●リプレイ本文
冒険者達は4日間という長い道程を経て目的の街まで辿り着いた。
道程は、キャメロットから先日冒険者達の活躍で奪還されたばかりのケンブリッジまで歩いて行くのと同じくらいの距離である。
途中、然したる障害もなく、無事に街へ到着して荷車を引き受けた。
「んと、今度はガチョウ君を貴族君に届けるんだね‥‥短い間だけど一生懸命お世話するよ」
ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)がガチョウを見て少し悲しそうな顔をした。
ガチョウは野生のガンを家禽化したもので、主に食用にされる。悲しい運命を辿る鳥なのである。
「最後まで気を抜かずに行きましょう。短いようで長い4日間になりそうですね」
ライカ・アルトリア(ea6015)もガチョウを見て「生き物を護衛するのか、食料を輸送するのか?」と考えつつも、最後まで気が抜けぬよう気持ちを引き締める。
「ガチョウの輸送護衛って事か〜! 頑張るぞ〜!」
お姉ちゃん大好きっ子のラスター・トゥーゲント(ea1115)も最後の4日間、ガチョウを守り通す為に気合を入れる。
「屋敷で荷物を渡す時、コレが必要になるから持っておけ」
貴族の屋敷に出発する準備を整える冒険者に、飼育者が右手のグローブを渡した。
「これが割符の代わりになるものだ。忘れるなよ」
ガチョウを積んだ荷車とグローブを受け取り、冒険者は屋敷へと急ぐのであった。
*
「『バグベア』って呼ばれやがるくらいですから、熊みたいなもんなんでしょうかね? ‥‥ピクルス‥‥さん?」
「体は熊だけど頭は猪のオーガだよ! ‥‥って、僕の名前違〜う! ちゃんと、覚えてよぉ!」
ピックルと同じシフール仲間のカナ・デ・ハルミーヤ(ea4683)が、荷車の上でバグベアについて聞いていた。
「オイラもあんまりよくわかんないけど、そんな感じみたいだね。略奪を繰り返して、鎧で武装してるのもいるらしいよ」
「それは、気をつけなければいかんな。それに、2匹というのもくさい」
ラスターから情報を聞き、フィルト・ロードワード(ea0337)が苦い顔をする。
「バグベア君が鎧を着てたらバーストアタックで壊しちゃうよ! 頑張るぞぉ! えいえい、おー!」
ピアレーチェはバグベア相手でも物怖じしていない。
「‥‥だが、気を抜くなよ。単独で勝てるような相手じゃないからな‥‥」
リオン・ルヴァリアス(ea7027)は冷静に告げる。
「そうですね。複数で抑えなければならないでしょう」
御蔵忠司(ea0904)もリオンの意見に同調した。丁度、その頃。忠司の知り合いのジル・ギルドレイもフライングブルームに乗って到着。これで、戦力が強化される。
9人の冒険者は慎重に貴族の屋敷まで移動する。
昼間はカナとピックルの2人のシフールが上空から周囲を監視し、夜間は「忠司、ラスター、ピックル」「リオン、ライカ、カナ」「フィルト、ピアレーチェ、ジル」のローテーションで夜番を行い襲撃に備えた。
街を出発してから2日目。
『♪熊が出た〜
キャ〜 逃げろ〜
がお〜 がお〜
がぶ〜 がぶ〜♪』
カナが歌を口ずさみながら上空から周りを見渡していた。同じく、一緒に偵察を行っているピックルは何か言いたそうな顔をしているが、あえて沈黙している。
「あ、あれは‥‥」
ピックルが顔を変えた。
人影。
いや、人間ではない。
2mの大きな存在が、小鬼を引き連れて荷車に向かっている! 上空からだからわかるのだが、それぞれのバグベアが4匹のゴブリンを引きつれ挟み撃ちをしようとしているのだ!
