
「それは、私の夫が剣を教えていた弟子の一人で‥‥」
 彼女はそこで口ごもった。そして、言いにくそうに続けた。
「お恥ずかしい話ですが‥‥駆け落ちをしたのですよ」
 よくある依頼の一つは、よくある話の一つでもあった。

 アドニスの父親は剣の腕に長けており、いわゆる『道場』を開き、弟子を取っては彼らに剣術を教えていたようだ。ハンマは女性でありながらかなり筋が良く、一番弟子と言っても良いほどの腕前であった。
 アドニスは体が弱く、父の望むような剣士にはなれなかった。その反動なのか、強い者への憧れは人一倍強く、そしてハンマに惹かれていった。
 なぜ二人の結婚が許されなかったのか。それは家長である祖母が、他の道場の娘との結婚話を進めていたからだ。アドニスはそれに対する反発もあって、黙ってハンマと家を抜け出したのだ。
「夫の弟子達が一度は追いかけました。けれど、ハンマはとても強く、5人の男達をたたきのめして、また逃げたというのです」
 ラスティの弟子なら弱くはないはずだ。それを5人も相手にして勝ってしまうのだ、ハンマの腕を甘く見てはいけない。
「二人の仲は、認めてもよいとは思っているのです。ですが、家長の許しを得ない結婚は認めません。どうぞ二人を、どんな手を使ってでも連れもどして下さい」
 二人の足取りは、村はずれの酒場でとぎれている。そこから隣の村に向けて出発したようだ。いますぐ追いかければ、その街道の途中で追いつけるかも知れない。

●今回の参加者

 ea0355 アクア・サフィアート(27歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1134 フィアンナ・ハーン(31歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea1644 ヒンメル・ブラウ(26歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2765 ヴァージニア・レヴィン(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea3111 ウィリアム・ファオ(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5163 フレイ・ブルームーン(28歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5278 セドリック・ナルセス(42歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

「あの、あなたはどなた?」
「あなたの瞳に酔ってしまった、ただの男アルよ」
 ウィリアム・ファオ(ea3111)は、駆け落ちしたアドニス達を追いかけず、何故か1人の女性を口説いていた。
「あなたともっと夢をみていたいネ」
「あ、あの‥‥困ります」
 女性は困っていた。それも当然だろう。道を歩いていたら突然声をかけられて、一方的に愛を語られているのだ。
 実はこの女性、アドニスのために祖母が決めた婚約者である。ウィリアムは彼女に、縁談を止めさせるために新しい恋を芽生えさせようとしていたのだが、長らく家同士のつきあいをしてきた相手と、初対面の男とどちらを慕うかは言わずもがな。
 今回の依頼は8人の冒険者を募った。ラスティ夫人は、当然彼らがすぐに息子達を追いかけてくれるものと思っていた。5人の弟子では無理だったが、8人の冒険者なら勝てるだろうと。だが、まだ半分以上の者がここに残っていたのだ。
「あの、皆さん、早く行かないと、見失うのではありませんか?」
「焦ってはいけませんよ。まずあのお二人が戻ってきたときの話し合いの場を作りませんと」
 エリンティア・フューゲル(ea3868)が言った。まず、望まない縁談を白紙にし、それから、息子達の将来を落ち着いて話し合えるようにする。そうしておいてから呼び戻さないと、強引に連れ帰ってきても、また揉めて家を飛び出されるだけだ。
「今はね、ヒンメルさんとヴァージニアさんが追いかけているよ」
 ヒンメル・ブラウ(ea1644)とヴァージニア・レヴィン(ea2765)がまず足取りを追っている、とアクア・サフィアート(ea0355)が教えてくれた。
「それでね、おかあさんに手紙を書いてほしいの」
「手紙?」
「おかあさんは、お二人を認めるんでしょう? その気持ちを書いて下さい。アクアがそれを届けてきますから」
 アクアと、フレイ・ブルームーン(ea5163)、それとセドリック・ナルセス(ea5278)が手紙を持ってあとから出発する段取りになっている。
「それから、お祖母さまに会わせていただけますか?」
 エリンティアとフィアンナ・ハーン(ea1134)の希望である。興奮した今のままの祖母では、いくら二人が帰ってきても、まともに話をしてくれないだろう。
「フィアンナが話をしたいと申しております。言葉は通じなくとも、心はきっと伝わるはずです。どうぞ、話をさせて下さい」
 果たして、うまくいくのだろうか? 
 ラスティ夫人はあまり上手じゃない字で手紙をなんとか書き終えると、エリンティア達を家長の元へ案内した。

 さて、こちらは駆け落ち者を追いかけている二人である。
「さて、行くよ、ロシナンテ。ちょっとだけ頑張ってね。ドウ・ハイヤ!」
 愛馬にヴァージニアと一緒にまたがり、ヒンメルはアドニス達が進んでいるであろう街道を追いかけていた。
 丸一日ほど進むと、道の先に背の高い女と、それに寄り添うように歩いている色白の男を見つけた。ハンマとアドニスである。
「こほん‥‥発声練習、させてもらうわ」
 ヴァージニアは馬の背中で器用にバランスを取りながら竪琴を構え、音階を合わせながら歌を歌い始めた。
「ラー♪ ‥‥こほん。ララー、ラー♪」
「あの二人のそばに行ったら、止まるのよ」
 ヒンメルはそう馬に言い聞かせ、だんだん速度を落として、ゆっくり近づかせた。
 後ろから馬の足音と一緒に、かわいらしい歌声が聞こえてくる。それに気が付いたアドニスは立ち止まり、振り向いた。
「こんにちは。綺麗な声ですね」
「こんにちは。仲の良さそうな恋人同士のお二人を見ていたら、歌いたくなってしまったの。一曲捧げますので、お聞きになりません?」
 そうヴァージニアが言うと、アドニスは顔を赤くして「喜んで」と言った。
 ヴァージニアが竪琴を弾き、ヒンメルが横笛を吹いて演奏が始まった。
 歌の歌詞は‥‥。
 甘い恋の歌。幸せな男と女を描いた歌。
「では、次の曲を‥‥」
 一曲、と言っていたのに二曲目が始まった。
 それは子供の幸せを祈る母親の歌だ。
「‥‥ありがとう、感動的な歌でした」
 何かを感じ取ったのか、ハンマはあまり多くは語らなかった。
「これからどちらへ? ご一緒してもよろしいですか?」
「今日中にこの先の村へ行くつもりですよ。そこまででよろしければ」
 ヒンメル達が無事、アドニス達と接触したという連絡を受けて、今度はアクア達がそれを追いかける。アクアと、フレイと、セドリック、そしてラスティ夫人の手紙が。

