【月】AS THE NIGHT COMES

■ショートシナリオ


担当:えりあす

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 93 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月30日〜09月06日

リプレイ公開日:2004年09月06日

●オープニング

『彼が何者かに狙われています! 助けてあげてください!』

 今回の依頼の受付を済ませた冒険者が説明を受ける為にギルドの片隅に集められた。そこにいた係員は左足を曲げながら椅子に座り、手を後ろに組んでいる。
「人は常に仮面を付けて生きています。そう、あなたも『冒険者』という仮面を付けているでしょう?」
 突然、係員は冒険者達の顔を眺めながら話を切り出した。
「冒険者の仮面を外したとき、どれだけの人が本当のあなたを知ってますか。人の心とは誰にもわからないものです。仮面を脱いで本当の自分をさらけ出せるのは、真に心を許すことができる人だけ。例え、恋人同士でも知らない顔というのはあるものです。知らない、知られないほうが良いこともあるでしょう」
 ――ニヤリ
 一瞬、係員が不敵な笑みを浮かべた。
「今回の依頼は、何者かに命を狙われているらしい男を助けていただきます。“らしい”とは、その男の彼女からの話であり、真実はわからないということです」

●18th the MOON
 月と太陽。
 追う者と追われる者。
 永遠に繰り返される追走。
 追われる定(さだめ)を負った男は月に何を見るか。

●夜が来るたびに‥‥
 彼はジャパンから来ました。
 キャメロットに来て、いろいろ世話をするうちに惹かれるようになりました。
 付き合い始めて、幸せな生活が続くと思っていたのですが‥‥。
 ある日、彼が傷だらけで帰ってきたのです。
 何があったのか聞きましたが、彼は何も言いませんでした。
 それから、彼は会ってくれません。
 しばらくして、奇妙な噂を聞いたのです。
 彼が暗殺者に狙われているんじゃないかって。
 夜、彼が何者かに追いかけられている所を見た人がいました。
 追う者、それはジャパンのニンジャと言われる者だと‥‥。
 何故、彼が狙われるのかはわかりません。
 でも、彼を助けてください。お願いします。

●今回の参加者

 ea1501 シュナ・アキリ(30歳・♀・レンジャー・人間・インドゥーラ国)
 ea1514 エルザ・デュリス(34歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1877 ケイティ・アザリス(34歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea2501 ヴィクトリア・ソルヒノワ(48歳・♀・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 ea3451 ジェラルディン・ムーア(31歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3993 鉄 劉生(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea5635 アデリーナ・ホワイト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea6015 ライカ・アルトリア(27歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●追われる者
「追われてるから助けてって、追われる様な事するから悪いんじゃない」
「そうだよな。こっちは、二人がどうなろうと知ったこっちゃないんだけど」
 エルザ・デュリス(ea1514)とシュナ・アキリ(ea1501)は宿に向かっていた。依頼人と待ち合わせをしているのである。
「よう! 待ってたぜ」
 宿屋には一足早く鉄劉生(ea3993)が依頼人の女・ヌージュを連れて待っていた。残念ながら彼女の恋人・ケージはその場にはいない。ヌージュは昨日からケージを探していたが、どこに行ったのか街中を探しても見つからなかった。
「キミにも事情を話さないなんて、よっぽど深い理由があるんだろうね」
 ケイティ・アザリス(ea1877)が俯いたままのヌージュに声をかける。ヌージュは顔を上げ、ケイティの碧目を見つめながらコクリと頷くだけであった。
「ねぇ。ケージさんって普段どんな仕事してるの? あと、住んでる場所とか」
 ジェラルディン・ムーア(ea3451)がヌージュにケージの詳しい情報を尋ねる。ケージは今まで雑貨屋で店員をしていたそうであるが、この一件があって以来、店には顔を出していない。住んでいたのは、今ここにいる宿屋。しかし、宿屋の女将によれば約2週間前に出て行ったそうだ。
「ケージさんが会ってくれないってのは、貴方がケージさんと親しいって事がその追っ手に知られて、貴方にも累が及ぶ事が無いようにと思っての事だと思う。此処はあたし達に任せて」
 ヌージュは少し悲しい表情を浮かべたが、ジェラルディンの言葉に「はい」と答えた。
「遅くなりまして申し訳りません」
 アデリーナ・ホワイト(ea5635)とヴィクトリア・ソルヒノワ(ea2501)が宿屋に飛び込んできた。2人はケージについて街で情報収集を行っていたが、ヴィクトリアはイギリス語が話せない為、情報を得ることはできなかった。
「聞き込みでいくつか話を聞くことができました」
 アデリーナは入手した情報を話した。以前、追われているケージを目撃したという人物に会うことができ、それによると2週間ほど前にこの街の郊外で黒い装束を着た数人に追われていたという。また、その追っ手はこの街でも度々目撃されている。
「ただいま戻りました。私も彼の周辺を調べてみました」
 ライカ・アルトリア(ea6015)も聞き込みから戻ってきた。ケージはこの街ではまじめに働く青年として評判が良く、犯罪暦なども無い。追われる理由は見つからなかった。
「そういうことから、私は彼が抜け忍ではないかと思うのです」
「私もジャパンの抜け忍と推測しているわ。そうでないと狙われる理由も無いし、なにより正体を隠す必要もないしね」
 ライカの意見にシュナも同調する。
「依頼だからしょうがないねぇ。一芝居打ってあげるよ!」
 シュナが立ち上がって準備を始めた。今回、シュナとエルザは芝居を演じ、追っ手を欺く作戦を立てている。
「ケージを狙ってるのはジャパニーズニンジャってか! 相手にとって不足は無しって感じだな!」
 劉生も気合を入れる。
 なお、劉生とライカは保存食を必要分所持していなかったので、途中で購入することになった。

