花と毒とお嬢様と
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■ショートシナリオ
担当:えりあす
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月15日〜07月20日
リプレイ公開日:2004年07月21日
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●オープニング
様々な依頼が舞い込む冒険者ギルド。
この場に似つかわしくない、身なりの良い初老の男が入ってきて注目を浴びる。
「すみません。冒険者の護衛を頼みたいのですが」
「はい、ではこちらで受付をお願いします。どちらまで行かれるのですか?」
窓口で受付係が書類を書きながら男に尋ねた。
「いえ、護衛していただくのは私ではありません。この街から程近い平原に綺麗な花の咲く場所がありまして、当家のお嬢様がどうしてもそこにピクニックに行きたいとわがままを言っておられます。父上殿も社会勉強もよいと賛成されています。しかし、平原の近くには危険なモンスターがいるという噂を耳にしました。そこで、冒険者達にお嬢様の護衛をお願いしたいのです」
依頼の内容は、ピクニックに行くお嬢様を護衛することだそうだ。
平原には最近、毒を持った蝶が生息していることが確認されている。
羽根の模様が綺麗なため、捕まえようとした人が数人、軽症を負っているらしい。
「万が一にも、お嬢様に何かがあってはなりません!それではよろしく頼みますぞ」
男は深々と頭を下げると、冒険者ギルドを後にした。
『ピクニックの護衛求む!』
翌日、依頼を受けた冒険者達が待ち合わせ場所に向かった。
そこにいたのは、バスケットを手にした13、4歳程の可愛らしい少女。
「こんにちは! あたし、ミルカ! お兄ちゃん達が遊びに連れてってくれるの? 楽しみだな!」
ミルカと名乗った少女は、冒険者達を見つけると飛び切りの笑顔で挨拶をした。
その屈託のない笑顔に、冒険者達も自然と笑みがこぼれる。
「わーい! 早くピクニックに行こう!」
ミルカは、銀髪のポニーテールを揺らしながらピョンピョン飛び回る。
愛らしい姿に、笑顔と明るい声が絶えない。
「お花畑にはね、すごくきれいな蝶がいるんだって!捕まえてみたいなぁ!」
え! お嬢様! それ、パピヨンです!危ないですよ!
一抹の不安を胸に、冒険者一行はピクニックに出かけるのであった。
●リプレイ本文
●空も心も晴々と
雲ひとつ無く、青々と広がる空。
時折、心地よい風が頬を撫でる。
まさに、絶好のピクニック日和‥‥と、言いたいが、冒険者達の目的はお嬢様の護衛である。
「わーい! ピクニックだぁ! 楽しみだなぁ!」
明るく大きな声ではしゃぎ回っているのがお嬢様こと、ミルカちゃん13歳。普段はあまり外に出歩くことがなく、これが初めてのピクニックということで実に嬉しそう。
「私も『ぴくにっく』は初めてなのじゃ。楽しみじゃのう」
ミルカの隣では、村上琴音(ea3657)が手を繋ぎながら一緒に歩いている。琴音はミルカより年下なので話しやすいのか、すぐに打ち解けておしゃべりを始めた。ミルカの話すことは、屋敷でのつまらない生活や口うるさい執事の悪口ばかり。
「そうでしたか。では、今日は楽しい一日になるといいですね」
フォーリス・スタング(ea0333)も隣でミルカの愚痴を聞きつつ、彼女をおもねるように答える。
「僕は初めての冒険なのですが、楽しくなりそうですね」
トーマス・ドゥーリトル(ea3389)はこれが初めての依頼である。緊張感と高揚感が入り混じった複雑な気分。これが最初の冒険かと思うと胸が高鳴った。
「ふはははは! 余はワラキア公子ヴラド・ツェペシュである! 最近、女の子と関わる依頼が多いが、今回は清純派路線である! しかし、13歳ともなるとやはり乳臭いのであるなぁ」