「貴様たちも、追っ手なのか!?」
 旅の途中で出会った彼らの正体を知り、ハンマはアドニスを守ろうと剣を抜いた。
「お待ちなさい。俺は、あなたと戦うつもりはありません」
 そう言ったのはセドリックだ。その証拠に彼は、ローブを羽織っているだけで武器らしいは何ももっていない。
「むしろあたし達は、あなた達を応援してあげたいって思ってるの。だからお願い、剣をしまって、話を聞いて」
 フレイもまた、戦う道具は全部しまいこんであり、戦うつもりは毛頭無い。
「ハンマ」
 アドニスが何か言いたげに、ハンマの袖を引いた。二人は顔を見合わせて、何か喋ると、ようやく彼女は剣を収めてくれた。
「これ、アドニスさんのおかあさんからの手紙だよ」
 雰囲気が落ち着いたのを確認して、アクアは手紙を差し出した。
 アドニスが受け取り、それを読む。
 二人の仲を認めること、家長を一緒に説得するということ、そしてそのためには、当事者である二人に一刻も早く戻ってほしい‥‥そう言った内容のことが書かれていた。
「お母様はあなた方の味方です。お祖母さまを説得して下さるとおっしゃっています。しかし、本当に説得できるのは、他の誰でもない、あなた方なんですよ」
 だから、戻ってほしい。セドリックは熱心に訴えた。もし二人で話をするのが辛いなら、自分たちが間にはいってもいいと。母親だけでなく、自分たちも味方なのだ‥‥これが、少しでも彼らの力となってくれればいい、それを願って。さらにフレイも、強く強く言葉をぶつける。
「このまま逃げても、また追っ手がくるわ。そのたび、逃げ続けるの? アドニス君は体も弱いのに、そんな暮らしに耐えられる? どうせなら皆から祝福されたいでしょう?」
「そうですよ。アドニスさんもハンマさんも、結婚式という甘美な時間を味わってみたいと思いませんか‥‥?」
 セドリックが思い出すのは、かつて自分も経験した、大いなる祝福。皆から認められた結婚は、家族を増やし、頼もしい仲間を増やし、それらを糧にして己の道をさらに磨けるのだ。
「‥‥僕は、僕はおばあちゃんに会いたくない。ハンマと二人なら、どこででも‥‥」
 そうアドニスが言いかけるのを、ハンマが止めた。
「帰りましょう、アドニス。こんなに私たちを心配してくれる人がいるのですよ。それに背中を向けてしまっては、いつまで経っても弱虫のままです」
「ハンマ‥‥」
「それに、アドニスの婚礼衣装も、見てみたいですからね」

 アドニスが決意を固めて帰路についている頃、ラスティの家長はエリンティア達と激しい口論をまだ続けていた。
「アドニスさんが可愛いのなら、本当に好きな相手と結婚させるべきじゃありませんかぁ?」
「それがハンマだというのか? 自分を騙してたぶらかした相手を、どうしてアドニスが惚れるというのか」
「騙してなんかいないでしょぉ。アドニスさんを守るために、5人のお弟子さん達と本気で戦ったんですよぉ。愛の力ですぅ」
「う‥‥」
「ハンマさんはアドニスさんを大事にしてくれますよぉ。それに、ラスティ家の名を上げる実力者です。それを失うのは、大きな痛手じゃないですかぁ?」
 痛いところをついてくる。確かに、ハンマの腕はすばらしい。そしてアドニスは跡取り息子だ。あの道場の娘との縁談は、ラスティ家を大きくするためのものだったが‥‥。
「フィアンナが占いをしましたよぉ。アドニスさんが戻ればラスティ家は安泰ですぅ。だから、家のためにも、お祖母さまには寛大な処遇をお願いします〜」
 
 結論から先に言うと、今回の依頼はすべて解決した。
 あれから数日後にアドニスは家に戻り、ハンマと、両親と、それから冒険者達を交えて話し合いがなされた。二人がきちんと戻って祖母に頭を下げたことから、両親は全面的に二人の味方になり、それによってついに祖母も折れてくれたのだ。
 しかし、まだ一つだけ、問題が残っていた。

「ワタシ、親に決められた縁談よりも、もっと自由に恋に生きてもいいと思うネ。あなた、たくさんの人と出会うべきネ。たとえば、ワタシとかどうアルか?」
「はあ、でも、お会いしたばかりなのに‥‥困ります」
「これからもっと知り合いになればいいアル。手始めに、一緒にお茶に行くネ。楽しいネ」
 かつての許嫁が、アドニスに未練を残さないために。彼女の方から縁談を断ってくれれば、全てが万々歳なのだ。
 ウィリアムにはもう少し粘ってもらいたい。
 頑張れ。