【ケンブリッジ奪還】WORD
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■ショートシナリオ
担当:えりあす
対応レベル:1〜3lv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月20日〜09月25日
リプレイ公開日:2004年09月27日
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●オープニング
「なに? モンスターがケンブリッジに!?」
円卓を囲むアーサー王は、騎士からの報告に瞳を研ぎ澄ませた。突然の事態に言葉を呑み込んだままの王に、円卓の騎士は、それぞれに口を開く。
「ケンブリッジといえば、学問を広げている町ですな」
「しかし、魔法も騎士道も学んでいる筈だ。何ゆえモンスターの侵入を許したのか?」
「まだ実戦を経験していない者達だ。怖気づいたのだろう」
「しかも、多くの若者がモンスターの襲来に統率が取れるとは思えんな」
「何という事だ! 今月の下旬には学園祭が開催される予定だというのにッ!!」
「ではモンスター討伐に行きますかな? アーサー王」
「それはどうかのぅ?」
円卓の騎士が一斉に腰を上げようとした時。室内に飛び込んで来たのは、老人のような口調であるが、鈴を転がしたような少女の声だ。聞き覚えのある声に、アーサーと円卓の騎士は視線を流す。視界に映ったのは、白の装束を身に纏った、金髪の少女であった。細い華奢な手には、杖が携われている。どこか神秘的な雰囲気を若さの中に漂わしていた。
「何か考えがあるのか?」
「騎士団が動くのは好ましくないじゃろう? キャメロットの民に不安を抱かせるし‥‥もし、これが陽動だったとしたらどうじゃ?」
「では、どうしろと?」
彼女はアーサーの父、ウーゼル・ペンドラゴン時代から相談役として度々助言と共に導いて来たのである。若き王も例外ではない。彼は少女に縋るような視線を向けた。
「冒険者に依頼を出すのじゃ。ギルドに一斉に依頼を出し、彼等に任せるのじゃよ♪ さすれば、騎士団は不意の事態に対処できよう」
こうして冒険者ギルドに依頼が公開された――――
*
あらゆる分野の学校が存在する学園都市ケンブリッジ。
この学園都市の中央には、ケンブリッジの象徴と言えるケンブリッジ魔法学校がそびえる。
それぞれの分野で学ぶ生徒達で活気に満ちていたこの都市も、今はモンスターの襲撃を受け戦雲急を告げる状況である。
「フィリア、大丈夫?」
「うん、なんとか‥‥」
ある冒険者養成学校の教室。
ここに2人の生徒が取り残されていた。
他の生徒はモンスターの襲撃を退けて脱出に成功したのだが、逃げるとき女子生徒・フィリアが足を挫いてしまい、男子生徒・ジンクが助けようとして2人は逃げ遅れた。外にはモンスターが彷徨しており、出来る事といえば助けを待つくらいしかない。
「ごめんなさい‥‥わたしのせいで‥‥」
「そんなことないよ! 必ず助けはくるから、それまで待とう!」
「ええ‥‥でも、怖い‥‥」
「助けが来るまで、もし何かあったら‥‥僕が君を守るから!」
フィリアを安心させるように力強く言い、ジンクはダガーを手にした。先生に扱い方は教わったが、実戦で使ったことはない。それどころか、モンスターを見るのも初めてなのに‥‥
――僕が彼女を守らないと!
心の中で同じ言葉を何度も呟く。なぜか恐怖心は無い。いや、無いと言えば嘘になるが、少し想いを寄せる彼女を守りたい――その気持ちが恐怖心を抑えていた。
「必ず助けはくるから、それまで諦めない!」
教室の隅。2人は何時来るかわからない救援を待った。
外からはモンスターの咆哮。教室に近づく足音。
彼らの前に訪れるのは冒険者なのか、それともモンスターなのか。
*
『学園に取り残された生徒を助けて下さい!』
緊急事態。
現在、学園都市ケンブリッジがモンスターの襲撃を受け、危機に瀕している。
この依頼は、学園に取り残された生徒の救出である。
情報では、冒険者養成学校の教室に2人の生徒が取り残されていると言う。
迫り来るモンスターを排除し、2人を助けてほしい。
なお、今回は緊急を要する為、馬車が用意されている。
万が一にも生徒に被害が及ばぬよう、可及的すみやかにケンブリッジに向かい、目的の生徒を救出せよ。
●リプレイ本文
数日前までは生徒達で活気に満ちていた学園都市は、全く違う意味で活気づいている。
モンスター襲撃の報告を受け、沢山の冒険者達がこの街に到着していた。
今、生徒達の笑い声に代わって街を支配しているのは‥‥
――モンスター達の叫び声
――冒険者達の雄叫び
――そして、生徒達の悲鳴
冒険者達はケンブリッジ奪還という同じ目的の為、手を取り合って困難に立ち向かう。
*
『学園に取り残された生徒を助けて下さい!』
生徒救出という任務を請けた冒険者達はケンブリッジに到着した。
街ではすでに幾人もの冒険者が各々の役割を持って活動している。
現れたモンスターを倒し、街や生徒を守ろうとする者。
