悲しみは風と共に

■ショートシナリオ


担当:えりあす

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 44 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月12日〜10月19日

リプレイ公開日:2004年10月18日

●オープニング

 村は実に鬼哭啾々(きこくしゅうしゅう)たる惨状であった。
 家は破壊され、いたるところ死屍累々の様相を呈している。
 その村を我が物顔で歩いているのが‥‥茶色の肌をした大柄のゴブリン。
 ゴブリンは楽しそうに逃げ惑う村人を襲い、建物を壊し、食料や金品を奪っている。
「お姉ちゃん! 怖いよぉ!」
「私から絶対離れちゃだめよ!」
 ゴブリンを振り切り、村から逃げ出す少年と少女。
 2人はゴブリンの追撃を逃れ、何とか村の外まで逃げる事が出来た。
「パパが‥‥ママが‥‥みんな死んじゃった!」
 泣きじゃくる少年を少女はそっと抱き寄せる。
 他にも村の外には命からがら逃げてきた村人が集まっていた。
 傷つき、家族を失い、頼るあてもない‥‥。
 だだ、冷たい秋風と恐怖に身を震えさせているだけであった。
「いい? 坊や。私は村に戻らないといけないの。必ず戻るから‥‥待っててね」
「え?! お姉ちゃん!」
 少女は少年の頬にキスをすると、ゴブリンの支配する村まで走り出した。手には‥‥ロングソードが握られている。
「お姉ちゃん!!」
 少女は少年の呼び止める声に一度立ち止まるが‥‥

 ――こんな顔を見せたら、もっと坊やが悲しむと思うから‥‥私は、自分の出来ることをするだけ!

 振り向きもせずそのまま村へ走り出した。
 少年の瞳から少女の姿が消えていく。
 以前の面影を残さぬ村から、ゴブリンと少女の悲鳴が響き渡った。

 *

『ゴブリンに襲われた村を救ってほしい!』

 今回の依頼はゴブリンに襲われた村人達からの願いである。
 先日、ゴブリンがこの村を襲撃し、村を占領した。
 このゴブリン集団を殲滅して村を救っていただきたい。
 情報によると、このゴブリンは通常のものより体格が良く、ホブゴブリンと推測される。
 村には何人か戦える者がいたが、彼らでも全く歯が立たなかったホブゴブリンがいたそうだ。
 おそらく、戦士クラスの熟練したホブゴブリンが中にいるようである。
 ホブゴブリン戦士だと、そこそこ経験を積んだ冒険者でも苦戦する相手である。
 交戦の際は十分留意されたし。
 なお、村には生存者がいる可能性があるので、確認できた場合は救出もお願いしたい。
 では、冒険者達の健闘を願う!

●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea0640 グラディ・アトール(28歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2998 鳴滝 静慈(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3451 ジェラルディン・ムーア(31歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea5235 ファーラ・コーウィン(49歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea5301 羽紗 司(41歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7000 エルネーズ・ソワレ(35歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea7050 ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(29歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

