絆の代償
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■ショートシナリオ
担当:えりあす
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月13日〜11月18日
リプレイ公開日:2004年11月22日
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●オープニング
「お願いがあります‥‥」
ギルドの受付に立ったのは16、7歳くらいの少女だった。
彼女の名はフォルテ。
艶やかな銀髪、美しい青い瞳、色白の肌。動かなければまるで人形のような雰囲気を感じさせる。
「どのようなご用件でしょうか」
受付の係員が問う。
暫し沈黙の後、少女は声を震わせながら、青い瞳を潤ませながら懇願した。
「兄の‥‥暴走を止めてください‥‥」
話はこうだった。
彼女には1歳年上の兄がいる。
兄の名はエンテ。
エンテは無口で、あまり人付き合いが得意ではない。
だから、昔からよく虐められていたそうだ。
外に出ると虐められるから、エンテは家でずっと勉強や研究をしていた。
そんな兄を不憫に思い、フォルテはいつもエンテの傍にいた。
しかし、そうする事でエンテは安心し、ますます外に出る事が無くなった。
(「これでは、兄がダメになってしまう‥‥」)
フォルテは兄の元を離れる決心をした。
フォルテはキャメロットで仕事を見つけ、住み込みで働いていた。
数ヶ月後、彼女は久しぶりに兄のいる村を訪れたのだが‥‥。
兄は豹変していた。
「ははは! もう誰も信じない! 信じられるのはお前達だけだ! 俺の命令を忠実に守るお前達だけ‥‥」
家の中には死体が沢山あった。
そして、エンテの周りには動く死体‥‥アンデッドが数体。
その光景と兄の変わり果てた姿にフォルテは恐怖を感じ、すぐに家を飛び出した。
「その後に聞いた話では、死体を操って兄を虐めていた人を殺しているそうです‥‥」
どうやら、兄はクリエイトアンデッドを使って、彼を虐めていた人に復讐をしているようだ。
「わたしが‥‥ずっと傍にいてあげたら、こんな事にはならなかったのに‥‥」
フォルテの瞳からは泉のように涙が溢れる。
「お願いします‥‥兄の暴走を止めて下さい‥‥助けてあげれるのなら‥‥いえ、兄は人を殺しました。その罪は‥‥償わなければなりません。そして、わたしにも罪があります‥‥その償いは‥‥」
●リプレイ本文
「兄は真面目な人でした‥‥将来は人の為に働きたいと教会に通ったり、勉強をしたりしていました‥‥」
村までの秋風落莫たる道中、フォルテは悲哀の色を漂わせながら兄について述べた。
「なるほど‥‥やはり、教会との接点があったか。そうでないと、死体を操ることなど出来ないだろうからな」
エンテの境遇を聞き、ヨシュア・グリッペンベルグ(ea7850)が頷く。
「そんな真面目な方が‥‥どうして、こんなことに‥‥」
カノ・ジヨ(ea6914)がくぐもった小さな声を漏らす。
「兄は人付き合いがあまり得意ではありませんでした。ですから、よく虐められたようです‥‥人の為になろうと思っても、人からそのような仕打ちを受ける‥‥兄は次第に家に閉じこもるようになりました。「わかてくれるのはお前だけだ」といつも私に言ってました。兄の才能が認められれば、そんな事も無くなると思って手伝いをしていましたが‥‥それでは、ますます兄がダメになてしまうのではと思い始めて家を出たのですが‥‥」
フォルテの声が詰まった。でも、言わずともその後の結果は皆わかっている。
書物からは知識を得る事ができる。
しかし、人との接し方は書物から得られるものではない。
