●リプレイ本文
キャメロットから2日ほど歩いた場所にある街道。
旅人の姿をした3人組が辺りを警戒しながら歩いていた。
「そろそろ例の場所ではないか?」
その中で一際身長の高い男が街道の周りを見渡す。彼はジャイアントのファイター、ギリアム・バルセイド(ea3245)。街道に出るまで気が抜けた表情だったが、目的地に近づくにつれて気が引き締まっていく。
「警戒したほうがいいな。どこから現れるかわからないし、待ち伏せ班との連携もあるからな」
ウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)が答えた。ギリアムとは対照的に出発から殆ど表情を変えず、常に冷静である。
「そうだね、いきなり襲われたら大変だもんね」
ライラック・ラウドラーク(ea0123)も周辺に気を配る。
3人の目的は、この街道沿いで強奪を繰り返すオーガ集団をおびき寄せること。その為の囮である。
――ワォォォン
犬の遠吠えが聞こえた。
ターゲットは近い。
「来るか‥‥」
これより生死を賭けた戦いが始まるというのに、なおウェントスの顔は冷静を装っている。
「ん? 御出座しのようだな」
長身のギリアムの視線の先には、赤褐色で筋骨隆々な体格の存在があった。リーダー格のオーガである。手には無骨な金棒が握られ、後ろには何匹もの小さな存在を従えている。足元では普通よりサイズの大きいドッグが飼い主の指示を待っていた。ドッグが狙う獲物は‥‥旅人の姿をした3人。
「お、出た出たいつもの奴等」
ライラックがこのオーガ集団を睨みつける。同時に、後方へターゲット出現の合図を送った。
「ほっほっほ、出番が来たようじゃな!」
ドワーフの戦士・ガフガート・スペラニアス(ea1254)が、自分の身長よりも長いジャイアントソードを構えて勢い良く飛び出した。
「戦闘は初めてなので緊張します‥‥。でも、きっと役に立って見せますね」
パーティで唯一の魔法専門、クレリックのセレスティ・アークライト(ea5695)がガフガートの傍にいる。そして、彼女を庇うようにソウジ・クガヤマ(ea0745)と伊達和正(ea2388)、九条剣(ea3004)がフォーメーションを形成した。
ソウジは幌馬車を工面する予定だったが、依頼書では直ぐに現地に向かうよう指示されている。準備をする時間は無かった。また、和正は保存食を買い忘れていたので、途中で購入することになった。
オーガも手下に襲撃の指示を出したようだ。後ろに控えていた2匹の茶鬼――ホブゴブリン――と、8匹の小さな鬼――ゴブリン――が一斉に襲い掛かって来る。ドッグの飼い主はオーガとホブゴブリン2匹。ドッグは一番弱そうだと判断したセレスティ目掛けて走っていく。ドッグ程度の知性でも、自分の牙が鎧に通用しないことはわかっているだろう。
「話通り、ドッグが突っ込んできたか」
ソウジが両手にダーツを構え、ドッグを慎重に狙う。だが、ドッグの速度は実にソウジの3倍のスピードだ。なかなか狙いが定まらない。3匹のドッグは軽々と前衛をすり抜け、中衛を素早い動きで翻弄する。
「やらせはしませんよ」
和正は念を集中し、気を練っていた。そして、ドッグが後衛のセレスティに飛び掛ろうとした瞬間、彼の手からオーラの弾が放たれる。オーラの弾は飛び掛ったドッグを直撃し、その体を吹き飛ばした。地面に叩きつけられたドッグは「キャイン!」と泣き声を上げ、逃げ出そうとする。
「チャンスだ!」
ソウジが逃げるドッグに向かって2本ダーツを投げつけた。投げつけられたダーツは背と左足に命中し、ドッグはそのまま蹲って動かなくなった。
「くっ! 素早い!」
剣が中衛を突破しようとするドッグをオーラが付与された日本刀で切りつけるが、ドッグは身を翻し簡単に避けてしまう。
「犬っころが調子に乗るでないぞ!」
剣の攻撃を振り切ったドッグが再びセレスティに噛み付こうとするが、傍で構えていたガフガートがジャイアントソードを叩き付ける。振り下ろされた重い一撃はドッグの背骨をへし折った。さらに、もう一発叩き込み、ドッグは真っ二つとなった。しかし、2匹のドッグを処理したものの、もう1匹のドッグを倒すまでには至らなかった。
「クソッ!」
剣とガフガートが中衛を突破したドッグを追うが、速度は2人の比ではない。ドッグはセレスティ目掛けて飛び掛った。
「キャァア!」
ドッグはセレスティを押し倒し、首筋に噛み付こうとする。セレスティは必死に振り払おうとするが、ドッグはその右腕に噛み付いた。
「痛いっ!」
一度噛み付くとなかなか離そうとはしない。右腕から鮮血がほとばしり、彼女のローブを紅く染め上げる。
「大丈夫かっ!」
ライラックが後ろを振り返った。だが、目の前に赤褐色の巨漢と子鬼共が迫って来ている。