実は彼女持ちで、ぴちぴちピーチフルであるヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)が愛馬に跨りながらミルカに視線を送る。その視線に気づいたのかミルカが『ニコッ』と微笑んだ。その時、ヤングヴラドの目がキラリと輝く。彼は馬から飛び降り、お子様の悪戯の定番スカートめくりを発動。
「キャーッ!」
ミルカは慌ててスカートを押さえ、もう片方の手で持っていたバスケットをヤングヴラドにフルスイング。
──ばっこ〜ん☆
「ぬをををを! なかなか良い攻撃である‥‥。そちなら結社でも通用するであろう‥‥」
かなりいい音がした。ヤングヴラドは頭を抑えながらパタリと地面に倒れ込む。
「だだだ、大丈夫ですか!」
不破真人(ea2023)が倒れたヤングヴラドを引き起こす。少々大げさに倒れただけなので問題は無い、と思う。
真人も手にはバスケットを持っている。出発前に執事にお弁当の事を話すと、屋敷の厨房を借りることができた。真人が作ってきたのは、サラダとパンに冷肉を挟んだ簡単な料理。さらに、執事の好意によりバーベキュー用の食材も貰うことができた。
「お嬢様〜♪ 船って乗ったことありますかぁ? 降りたとき、まだ船に乗っているみたいで面白かったなぁ〜」
夜黒妖(ea0351)がミルカの興味を引き付ける為に、以前の依頼で乗った船のことを話す。
「へぇー、船かぁ! 面白そうだなぁ。乗ってみたいなぁ」
もちろん、外に出る機会の無いミルカは船に乗ったことはない。しかし、その未知の乗り物に興味津々といった様子で黒妖の話を聞いている。
「俺は閃我絶狼と申す。ジャパン生まれの志士だ。依頼の話か‥‥」
閃我絶狼(ea3991)がミルカに自己紹介をしながら、今まで受けた依頼のことを考える。しかし、さすがに褌や変態のどもの話をする訳にはいかない。ヤングヴラドが教訓話を作ると言ってたので、こっそりと彼に褌依頼のことを語ることにした。
「僕はお菓子の家を守る依頼をしたよ。芸術家の遊び心と想像力から生まれたお菓子の家は、蒐集家達から賞賛を浴びたんだ」
「えー! お菓子の家ぇ! すごいなぁ! 食べてみたいなぁ!」
真人のお菓子の家の話にミルカは目を輝かせた。
「遊び心っていうのは大切なんだ。君も忘れないでね」
食べてみたい、という彼女らしい言葉に微笑しながら真人は口授する。
「ふはははは! 余は夜な夜な男の身包み剥ぐ妖艶裏美女団と戦ったのだ! もちろん、余の指技で骨抜きにし‥‥ぬお!」
──ぼっこ〜ん☆
復活したヤングヴラドが裏美女団との激しい出来事を口にしようとしたとき、琴音が釣竿で彼の頭を殴った。
「お嬢様に何という破廉恥なことを教えるのじゃ!」
「ぬおおお! 外の世界には褌とか‥‥」
どうやら、冒険は常に危険と隣り合わせということを言いたかったらしい。残念ながら、イギリスはそのような地域でもある(何)。
「私も一人で英国へ渡って来た訳じゃが、まだ生活するうえで不慣れなところがあってな‥‥」
琴音はミルカと顔を見合わせると、苦笑しながら呟いた。
●花と蝶と
「ほっほっほ。若いもんじゃのぉ」
草むらの中でオーガ・シン(ea0717)は身を隠しながら一行を眺めていた。パーティとは別に動き、あえて隠密に行動することで事前に危険を排除しようと考えている。
「蝶はいましたか?」
先行して様子を見に来た真人とトーマスがシンと合流した。
「むぅ。そこに2匹おるぞ」
シンが指を指した先には2匹のパピヨンがひらひらと飛んでいる。
「パピヨンは毒の燐粉を持っています。風上から攻めましょう」
モンスター知識と風読みのスキルを持つトーマスが、燐粉を吸わないように風上に移動する。真人とシンもマントで口を覆いながら後に続く。
「あ、今がチャンス!」
パピヨンが花に止まり蜜を吸い始めた。それを狙い、トーマスが短弓に矢を番える。
「当たれよ‥‥」
狙いを定め、パピヨンに矢を放つ。矢はパピヨンの羽をかすった。だが、そのままパピヨンは地面に落ち、そこに真人の手裏剣が突き刺さる。
「なかなかじゃの。だが、若いもんには負けておれん」
