●リプレイ本文
●村にて
「随分と静かだな」
ウォルフガング・シュナイダー(ea0433)とウォル・レヴィン(ea3827)は村長の家を訪れる為、一足早く村に到着していた。ズゥンビが出没して以来、村人は家の扉を硬く閉ざし、一部の者は親戚や友人を頼って別の村に移動したという。
「墓場の偵察の為、馬で乗り入れる無礼をお許しいただきたい」
村に着いた二人は村長と面会し、墓場での馬の乗り入れ、戦闘の許可を得ることが出来た。ただし、倒したズゥンビはもう一度埋葬する為、燃やしたりしないでほしいという条件が付く。
「墓場の地図があったら見せていただきたいのですが」
ウォルが村長に墓場の地図があるか尋ねると、村の見取り図を見せてもらうことができた。墓場は村の南に位置し、それほど距離は離れていない。
「埋葬時、ライナスの彼女の服装はどうだったか知っておられますか?」
彼女の葬儀のとき、村長も立ち会っていたので何と無く覚えているという。ライナスの彼女の名前はイーリスと言い、埋葬時は生前に好きだった白のドレスだったらしい。
「では、状況を確認しないとな」
地図と彼女の服装を確認したシュナイダーは、そのまま墓場へと向かった。
●墓場にて
村の墓場。墓は荒され、辺りには人骨も散らばっており、その鬼哭啾々たる様子に息を呑む。
「死者が再びこの世に立つ事なんて‥‥あっちゃいけないんや」
シュナイダーからの連絡を受け、冒険者達はライナスを連れて墓場に集合した。墓場を見渡しながらクィー・メイフィールド(ea0385)が一人呟く。
「や、やっぱり‥‥」
アルノール・フォルモードレ(ea2939)は墓場の雰囲気に、胸の奥から湧き上がる感じてはいけないもの――恐怖――を意識した。
「ズゥンビはどうやらバラバラに動いているようだ」
シュナイダーが朝昼夜と墓場に乗り込んだが、ズゥンビに囲まれる可能性もあったので深入りせず引き上げてきた。墓場の中で目視できたのは2体のみであった。
この状況をどう読むのか。
下手に入ればズゥンビに囲まれてフォーメーションを崩すことになる。あるいは、数が少ないうちに叩くことができるチャンスと捉えるべきか。
「しかし、立ち止まる訳にはいかないな」
ウォルがクィーとシュナイダーのロングソードにオーラパワーを付与する。馬に騎乗したレーヴェ・フェァリーレン(ea3519)もオーラソードを発動。手に1mほどの光の剣が現れた。
「仕方が無い。ウォル、後ろを頼む」
冒険者達はシュナイダーの合図で墓場に突入した。
●対峙
生気を感じ取ったのか、墓場に入って間も無くズゥンビが冒険者達の前に姿を現した。
「二時と三時の方向にズゥンビがいる。十時の方向からも現れたな」
紅天華(ea0926)が素早くズゥンビを察知した。3体の中にはイーリスの姿はない。
「私には、貴方達を苦しみから解放する『力』は無いけれど‥‥」
リート・ユヴェール(ea0497)も短弓を構える。前衛はクィー、シュナイダー 、レーヴェ。後衛はリート、紅、アルノール、ウォルがライナスを囲むように位置している。
「恋人倒すなんて出来るんか? 正直、見とった方が楽やで。きっと」
ロングソードを構えたクィーがライナスに尋ねた。
「はい。彼女が死んで、もうだれも辛い思いはさせたくなかった。でも、死んだ後も彼女は苦しんでいる。だから、僕の手で解放してあげたいんです!」
ライナスは大粒の涙を流しながら叫ぶように答えた。
「だっ大丈夫です! 皆さんはみんな頼りになる人たちばかりですからっ!」
アルノールも必死に恐怖心を抑えながらライナスを励ます。
「来ました!」
リートが先制してズゥンビの頭目掛けて矢を放つ。特定の部位を狙うと少々難しいが、放たれた矢はズゥンビの頭に突き刺さる。
「アンタ達はなんで立ち上がって来たんや? その想いゆえか?」
クィーが近寄ってきたズゥンビにロングソードを振り下ろす。
──ズサッ!!
振り下ろされた剣はズゥンビの左肩から胸までを切り裂く。切り口からは黒い体液が噴出してきた。
「彷徨える哀れな魂に静寂の眠りを与えん‥‥」
紅がブラックホーリーを発動。天に数珠を掲げると、紅の体が黒く淡い光に包まれ手から黒い光が飛び出す。
──GHAAA!
黒い光が直撃すると、ズゥンビが呻き声を発しながら地面にうずくまった。
「現れたのは3体か。1体ずつ相手できるな」
レーヴェがオーラソードを手に十時の方向から現れたズゥンビにチャージングを試みた。だが、墓同士が密集している為、9m以上の助走とれない。仕方なく、そのままズゥンビに切りかかった。
「かわいそうに。今、楽にしてやろう」
シュナイダーがロングソードを両手で握り、うずくまっているズゥンビの頭に渾身の力で振り下ろす。
──グシャ!!