「犬共の相手は任せたぞ! 大丈夫だと信じるぜ!」
ギリアムも後ろをチラッと見るが、視線をホブゴブリンに移し、手にしたロングソードで切りかかる。ホブゴブリンはギリアムの攻撃を盾で防ごうとするが、剣はその間をすり抜け胸元に突き刺さる。さらに、ウェントスが追撃。彼の剣捌きは正に芸術的であった。その的確な一撃は見事に急所を撃ち抜き、ホブゴブリンは声も出ぬまま絶命した。
「狙った敵は必ず倒す! 欧州に轟く英国の勇士、危ない女ライラとはあたしのことっ!」
ライラックは叫びながらオーガ目掛けて突進した。ロングソードに全身全霊の力を込めてオーガにぶつける。その強烈な一撃は、巨漢のオーガすら怯ませた。
オーガ軍団も黙ってはいない。「グォォー」と雄叫びをあげながら前衛3人に襲い掛かる。オーガは巨大な金棒でライラックに反撃。彼女の頭を叩き割ろうと金棒を振り下ろすが、間一髪でそれを避けた。しかし、地面に叩きつけられた金棒を持ち上げ、なお強引に振り払おうとする。その予想外の行動に対応しきれず、ライラックは跳ね飛ばされた。
「んにゃろぉ‥‥」
ロングソードを杖代わりにヨロヨロと立ち上がる。ただの一振りでこの破壊力だ。直撃を受ければタダでは済まない。
「雑魚どもが調子に乗りおって‥‥」
ウェントスはミドルシールドでホブゴブリンの攻撃を防ぎつつ、冷静にゴブリンの攻撃も対処している。だが、3匹のゴブリンの連撃を捌ききれず、いくつか傷を負った。ギリアムも5匹のゴブリンに囲まれて苦戦している。
「こいつはキツイぜ! だが、この程度の攻撃なんぞ!」
ゴブリンの数の暴力。繰り出される手斧を振り払い、反撃の態勢を整える。
「クソ! 離れやがれ!」
ソウジがダガーを引き抜き、セレスティからドッグを引き離そうとする。背中にダガーを突き刺され、ドッグはようやくセレスティの右腕を離した。そこに和正がナックルでドッグの頭部を殴りつける。「ゴキッ」と頭蓋骨が砕ける鈍い音が響き、ドッグは倒れた。セレスティは自分の右腕をリカバーで癒す。
ドッグを処理し終え、後はオーガ軍団掃討のみ。ドッグが死んだのを確認した剣がゴブリン目掛けてチャージングを敢行。同時に日本刀を大きく振り上げ、ゴブリンを真っ二つにしようとする。しかし、9mもの助走と武器に込めた力は彼の狙いを狂わせ、振り下ろされた刀は地面に突き刺さった。
「食らうがよい! 長々と鍛えた我が渾身の一撃を!」
ガフガートが自分の身長以上のジャイアントソードをオーガの厚い胸板に叩き込む。ガフガートの力と剣の重量が加わったその攻撃は、凄まじい破壊力であった。剣は深々と胸に突き刺さり、傷口から大量の血が噴出した。
「さっきのお返しさ!」
次に迫るのは復讐。ライラックが血の噴水が収まらないオーガの胸にロングソードを突き刺した。「グギャァー」と悲痛な泣き声が街道に轟く。ライラックは死神が微笑むが如くニタニタと笑いながら、さらに剣を押し込んでいく。そして、ロングソードがオーガの厚い胸板を貫通したのと同時に泣き声は止んだ。
「もう、リーダーはいないぞ。さぁ、どうするんだい?」
ウェントスがリーダーを失い、統率が乱れたゴブリン達を蹴散らしていく。その中で唯一、好戦的なホブゴブリンを華麗な剣技でねじ伏せた。後は殲滅戦。ゴブリンは逃亡しようと必死だが、逃がす訳にはいかない。
「何て狙いやすい的なんでしょう」
背を向けて逃げ出すゴブリンに、和正のオーラショットが炸裂する。倒れたゴブリンにガフガートの巨剣が追い討ちをかける。
「しまった、つい昔の血が!!」
そう叫ぶも、再び恐怖に怯えるゴブリン目掛けて突撃していく。
「1匹たりと逃がしはしないぞ!」
今回の依頼は殲滅が目的だ。剣もゴブリンを逃がすまいと後ろから切りかかる。集団で弱いものを痛振るのを好むゴブリンであるが、まったく逆の立場を味わうことになった。ガフガートはジャイアントソードを振り回し、ライラックはゴブリンを蹴り倒している。
足音と泣き声が止み、オーガ強盗団掃討作戦というパーティが終了した。街道には静寂が戻る。
「皆さん、お怪我はありませんか?」
セレスティがライラック、ウェントス、ギリアムらの怪我を癒していく。
「これでは土産としては安いかのぉ‥‥」
ガフガートは街道沿いで綺麗な花を摘んでいた。重い腰を上げた時、手には花が溢れんばかりだった。
「いい戦いだった。これで初心者卒業できたらいいな」
剣は戦場に築かれた鬼共の屍を見つめながら、今回の戦いを振り返った。どんな冒険でも役に立たないというものはない。たとえ、失敗であっても次に生かすことが出来る知恵と経験を得ることができるのだ。
こうして、ギルドに戻った一行は作戦成功の報告をし、報酬を得ることが出来た。
彼らがキャメロットに名声を響かせる時が来ることを心より願う。
依頼成功。ご苦労であった!