Fly on the wings of love
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■ショートシナリオ
担当:えりあす
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月18日〜09月23日
リプレイ公開日:2004年09月24日
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●オープニング
「いててて‥‥」
痛む体に鞭を打って起き上がったシフール。
「よいしょっと‥‥まぁ、生きていたからよかったけどね」
彼の名はピックルくん。新米の冒険者である。
しかし よく見るとこのシフール、羽根がない。
先日、依頼に失敗してバグベアに捕まり、大切な羽根を引きちぎられたのだ。
間一髪のところで救出されて一命は取り留めたが、大きな怪我を負った。
羽根を引きちぎられると、再生まで1週間時間が掛かる。
「あ〜! そういえば、3日後にデートの約束してたんだ!」
思い出したようにテーブルに駆け上り、手紙を確認した。
隣村の彼女とデートの約束をしていたのだが、飛べないシフールが移動するのは相当時間がかかる。
「どうしよう! どうしよう! こんなんじゃ間に合わないよ」
慌てるピックルくん。
と、その時。
「あ! そうだ! 冒険者に送ってもらおう!」
いい案を思いついたようだ。
早速、身支度を整えて冒険者ギルドに向かった。
「冒険者が冒険者に依頼するなんてカッコ悪いなぁ。でも、仕方ないや。あ、最近の冒険者はケチだから保存食も用意しないと」
身長50センチの小さな体でキャメロットの街に出たピックルくん。
人形みたくテクテク歩くその姿を、街行く人は不思議そうな目で見つめていたという。
「さて、ギルドまで歩くと遠いなぁ。飛んだらあっという間なのに‥‥って、わー! 猫っ!」
不幸なピックルくん。
ギルドに向かう途中、猫に追いかけられて大変な目にあったそうだ。
*
冒険者ギルド。
扉を開けたピックルくんを見て、中にいた冒険者達は驚いた。
しかし、ピックルくんはそんなことも気にせず受付のカウンターによじ登る。
「あら、ピックルくん!? 一体、どうしたの?」
「今回は僕が依頼を頼みたいんだけどいいかな?」
どうやら、受付嬢とは少し顔なじみらしい。
それは、彼が受けた依頼がことごとく失敗しているからなのであるが、彼はそんなことは気にしない。
そう、シフールは陽気。
そんなちっぽけなことなんか、一晩寝れば忘れちゃう♪
「いいけど‥‥どうしたの?」
「僕を隣村まで運んでもらいたいの♪」
「そうね‥‥飛べないんじゃ仕方がないものね」
「報酬は用意したよ。人間の距離でだいたい2日ほどかかるかな?」
「わかったわ。それで、スケジュールはどうなの?」
「往復2日で、1日は彼女とデートなんだ。だから5日必要になるね。冒険者に頼まないと間に合わないよ。早めにお願いするね‥‥」
彼女とデートと聞いて、受付嬢(彼氏いない歴●年)の顔が変わった。
彼女にこの手の話はタブーである。
「あんた‥‥羽根生えてきたらまた引きちぎるわよ‥‥」
「ひぇ〜!!」
こうしてトラブルもあったようだが、ギルドにまた一つ依頼が張り出された。
『僕を隣村まで連れて行ってください☆』
飛べないシフールの想いを届けてほしい。
●リプレイ本文
出発前、ピックルくんと冒険者が揃いました。
「初めまして。私は『深き森』の夜枝月藍那です。よろしくお願いしますね」
夜枝月藍那(ea6237)ちゃんがみんなにご挨拶をしました。
「依頼人は誰かと思えば‥‥えーっと、ピッコロさんではありやがりませんか。羽根が無いから気付くのに時間がかかりやがりました」
「違〜う! ピッコロじゃないやい!」
カナ・デ・ハルミーヤ(ea4683)ちゃんは、以前ピックルくんに会った事もあるのに全然違う名前で覚えていたようです。
「ピックルくん、デートなんだよね♪ お相手はどんな子なのかな?」
「すごく、気になるよね☆」
デートと聞いて、本人以上にワクワクしているのは市川綾奈(ea0680)ちゃんとシスカ・リチェル(ea1355)ちゃんです。やはり女の子は色恋沙汰に敏感なようですね。
「ごきげんよう。今回は私達がキミを隣村まで確実に護衛させていただきます」
2人とは対照的に、オトナの余裕の笑みを浮かべているのはタチアナ・ユーギン(ea6030)さんです。でも、ピックルくんに、