人と関わる機会が少なかったエンテは、それを学ぶ機会も少なかった。
人付き合いの方法を知らないエンテが仲間外れにされ、虐められるようになったのは当然の事かもしれない。
そして、エンテの取った解決法は「人と関わらない」事。
でも、外部との関係を断ち切ったエンテには孤独、寂寥、虚無の感情を癒す拠所が必要だった。
エンテは必然と妹のフォルテにそれを求めた。
だが、その唯一の拠所が突然消えたのだ。
「彼は信じる妹が去って狂った。そして、新たな信じられる力を死体に求めたか。死体を意のままに操る事が出来れば、復讐を思いつくのも必然だろう」
フルーレ・リオルネット(ea7013)が眼を細める。
「でも、裏切らない人形に裏切られない事を喜ぶのは変だと思うし‥‥裏切るかもしれない他人に裏切られないからこそ尊いと思うから」
カッツェ・ツァーン(ea0037)が言う。
「フォルテ殿に聞きたい。お主本当は兄にどうなって欲しい。生きて罪を償わせたいのか、死んで罪を償わせたいのか」
「司法に渡すのか、説得するのか、その辺もハッキリさせたいな」
エンテの処遇についてイリス・ローエル(ea7416)とサイ・ロート(ea6413)がフォルテに問う。
「エンテが本当に人を殺めたのなら、その時点で法の裁きは免れないと思っています。俺達は人を裁く立場には無いので、彼を捕縛できたら司法の場へ引き渡すべきと考えます」
「そうだな。裁く権利は部外者の我々にはない」
喪路享介(ea5630)とヨシュアが続けた。
「一緒にやり直せるなら‥‥でも、兄は人を殺しました。もし、死以外に方法がなければ‥‥皆さんの手で兄の魂を救って欲しいのです‥‥そして、私のせいでこんな事が起きたのですから‥‥」
「ぇと‥‥確かにエンテさんが犯した罪は重いです‥‥けどっ、絶対に早まったことはしないで下さいっ! 生きて、罪を償う道もきっとありますっ!」
カノが白皙の顔を朱色に染めながら、フォルテから言葉を奪った。
*
村に着くと、ヨシュアは村長の家を訪ね、死体の浄化の許可を得た。
村長の話からこの一件で村人は恐怖に怯えており、エンテに対しては悪の感情しか抱いていないようだ。
サイ、イリス、ヨシュアは村人の退避させ、これ以上被害が出ないように手を尽くした。フルーレは馬に騎乗し、村周辺を回ってズゥンビがいないか調べる。
「やはり、アンデッドはエンテの手の届く範囲に存在するか」
フルーレの考えていたとおり、村にはズゥンビの姿はなかった。復讐をするときにだけ連れ出しているのであろう。
「あたいはドゥンビ退治に専念するぜ!」
クリムゾン・コスタクルス(ea3075)がレイピアを握り、力強く宣言する。クリムゾンが言っているのはズゥンビの事だが、彼女は先月イギリスに来たばかりで、イギリス語も覚えたてなのである。少々言葉に訛りがあるようだ。
「殺した虐めっ子もズゥンビにしてるのかな。数も多そうだし、やだなぁ」
カッツェは額に冷や汗を浮かべた。
「いたぞ!!」
ヨシュアの大声が聞こえた。
声を聞きつけ、冒険者達が駆けつける。
「兄さん!」
フォルテが声を上げた。
5体のズゥンビを引き連れた男がそこにいた。
彼がエンテだ。
エンテは口を緩め、ニタニタと笑いを溢しながら立っていた。
「誰もいないと思ったら‥‥お前の仕業か! フォルテ!」
エンテは妹を見ると表情が一変し、憤怒の情を顕にする。
「兄さん! お願い‥‥もうやめて‥‥ずっと一緒にいるから‥‥」
「黙れ! もう誰も信用しない。裏切ったヤツはみんな死ねばいいんだ!」
エンテはフォルテの言葉も聞かず、ズゥンビに命令を下す。
「あぶないっ!」