セルライト・セルディン(ea0481)/ オルテンシア・ロペス(ea0729)/ タチアナ・ユーギン(ea6030

●リプレイ本文

 村に着いた一行は予想以上の惨劇に目を伏せた。
 崩れた家。荒れた畑。横たわる死体‥‥村人の殆どが死んだのではないかと思えるくらい、いたるところ死屍累々であった。中には言葉で表現できないくらい損傷ひどい遺体もある。
(「神様。もし、おいらの声が聞こえたら、これから戦う皆と村の生き残った人達を守って下さい。おいらも最後まで諦めないから、お願いします」)
 絶望的な様相を呈する村の中で、チップ・エイオータ(ea0061)は生存者とこれから一緒に戦う仲間の無事を祈りながら、黙々と戦いの準備を進める。
 一行は事前に生存者の村人から村の建物の様子を確認し、待ち伏せのポイントの見当をつけていた。出入り口近くで比較的損傷が少ない建物を選び、そこを待ち伏せの拠点とする。しかし、事前に情報収集を行ったことが若干のタイムロスに繋がってしまった‥‥現地に来てから調べるよりは安全であるが‥‥影響が無いことを願うばかりだ。
「折角、収穫の時期を迎えたってのに、何て酷い事をするのっ!? そのゴブリン達、絶対に許さないんだからねっ!」
 ジェラルディン・ムーア(ea3451)は憤怒の感情を隠さなかった。柳眉を逆立てながらもチップが罠に使う石を運び、戦いの準備を整える。
「‥‥この村にも、笑顔で生きていた人たちが‥‥幸せに暮らしていた人たちがいたはずなのに‥‥それを!」
 グラディ・アトール(ea0640)も村の惨状を目にし、憤激の情を顕にした。村を吹き抜ける冷たい秋風が、悲哀と怒気に満ちたグラディの体をさらに震わせる。
「これ以上、悲惨なことにならないようにしなくてはな」
 村の酷い状況を悲憤慷慨しながらも、羽紗司(ea5301)も罠の設置に取り掛かった。待ち伏せ場所の建物の間にロープを緩めて引き、上から土をかけて見つからないようにする。ゴブリンが来た所を狙ってロープを引き、足を引っ掛けるという罠だ。
「これは酷いな‥‥だが、俺達が出来ることをやるまでだ‥‥」
 鳴滝静慈(ea2998)は湧き上がる殺戮に対する激憤と憐愍の念を抑え、冷静でいるように努めた。静慈も罠の設置を手伝い、早いペースで準備が進行する。あとは‥‥囮がゴブリンを引き寄せてくるだけだ。タチアナ・ユーギンもファンタズムで幻影を出現させる位置を確認している。幻影はゴブリンを欺き、身を潜め易くする事が出来るであろう。
「ホブゴブリンが8匹もいるとなると気は抜けませんね」
 ファーラ・コーウィン(ea5235)はロングソードを地面に突き刺し、これから始まる殲滅戦に向けて精神を集中させた‥‥。
 風は強い。
 死の香りを運ぶ向かい風に、冒険者達は打って一丸となり立ち向かう。

 *

「ホブゴブ君が相手なんだねっ! 強いのも居るらしいから頑張らないと!」
「ホブゴブリンが悪いとは言いませんが、気に入りません‥‥」
 囮の為に村の中心部に潜入したピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)とエルネーズ・ソワレ(ea7000)。ホブゴブリン達の位置は、セルライト・セルディンのブレスセンサーで見当がついていた。あとは、うまく誘き寄せて待ち伏せ班の潜伏場所へと誘導するだけだ。
「これで出てくるかな?」
 ピアレーチェは強烈な匂いの保存食を取り出してホブゴブリン達を誘い出すことにした。死臭漂う村に魚の干物の強烈な匂いが混ざる。暫くすると、数匹のホブゴブリンがこの村に存在しない匂いに気づき、周囲を警戒し始めた。
「‥‥メイドの高みを目指す為にも、なんとしても成功させなければなりません」
 エルネーズはホブゴブリンを全員目視で確認し、十分距離を考慮しつつ自らの姿を晒した。ホブゴブリン達はエルネーズの姿を見るなり、我先にと彼女に向かって走り出した‥‥情欲に飢えた顔、獲物を見つけた狼のような目で。
「こちらです!」
 ホブゴブリンは全員釣れた。あとは、仲間の待つ潜伏場所へと連れて行くだけだ。
「顔を出さず、もう暫く隠れていてね!」
 ピアレーチェも生存者に救援が来た事を知らせるように叫びながら走った。
 彼女は長距離走が得意な為、簡単にホブゴブリンと距離を引き離す。挑発を繰り返し、ホブゴブリンを誘き寄せる。エルネーズも戦士としては比較的軽装な為、ホブゴブリンより若干だが足が速い。2人は待ち伏せの場所までホブゴブリンを誘導することに成功した。
「うまくいったようだな‥‥では、頼むよ」
 足音を捉え、静慈がタチアナにファンタズムの指示を出した。
「来たか‥‥」
 罠のロープを手に建物に身を潜め、息を殺す司。周囲はタチアナのファンタズムで壁が出現し、身を隠し易くなっている。
 そして、囮の2人が罠を通過し、ホブゴブリンが近づいたその瞬間‥‥ホブゴブリンの足元にロープが出現した。
「グッ!」
 強烈な手応え。手が引きちぎれそうなくらいだ。手に血が滲んでも司はロープを離さなかった。
 罠に掛かり、転倒した先頭のホブゴブリンに、さらに後列のホブゴブリンがぶつかり倒れていく。そこへ、チップが用意していた大きな石を落とした。突如、飛来する石に避ける術も無く、落とされた大きな石は1匹のホブゴブリンの頭を直撃。頭は割れ、血が噴出し、ホブゴブリンは意識を失った。
「もう、絶対に許さないんだからねっ! これでもくらえっ!」
 怒りを前面に出したジェラルディンが建物の影から現れ、転倒しているホブゴブリンに強烈な一撃を叩き込む。ロングソードの重量が加わった其の重い一撃は、たった1発で重傷を負わせた。
「鉢金には、こういった使い道もあるのだよ」
 静慈は3段攻撃を繰り出し‥‥右腕のナックルがホブゴブリンの脇腹を抉り、左足のローキックが膝を、強烈な頭突きが顎を襲う。
「総力戦‥‥でも、こちらに分があります」
 ファーラも倒れたホブゴブリンの背にロングソードを突き刺した。
 ──グギャー!
 ホブゴブリンの背中が鮮血で染まる。