怪我をした者を治療している者。
建物の消火活動をしている者。
「俺達の仕事は生徒を助ける事だ」
ライノセラス・バートン(ea0582)が愛馬に跨りながら街を見渡した。街ではすでに冒険者とモンスターの戦いが彼方此方で展開されている。
「結構数がいるな。兎に角、急ごう」
少し焦りながらフィルト・ロードワード(ea0337)が先を急ぐ。自分達が先に到着するか、モンスターが先に見つけてしまうのか。それは誰にもわからない。わかるのは、刻々と時間だけが過ぎているという事だけ。
「この通りを抜けると学校に着くみたいだよ」
サーシャ・クライン(ea5021)がギルドに手配した地図を確認した。冒険者養成学校は1階建てで、大きな部屋が1つあるだけの施設である。おそらく、学校の場所を見つければ生徒の居場所も用意に判断できるだろう。しかし、ミスを犯せば即、生徒の危険に繋がるとも言える。
「見事に道を塞いでくれているな」
道を塞いでいるモンスターの群れを発見したレオン・ガブリエフ(ea5514)が舌打ちをした。モンスターは4匹のオーク。
「しゃあないな、放っておいても脱出の時邪魔になるやろし」
リオルス・パージルド(ea4250)がロングソードを構える。こんな所で時間は掛けたくないが、強行突破しても後を追われる可能性は高い。
「俺にとってお前は守る対象、危ない目にはあわせられへん」
「気持ちは嬉しいが、今はそんなことは言ってられないのじゃ」
オークに立ち向かおうとしている御剣赤音(ea5072)にリオルスがそっと声を掛けた。
「戦わなきゃ、誰も守れない時もあるんだよな‥‥」
普段は戦いを好まない心優しき騎士・グラディ・アトール(ea0640)も意を決し、オークに剣を向ける。
「じゃあ、行くよ!」
サーシャは掛け声と共にストームを発動。不意に暴風を受けたオークは3匹が転倒し、後方へ吹き飛ばされる。
「学園都市を襲いし魔物達よ‥‥消え去りなさい!」
強烈な突風に耐えた1匹のオークに、アリシア・ハウゼン(ea0668)はウォーターボムを打ち込んだ。水弾の衝撃でよろめくオークにリオルスと赤音が同時に切りかかる。2つの刃はオークの醜い胴体を紅く染め、手にした戦槌を地面に落として悶え苦しむ。
「僕が傷つく事を恐れては、誰かを傷つける事になる‥‥」
独り言を口にしつつも、グラディはオーラショットでオークを攻撃。気の弾を受け、刃傷に苦しむオークは地面に突っ伏して痙攣し始めた。
「ったく、しつこいんだよ!」
そこへ、レオンが頭目掛けてロングソードを振り下ろす。――グシャ! という鈍い音と共に鮮血が飛び散る。
「ここは生徒達が勉学を学ぶ都市だ。消えろ」
フィルトが突風で倒れたオークにロングソードを突き刺した。ライノセラスも騎乗チャージングでオーク達を踏み倒す。ようやく、体制を立て直したオークはフィルトに戦槌を叩き付けた。1匹目は外れるものの、2匹目が振り下ろした戦槌は避けることができず、胸に直撃した。
「ぐぉ!」
オークも冒険者にとって雑魚モンスターの1種に数えられるが、その戦槌の威力は侮ることができない。
「大丈夫か!」
レオンがフィルトの肩を抱く。言葉は無い。地面に唾を吐き、オークを睨みつけるだけ。唾には血が混ざっている。
「こんな所で手間取っている訳にはいかんのじゃ!」
赤音が駆け出し、刀を振り上げる。刃先はオークの長い牙を切り落とし、頬を真っ赤にした。
「あんま、無茶せんといてや‥‥」
リオルスがマントでオークの視界を隠すようにして赤音のガードに回る。
「これで‥‥どうかしら」
再び、アリシアがウォーターボムを放つ。サーシャも魔法を切り替え、ウインドスラッシュを撃った。水弾と真空の刃を食らったオークは一溜まりもなく地に沈んだ。残ったオークは怖気づき後退りを始めるが、グラディとライノセラスによって叩きのめされる。
「間に合うのか‥‥」
フィルトはリオルスから差し出されたリカバー・ポーションを拒否し、自らが用意したポーションを一気に飲み干す。思考は自分の怪我の事より、生徒の安否の事しかない。
「‥‥行くぜ」
ライノセラスがフィルトを気遣いながらも、馬を前進させた。
*
「いますね‥‥」
学校の前まで辿り着いた冒険者達。入り口近くには、先ほど戦った豚鬼とそれを率いる巨漢の大鬼がのさばっている。
「あれは、オーガだろう」
ライノセラスが赤褐色の巨漢を識別した。そして、オークは8匹いる。
「あいつと戦うと梃子摺るのは必至。アリシア、ヤツを頼む」
「‥‥わかりました」
フィルトがアリシアにアイスコフィンを頼んだ。これでオーガを無力化できれば戦闘が有利になるだろう。
「連戦で厳しいが‥‥生徒を救う為に、ケンブリッジを救う為に頑張ろう!」
レオンがそっと手を差し出した。
「言われなくても判っている」
「当然よ!」
「もちろんじゃ」
「戦えない者を守るのが戦える者の義務、やれるとこまで守りぬいたる」
自然に皆の手が重なり合った。
皆の想いは一緒。
気持ちを一つにして今、冒険者達は困難に立ち向かう!