●月夜の晩に‥‥
 静寂の夜。
 ケイティは空を見上げた。
 今宵は満月。月光が彼女の顔を照らす。
 そして、踊りを舞う。今回の作戦の成功を願って。

「それじゃ、行くわよ」
 エルザがヌージュの服に着替えて宿から出てきた。隣にはシュナ。シュナはケージが働いていたという雑貨屋から衣装を借りてきた。
「あたしらが警備するから安心しな!」
 ジェラルディンとライカが闇に隠れて2人を見守る。アデリーナは水溜りでパッドルワードを試みてケージ、及び追っ手が近くにいないか調べていた。ヴィクトリアは周囲を警戒し、怪しい人物がいないか確認している。
「追っ手は忍者‥‥次々にやってきそうね」
 ケイティも気を引き締める。実際、追っ手はどれだけ数がいるのかわからない。
「うまくやれよ!」
 劉生が偽装作戦を演じる2人に声援を送る。
「ふっ、まかせておけよ!」
 シュナが力強い返事を返した。
 月が雲に隠れ、周囲が闇に侵食されていく。
 冒険者達はそれぞれの役目を負い、闇の中へ消えていった。
 同時に動くいくつかの影。
 暗闇という幕が降り、舞台は次のシーンへと移る。

●夜が訪れる度に‥‥
 再び、月が雲の間から顔を覗かせた。
 幕が上がり開演。
 舞台は街外れの崖の上。
 月の照明が舞台を演じる2人‥‥シュナとエルザを照らす。
「どうして、わたしを避けるようになったの!? わたしはあなたをこれだけ愛しているのに!」
「すまない。どうしてもキミに会えない理由があるんだ‥‥」
「そんな‥‥。会えないのなら‥‥死んで」
「ま、待て! もう少し話し合おう! そうすればきっと解るさ!」
「イヤ‥‥死んで、わたしの記憶から消えて!」
 ──グサッ!
 ケージの胸にダガーが突き刺さる。
 ヌージュは倒れたケージの体を抱き、そのまま崖に突き落とす。
 2人の迫真の演技は、確かにケージが死んだように‥‥見えた。
 その時、いくつもの黒い影がヌージュを演じるエルザに近づいてきた。
『面白い芝居でしたな。さて、啓二はどこにいる?』
「っ!?」
『さっきのは啓二にしては随分背が低かったな』
 追っ手であろう4人の黒装束の男。ジャパン語であったがエルザは理解できた。芝居は見破られていた。