カノがホーリーをズゥンビに放つ。そして、カッツェがストームでズゥンビを吹き飛ばした。その間に、フルーレがクリムゾンのレイピアにオーラパワーを付与する。
「やってやらぁ!!」
クリムゾンはオーラを纏ったレイピアでズゥンビを突き刺す。オーラの力で効果を増したレイピアは、ズゥンビに対し有効なダメージを与えていく。
「我が道は剣鬼の道なり、邪魔する者はことごとく黄泉に落ちると知れ」
イリスはダガーの二刀流シュライクでズゥンビを切り刻む。
「この魔法の効果が彼の善悪を量る「はかり」にもなる」
ヨシュアはホーリーをエンテに放った‥‥。
「ぐわぁっ!」
エンテは魔法のダメージを被った。これで、少なくても「善」ではないのは明確となった。
「狂気に歯止めを掛けるには、力の拠所を奪うのが一番だな」
フルーレもズゥンビにレイピアを突き刺し、その動きを完全に止めた。そして、ヨシュアがピュアリファイで浄化していく。
「そ、そんな‥‥」
エンテも傷を負い、ズゥンビは次々と倒されていく。冒険者達にとって、この程度のズゥンビは相手ではなかった。もっとも、ズゥンビの能力は生前の能力が元になっており、村人の死体を使ったと思われるこのズゥンビは然程強くはない。
「大人しくしていろ」
サイはショートソードを装備から外し、サンレーザーの詠唱をしていた。
そして、放たれた太陽の光線がエンテの左腕を焼く。
「今の状態のあなたに何も言う事はありません」
享介はエンテの前に立ち、彼の眼を狙って切り付けた。享介の放った白刃一閃は、エンテの視界を奪う。
「ギャァァァ」
エンテの悲鳴が空虚の村に響く。そして、その隙を逃さずフルーレがエンテのホーリーシンボルを奪い取った。
「フォルテさん‥‥」
カノが心配そうにフォルテの顔を覗き込んだ。
フォルテはただ、黙って冒険者の様子を見守るだけであった。
「これで最後だ!」
クリムゾンが最後の1体のズゥンビを倒し、後にはエンテが残るだけであった。
眼を傷つけられ、ホーリーシンボルを奪われたエンテは何もする事が出来なかった。サイに捕縛され、村の外に連れ出される。
「お二人で話し合われたら‥‥」
カノが声を掛けるが‥‥
エンテは地面に蹲り、フォルテは無言で兄を見つめるだけであった。
「罪は罪だが死なせるだけが償いでは無かろう」
イリスが言葉を掛ける。
沈黙が続く。
暫く時間が経ってから、フォルテが口を開いた。
「もし、司法の場に兄を送っても死罪は免れないでしょう‥‥しかし、それが望まれた償いだから‥‥」
*
「ズゥンビはあれだけだったみたいだね」
カッツェはリトルフライで宙に浮かび、周辺にズゥンビがいないか確認していた。
「やはり、あるべき場所に戻らないと、魂も休まらないでしょう」
享介はズゥンビとエンテの家にあった死体を墓場に戻し、再び埋葬した。サイも復讐の犠牲となった人の遺体の墓作りを手伝っている。
「‥‥今回の事件、貴方は被害者であり、そして加害者でもあります‥‥。しかし、貴方の罪は法で罰せられることはないです。罰せられないと言う事は許される事も無いという事。貴方は今回の罪を一生悔いて生きて行くんです…それが貴方に科せられた罰です‥‥」
カノは以前、エンテを虐めていたという人を探し、説教をしていた。彼らはたかが虐めでこんなことになるとは、思ってもみなかっただろう。しかし、それが原因となったのも事実である。
結局、エンテは死刑だった。イリスが掛け合いはしてみたものの、覆ることはなかった。
しかし、「兄の暴走を止める」という依頼は達成した。
村は恐怖から解放されたのだ。
事の後、フォルテは教会で一生を掛けて奉仕する事にしたそうだ。
兄の元を離れた事が今回の事件の元となった。
兄妹の絆が何人もの死という代償を生んだ。
その罪を償う為に。