Princess of Light 〜飛べない小鳥の鳴声〜
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■ショートシナリオ
担当:えりあす
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月26日〜10月01日
リプレイ公開日:2004年10月04日
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●オープニング
ある貴族の屋敷。
窓際に貴族のご令嬢が佇み、外を眺めていた。
彼女の名前はミリエーヌ。腕に猫の人形を抱き、ただ静かに空を飛ぶ小鳥を見つめている。
「ねぇ、ブリンクキャット。冒険者って楽しそうだね」
ミリエーヌは不意に後ろに立つ女性・ブリンクキャットに声をかけた。
「え‥‥そんな事ないわよ。生きる為に依頼を受けてお金稼がなきゃいけないし、その為に危険な事もしなくちゃいけないのよ」
「でも、わたしは一生ここから出ることが出来ない、許されない‥‥それに比べたら、素敵な生き方だわ」
「う〜ん」
ブリンクキャットと呼ばれた女は言葉に詰まった。
依然、ブリンクキャットは怪盗として活動していた。
ブリンクキャットに盗めなかった物は無かった――盗む物は少々特殊な物だったが――はずだが、唯一盗めなかった物がある。それが、ミリエーヌが大事に持っている猫の人形であった。
ミリエーヌは足が不自由で屋敷の外へ出たことは殆どない。そんな彼女の友達は‥‥猫の人形だけ。
さすがにそれを知ったブリンクキャットは盗むのを躊躇った。孤独な少女の唯一の友達を奪うことは怪盗にもできなかったのだ。
その一件があって以来、ブリンクキャットはミリエーヌと親しくなり、屋敷の出入りを許された。ブリンクキャットが怪盗だったことなどミリエーヌは気にしていない。それより、心を許せる友達ができたことが何より嬉しかった。この事は2人の秘密であり、屋敷の中でもブリンクキャットが怪盗だと知るものはいない。ただ、名前でバレる可能性があるのでここでは『ブリジット』と名乗っているのだが。
「冒険者ってどんな人達なのかなぁ?」
「いろいろいるわよ」
「ふーん、一度会ってみたいなぁ」
「う〜ん‥‥今度連れてこようか?」
「本当! 嬉しい! 楽しみにしてるよ!」
ミリエーヌは目を輝かせた。
しかし、ブリンクキャットは主に単独で活動している。仲間と言える冒険者はいなかった。
「そういう時は、あそこに行けばいいんだけどね」
ミリエーヌを喜ばせようと思って軽く口にしたことを少し後悔しながら、ブリンクキャットは屋敷を後にした。
*
「と、言うことで、お嬢様を喜ばせてくれる冒険者を探しているの。あたしがギルドに行ったらいろいろあるから、アンタが行ってきてちょうだい」
「わ、わかりましたよぅ‥‥」
冒険者ギルドの前。
ブリンクキャットは気弱な相方にギルドで依頼を出すように指示していた。
そして、ギルドに依頼が張り出された。
『貴族令嬢を楽しませてくれる冒険者急募』
外に出ることの出来ないご令嬢を、冒険者独自のアイディアで楽しませてあげてほしい。
●リプレイ本文
「アミィ様が人の幸せの為の依頼を受けるなんて珍しいですね」
「たまには良い事でもしようと思っておりますの。おっほっほ!」
真慧琉(ea6597)が主人であるアミィ・エル(ea6592)に話し掛けた。
アミィは内心では『わがままなお嬢様に一括してさしあげますわ』と思いつつも、高笑いで答える。
「詐欺師の名に賭けて楽しませてあげますわよ!」
「アミィ様がんばってくださいね! あ、そろそろ練習の時間だ! じゃあ、行ってきます!」
慧琉は思い出したように、他の冒険者との待ち合わせ場所へ向かった。
「‥‥張り切っていらっしゃいますわね」
アミィはボソリと呟くと、街の人塵の中へと消えていった。
慧琉が向かった広場には、すでにケンイチ・ヤマモト(ea0760)とミリート・アーティア(ea6226)がいた。
「あまり時間がありませんから、早速始めましょう」
「そうだね! 冒険者らしい激しい曲がいいな♪」
ケンイチが竪琴を奏でると、ミリートも曲に合わせて唄い、慧琉もアクロバティックな踊りを演じる。