「よければ、その恋人さんとの馴れ初めを聞かせて貰えないかしら?」
と、聞いていました。タチアナさんも色恋沙汰には興味津々みたいです。
「隣村までは僕と鳴滝さんが交代で運びます。ですからご安心下さい」
御蔵忠司(ea0904)さんがピックルくんにニコッと微笑みました。
「あ、前は仲間のバックパックを持ってきてくれてありがとう! 丁度、自分の無くしちゃって困っていたんだ」
忠司さんはピックルくんの仲間を助けることが出来なかったことを少し後悔していました。でも、ピックルくんはあまり気にしていない様子です。そう、シフールは前向きで明るいのです。その明るさに忠司さんの顔にも自然と笑みがこぼれました。
和やかな雰囲気の中、冒険者のみんなは飛べないシフールを連れて隣村まで出発しました。
*
「キミが依頼人なんだから、ゆっくりしててね」
タチアナさんがピックルくんに話しかけました。窮屈や退屈を感じさせない様に心配りをしています。
「え! そう、なんだか緊張するな」
「そうそう、堂々としていればいいんだよ」
鳴滝静慈(ea2998)さんも依頼人らしくするように言いました。でも、ちょっと緊張してしまうようです。
「そうです。依頼人らしくビシッとしてくださいね」
マルティナ・ジェルジンスク(ea1303)ちゃんは静慈さんの肩に乗っています。お礼にと羽根で静慈さんを扇いであげています。ちょっと気持ち良さそうです。
「ピックル君はどうして冒険者になろうと思ったのですか?」
忠司さんが背中に乗せているピックルくんに、冒険者になった理由を聞きました。
「どうしてかな? 気が付いたら冒険者になってたよ!」
ピックルくんは笑いながら答えました。シフールは総じて好奇心旺盛で土地に縛られることが少ないので、冒険者に向いているのでしょう。
「私は、兄さんの足を引っ張っているのが嫌だから、自分で出来ることをやってみようと思って冒険者になったの」
藍那ちゃんは、お兄さんの迷惑にならない為に冒険者になりました。お兄さん思いの妹さんです。
「俺は武術を極める為に。師は武道を通して心を教えてくれた人だった。力のみを求めることの愚かさも、な。師は俺が尊敬する唯一の人だ」
静慈さんは故郷や自分の師の話をしてくれました。『武』とは、いくら『術』という技術を習得しても強くはなれません。『道』という精神を練磨することが最も重要なのです。
「へぇ〜。そうなんだ、スゴイ!」
ピックルくんも感心して話に聞き入っているみたいでした。
「では、私が1曲歌いやがります。お聞きやがり下さい」
カナちゃんはピックルくんが退屈しないようにと歌で楽しませてくれるみたいです。
『♪羽根が無い〜
羽根は無いけど金はある〜
暇な人間釣り上げて〜
彼女の元へとまっしぐら〜♪』
「ひどいよぉ! 僕だってあんまりお金ないのにー!」
「気に入りやがりませんか?」
残念ながら、ピックルくんはあまりカナちゃんの歌はお気に召さなかった様子です。
「ねぇ、ピックルくん。傷は痛まないかな?」
シスカちゃんは忠司さんにおぶられているピックルくんの怪我を心配していました。
「ちょっと痛むけど大丈夫だよ!」
「傷が痛むならこれを飲んでみて♪」
傷がちょっと痛むと聞いて、綾奈ちゃんが何かを取り出しました。どうやらポーションのようですが、中身はよくわかりません。ピックルくんは疑うこともせずにポーションを飲んでみました。
「これは私特性のスペシャル栄養ドリンクよ! これを飲めば滋養強壮、精力増進! 中身はズゥンビの垢は勿論、オークの牙や干したチョンチョンなど多種多様なモンスターの異物が入ってるんだよ♪」
「わーん! 変なもの飲ませないでよー!」
綾奈ちゃんはサラリと恐ろしい事を言いました。もちろん、これはただのリカバーポーションです。
こうして、わいわい楽しく旅が続きます。
でも、その時です!
冒険者たちの前にモンスターが立ちはだかりました!
それは、5匹の『ごぶりん』と呼ばれる小鬼さんでした。
「出ましたか! では、僕達が引き付けますのでピックル君を安全な場所にお願いします!」
忠司さんはピックルくんを降ろすと、勇敢にもごぶりん達に立ち向かいました。綾奈ちゃんと静慈さんもみんなを庇うようにごぶりん達と向き合っています。
「人の‥‥いや、シフールか‥‥とにかく、恋路の邪魔をするような輩は俺に蹴られて奈落へ落ちろ!」
静慈さんがごぶりんに回し蹴り! まともに蹴りを受けたごぶりんは吹き飛んでしまいました!