ロングソードはズゥンビの頭の半分までめり込んだ。剣を引き抜くと、黒い液や脳味噌が飛び散る。ズゥンビはそのまま動かなくなったが、もう一度、胸に剣を突き刺した。
「いきます!」
ウォルが精神を集中し、気を高める。全身がピンクのオーラに包まれ、手に光が集まってくる。
「これでもくらえ!」
手に集まった光を一斉に開放。光の弾はズゥンビに命中し、体を後方に吹き飛ばした。だが、ズゥンビはゆっくり体を起こしてこちらに向かってくる。
「あ! もう2体ズゥンビが現れました!」
「あぁぁぁ‥‥」
リートが残る2体のズゥンビを確認。そこにはイーリスの姿もあった。ライナスは変わり果てた彼女の姿を見て声が出なかった。
「来ましたか! 彼女は僕が引き止めます!」
アルノールがプラントコントロールでイーリスの動きを封じようとする。傍にあった蔦がイーリスの足に絡みつき、引き止めることに成功した。
「なんで皆を悲しませるんや! アンタが立ち上がったら愛する人を悲しませるし、人を殺したらもっと悲しむ人が増えるんや!」
クィーがズゥンビの攻撃をかわそうとするが、長く伸びた爪が彼女の右腕を引っかいた。
「ぐうぅ!」
腕から血が滲み出る。右腕を押えながら必死にロングソードを構える。
「く、くそっ!」
レーヴェは足場の悪さに苦戦していた。ズゥンビが馬の首筋に爪を立てると、馬は痛みで暴れ始めた。
「うわっ!」
レーヴェはそのまま落馬し、そこにズゥンビが覆いかぶさってくる。しかし、何とか光の剣を突き上げると、剣はズゥンビの胸に命中。隙を見て横に回転しながら脱出する。
「大丈夫ですか!」
リートが2本の矢を番え、レーヴェを襲っているズゥンビに矢を放つ。1本が頭を貫いた。
「哀れなものだな‥‥」
紅もそのズゥンビに対してディストロイを打ち込む。黒い光がズゥンビの頭を覆った瞬間、頭は粉々に吹き飛んだ。
「もし、あたしが両親の‥‥」
いや、気にしてはいけない。クィーは右手を押さえながら、ズゥンビに全身の力を込めて剣を頭に叩きおろす。剣は顔面に突き刺さり、ズゥンビは動かなくなった。
「今度こそ天国に送ってやるよ」
レーヴェがズゥンビに光の剣で1発、2発と攻撃を命中させていくと、ズゥンビは大きく仰け反った。
「ズゥンビと言っても元は村人だ。しっかり浄化してやるからな」
シュナイダーが仰け反ったズゥンビの頭にロングソードを思い切り突き刺す。
「これで、残りは‥‥」
操られた蔦にもがくイーリスの姿を見る。だが、蔦を引きちぎり、今にも襲い掛かってきそうだ。
「はやくっ、もう‥‥あまり持ちません!」
アルノールが叫ぶ。しかし、ライナスは放心状態のまま立ち尽くしている。
「ライナス殿が望んだ事であろう? 苦しんでいる『恋人』を開放できるのはあなたしかいないのだから」
紅もライナスに声をかけるが反応はない。
「も、もうだめです!」
イーリスは蔦を引きちぎり、一行に襲い掛かってきた。
「危ないっ!」
ウォルはオーラショットをイーリスに打ち込んだ。
──ギャァァァ!!
悲痛な叫び声が墓地に鳴り響く。
「しゃあないな! 押さえ込むで!」
クィーとシュナイダーがイーリスを引き止めようと前に立つ。
「あ、あぁぁ‥‥」
ライナスは叫び声を聞いて我に返った。
──彼女を苦しませない為にがんばったのに、死してなお苦しんでいる。それだけじゃない。彼女がみんなを苦しめているなんて。全てを開放するには、僕が立ち向かわないと!
気を取り直したライナスはイーリスの前に歩いていく。
「あかん! 危険やで!」
クィーがライナスを庇おうとするが、それを跳ね除けイーリスの前に立った。
「僕が君を救うことができるたった一つの『力』。今、全てを開放する!」
ライナスが魔法を唱えた瞬間、彼の体が白いヴェールに覆われる。そのヴェールはイーリスも及び、同時に彼女の体が光に包まれた。
──ピュアリファイ
食品を浄化する魔法だがアンデッドにも効果があり、回復不能のダメージを与える。これにより倒れたアンデッドは浄化されるのだ。
──あぁぁぁぁ‥‥
断末魔の声、というよりは安堵の声だったであろうか。光に包まれたイーリスは靄となって消えていった。
「うわぁぁぁ!」
消えた後に残った彼女のドレスを握り締め、ライナスは泣き叫んだ。
「『運命の輪』はな‥‥どちらに廻すのも己次第だ‥‥ただし、巻き戻す事はできない。そのことだけは良く覚えておく事だ」
泣き崩れたライナスに紅がそっと言葉をかけた。
冒険者よりもう一度墓を作ろうと申し出があったが、ライナスは断った。魂を開放された彼女に墓は必要ない、そう彼は言った。
「立派なクレリックになれよ! 応援してるぜ!」
一行が村を離れる間際、ウォルは生前イーリスが好きだったという花を手渡した。
ヘリオトロープ。「太陽に向かう」を意味する花。彼女の魂も太陽に向かったのであろうか。
愛は無限大。引き裂かれた愛を胸に、彼はこれからも生きていく。