 その頃、ヴィクトリアとアデリーナが2人の追っ手と遭遇し、交戦していた。
「シュナさんとエルザさんは大丈夫でしょうか」
 アデリーナがウォーターボムを唱えた。彼女から放たれた水弾は追っ手‥‥忍者を捕らえた。激しい水の衝撃で忍者は吹き飛んだ。ヴィクトリアは襲い掛かってくる忍者にスマッシュを叩き込む。しかし、軽々と身を翻し彼女の重い一撃をかわす。
「大丈夫か!」
 そこに劉生とケイティが駆けつけた。
 忍者は増援に怯むことなく、臨戦態勢の劉生に手裏剣を放つ。
「あらよっと!」
 手裏剣は突き出された劉生のライトシールドに刺さった。
「夜だとあたしは何もできませんが‥‥」
 ケイティは戦いを見守った。ヴィクトリアは忍者を心中場面に追い込もうとするも、話せるのはゲルマン語。忍者はジャパン語しか理解できない。劉生はナックルのストレートを忍者に打つ。さらに、足払いでバランスを崩した忍者を踏みつける。そこに、ヴィクトリアがロングソードを両手で握り強烈な一撃を振り下ろした。
 ──グシャ!
 ヴィクトリアの攻撃は忍者の左肩から胸を深く切り裂いた。切り口から大量の血を噴出し、忍者は死んだ。
 仲間を失った忍者はそのまま逃走を試みる。ヴィクトリアも追いかけはしなかった。

 再び舞台は崖の上。
「仕方ねえなぁ。なら、力ずくで消えてもらうぜ!」
 ケージ役、シュナが叫んだ。
 4人の忍者と、シュナ、エルザ、護衛に付いていたジェラルディンとライカが対峙している。
「ま、追っ手がいなくなればいいんだよね」
 ジェラルディンがロングソードを構え、忍者を睨みつけた。
 その時‥‥
 ──忍法・火遁の術!
 突然、忍者達が炎に包まれる。
『ぐわぁ!』
 炎が消えた後、月明りが1人の男を照らした。
 背は180cmほど、その容姿はヌージュから聞いたある男に良く似ている。
『啓二か!』
『そうだ』
 男はジャパン語で答えた。彼の名は『啓二』。
「貴殿がケージ殿! 何故ここに!」
 ライカが突然現れた啓二に驚いた。
「それより、目の前の敵をどうにかしたほうが良いのではないか?」
 啓二は冷静に少し訛ったイギリス語で答え、忍者刀を鞘から引き抜く。それと同時に忍者が襲い掛かってきた。2人の忍者が啓二に切りかかるが、それを素早く避ける。もう2人の忍者はジェラルディンに突き進んだ。
「その程度の攻撃で!」
 ジェラルディンは攻撃を避けることをせず、忍者が刀を振りかざす瞬間、懐に飛び込み全身で攻撃を受ける。さらに、隙を突いてカウンターを狙う。見事な返し技で、胴を振り払われた忍者は大きく仰け反った。そこにライカのクルスソードが叩き込まれ、忍者は倒れた。
「消えな!」
 暗殺者の如くシュナは忍者の背後に忍び寄り、ダガーを突き刺す。その的確な攻撃は忍者の背中を紅く染める。そこに、啓二の連撃が襲い掛かり、忍者は真紅の達磨と化した。
『くっ! 引け!』
『逃がすか!』
 啓二が撤退する忍者を追いかけようとする。しかし、冒険者達は深追いはしなかった。
 それより、目の前にいる忍者『啓二』に問いたい。
 
「もうすでに俺の正体はわかっていると思う。俺はジャパンの忍者だった。だが、闇の中で生き、闇の中で死んでいくような人生は送りたくはなかった。それで、ジャパンから逃げてきたという訳だ」
 啓二の真実の姿。それは、エルザやライカが予測していたように抜け忍であった。
「追っ手も逃がしてしまった。おそらく増援が来るであろう。君達も早急にここから離れられるがよい。そして、ヌージュに伝えてくれ。『君に心配かけたくなかったからずっと黙っていた。すまない』と」
 抜け忍には死を。追っ手は啓二の死体を確認するまで、世界のどこまでも追いかけていくだろう。
 作戦の手段はどうであれ、追っ手を逃がしたのが冒険者達の犯した最大のミスであった。
 依頼の護衛対象である啓二は彼女と別れ、永遠に追われる定を背負うことになった。