短い時間ではあるが、3人は息を合わせて練習を繰り返した。
「うん。こんな感じだね♪」
練習を終えると、3人は成功を願いつつ帰路についた。
*
当日。
冒険者達はミリエーヌの住まう屋敷へ招かれた。
入り口で執事が丁寧に礼をすると、ミリエーヌの部屋へ案内される。
窓辺には猫の人形を抱いた少女・ミリエーヌと友人のブリンクキャットがいる。
冒険者達が部屋に入ると、ミリエーヌは松葉杖をついて出迎えた。
「私はミリートだよ♪ ミリエーヌちゃん、よろしくね♪」
無邪気な笑顔を見せて挨拶をするミリートに、ミリエーヌも微笑んで挨拶を交わす。
「あたしはヴィルジニー。ジーニーって呼んでね♪ これ、あたしが気合を入れて選んできた花束だけど、香りの好み合うかな?」
ヴィルジニー・ウェント(ea4109)は自己紹介をすると手にした花束を渡した。
「わぁ☆ いい香り! ありがとう♪」
さすが調香師のお目に適った花。その鼻をくすぐる心地よい香りにミリエーヌはご満悦の表情だ。
「これは、あたしの棲家の庭で育てているお花だよ。気に入ってもらえるかな?」
ティアイエル・エルトファーム(ea0324)も花束を渡した。心を込めて育てた花を受け取って喜ばない人はいないだろう。
両手にいっぱいの花を受け取ったミリエーヌは大喜びである。
「初めてお目に掛かります。キャメロットの騎士の一人、ヒースクリフと申します」
ヒースクリフ・ムーア(ea0286)は恭しく頭を下げて礼をすると、手にした鉢植えの花を手渡した。
青くラッパのように筒状で5裂した花。
その淡いブルーの色にミリエーヌは興味を引いた。
「これはゲンティアナという種類の花で、根は薬草としても利用されています。姫君の為に山に登って取ってまいりました」
「まぁ、わたしの為に!」
「はい。道中、いろいろな草花や動物を見ることができました。途中、ブラウンベアに遭遇したりと危険もありましたが、無事に姫君にこの花を届けることが出来て嬉しく存じます」
ヒースクリフの冒険譚を真剣な表情で聞き入っているミリエーヌ。
そのリアルな物語は、吟遊詩人が語っていた100年前の英雄伝よりもずっと面白い。
そして、何より自分の為の物語にミリエーヌは感動していた。
「私には貴方を此処より連れ出す事は出来ませんが、こうして貴方の目となり耳となる事で外の世界をお見せする事は出来ます。それで貴方の孤独が少しでも癒されるなら私も嬉しい‥‥もし、よろしければ私の友人となっては頂けませんか?」
ヒースクリフがミリエーヌに手を差し出した。
ミリエーヌもその大きな手を両手で受け止める。
「もちろんですわ。ずっと、お友達でいて下さいね」
「また機会がありましたら、是非、物語の続きを‥‥」
ヒースクリフは再び敬礼して、1歩後ろへと下がった。
「俺はファイターのリ・ル。リルでいいぜ。子供達に“蒼天二刀流”って言う剣術を教えているんだ。よろしくな」
リ・ル(ea3888)はミリエーヌに一礼すると、ダガーとナイフを引き抜いて身構え、コカトリスとの死闘を再現する。
「俺は以前、仲間と共にコカトリスという鶏と蛇が合わさった魔獣と戦った。魔獣は小柄で非常に素早い。だが、俺はこの技で何度も突き出される魔獣の嘴を捌いた」
リ・ルはダガーとナイフで足元の攻撃を捌く動作を見せる。
「見事魔獣は討ち取ったが、俺も下半身に傷を負ってそこから徐々に石化が始まってきた‥‥」
「えぇ!」
「傷口から石化が広がって、前身に広がっていく。徐々に感覚が無くなってきて、頭まで来た時、意識が無くなったんだ」
リ・ルが石になった話を聞いてミリエーヌは言葉を失った。
しかし、リ・ルは笑いながら石化解除したことを話すとミリエーヌは胸を撫で下ろす。
それほどまでリ・ルの冒険話はリアルで衝撃的であった。
経験者が語る話である。石化から生還した冒険者というのも数少ないのだ。
「あたしはあまり戦えないから、お化け屋敷に遊びに行ったり、遠足の子供のお世話とか、そんな依頼ばかり受けてるのよ」
「冒険者って戦うことばかりやってると思ってたわ」
ヴィルジニーも今までの冒険の話を聞かせた。
「わたくしも力で戦う事はできませんわ。でも、強大な力を誇る盗賊団から依頼人を守って欲しいという依頼で、敵を話術で欺いて同士討ちをさせましたの。わたくしは言葉と言う武器で戦って勝利しましたのよ」