「あれが、バグベアですか。ピックルさんはみんなに出たと伝えやがりください。私はファンタズムで片方の注意を逸らしやがります」
そう言うとカナは後方にファンタズムで豪華な馬車の幻影を作った。
「来たか‥‥」
ピックルの敵襲の報を受け、リオンはオーラパワーをフィルト、忠司、ライカ、ピアレーチェ、ジルの武器にかける。
「予想通りだったか。カナの幻影のおかげで片方は時間が稼げるかもしれん」
「ええ。多少はこちらが有利かも知れません」
フィルトと忠司も武器を構え体制を整えた。シフールによる偵察と、事前に挟み撃ちを察知できた事、カナのファンタズムで時間を稼げた事が冒険者にとって追い風となる。バグベア達はタイミングが合わず、襲撃を躊躇していた。
「来ないならこっちからいくぞー!」
先制してラスターが2本の矢を同時に放つ。放たれた矢は1本がバグベアの胸に突き刺さった。ラスターの攻撃を受け、バグベア達は攻撃を開始した。
「鎧は着ていないようだね。じゃあ、ゴブリン君を相手しようか」
「そうね。こっちを受け持つわ」
ピアレーチェとライカは荷車を守りつつ、向かってくるゴブリンに的を絞った。
「‥‥行くぞ」
リオンはバグベアに右手のロングソードで切り掛かり、それを命中させる。さらに、左手でバグベアの腕を攻撃し、棍棒を叩き落した。続いてフィルトもバグベアの巨体に連撃を叩き込んだ。オーラパワーで威力の増した武器は、確実にバグベアの体を切り刻んでいく。そして、忠司の刀が、ジルのクルスソードがバグベアに深いダメージを与える。冒険者の的確な判断と連携は、僅かな時間でバグベアを重傷に追いやった。これは、恐るべき事である。結局、1分後に生き残っていたのはゴブリン1匹のみであった。
「あっちからも来たよ!」
数分後、カナの幻影に惑わされていたもう片方のバグベア達が向かって来る。しかし、その時すでに戦闘は終了し、冒険者達は迎撃態勢を整えていた。
「僕だってやれるんだ! 前みたいにはいかないぞ!」
「ピックルさん! 危ないです!」
忠司の忠告を聞かず、ピックルがバグベアに向かって突き進んだ。ダガーで4倍の身長のバグベアの胸を突き刺す。僅かなダメージしか与えることが出来ないと知りながらも‥‥。
「邪魔だ! どけ!」
リオンがピックルを怒鳴りつけて張り倒す。なるべくなら守ってやりたいが、バグベア相手でそんな余裕も無い。そこへ、ジルのコアギュレイトがバグベアに掛かった。呪縛で動けないバグベアへ、ラスターの放った矢が急所へ命中。動けないバグベアは悲鳴だけで苦痛を表現する。
「数がいてもそれでは私達に勝てません」
「相手が悪かったわね! ゴブリン君!」
ライカとピアレーチェは2人で4匹のゴブリンを相手にしていた。手数で劣るものの、ライカが攻撃を防ぎ、ピアレーチェのメイスで確実にゴブリンの体力を消耗させていく。
「略奪など許しません! 天誅です!」
忠司の振った刀がバグベアの頭を体から切り離した。残ったゴブリンも瞬く間に掃討されていく。
結局、この戦闘で大きな怪我を負った者はいなかった。僅かに攻撃を受けたライカとリオンがリカバーで傷を癒す。
「はぁ‥‥やっぱり、僕は非力だな‥‥」
「そんな事はないよ! ピックル君の頑張りは見習わなくっちゃ! でもひとりは大変。難関はみんなで一緒に乗り越えよう!」
「そう。向かい風の中でも目を開けていられるもの、それが勇気なんだ!」
ピックルは戦いで何も出来なかった事を後悔するが、ピアレーチェとラスターが励ます。
「ピックルさんには、ピックルさんにしか出来ない事があります。今はわからないかも知れませんが‥‥何時かわかってもらえると思います」
忠司もピックルに微笑みかけた。
*
強敵の襲撃を退け、冒険者達は貴族の屋敷へと荷車を届けることができた。
「‥‥おい! あれはまだか!」
荷車からガチョウを降ろし、屋敷の衛兵に受け渡す。だが、準備が整っていないらしく、しばらく外で待たされた。正門では、他の冒険者が違う荷物を降ろしている。
「ゴメーン! 遅くなっちゃった」
メイド服を着た女性が片方のグローブを持ってきて衛兵に渡した。
「待たせたな。では、当家が契約しているという印を見せよ」
「‥‥これだな」
リオンが右手のグローブを見せると、衛兵も同じグローブの左手を見せる。
「確かに、当家が契約している由緒正しきガチョウだ。運搬、ご苦労であった!」
ようやく、荷の受け渡しが完了して冒険は無事成功となった。
「よろしければ、是非パーティーへ御越しいただけませんか?」
「本当ですか! ぜひ、参加いたします!」
冒険者を労う為、屋敷ではパーティーが準備されていた。ライカもパーティーの誘いに喜びの表情を見せる。
『かんぱーい!』
用意されたジンジャー・エールで乾杯。ガチョウのローストと生姜入りのパンも運ばれてきた。
パーティーには他に14人の冒険者も招かれている。
「立場や種族が違っても、おなじ勇気を抱いたオイラ達は仲間だよ!」
「うん、ありがとう!」
冒険が終わり、ラスターはピックルに握手を求めた。皆、同じ危険に立ち向かった仲間である。また、いつか顔を揃えることができる事を願って手を強く握り締める。
「私も負けていられません。あれから、練習した成果をお聞きやがりください」
冒険者による竪琴の演奏が披露されて盛り上がっている中、カナも負けじと横笛を披露した。
その演奏に耳を傾ける者、歌う者、踊る者。
こうして、楽しい時間が過ぎていく。
冒険者達は次の冒険へ向けて英気を養い、キャメロットへと戻るのであった。