「ウーゼル・ペンドラゴンより伝えられし騎士道の魂を持って、このライノセラス・バートン、いざ参る!」
先陣を切ってライノセラスが側面から騎乗チャージで突破口を開いた。そこに、B班のリオルス、赤音、アリシアが続く。
「よし、今だ!」
ライノセラスの突撃に驚くモンスター達の正面に、A班のフィルト、グラディ、レオン、サーシャが立ち向かう。
「邪魔なのよ! どいて!」
サーシャは仲間が範囲に入らないようにストームで牽制。突風に耐えたのはオーガと2匹のオーク。
「氷の棺桶でお眠りなさい」
そして、アリシアがアイスコフィンを発動。オーガは氷の魔力に耐えることが出来ず、全身を氷で覆われた。
「よし! いいぞ!」
オーガを無力化することに成功した冒険者達は一気にオーク達に襲い掛かる。しかし、オークも数が多い。2匹のオークを倒したが、冒険者達にもダメージが蓄積していく。
「うわぁ!」
レオンを庇おうとしたグラディが戦槌の直撃を受けた。
「絶対に守ってみせる‥‥守らなきゃいけない」
傷を受けてなおグラディはオークに立ち向かう。だが、危険と判断した為、一旦後方へ下がってリカバー・ポーションを使って傷を癒す。
「生徒が心配だ‥‥一気に突入するぞ!」
フィルトの掛け声で冒険者達は学校に入り込んだ。しかし、オーク達も後を付けて来る。
「ここは俺達が引き受けるから、B班は生徒を頼む! 中は部屋が1つらしいから見つけるのは簡単だろう!」
オークを振り切れないと判断したレオンはA班と共にオークを引き止める。
「わかった‥‥無茶はするでないぞ」
赤音はレオンに声を掛けると、他の3人と共に教室まで走った。
*
――どれだけ時間が経ったのだろう
――もう、力が入らない
――フィリアも目を閉じたままだ
――僕も意識が朦朧としてきた
――足音が聞こえる
――来た。誰が?
――教室のドアを開けたのは‥‥
「大丈夫ですか!」
――人の声
――僕たちは助かるの?
*
「ここにいました!」
教室のドアを開けたアリシアが3人に生存を伝えた。
「あ、あなた達が冒険者‥‥」
「そうじゃ。今までよく頑張ってくれたな」
赤音が食事を小さく切り分け、2人に与える。ジンクは食事をリオルスからもらったリカバー・ポーションで一気に喉を通す。しかし、フィリアは意識が無く、赤音の応急手当を施した後、すぐにリオルスが背負って教室から運び出した。
「A班が心配や! はよ、戻ろう!」
ジンクが自力で立ち上がれるのを見ると、リオルスは素早く教室を後にした。
「しつこいって何度も言ってるだろ!」
レオンがオークの頭を真っ二つにした。あれから、A班の4人は4匹のオークを倒したが殲滅には至っていない。そろそろ限界が近づいてくる。だがその時、生徒発見の合図が聞こえた。
「無事だったようだな」
フィルトが胸を撫で下ろした。だが油断はできない。重い腕を振り上げ、最後の力でオークにロングソードを振り下ろす。
「守りきった‥‥ようですね」
グラディもオーラショットを打ち込んだ。
「これで‥‥最後よ!」
サーシャもウインドスラッシュを放つ。これが致命傷となってオークは死んだ。
「みんな、大丈夫ですか!」
アリシアがA班の元に駆けつけた。そこにはオークの屍が8つ転がっている。
「さすがじゃな」
「よう、無茶しおった。生徒も無事や」
リオルスと赤音もみんなが無事でホッと息を吐いた。
「よく頑張ったな、もう大丈夫だぞ」
レオンがジンクに労いの言葉を掛ける。
「だが、外にもまだモンスターはいるぞ。安心するのは脱出してからだ」
ライノセラスがモンスターを警戒しつつ、学校の外に出た。外に繋いでおいた馬も無事のようだ。
ケンブリッジの外まではモンスターの襲撃は無かった。
馬車で手当てを受けたフィリアも意識を取り戻した。命には別状は無い。
こうして、冒険者達は生徒救出という依頼を成し遂げた。
依頼成功。ご苦労であった!