●リプレイ本文
遺跡に到着した冒険者達。
入り口でギルドに依頼を出した学者が出迎えてくれたのだが‥‥
「遅いではないか! 一体、何をしておったのじゃ! こっちも忙しいのじゃ!」
学者はかなりご立腹の様子であった。
冒険者達は予定より1日遅れて到着したのだ。キャメロットから遺跡まで2日かかる。当然、その間生きる為に食事が必要となるのだが、冒険者の中には保存食を用意せずに出発した者が数人いた。途中で飢えて倒れてしまっては、依頼をせずに失敗という最悪の事態となってしまう。仕方が無いので、遅れることを承知で村を探し、保存食を用意した。その結果、1日の時間ロスという大きなミスを犯すことになったのだ。
「言い訳なんぞどうでもいい! とっととダンジョンに入って調査せんか!」
学者は大声で怒鳴りながら冒険者達をダンジョンへと向かわせた。
*
ダンジョンの入り口。
崩れかけた壁には意味深な絵が描かれている。だが、それを口にする者はいなかった。
「興味深いが‥‥このダンジョンは構造といい、不思議な所が多いな」
フィルト・ロードワード(ea0337)が壁を見ながら呟いた。
壁に描かれているのは、人を剣で切りつけている絵や、獰猛な動物が人を襲っている絵であった。
「そうだね。この遺跡やダンジョンが何だったか知りたいね」
チップ・エイオータ(ea0061)も興味深くダンジョンの入り口を見渡した。
「久しぶりの冒険で血が騒いでいた所だ。頑張ろうじゃないか」
「俺もこれが初めての依頼だ‥‥しっかり気合い入れないと!」
ウェルシュ・レアビット(ea6712)とナロン・ライム(ea6690)はこれが初めての依頼であり、ダンジョンに入る前に気を引き締めた。ナロンは頬をぱんぱんと叩き、気合を入れなおす。
「今回は遺跡の探検なんて‥‥冒険者っていろんなことが出来るんですね〜♪」
セレスティ・アークライト(ea5695)も遺跡に入るのは初めてで、何やら楽しげに辺りを見回していた。
さらに進むと、通路の奥には下に続く階段があった。
「ここがダンジョンへ続く階段か。アンデッドがいるらしいから気をつけんとな」
「こ、こんな所に入るんですね‥‥」
ギリアム・バルセイド(ea3245)がアンデッドに注意しながら階段を下りていく。先ほどは元気だったセレスティも、階段を一歩下る度に緊張で顔が強張っていく。
「それにしても不自然な構造をしているわね。いったい何の意図があってこのような構造にしたのかしら」
階段を下ると、聞いていたようにそこは大きな正方形の広間となっていた。その構造をイフェリア・エルトランス(ea5592)が不思議そうに眺めていた。
「早速、お出迎えのようです」
ティイ・ミタンニ(ea2475)が何かに気づいた。生者を求めて彷徨う死の存在、ズゥンビであった。
「北に3体いる。気を付けろ」
フィルトがロングソードを構え、ズゥンビを迎え撃つ。
「こんな所でウヨウヨされてちゃ探索の邪魔なんだよ! さっさとくたばりやがれ!」
ギリアムも近づいてきたズゥンビに襲い掛かった。フィルトとのコンビネーションで1体のズゥンビをあっという間に叩き潰し、チップの放った矢が頭部へ突き刺さってズゥンビは動かなくなった。
「負の呪縛、その苦しみ、ここで終わらせましょう。お休みなさい」
後列からイフェリアが同時に3本の矢を弓に番え、ズゥンビに打ち込む。2本の矢がズゥンビの胸元に命中した。ティイはステップでズゥンビの攻撃を捌きながらチャンスを狙う。
「‥‥ふん、アンデット如きが嘗めるなよ。“唸れ! 破砕の槌よ!”」
ウェルシュが指を「パチン!」と鳴らし、高速詠唱でディストロイを2連続で打ち込んだ。2発の直撃を喰らったズゥンビの胸元が砕け散り、その腐肉を辺りに撒き散らす。
「彷徨える死者よ。その呪いを今解き放つ! ”ピュアリファイ”」
ナロンはピュアリファイでズゥンビを浄化した。
「皆さん。お怪我はありませんか?」
フィルトが若干傷を負った為、セレスティがリカバーで傷口を癒す。イフェリアとチップは使用した矢を回収していたが、何本かは折れて使い物にならなくなっていた。
*
「では、探索に移ろうか。何か仕掛けがあるかもしれんから、イフェリアとチップ頼んだぞ」
ギリアムは北の扉を調べることにした。扉は9番目で、この部屋には何か仕掛けがあると予測しており、2人のレンジャーが罠が無いか調べた。
「こういうのは得意だから‥‥でも、慎重にやらないとね」
「ええ、罠は仕掛けてないみたいです」
チップとイフェリアは扉をチェックし、罠が無いことを確認した。
「私が中を見てみます。奇襲や罠があるかもしれませんから」
ティイが最初に部屋へ入った。中にはモンスターや罠は無かったのだが‥‥
「こ、これは‥‥」
入った途端、言葉を失った。部屋の中には、手枷足枷、三角木馬、伸張拷問台など、あらゆる拷問道具があった。
「うっ、気持ち悪い‥‥」
たまらず、イフェリアは部屋の外へ出た。床には幾つもの骸骨が転がっている。
「意味が解らないな‥‥だが、調べてみないことには」
フィルトが部屋の中を見渡した。
「あ、レバーがあります‥‥どうしますか?」
チップが部屋の奥の壁にレバーを発見した。チップの問いに全員無言で頷く。そして、部屋の外へ出た。
「じゃぁ、いくよ!」
罠を確認しながらレバーを引いた。
――ガタン!
