小さな英雄の魂
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■ショートシナリオ
担当:えりあす
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月19日〜10月24日
リプレイ公開日:2004年10月26日
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●オープニング
冒険者ギルドにやってきたのは、まだあどけなさを残す14,5歳くらいの少年だった。
少年はバックを大事そうに両手で抱え、恐る恐るギルドの中へ足を踏み入れる。
そして、不安そうな顔でギルドの中を見渡し、そこに集まる人々を見つめた。
ギルドの中には沢山の冒険者がいる。
依頼を解決し、その報酬を得て生きている人達だ。
冒険者にもいろいろな人がいる。
ひたすら強さを求める者。危険な依頼にスリルを求める者。小さい事からコツコツと、人の為に役立とうと働く者‥‥
──この中に村の英雄の無念を晴らしてくれる人がいるの‥‥
少年は不安だった。
こんな小さな子供を相手にしてくれる冒険者はいるのか? と。
冒険者に依頼を出すとき、沢山お金が必要と聞いていた。
自分にはそんなお金は無かったが、村を救ってくれた英雄の為にと村人が少しずつお金を出し合ってくれた。
おかげで、こうして冒険者ギルドに来ることができたのだ。
引き下がるわけにはいかない。
少年は勇気を出して受付の前に立ち、こう言った。
「僕の村の英雄を殺したモンスターを倒してください!」
‥‥少年の話はこうだった。
先日、村に角を生やした大きな体格のモンスターが現れた。
そのモンスターは、畑を荒らし、家畜を襲い、暴れ続けた。
村の中にはそのモンスターを相手にできる者はいない。
村人は恐怖に怯えた。
だが、そのモンスターに立ち向かう勇者がいた。
‥‥それは、少年の飼っていた犬‥‥リッキーであった。
主人を守る為、村を守る為、リッキーはモンスターに噛み付き、振り払われて地面に叩き付けられても怯む事無くモンスターに立ち向かった。
モンスターは堪らず逃げ出したが、リッキーはそのまま力尽き、息を引き取った。
「お願いです! 村を襲ったモンスターを倒して下さい! そして、リッキーの仇を‥‥」
少年からの願いである。
冒険者よ。このモンスターを倒し、小さな英雄の仇を取ってくれ。
このモンスターは村の裏にある小さな山に住んでいるようだ。
裏山を探し、モンスターを倒してほしい。
最近、この山で村人が熊に襲われる事件も発生している。
モンスターだけでなく、野生の獣にも十分注意すること。
では、冒険者達の健闘を祈る!
●リプレイ本文
「任せて」
少年の頭を撫でながらユーディス・レクベル(ea0425)が力強く言う。
ユーディスの短いながらも自信に満ちた一言に、少年が抱いていた不安は消え去った‥‥
──こんな小さな子供を相手にしてくれる冒険者はいるの?
少年はずっと不安であった。
しかし、目の前には間違いなく冒険者はいる。
村をモンスターから守ろうと立ち上がった者、そして今は亡き彼の飼い犬‥‥リッキーとの友情に心を打たれた者‥‥
──みんな、素敵な目をしているね‥‥
少年は冒険者を見ながら思った‥‥そういえば、リッキーもモンスターに立ち向かう前、こんな目をしていた気がする‥‥
「リッキーは少年や村の事が本当に好きだったのですね‥‥。そして少年も彼を大切にしていたのでしょう‥‥。その気持ちに報いる為にも全力を尽くします」
ユーリアス・ウィルド(ea4287)も少年に言葉を掛けた‥‥子供の頼みとなると見過ごす訳にはいかない‥‥彼の為にも村の為にも、リッキーの仇を取る事を誓う。
「アリッサ・クーパーと申します。必ずリッキー様の敵を討ってさし上げますよ」
布教用スマイルで少年に挨拶をするアリッサ・クーパー(ea5810)。冷たい印象を受けるアリッサだが、彼女も今回の依頼は見過ごす事が出来ないと思っている1人である。