 冒険者の罠と奇襲は成功した。
 この後、まともに立ち上がることのできたホブゴブリンは5匹。
 中に一際大きい斧と盾で武装したホブゴブリンがいる。それが、ホブゴブリン戦士だった。
(「動くなよ‥‥行っけー!」)
 チップは建物の上からホブゴブリンを狙撃する。ショートボウに矢を番え、皮膚の露出した部位を狙い矢を射る。しかし、専門的な技能を持たないので命中こそするが、効果的な打撃とはならない。
 続いてタチアナのスリープが発動。ホブゴブリンは一瞬で睡魔に襲われ、地面に伏した。
「ピアもがんばるんだいっ!」
 ピアレーチェも傷ついたホブゴブリンを狙い、メイスを殴りつける。1発は盾で受けられたものの、隙を見てもう1発を胸に叩きこむ。メイスの重い衝撃を受けたホブゴブリンは胸を押さえ、苦しそうにたじろいだ。よろめくホブゴブリンにジェラルディンとファーラのロングソードが突き刺さり、これが致命傷となった。
「力に奢り高ぶる者は、やはり力で倒されてしまう者だ。人それを因果覿面と言う」
 司は峰打ちで急所を狙い、ホブゴブリンの無力化を狙う。ホブゴブリンの動きを的確に見切り、急所に放たれた一閃。其れを受けたホブゴブリンは地面に崩れた。
「Schere Hausmadchen(切り刻むメイドの一撃)!!」
 掛け声と共にエルネーズが両手を交差にした構えから連撃を放つ。交差した両手から水平に放たれた其の攻撃は、ホブゴブリンの胸を切り裂き、体を血で染め上げる。
「受けろ! 光の矢を!」
 気を練っていたグラディはオーラショットを傷ついたホブゴブリンに撃つ。オーラの弾撃を受けたホブゴブリンは其の衝撃で体が吹き飛ばされた。そこへ、オルテンシア・ロペスがナイフを構え威嚇し、その後ろからセルライトがウィンドスラッシュを放つ。真空の斬撃は血で染まる胸をさらに深く抉り、ホブゴブリンは断末魔の声を上げた。
「悪いが‥‥俺の意地にかけてもここをやらせる訳にはいかない。もし来るのなら、死ぬ気でかかってきたまえ」
 雑魚が粗方片付き、静慈は戦士に狙いを定める。
「おいらだってできるんだ!」
 チップが矢を放ち、それを援護に静慈が連撃を見舞う。そして、ジェラルディンの重撃とファーラのコンビネーションが重なり、ホブゴブリン戦士は地面に膝を付いた。そこへ、グラディのオーラショットが直撃。ホブゴブリン戦士は二度と立ち上がることは無かった。
 戦いは冒険者達の勝利であった。 

 戦いの後、オルテンシアのエックスレイビジョンとセルライトのブレスセンサーで生存者は村の保存庫にいることがわかった。
 内側から横木で扉を閉め、中に保管してある作物で飢えを凌いでいたようだ。

 *

 戦いが終わり、村に静寂が訪れる。
 まだ風は強い。
「キミ達の場所は取り返した‥‥安らかに眠りについてくれ‥‥」
「静かに安心して、眠ってくれ」
 冒険者達は日暮れまで死んだ村人の墓を作り、花を添えて弔った。墓の数は20を超える。1つ墓が増える度、冒険者の心に感傷が増えていく‥‥そして、傷口からは怒りという熱く滾る血が吹き出る‥‥。
 生き残った村人は、これからも強く吹き付ける悲風に向って歩いていかなければならない。でも、冒険者達の見せてくれた勇気は、村人の支えとなることであろう。
 依頼は成功である。ご苦労であった!

 最近、ある森を中心にゴブリン達の動きが活発になっており、その対策が急務となっている。そのこともあり、今回のゴブリン退治の活躍に対し、個々の冒険者の活躍に応じて褒賞が支給された。根源を絶たなければ、再びこのような惨劇があるのかもしれない‥‥。
 なお、エルネーズは3日分の保存食しか持参しなかった為、報酬はその支払いに消えたようだ。今回は余裕のある者に前借できたのだが、もし誰も余裕がなければ‥‥それは容易に想像できるであろう。