嘆きの碑を越えて

■ショートシナリオ


担当:えりあす

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月06日〜12月11日

リプレイ公開日:2004年12月13日

●オープニング

「嘆きの碑ってご存知ですか?」
 まだあどけなさを残す少年は、こう切り出した。

 少年の住む村では昔、一人前の男として認められる為の儀式が行われていた。村の裏手にある林の奥に存在するという「勇気の碑」に行き、碑に名前を刻んでくるのだという。林には野生の動物やゴブリンが少数生息しており、その危険を乗り越えて初めて一人前と認められるのだ。
 だが、ある年。
 この儀式に挑んだ若者全員が帰ってこなかったという事件が起きた。
 それ以来、村ではこの碑に近づく事を禁止し、儀式を中止することになった。
「勇者の碑」が「嘆きの碑」と呼ばれるようになったのはその後からだ。

 それから数年後。
 村では再び事件が起こった。
「この前、遊びでこの嘆きの碑に行った人達が何かに襲われたんです。何人かが殺されちゃったけど、生き残った人が『青白くて、まるで亡霊のようだった』って言っていたみたいです」
 度胸試しといって嘆きの碑に近づいた若者数人が『青白くて、まるで亡霊のようだった』という存在に襲われたのだ。
「村ではこの事件を解決してもらう為、冒険者の皆さんにお願いすることにしました。それで僕が依頼人として冒険者ギルドにきたんです」
 少年は村から預かってきたという報酬の入った袋をテーブルに置いた。
 幼さを残す少年だが、落ち着いた会話からしっかりとした印象を受ける。
「それと‥‥僕も嘆きの碑が何なのか知りたいんです。もう死んじゃったけど、僕のお父さんも昔、この碑に名前を刻んだと言っていました。お父さんは冒険者でした。僕もお父さんのようになりたい! だから僕も連れて行って欲しいんです!」
 少年も冒険者を目指す1人。彼が目標とする父が名を刻んだ『嘆きの碑』がどんなものなのか知りたいとずっと思い続けていた。そのチャンスがようやく来たのだ。
 冒険者よ。この少年と共に、村で起こった事件を解決してほしい。

●今回の参加者

 ea0433 ウォルフガング・シュナイダー(40歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3542 サリュ・エーシア(23歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6154 王 零幻(39歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea6237 夜枝月 藍那(29歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea6609 獅臥 柳明(47歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6914 カノ・ジヨ(27歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7263 シェリル・シンクレア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea7511 マルト・ミシェ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「初めまして、『深い森』の獅臥と申します」
「同じく『深き森』で事務をしています、夜枝月です。みなさま、よろしくお願いします」
「こちらこそ、宜しくお願いします!」
 キャメロットから村に向かう道中。獅臥柳明(ea6609)と夜枝月藍那(ea6237)が挨拶をすると、少年も力強く返事を返す。
「君はどんな冒険者になりたいの?」
「僕はお父さんのように強い戦士になりたいんだ」
「お父さんが目標なんてステキね」
 シェリル・シンクレア(ea7263)の質問に答えた少年に、サリュ・エーシア(ea3542)が優しく微笑む。少年も冒険者を目指す一人となれば「見本となれるように頑張らないと」と気合を入れるシェリルであった。
「碑にまつわる話について聞きたいんだが‥‥知ってる事があったら教えてくれ」
 ウォルフガング・シュナイダー(ea0433)が少年に村の碑について尋ねるが、事件の事以外は殆ど知らないようであった。
「昔の事件について、詳しい事は村長か村人に聞けばわかるかもしれないねぇ」
「そうだな。ある年に起きた若者が帰って来なかったという事件が発端だと思う。帰らぬ者の捜索が行われたのか。もし、行われていないのなら、その者が怨念と化してレイスになった可能性もある。そして、今回の事件で帰らぬ者がズゥンビとなっている可能性も否定できん」
 マルト・ミシェ(ea7511)が言うと、ウォルフガングも頷き、自分の考えを伝える。
「やっぱり、碑に現れるレイスは‥‥以前、帰って来なかった方‥‥でしょうか?‥‥この碑は何か意味があるモノでそこに眠って居たモノが怒ったとか? もしくは、前から居たゴブリンが凶暴にでも?! うわわわっ!」
 思考が暴走したのか、妄想が拡大するシェリル。
「私も数年前の失踪事件と今回のレイス出現は関係があるような気がするんですが‥‥失踪者がレイスになったとして、それほどの怨讐って何でしょう‥‥?」
 カノ・ジヨ(ea6914)もレイスの出現が以前の事件に関係していると思っており、その原因を考える。
「同じ事を繰り返さない為にも、原因はしっかり調べておきたい所です〜」
「そうね。また、儀式が復活して碑が「勇気の碑」と呼ばれるようになるといいわね」
 カノとサリュ、2人のクレリックが目を合わせると、お互い暖かい笑みを浮かべた。
「これも因果か‥‥だが、死霊は六道の環に非ず。滅するもまた、弥勒の救いと信じる」
 王零幻(ea6154)の言葉に一行は緊張を走らせた。王はアンデッドに関して卓越した知識を有する。レイスとも戦った事があり、今回の事件にもその経験が活かされるであろう。王からレイスの説明を聞きながら一行は村まで急いだ。