「オーガは逃がしませんね‥‥絶対に」
御蔵忠司(ea0904)は手にした三叉の槍をグッと力を入れて握り締めた。
「初めての依頼ですが、足手まといにならないように精一杯頑張ります」
エルフィーナ・モードレット(ea5996)も気を引き締め、オーガ討伐の準備を進める。
他の冒険者達も馬を村に預かってもらったり、山に詳しい村人から地形を教わる等、事前準備を行っていた。
「この時期の熊は様子が違う‥‥戦いは避けられないかもしれないな‥‥」
オーガ討伐へ向けて準備が整いつつある中、リオン・ルヴァリアス(ea7027)は苦い顔をしていた。
オーガだけではない。
野生の熊も冒険者にとっては強敵である。山には熊も住んでおり、両方を相手しなければならない可能性もあるのだ。
*
用意が整い、冒険者達は村の裏山へと向かった。
「暴力を振るったら、いつか暴力で返されるんだ‥‥」
裏山に入る途中、ミリート・アーティア(ea6226)が小さく呟く。
「でも、あんまり熊退治の方は気が乗らないなぁ‥‥熊から見れば私達が侵入者だし‥‥」
いつも元気で明るいミリートだが、裏山に入ってから少し悲しげな表情をしていた。
熊の棲息地へ勝手に入っていくのだから、熊に襲われても仕方が無い。だからと言って、殺してしまうのは勝手な都合である。謙虚な心を持つミリートは熊退治には消極的だった。
「こんなのでどうかな。適当に村にある物で作ったんだけど」
ユーディスは村で鳴子を用意しており、これで定期的に音を鳴らすことにした。
「私も横笛を用意してきました。うまく演奏する事はできませんが‥‥」
アリッサも横笛を吹きながら捜索を行う。
「はやぁ〜‥‥歌でも歌うと気持ちいいんだろうけど、やっぱまずいよね」
ミリートはアリッサの横笛に合わせて、ついつい歌を口ずさみそうになる。
「そのティアラ、なかなかいいじゃないか。高く売れそうだな。それに、そんな素っ気無い顔するなよ。もう少し笑顔を見せたらどうだ?」
ユーネル・ランクレイド(ea3800)は周囲に気を配りながらも大声でアリッサに向けて軽口を叩いている。アリッサはユーネルが大声を出している意味がわかるので、無言で営業スマイルを返した。ユーディスや忠司も大声を出すことで熊にこちらの存在を知らせる。
熊は意外に聴覚が発達している。アリッサの横笛で高い音を鳴らすのはかなり効果があった。また、同時に複数の大きな音を出す事も有効である。確実な方法とは言い切れないが、一行の前に熊が現れることはなかった。
しかし、その行為は熊に存在を知らせるだけではなく、オーガにも存在を知られる事になるのだ‥‥。
静かに一行の後ろに近づく影‥‥。
──グオォォォ!
「あっ! オーガが!」
周囲を警戒していたエルフィーナが、後ろから襲い掛かろうとしているオーガに気づく。
「ぬっ! 来たか!」
後列にいたユーネルも物音に気づいてクルスソードを構えた。同じく後列にいたリオンも反応するが、それよりも早くオーガは金棒をリオンに振り下ろした。
──グワシャッ!
直撃。
レザーアーマーを突き抜ける衝撃に耐え切れず、リオンは跳ね飛ばされた。
「やるじゃないか‥‥戦いはこうでなくてはな‥‥」
しかし、リオンは直ぐに立ち上がった。口には血が滲んでいる。
「危険です。今、傷を治しますから」
アリッサはオーガに立ち向かおうとするリオンを止め、リカバーの詠唱に入った。
「ふん。でかい体のヤツにはこうだ」
ユーネルは即座に応戦。低姿勢のままクルスソードでオーガの脚を薙ぎ払った。剣はオーガの左脚を切り裂き、軽い怪我を与える。
「後ろから来るなんて卑怯だよ!」
ミリートは手にしたダーツをオーガに投げつける。しかし、オーガの厚い胸板にダーツの針は突き刺さらなかった。
「やってやらぁー!! どりゃー!!」
ノーマルソードとナイフを手にしたユーディスがオーガに切り掛かる。ナイフは僅かしかダメージを与えれなかったものの、ノーマルソードの一撃はオーガの胸に深い傷を残した。