アミィは得意の話術で偽りの冒険話を語る。
全くの嘘であるが、この場にいた全員がこの話を信じたであろう。
「わたくしがこの話をした意味がわかりますかしら? 戦い方にも色々な方法があるように、外に出る方法にも色々あるということを云いたいのですわよ。全てを足のせいにして自分の不幸を嘆くなど、我儘極まりないですわ」
厳しい言い方ではあるが、アミィは毒舌の裏に勇気を出して外に出てみるようにとメッセージを込めている。
「足が不自由でもできることはあります‥‥最初から諦めてしまったら本当に何もできないし、一生閉じこもったままです」
ティアイエルも苦言を呈し、本当は自分がどうしたいのか尋ねる。
ミリエーヌは真剣にその言葉を聞き入れたのか、少々悩んだ表情を見せた。
「あ、それより庭でティーパーティーでもしませんか?」
発言に少し重い空気を感じたティアイエルはティーパーティーを提案した。
もちろん、提案は承諾された。
両親も度々ギルドに依頼を出しており、冒険者に絶大な信頼を寄せている。
「試作中のハーブティーを入れてみました♪」
庭で急遽ティーパーティーの準備が進む中、ヴィルジニーが自作のハーブティーを披露した。
「いい香りね♪」
「あ、味は保障しないから!」
このハーブティーは味が香りに反比例するらしい。
「美味しい紅茶ですね。なかなかこういう機会がありませんから嬉しいです」
ケンイチは用意された紅茶を楽しんでいた。紅茶は貴族の嗜好品で、滅多に口にすることはできないのだ。
「あはは♪ じゃあ、楽しく行こっか♪」
「あたいの踊りは華仙教大国の踊りなんだけど、武術もまじっている踊りなんだよ」
ミリートが晴天の下、声高らかに歌を唄う。ケンイチも竪琴を奏で、慧琉が武道を織り交ぜた踊りを披露する。
曲調はハイテンポで激しい、冒険者らしい選曲となった。
みんな歌と踊りに見入っている中、ミリートはミリエーヌを誘って一緒に唄う。
ケンイチの演奏する曲が終了すると、彼女を抱き寄せて囁いだ。
「素敵な歌い手になるのが私の夢‥‥何か夢を見つけると毎日が楽しく感じられるんだよ♪ だから、ミリエーヌちゃんも見つけよっ♪」
「うん! ありがとう!」
曲と歌と踊りのプレゼントを受け取ったミリエーヌは、目に涙を滲ませながら礼を述べた。
「ミリエーヌも家に閉じこもってないで、怖いかもしれないけど外の世界を見た方がいいよ。そうすれば、こんなカッコイイ男の子みつかるかも♪」
そう言うと慧琉はケンイチに抱きついた。
「あたしも外の世界を見てみたかったから‥‥実は家族に内緒で家出したの。101回失敗して、102回目でやっと成功したんだよ」
「えっ! 家出しちゃったの?」
ティアイエルが家出している事を聞いてミリエーヌは驚いた。
「わたしにも少しそんな勇気があればな‥‥」
「大丈夫だよ♪ がんばって外に出てみよう!」
「そうよ。ミリエーヌならできるよ!」
「うん、わたし‥‥がんばってみる!」
みんなの応援にミリエーヌは決意した。
自分一人で悩んでいても始まらない。
こんなに自分を支えてくれる友達ができたから‥‥外に出る勇気が湧いてきた。
その後、パーティではヴィルジニーが氷のカップを作ったり、リ・ルのダーツで的当てゲームをしたりと楽しく時間を過ごした。
「例えばこんな小さいダーツでも、極めれば一撃必殺の武器になる。俺は剣術家なんでつい物騒な方に話が行ってしまうが、君のその両手は沢山の可能性を与えてくれるんじゃないのかな」
ゲームや世間話で盛り上がっている中、リ・ルはミリエーヌにダーツを見せながら口授する。
「君には屋敷がある、親御さんがいる、大事な友達もいる。そして可能性をつかみ取る両手がある。それは幸せなことなんじゃないかと俺は思う」
そして、リ・ルはミリエーヌにダーツを手渡した。両手でそれをしっかりと握り締める。
「‥‥みんな、本当にありがとう。ずっと、友達でいてくれるよね?」
ミリエーヌの問いに皆、首を縦に振った。
「アミィ様、カッコイイ人そっちにいました? あっ!」
「‥‥慧琉さん、楽しんで来られたようですわね。主のわたくしをほっぽり出して‥‥」
帰り道。アミィは慧琉の口に衝いて出た言葉に不機嫌そうな顔で返すと、街の暗闇の中へ消えていった。