西の方から何か大きな音がした。
「一体、何なんだ!?」
「さぁ、わかりません。でも、ハズレではないようですね」
ウェルシュとナロンが顔を見合わせた。
「面白い。なるほど、この探究心が学者などを動かすのか」
フィルトはニヤリと笑みを浮かべ、仲間と共に部屋を後にした。
続いて、西の方角を探索することになった。
「死を乗り越えた後には何があるのでしょう」
チップが13番目の扉を調べた後、部屋に入り込む。
「え! 何で!?」
扉を開けると、そこは部屋ではなく通路になっていた。その通路は直線でかなり長い。
「ますます、謎は深まるばかりです」
セレスティが通路を進みながら呟く。
とにかく通路は長かった。時間の感覚がだんだん無くなっていく。感覚が無くなると同時に湧き上がるのは不安。一体、どこまで続くのか。そして、この先に何があるのか。
「あ、壁に何か書いてあるわよ」
ティイが壁に書かれた文字を発見した。
壁に書かれてある文字は‥‥
『Congratulation!』
「‥‥訳がわからん」
「俺もそう思う」
ウェルシュとギリアムも文字を見て溜息を吐いた。
「あ、出口のようです」
暫く進むと上りの階段があった。冒険者達は1歩づつ慎重に階段を上がっていく。そして、その先には‥‥
「え! 何で外に出るのかしら?!」
イフェリアがその光景を見ておもわず叫んでしまった。そこは、遺跡の出口であった。
「何でこんな所に出るのでしょう?」
「わかんないね。ダンジョンにもどろうよ」
ナロンもこの状況に困惑していた。
このままでは探索ができないので、チップの呼び声で一行は再びダンジョンへと戻った。
「次は東側の11番目の扉だ」
罠のチェック後、フィルトが先頭で東の13番目の扉を開けて部屋に飛び込んだ。
中にはありとあらゆる人を殺す道具‥‥武器が存在した。剣、斧、槍、弓、刀、ほぼ全ての武器がそこにある。そして、部屋に入り込んだ侵入者を殺す為か、スカルウォーリアーが剣を構えて向かってきた。
「正義は武器を持って示せということか。やってらろうじゃないか」
フィルトもロングソードを構えて迎撃する。
「スカルウォーリアーとは相性が悪いので皆さんお願いします」
イフェリアは後衛に下がり、セレスティとウェルシュの2人のクレリックの護衛に付いた。
「おいらに出来ることはこれくらいさ!」
チップはスカルウォーリアーの持つ剣に矢を放った。
――ガキーン!
物凄い金属音が部屋中に響く。しかし、スカルウォーリアーの剣を破壊するまでには至らなかった。
「骨になってまでうろついているんじゃねぇよ!」
ギリアムがロングソードを頭目掛けて振り下ろす。だが、スカルウォーリアーはその攻撃を盾で受け止めた。
「後ろががら空きですよ」
ギリアムが正面からぶつかっている間に、ティイはスカルウォーリアーの背後に回っていた。背中にロングソードを叩き付けると、何本かの骨が飛び散った。
「これでどうだ!」
さらにフィルトがロングソードを振り下ろし、スカルウォーリアーの左腕を切り落とした。それでも襲い掛かろうとするスカルウォーリアーを蹴り飛ばし、そこへウェルシュのディストロイが炸裂。そのまま崩れ落ちるスカルウォーリアーをナロンがピュアリファイで浄化。白い光に包まれ、その姿は消えた。後に残ったのは剣のみである。
「さすがに年月が経ってたら使い物にならないぜ」
ギリアムは部屋の中の武器を調べた。武器は錆び、刃が毀れ、柄は折れ、弦は切れて使える物は無かった。
「もしかしたら、これは大丈夫だったかもな‥‥」
フィルトはスカルウォーリアーの使っていた剣を見ていた。剣にはひびが入っており、チップが剣を破壊しようとしなかったら普通に使えたかもしれない。
*
時間は刻々と過ぎていく。
結局、冒険者は予定の半分の部屋しか調べることができなかった。
「働きの悪い冒険者じゃな! もう、お前らなんかには頼まんぞ!」
結果を報告した冒険者は、学者に大声で怒られた。準備を怠ったせいで大幅に時間をロスした結果である。
後日、あの遺跡のダンジョンが何だったかが判明した。
ダンジョンは処刑場だったという。
処刑場の中には猛獣が沢山おり、あえて出口を用意することで処刑者は必死に脱出しようとする。
それを、権力者が見て楽しんでいたという極悪な施設だったようだ。