「僕は‥‥必ずオーガの息の根を止めてみせます!」
忠司はトライデントで突き進む。三叉の槍先はオーガの腹に突き刺さり、手ごたえを感じた忠司はさらに力を入れてオーガの腹を抉る。
オーガも黙ってはない。突き刺さったトライデントを力ずくで引き抜くと、金棒で忠司を振り払おうとする。
「ぐぅぅ!」
オーガの攻撃は命中し、忠司は跳ね飛ばされた。
「だ、大丈夫ですか!」
エルフィーナが忠司に駆け寄って抱き起こすと、リカバーを唱える。
「こんにゃろー!! 調子に乗るんじゃねぇ!!」
ナイフの攻撃が通用しないと感じたユーディスは、ノーマルソードのみの攻撃に切り替えた。傷だらけになっているオーガの体を、さらに切り刻んで血で染めていく。
「水の精霊よ‥‥我に従え‥‥。汝が力を以って敵を撃滅せよ!」
ユーリアスがウォーターボムを発動。水弾はオーガの胸に直撃し、水飛沫と共に血が周囲に飛び散る。
「しぶといヤツだな。これでどうだ」
ユーネルはオーガの右脚を狙う。両脚とも傷ついたオーガは動きが鈍くなった。
「ふう、1/8分の働きは果たしたな。あとは若い奴等に任せて一服入れさせてもらうか」
オーガの脚を傷付け、逃げる事ができなくなったのを確認すると、ユーネルは後ろに下がって酒瓶を取り出した。
「足元‥‥お留守だよッ!」
オーガの背後に回りこんだミリートは、脚払いを試みる。オーガは蓄積したダメージで抵抗する気力も少なく、脚払いに掛かり転倒した。
「これで‥‥最後だ‥‥」
アリッサのリカバーで傷を回復させ、その間にオーラパワーで日本刀の威力を増幅させていたリオンが、渾身の一刀をオーガに振り下ろした。この一撃でオーガの巨体はゆっくりと崩れていく。
「苦しいか? 今、楽にしてやろう」
瀕死のオーガにユーネルがクルスソードを突き刺した。
オーガの悲鳴が山にこだまする‥‥。
*
オーガ退治を終え、冒険者達は村に戻った。
「これか? あのオーガを追っ払ったっていう勇者の墓は?」
少年は村の英雄・リッキーの墓にいた。ユーネルが墓の前に立つと、暫し黙祷を捧げる。
「偉い奴だな、あんな化け物を相手に一歩も引かず・‥‥。お前さんとリッキーの間には確かな絆があったんだな。リッキーに助けてもらった命だ。精一杯生きろよ。そしてどんなに時が経とうと、リッキーの事を忘れるな。それがリッキーが喜ぶ一番のことだからな」
「リッキーの仇は取ってきましたよ。村の人達を守ろうとオーガに立ち向かった勇気、素晴らしいと思います。是非、リッキーの勇気を忘れないであげて下さいね」
「うん、僕は絶対にリッキーのことは忘れない‥‥」
ユーネルとエルフィーナの言葉に、少年は永遠に英雄の活躍を忘れないことを誓う。
「これからは、お前が村を守れ。小さな英雄の代わりに‥‥な」
「はい! リッキーの勇気は僕が引き継がなくちゃいけないんだ!」
リオンも少年の頭を撫でながら励ました。小さな英雄の魂は、確かに少年の胸の中に息づいている。
「オーガの退治はしました‥‥少しは安心して眠れますか?」
ユーリアスとユーディスがリッキーの墓に花を添え、アリッサが祈りを捧げた。
『貴方の志は武士に通じるものがあります。今度は日本人として転生し、立派な侍になって下さい』
忠司も墓の前に座り、静かに手を合わせる。
「ねぇ? 今、何て言ったの?」
少年は忠司の言ったジャパン語の意味を尋ねた。
「ふふふ。あなたも大きくなったらわかるかもしれません」
そう言うと、忠司は身に着けていた船乗りのお守りを少年に手渡した。
「あなたもリッキーさんの志を引き継いで成長して下さい。悲しみを乗り越え、今度はあなたが英雄になる事を願っています」
「ありがとう! 僕もリッキーみたく強くなるよ!」
少年はお守りを大事に握り締めながら、力強い返事を返した。
小さな英雄が残した勇気は少年だけでなく、冒険者の心にもしっかりと残った。
英雄はどんなに小さくて弱い存在でも、勇気を振り絞って立ち向かえば、強敵だって逃げ出すという事を教えてくれた。
冒険者達よ‥‥この勇気を忘れないでほしい。