シンも弓を構えた。射撃の腕に関しては自信を持つシンは、飛んでいるパピヨンを狙う。そして、放った矢はパピヨンの腹を貫いた。
「さすがですね。他に蝶はないんですか?」
真人が辺りを見回したが、この近くにはもういないようだ。
時を同じくして、明るい笑い声が聞こえてきた。
●蝶とお嬢様と
「わーい! 着いたよー! きれいなお花がいっぱいだぁ!」
一行はピクニックの目的地に到着した。歩けば結構距離はあるのだが、常に楽しく会話をしながらだったので、実にあっという間という感じであっただろう。
「お嬢様〜。あまり離れないでね〜」
黒妖はお弁当とバーベキューの準備を始めた。黒妖は荷物が多く、移動や行動に支障が出る為、必要ない携帯品などはヤングヴラドの馬に乗せてもらってきた。
「ふははは! この土地は我ら結社グランドクロスの領地となったのである!」
ヤングヴラドが見晴らしのいい場所を確保すると、持ってきた結社グランドクロスX旗を立てて声高らかに宣言する。
「む、あれは‥‥」
楽しげにバーベキューの準備が進む中、絶狼は何かを見つけた。視力に関してはこの中の誰よりも自信がある。彼が見たのは‥‥。
「来たぞ」
絶狼はミルカに気づかれないように仲間に合図を送る。ひらひらと浮かぶ幾つもの小さな姿。それは間違いなくパピヨンだ。
「うむ。こっちに現れたか」
琴音もその合図に頷く。
「あれ? みんなどうしたの?」
緊張した雰囲気に気づいたのか、ミルカが不思議そうに皆の顔を見つめた。
「あ、何でもないですよ。じゃあ、バーベキューの準備しましょうか」
フォーリスがミルカの傍に来て、クリエイトファイヤーでバーベキューに火をつける。だが、ミルカは興味も示さず、辺りを見回していた。
「あ! あれ蝶じゃない!? わー、きれい!」
ミルカもひらひらと飛ぶ存在を見つけたようだ。
「危ないのじゃよ、あの蝶はただの蝶ではないのじゃ!」
琴音がわざと怖がる振りをしてミルカの手を引っ張り、後ろに下がろうとする。
「お嬢様〜。危ないから近づいちゃ駄目ですよ‥‥怪我なんかしたくないでしょう?」
左手に鞭を構え、黒妖はミルカの前に立つ。ヤングヴラドも旗を手に持って蝶を追い払う用意をした。パピヨンの数は4匹。
「え〜! 蝶をいじめるの? かわいそうだよ〜」
「かわいそうと言ってもアレ、モンスターですからね」
フォーリスも杖を構える。ファイヤーボムだと爆風で燐粉が飛び散る可能性がある。今のレベルではクリエイトファイヤーも対象に接触しなければ効果はなく、パピヨンに対して有効な手段がなかった。もしもの時は‥‥念の為、解毒剤を用意している。
「きたね。じゃあ、いくよ!」
パピヨンがこちらに近づいてくると、黒妖は鞭を投げ捨てて両手で印を結んだ。
──どろん☆
その瞬間、周囲に煙が巻き起こる。煙が消えた後には体長3mもある大きな蛙に乗った黒妖の姿があった。
「わー! おっきいケロケロさんだー!」
ミルカは大ガマを見てビックリ。同時に彼女の興味を蝶から逸らすことにも成功した。
「よし、今だ」
絶狼がパピヨンにダーツを飛ばす。3本もうち、1本が命中した。
「ギュー!! 行け〜♪」
黒妖も大ガマのギュスターヴくんを操り、パピヨンを叩き落とす。そして、大きな口を開けるとべろーんと舌を伸ばし、もう1匹を飲み込んだ。
真人とトーマスも加わり、残りのパピヨンを追い払う。幸い、マントなどで口を覆ったり対策をしっかりしていたので、燐粉の被害を受けた者はいなかった。
パピヨンを追い払い、一行は安心してバーベキューをすることができた。
「むむむ、これはうまそうじゃ」
「あぁ!? それ、まだ焼けてないよ!?」
「あはは、おいしいね!」
辺りには明るい声が響き渡る。楽しい時が流れ、皆に笑顔が広がった。
無事にお嬢様を守ることができ、依頼も成功である。
「楽しそうじゃのぉ。これも経験じゃ」
シンは草むらの影で保存食の干し肉をかじりながら様子を眺めていた。
今は楽しくても、明日は命を落としかねない冒険に身を投じるかもしれない。
それまで、暫し安らぎの一時を。