●リプレイ本文
●犯人は許せないっ!
「ホント、自分よりも弱い犬を襲うなんて‥‥最低だね」
「そうですね‥‥訳もなく傷つけたり殺したりするなんて‥‥許せません」
2人のハーフエルフの冒険者、ユラ・ティアナ(ea8769)とエルマ・リジア(ea9311)がわんこ襲撃事件に対し、憤慨に堪えない表情を見せていた。
「弱者をいたぶるか‥‥にしても、犬だけを狙うとはな。何か個人的な理由でもあるのか、単に人に危害を与えなければそうそう罪にはならないと思っているのか‥‥」
「わざわざ散歩に連れている最中を襲うということは、もしかしたら犯人は犬に何らかの恨みがあるのかもしれぬな」
フランシスカ・エリフィア(ea8366)とノース・ウィル(ea2269)は犯人の動機について推測している。
「ただ、理由も無くわんこ達を虐めているのなら、絶対に許しません!」
一見、クールな様シエル・ジェスハ(ea2686)だが、口調は感情が高ぶっている様子だった。
「どうせ、自分らより弱いものしか手出せないクズなんだろ。とっ捕まえてやるぜ」
「そんなヤロー供、叩き潰してやる‥‥」
ロープを振り回し、犯人を捕縛する気満々のクリムゾン・コスタクルス(ea3075)に、大好きな犬を襲う犯人に対して激しく怒りを感じているアルフォンス・シェーンダーク(ea7044)。
「抵抗できない飼い犬を襲うなって、許せない行為だよね‥‥」
兄であるアルフォンスが暴走するのを放って置けないというのも参加理由の一つだったりする弟、ハーヴェイ・シェーンダーク(ea7059)。
こうして、それぞれの思いを持って犬襲撃事件の解決に向けて動き出す冒険者達であった。
●犯人を調べろっ!
冒険者達は犯人をおびき寄せる為、それぞれ準備に取り掛かる。
ノースは襲われた犬と飼い主に共通点がないか調べていた。
だが、犬と飼い主にこれといった共通点は見つからなかった。
つまり、犯人は手当たり次第、犬を襲っている可能性が高い。
フランシスカは飼い犬以外にも野良犬が襲われていないか調査した。
調べた結果、野良犬が何者かに暴行を受けている所を見たという情報を得る事が出来た。
野良犬も対象になっており、まさに無差別襲撃といった感じである。
「一体、何が目的なのか‥‥犬なら何でもいいのか」
「共通点は、どの犬も同じように暴行を受けているという事だけだ。犬そのものに何か恨みがあるのかもしれぬな」
調査を終えたフランシスカとノースが顔を見合わせた。犬であれば飼い犬だろうが野良犬だろうが関係無い。
犯人はどんな精神をしているのか、2人には理解できなかった。
その頃、シエルは被害にあった犬と飼い主を探し、証人として立ち会ってもらえないか交渉していた。
だが、残念な事に彼女の話術では被害者の犯人に対する恐れ、再び飼い犬が襲われるのではないかという不安は払拭できなかった。
シェーンダーク兄弟は、複数人から襲撃の状況を聞き出し、場所や時間、犬の種類を割り出そうとしたが、やはり、共通点は見つからなかった。
「ちっくしょう‥‥何も考えなしで犬っころを襲ってやがるのか! おい、ハーヴ! 犬っころを借りにいくぞ!」
「あ、兄さん待ってよ!」
話を聞けば聞くほど憤怒を沸きあがらせるアルフォンス。
ハーヴェイはそんな彼をフォローするのが精一杯であった。
ユラはフードを深く被り、自分がハーフエルフだとわからぬよう周辺を散策していた。
仲間が情報収集をしている間にも、傷つく犬がいるかもしれない。
ユラはフードの奥から目を光らせる。
●わんこを守れっ!