 冒険者達は村に到着すると、休む間も無く村長の家を訪ねる。
「今回の事件は襲った者、襲われた者、双方が村の若者である可能性がある。その為、彼らを退治する許可を頂きたい」
 ウォルフガングが村長に自分の考えを元に、もし若者がズゥンビになっていた場合、退治する許可を得た。
「自分達は嘆きの碑までの道は解らぬ為、少年に道案内を頼みたい」
 王は少年が一緒に碑に行けるように、彼に道案内をしてもらえるように頼んだ。
「少年よ、冒険者の華やかな活躍の裏には、辛く厳しく危険な現実が潜むものだ。それでも、よいのだな?」
 少年は王の言葉に無言で頷く。
「君が碑に行くという事は止めない。だけど、その先に待っている事は覚悟だけはしていて下さい」
 柳明も少年に忠告する。
「碑に近づくと悪魔に魂を奪われる」と親や村の大人が言っていたような脅しではない。
 先輩の冒険者が危険と感じるほど大変な事なのだと、少年にもはっきりと理解できた。


 紅葉も落ち、冬の様相を呈する林道。
 冷たい風が木々の隙間から吹き付ける。
 冒険者達は嘆きの碑へ向かう為、村の裏手にある林の中を進んだ。
「動物とか無用な遭遇を避けるルートを通って行きますね〜」
「そうじゃな。ここは林だから、情報の提供者には事欠かないねぇ。しかし、風が冷たいと腰がつらいのぉ」
 カノとマルトは森林に対する土地感に優れる。少年の案内と共に的確なルートを指示し、特に遭遇も無かった。途中、マルトのグリーンワードと、シェリルのブレスセンサーでモンスターを索敵し、近くにいると迂回して進んでいく。
「大丈夫?」
「私達から離れちゃだめだからね」
 サリュと藍那は少年を気遣いながら歩いていた。
「あなたもお父さんのように冒険者になりたいの? それなら私達の動きをよく見ていてね。勉強になると思うから」
「‥‥うん」
 緊張のせいか、藍那に短い言葉で返す少年。
 碑までの道程で動物やモンスターに遭遇することは無かった。
 それぞれの能力を活かして危険を回避する事。
 これは、少年にとって勉強になったことであろう。
「碑はこの近くかな?」
 少年が立ち止まった。
 それを受けて、サリュはデッドコマンドを試みる。
「助けて‥‥」
 恐怖と死を感じる言葉がサリュの脳裏に響く。
 嘆きの碑はもう直ぐだ。
 藍那はグットラックを皆に使い、ウォルフガングもオーラパワーを武器に付与する。王も少年にレジストデビルをかける。
 準備は整った。