「これでもくらいなさい!」
マルティナちゃんはごぶりんの目に筆記用具のインクをぶっ掛けました! さらに、空中から勢い良くごぶりん目掛けてシフール・パンチ!
「あいたたた!」
ちょっと衝撃で手が痛かったようです。
「恋の邪魔をする子はお仕置きよ♪」
シスカちゃんはごぶりんの足元にファイヤーボムを打ち込みました! 爆風でごぶりんは転倒してしまいました。
「私の十八番、ファンタズムを見やがり下さい」
そこに、カナちゃんが炎の幻影を作り出しました。燃え上がる炎は本物そっくりで、触ったら火傷しそうです。その間に、他のみんなはピックルくんを連れて安全な場所に避難しました。
「そろそろ頃合いなので、身を引きマスよー☆」
綾奈ちゃんはピックルくんが安全な場所に移動したのを確認すると、ごぶりんに足元の石を投げつけながら撤退しました。
ごぶりんの襲撃を退けて、冒険者たちはみんなお腹がペコペコです。
冒険者のお供、保存食はピックルくんが用意していたのですが、それだけでは味気ないので藍那ちゃんがお料理を作ってくれました。マルティナちゃんも一緒に料理をお手伝いしています。
「みなさんご飯が出来ましたよ〜♪」
今日は近くで採れたきのこで料理を作りました。
「おいし〜☆」
外でみんなで食べるお料理は格別の味です。
そんな中、忠司さんは自分で用意した保存食を食べていました。
「どうしたの? ハイ、御蔵さんの分♪」
ピックルくんが忠司さんにきのこ料理を持っていきました。忠司さんはちょっと考える事があったみたいです。
*
冒険者達のおかげでピックルくんは無事に隣村に来ることができました。
ピックルくんのでぇと中、みんなは景色のいい場所でピクニックをすることにしていました。ピックルくん達もピクニックをする予定だったらしく、折角だからとみんなと一緒にピクニックを楽しむことにしました。
「ふふふ〜ん♪ ピクニック〜♪」
「楽しいですね。この細い腕が鳴りますよ! ポキっと♪」
藍那ちゃんはマルティナちゃんと一緒に、鼻歌を唄いながらお弁当を作っています。
その頃、忠司さんは村を散策していました。お買い物をしてみんなに配ることができたらと考えていましたが、村には宿屋兼酒場が1件あるだけでした。ちょっと困った顔をしている忠司さんに村人が声をかけてきました。
「どうしたんだい? 収穫祭だというのにそんな顔して」
村では丁度、収穫祭の日でした。ピックルくんがでぇとにこの日を選んだのも頷けます。忠司さんが理由を話すと、村人はパンや果物をいっぱいくれました。
「これなら、みんなも喜んでくれるでしょう」
忠司さんは村人にお礼をすると、ピクニックの場所へ急ぎました。
ピクニックは、見晴らしのいい丘ですることになりました。そこへ、ピックルくんと彼女も到着です。
「わ! かわいい彼女☆」
シスカちゃんはピックルくんの彼女を見て驚きました。恋は思案の外と言いますが、ピックルくんにはもったいないくらいのかわいい彼女です。
「それじゃ、恋人達の為に一曲弾かせて貰って良い?」
タチアナさんはピックルくん達の為に歌と竪琴の演奏を披露してくれました。カナちゃんも即興で横笛を吹きます。
『♪翼の折れた天使
もう飛ぶことはできない
でも、あなたの元へ行く為に
困難を越える為に
自分を超える為に
勇気と言う翼を広げて立ち向かう♪』
「ご静聴ありがとうございました」
冒険者の思わぬプレゼントにピックルくん達は感動しました。
演奏が終わった後はお食事です。
藍那ちゃんとマルティナちゃんが作ってくれたお弁当や、忠司さんがもらってきたパンや果物をみんなで食べました。
「たまには、こんな穏やかな時間を過ごすのもいいものだな」
静慈さんが呟きました。冒険者には貴重な和やかなひと時です。こんな時間があるのも少ないでしょう。
「ピックル君! 昨日はどうだったの☆」
「何でそんな事聞くんだよぉ!」
綾奈ちゃんは何やらピックルくんとひそひそお話をしているようです。
冒険者たちのおかげで、ピックルくんは約束を果す事ができました。
ありがとうございました!