冒険者達の囮作戦が始まった。
わんこを借りてきたアルフォンスとエルマが囮となり、犯人をおびき出す。
冒険者とわからない様に服装から行動に至るまで一般人を装う。
「‥‥」
怒りを隠し、アルフォンスは冷静に縄を引いて歩く。
散歩のルートはわんこに任せ、ペ−スを合わせてゆっくりと歩いていた。
隣にはエルマ。アルフォンスとおしゃべりをする振りをしながら周囲を確認し、犯人が現れるのを待つ。
2人の周りで、他の冒険者達は離れて歩いていた。
もちろん、一般人になりすまして犯人に気づかれないように。
しばらくすると「いかにも、普通の人とは思えない」4人のお兄さん達が犬の散歩をしているアルフォンスとエルマを取り囲む。
「いい、わんちゃんじゃねぇか」
「そんな犬連れて散歩たぁ、暢気なもんだ」
「こいつらか!」と心の中で怒鳴りつつも、アルフォンスは少々怯えた表情をする。
「ワン!」
犬が吠えた。
「おっと。しつけがなってないじゃねえか。俺様に向かって吠えるとはいい度胸だ」
4人のゴロツキの中で、おそらくリーダー格である男がアルフォンスに向かって文句をぶつける。
(「屈辱的だが、ここは抑えなければ‥‥」)
アルフォンスは全身で犬を庇い、エルマを彼の傍で怯える素振りを見せた。
何かを呟きながら‥‥それは、呪文の詠唱。
「そんな、しつけのなっていない犬はお仕置きしねぇとダメだな!」
ゴロツキはダガーを取り出し、2人を取り囲もうとした‥‥それと同時にエルマの詠唱も終わる。
「わんこを傷つけるなんて絶対に許さないです! アイスコフィン!」
近づいてきたゴロツキにエルマはアイスコフィンを発動。
彼女に一番近かったゴロツキが氷の棺桶に閉じ込められる。
「な、何だ!」
他の3人のゴロツキが、突然の出来事に驚く。
「てめぇらなんかにやられっかよ!」
アルフォンスがホーリーフィールドを唱える。
2人と1匹の周りに聖なる結界が張り巡らされた。
「犯人が現れたようだ」
近くにいたノースが声を上げ、同時に周囲にいた冒険者達が駆けつける。
ユラはゴロツキに対して、威嚇射撃を行う。
直後、ハーヴェイが準備していたボーラを投げつけた。投射されたボーラはゴロツキに纏わりつき、動きを止める。
「てめぇらよ、犬しか相手に出来ねぇなんて、相当なザコなんだな」
防寒具を脱ぎ捨て、クリムゾンも駆けつけた。両手でナイフとパリーイングダガーを構え、犯人を挑発する。
「チッ、謀りやがったな!」
ゴロツキもダガーで応戦してきた。クリムゾンはゴロツキの攻撃をパリーイングダガーで捌き、ダガーを持つ手をナイフで切りつけていく。フランシスカも駆けつけ、ゴロツキに対してローブの下に隠していたライトシールドを叩きつける。
「ちょっとあなた達! いたいけわんこ達を虐めてなんとも思わないんですか! このシエル・ジェスハ、例えお天道様が許しても私は許さない!」
近くの民家の屋根の上からシエルがゴロツキにズビシッと指を指す。
住人に許可を得て、屋根に上るのに少々時間が掛かったのはご愛嬌である。
そして、シエルは屋根の上からダーツでゴロツキに対して攻撃を仕掛けた。
「てめぇらが何の理由で犬っころを襲うか知らねぇし知りたくもねぇ。抵抗できねぇ飼い主の家族を狙うんだロクな理由じゃねぇよな。例え正当な理由があろうと通り魔的に狙うてめぇらに情けはいらねぇんだよ!」
ブチ切れたアルフォンスが新たな魔法を詠唱した‥‥ディストロイ。
「あ! 危ないよ! 兄さん、暴走したら手付けれないから!」
ハーヴェイが叫んだ。
ゴロツキも必死の形相で逃げ出す。ディストロイの射程距離は3メートル。逃げ出して効果範囲を免れたゴロツキだが、目の前にはノースがナイフを構えて立ち塞がっていた。
「何故、犬を襲っているのか教えてもらおう」
ゴロツキの首筋にノースのナイフが突きつけられた。
●犯人の動機
ゴロツキ達は冒険者達の手によって捕らえられた。
「あなた達は何が目的だったのですか? ただ、わんこを虐めていただけなんですか?」
シエルが問い詰める。
「犬なんざ、モンスターと一緒だ!」
そう叫ぶと、ゴロツキのリーダーがズボンの裾を上げ、太腿を見せた。そこには、見事なまではっきりとした歯型がついていた。
「ばっきゃろ! たかが1匹の犬っころに噛まれたくらいで、犬っころ全部がモンスター扱いか!」
「そんな、くだらない理由で今まで犬を虐めていたなんて! それで、命を落とした犬もいるんだよ!」
アルフォンスとユラの鉄拳が同時にゴロツキの頭に直撃。
犯人は犬に噛まれた事で、全ての犬に対して憎悪を抱くようになリ、それが今回の事件の動機となったのである。
「あなたにはわからないと思いますが、わんこも飼い主にとっては家族と同じなんです」
「これに懲りたらもう悪い事をしてはいけませんよ。死んじゃったわんこは戻って来ませんが、罪を償ってわんこの分も真面目に生きてください。わんこだって私達と同じように生きているんですから」
エルマとシエルがゴロツキを論す。
「それにしても、情けない理由だな‥‥同情もできぬな」
ノースは溜息を吐く。
(「今度、花でも持って犬を殺された飼い主に顛末を伝える事にするか」)
そう心の中で呟くと、ノースはその場を立ち去った。
「わんこ、か‥‥む。ええぃ、そんな目で見るな」
フランシスカが今回の囮で活躍したわんこを見つめる。わんこもかわいくて円らな瞳をフランシスカに向けた。
「ワン!」
このわんこの一声が、キャメロット中のわんこを代表して「ありがとう!」と言ったように思えたのは、気のせいでは無いだろう。