   *

「これが嘆きの碑か‥‥」
 ウォルフガングが周囲を見回した。
 林の中にひっそりと佇む大きな石。
 その周りには‥‥骸骨、そして、今回の事件で命を落としたのであろう若者の死体。
「これは、ひどいわ‥‥」
 サリュは目を背けた。
「魂が彷徨わぬよう、懇ろに弔ってやらねばな」
 王が死体を見つめると、デティクトアンデットを唱えた。
「怨霊が2体いる。碑の裏だ」
 その時‥‥。
 皆、碑に現れた存在に怖気を感じた。
「現れおったのぉ」
 マルトが碑を指す。
 そこには、青白く炎のような存在‥‥2体のレイス。
「私は有効な手段がないから、頼んだよ」
 少年を庇うようにしてマルトは後方へ下がる。
「あなたにどのような未練があったか私は知る術を知りません‥‥ですが、貴方を成仏させることはできます」
 藍那が臨戦態勢に入った。
「決して無理はしないで下さい‥‥」
「お義父さん、そんなに心配しなくても大丈夫よ。もう子供じゃないから」
「わかりました‥‥では‥‥嵐を司る雷帝よ、汝が力、我と共に‥‥雷帝法衣」
 柳明が藍那に囁くと、両手にナックルを装着し、ライトニングアーマーを発動させる。
「ズゥンビはいないか‥‥だが、2体だと厄介だな」
 ウォルフガングは初太刀にソニックブームを放つと、さらにレイスを追撃する。
「レイスは手を触れられるだけで怪我をするぞ。気をつけい!」
 王が前衛の2人に警告すると、ピュアリファイを唱える。
「名も知らぬレイスよ、汝に安住の地は何処にもなし。滅せよ!」
 白い光のヴェールがレイスを包み込んだ。
 その神聖な光は怨念をも浄化する。
「せめて成仏して安らいで‥‥ホーリー!」
「何があってここに縛り付けられているかわかりませんが、再び犠牲者が出ない為にも消えてもらいますっ!」
 サリュとカノがホーリーをレイスに放つ。

 ――ガァァァ!

 神聖な力に抵抗できないレイスが苦しみに呻吟する。
「どうしてレイスに?!」
 シェリルがウインドスラッシュを唱えた。
 間髪入れずに真空の刃がレイスを襲う。
「あなたがどうして霊体化したのかは存じませんが‥‥被害がでている以上、倒させていただきます」
 ライトニングアーマーを纏った柳明がレイスに掴みかかった。
 しかし‥‥
 同時に死霊の手が柳明を掴む。
「ぐっ!」
 ――ガァァァ!
 同時に2つの呻き声があがる。
 その瞬間、柳明の両膝が地面に着いた。
「お義父さん!」
 藍那が叫んだ。
「直ぐにリカバーをっ!」
「レイスは私が引き寄せる。その間に治療してくれ」
 ウォルフガングがロングソードとシルバーダガーの二刀流でレイスを切り払い、その間にカノが柳明に近づきリカバーで傷を癒す。
「これ以上犠牲を出さぬ為にも‥‥消えろ」
 オーラパワーで力を得たロングソードの斬撃がレイスを切り裂いた。そして、悲鳴と共にその姿は消失した。
 残るは1体。
 サリュのホーリーが。
 シェリルのウインドスラッシュが。
 王のピュアリファイが。
 次々とレイスに放たれ‥‥そして、浄化された。

   *

「冒険者を目指すのなら、この戦いで何か参考になった事でも見つかったかねぇ」
 少年の頭を撫でながらマルトが尋ねる。
「うん‥‥」
 少年は小さく頭を縦に振った。言葉で表せなくても、少年には確かに得るものがあった‥‥マルトは思った。
 少年は碑に刻まれた文字を見つめる。
 長い間、儀式を乗り越えた者たちが刻んできた勇気の証を。
「お父さんの名前は見つけましたか?」
 シェリルが優しく少年に聞いた。
「うん、あった!」
 父の刻んだ名前。目標とする偉大な父の証を目にし、少年は喜悦した。
「六道から外れず、無事生まれ変われる事を祈る‥‥」
 王はレイスによって命を落とした者達を土に埋め、ウォルフガングも黙祷を捧げる。そして、目を開いたウォルフガングが少年に問う。
「少年よ‥‥今、ここに名を刻むか。それとも、また再び自らの力で刻むか?」
「僕は‥‥もう一度、自分の力でここに辿り着きたい。その時にこの碑に名前を刻みたい」
 少年の答えにウォルフガングは目を細めた。

「せめて、遺品でも家族の方に届けたいですぅ〜」
 冒険者達は村に帰還した。カノは遺品だけでも家族の元へ帰そうと村中を飛び回る。
 他の冒険者は村長を尋ね、今回の顛末を伝えた。
 そこで、村長は過去の儀式のことについて話した。
 それは、儀式で全員帰らなかった以前にも、数人碑から帰還しなかった若者がいるという事。
 林には多からずとも危険が潜んでいる。
 その犠牲となった者の怨念が今回の事件を引き起こしたのか。
 冒険者はそう感じ取った。

 村では今後も儀式は行わない事になったそうだ。